僕の目の前には耳に赤いフェザー・ピアスをつけた女性がいる。

 

 

 

共通の知り合いが紹介してくれた女性だ。

 

 

 

僕と彼女は30分ほど前にはまだ知り合ってはいなかった。

 

 

 

知り合いの知り合いにこんな人がいたなんて不思議なものだと僕は思う。

 

 

 

そう考えると「六次の隔たり」という考え方もあながち嘘ではないように思えてくる。

 

 

 

僕はそんな考えを中断し、手元に用意したノートに意識を戻し、彼女の言葉を文字に起こしはじめた。

 

 

 

 

 


「さて」カフェミストを一口飲んで彼女は言った。

 

 

 

「タケルくんはさっき、人生全般とか、仕事について知りたいって言ってたわよね?」

 

 


僕は肯いてソイラテを口にした。

 

 


「それも可能だけれど、なんだかさっきまでのあなたの雰囲気を見ていると、

 

 

 

占星術に関して興味があるように見えたんだけど?」彼女は訊ねた。

 

 


「どうだろう」と僕は答えた。

 

 

 

興味があるようにも思えたし、そうでないような気もした。

 

 


「これはあくまで提案なんだけど、今回は占星術の基礎的な部分を伝えながら、

 

 

 

タケルくんの個人的な部分を読み解いていく、ってのはどう?

 

 

 

その方がきっと、いろいろなことが立体的に理解できるだろうから」

 

 


僕はしばらく考えてから「わかった」と言った。

 

 

 

「君の時間が許すなら、その方向でお願いしてもいいかな?」

 

 


「オーケー」と言って彼女は笑った。「それならまず最初に……」

 

 


「ちょっといいかな?」彼女の言葉を遮って僕は言った。

 

 


「なあに?」彼女は子犬みたいに首をかしげた。

 

 

 

ピアスからのびたフェザーと彼女の首筋が緩やかな角度をつくる。

 

 


「名前……、君の名前を、まだ聞いてなかったから」

 

 


「ああ、名前。たしかにね」と彼女は言って、

 

 

 

またカップを口に運んで、再びテーブルに置いた。

 

 

 

それはずいぶんゆっくりとした丁寧な動作だった。

 

 

 

まるで空気中の何かを一緒にテーブルに置くみたいに。

 

 

 

 

 


「サラよ」と彼女は僕の目を見て言った。
 

 

 

それから彼女は僕の手元からペンを取るとテーブルにあったペーパーナプキンに名前を書きつけた。

 

 


「ありがとう」と僕は言った。

 

 


サラでいいわよと彼女は言ったが、僕はまだそれには抵抗があったので「さん付け」で呼ぶことにした。

 

 


「オーケー。そしたら、まずは12星座の簡単な特徴から伝えていくわね」

 

 

 

そう言って彼女はペンを僕に返した。
 

 

 

「実は12星座はね、物語で捉えることができるの」そう言って彼女は話しはじめた。

 

 

 




◆おひつじ座


ひと言で言えば、はじまりの星座さんね。

 


彼らの中には純粋なエネルギーが充満しているの。

 

 

ときどき彼らのことを自己中心的だという人もいるけれど、

 

 

そういうことを言う人は、きっと「おひつじ座」の人が羨ましいのね。

 


わたしは彼らの情熱のことを「清らかな自己中心性」と言っているんだけど、

 

 

彼らは常に自分からアクションを起こして、

 

 

誰よりも先に何かをはじめてみたい、という気持ちが強いの。

 


パイオニアとか先駆者って言葉がまさにピッタリの星座さんね。

 


一番になりたい星座さんでもあるしね。
 

 

情熱的で、負けず嫌いで、ピュアで、まっすぐで、

 

 

自分のことにきちんと集中ができて、とても素敵な人たちよ。

 


逆に何かを続けることは苦手な人が多いけど、

 

 

そんなことを気にする必要はないの。

 


「おひつじ座」の人にとって大切なことは、

 

 

「はじめ続けること」だから。



◆おうし座


次は「おうし座」さんね。

 


「おひつじ座」ではじまった物語は、

 

 

次に「おうし座」にバトンタッチされるのね。

 


「おひつじ座」で自分を打ち出した経験から得られたものを、

 

 

今度は五感を使って味わうということをしはじめるのが「おうし座」さんの世界なの。

 


彼らは年齢や経験に問わず、みんな芸術家なのよ。

 

 

とにかく目の前のものをじっくり味わって心の底から堪能してみたいのね。

 


ときどき彼らのことをマイペースと言う人もいるけれど、

 

 

おうし座さんから言わせれば、

 

 

味わい方を知らない人からのヤジに聞こえるでしょうね、きっと。

 


たしかに、少し頑固で、頑なに何かを続けたり、

 

 

もしくは続けてしまう星座さんでもあるけれど、

 

 

わたしは、彼らのセンスが大好きよ。

 


独特のリズムがあって、陽気で、

 

 

自分の好きなものに対してはとても素直で、

 

 

エレガントな星座さんね。

 

 

 




「ここまでは大丈夫?」とサラさんは言った。


 

 

僕は肯きながら、ノートにキーワードを書き付けていった。
 

 

 

(つづく)

 

 

その4

 

 

 

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