先日クリアした『岩倉アリア』の感想で、書けていないことがあったので簡単に書いときます。

今回も物語の核心に触れるようなことは書きません。

 

 

まず、私は重要なことを書き忘れていましたが、私は本作を楽しませていただきました。楽しかったです(これをまずは書いておかなければならなかったですね!)。

 

①魅力は?

 

ゲーム自体はテキストを読むタイプのADVであり、今までにない斬新なシステムなどはありませんが、その分やりやすいです。そしてやりやすいようにデザインされています。

場所移動は屋敷の中だけであるため「選択肢が多すぎてフラグが立たない」なんてことはありませんし、移動が必須なところは赤く表示されているのですぐわかります。「では、必須でない場所による意味は?」となりますが、その必須でない場所で時々発見することに「物語の謎」が散りばめられていたりします。また、訪れる場所で流れるテキストも2~3ページくらいなので基本疲れません。

セーブ機能やスキップ機能も充実しているため、出来る限りストレスフリーにプレイさせてくれます。

 

本作の最大の魅力は「作品世界に浸ること」です。

アニメ絵ではないビジュアルが見せる独特な美しさ、優雅なBGM、会話の数々に触れるということ自体が楽しみなのです(そこに興味がない方にはお勧めできないかもしれません)。

グラフィックですが、登場する場所はほぼ岩倉邸の内部だけであるため、様々な場所を訪れるロード・ムービー的楽しみはありませんが、屋敷の中という閉鎖された空間が醸し出す美しさや不穏さがサスペンスと非常に相性が良い──当然、制作コストの削減という理由もあるにせよ──と感じます。

本作の中心人物である「岩倉アリア」に接すること自体が大きな楽しみであることは言うまでもなく、そのゲームデザインに魅力を感じるか感じないかの差があると思いますが、私は幸い「魅力を感じる」方の人間でした。

 

 

②距離のある登場人物達

 

「主人公(北川壱子)は感情移入できるタイプではない」という意見があるようです。

「あるようです」と他人事な書き方をしているのは訳がありまして、私自身特に気にならなかったからです。

 

これはおそらく「登場人物」というものに対する私の感じ方に原因があると思います。

私の感じ方として、主人公と言えど「あくまでも他人(=自分じゃない)」という考え方があるからです。そのため「こちらの思惑を裏切るようなことをしてくれるキャラの方がきちんと自立しているようで安心する」という側面があります。感情移入できないキャラ、私の思惑通りにならない行動をするキャラの方が「自分の意志で立っている」と感じるのです。

そのせいか「キャラが期待通りの動きを期待以上にしてくれる!」というような誉め言葉が逆に受け付けなくて首をかしげたくなるのです(苦笑)

「観客の操り人形なだけじゃん」という考えに至ってしまうのです。

 

──それじゃあ『探偵神宮寺三郎 Innocent Black』とかどう思ってんの?以前否定的じゃなかった?──

 

と、おっしゃる方もいるかと思いますが、私が当該作品の主人公描写をあまり評価していないのは「今までにない行動をとらせるまでの説得力に欠けるから」であり「行動をとった後の再構築を(同一作品内で)怠ったから」です。

 

とは言え、キャラへの感情移入云々にはもちろん限度があり、「ある程度はそういうものが必要である」とも感じますが、少なくとも『岩倉アリア』というゲームは「各登場人物がそれぞれ人間としての意思を持って独自の人生を歩む」という話のようだと事前情報から感じていましたので、「ああ、むやみに感情移入する必要が無く、それぞれ一人の人間として見ればいいのだな」と判断できたのが、拒絶反応がなかった大きな要因であったように思えます。

 

正直言うと本作の登場人物はそれぞれに不完全であり歪です。それぞれ素晴らしさも有していますが愚かさも有しています。それは主人公もそうですし、岩倉アリアもそうです。他のキャラもそうです。

中には「誰にも共感できない」という方もいると思います。

 

ただ、「それならそれでいいんじゃない?」とも思えます、そもそも共感しないといけないわけではありませんから。

 

ここでも私個人の感じ方が影響するのですが、私の感じ方で「人間、オール or ナッシング で決める必要はない」というものがあります。「この部分は好き・この部分はいいとは思わない」で良いという考え方です。

そのため各作品の各登場人物も一人一人に「ここは好き・ここはよくない」でいいと思っています。

本作の登場人物も上記のことが当てはまるため、私としてはむしろ「安心した」のかもしれません。

 

そして、本作の登場人物達は単純な善悪で判断できない複雑さを有していると感じました。

正義な主人公が悪を断ずる話というわけでは決してありません。

ただ、等しく歪で等しく愚か、そして、等しくもがいている話なのかもしれません。

そこにある種の「愛おしさ」を感じてくるのが本作の魅力なのでしょう。

 

 

 

 

 

 

とりとめもなく綴りましたが、今日はこの辺で。

7月前半の時点で酷暑です。皆様もお気を付けくださいませ。