鯨の入り江(49) | 星ねこブログ

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鯨の入り江(49)


本体はまだ海中深く沈んでいた。


 クジラがいよいよ、その全身を現わす時が来た。


固唾(かたず)を飲んで見守る見物衆の前に、クジラは死してなお威厳に満ちた


うち猫
漆黒の巨体をしずしずと差し出した。


人垣の中からどよめこが起こった。


 夜更けにもかかわらず、クジラの初物が揚がると伝え聞いた


近隣の村の人たちが、


大勢、見物に押しかけていた。


 男や女、子供たちまで、潮に濡れて艶やかに光るクジラの皮膚に



nora
触れようと近づく。


 綾もおっかなびっくり。


父親の後ろから手を伸ばした。


クジラの皮膚はゴムみたいに硬く、弾力があった。


打っても、叩いても奥には何も届かない気がした。