【サザンの楽曲「勝手に小説化」㉜】『鎌倉 On The Beach』~新・鎌倉4部作④(終)~ | 頑張れ!法政野球部 ~法政大学野球部と東京六大学野球について語るブログ~

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少々マニアックな事なども書くと思いますが、お暇な方は読んでやって下さい。

私が大好きな、サザンオールスターズ桑田佳祐の楽曲の歌詞を題材にして、私が「小説」を書くという、

「サザンの楽曲・勝手に小説化」

シリーズは、今まで「31本」を書いて来ている。

そして、今は、源義経の愛人・静御前「語り手」を務める、

「新・鎌倉4部作」

を連載中である。

 

 

という事で、私が今まで書いて来た、

「サザンの楽曲・勝手に小説化」

シリーズの「31本」のタイトルは、下記の通りである。

 

①『死体置場でロマンスを』(1985)

②『メリケン情緒は涙のカラー』(1984)

③『マチルダBABY』(1983)

④『Ya Ya(あの時代(とき)を忘れない)』(1982)

⑤『私はピアノ』(1980)

⑥『夢に消えたジュリア』(2004)

⑦『栞(しおり)のテーマ』(1981)

⑧『そんなヒロシに騙されて』(1983)

⑨『真夜中のダンディー』(1993)

⑩『彩 ~Aja~』(2004)

⑪『PLASTIC SUPER STAR』(1982)

⑫『流れる雲を追いかけて』(1982)(※【4部作ー①】)

⑬『かしの樹の下で』(1983)(※【4部作ー②】)

⑭『孤独の太陽』(1994)(※【4部作ー③】)

⑮『JOURNEY』(1994)(※【4部作ー④】)

⑯『通りゃんせ』(2000)(※【3部作ー①】)

⑰『愛の言霊 ~Spiritual Message』(1996)(※【3部作ー②】)

⑱『鎌倉物語』(1985)(※【3部作ー③】)

⑲『夕陽に別れを告げて』(1985)

⑳『OH!!SUMMER QUEEN ~夏の女王様~』(2008)

㉑『お願いD.J.』(1979)

㉒『恋するレスポール』(2005)

㉓『悲しい気持ち(Just a man in love)』(1987)

㉔『Moon Light Lover』(1996)

㉕『NUMBER WONDA GIRL ~恋するワンダ~』(2007)

㉖『LOVE AFFAIR ~秘密のデート~』(1998)

㉗『ハートせつなく』(1991)

㉘『ポカンポカンと雨が降る(レイニーナイトインブルー)』(1992)

㉙『あじさいのうた』(1988)~新・鎌倉4部作①~

㉚『想い出のリボン』(1991)~新・鎌倉4部作②~

㉛『ネオ・ブラボー!!』(1991)~新・鎌倉4部作③~

 

 

…という事であるが、

以前、私が書いた「鎌倉3部作」は、現代の鎌倉の男子高校生が、時を超える不思議な女(ひと)に出逢う…という物語だった。

その「鎌倉3部作」のタイトルは、下記の3本である。

 

・『通りゃんせ』(2000)

・『愛の言霊 ~Spiritual Message』(1996)

・『鎌倉物語』(1985)

 

…そして、「鎌倉3部作」に登場した不思議な女(ひと)…その正体は、あの源義経の愛人・静御前だった…というわけだが、

今回は、その静御前「語り手」を務める、

「新・鎌倉4部作」

を書いており、静御前源義経のラブストーリーと、静御前が如何にして「時を超える存在」になったのか…という物語を書いている。

 

 

という事で、

「新・鎌倉4部作」

の、これまでの「3本」のタイトルは、下記の通りである。

 

・『あじさいのうた』(1988)静御前源義経の出逢いの物語

・『想い出のリボン』(1991)静御前源義経の別れの物語

・『ネオ・ブラボー!!』(1991)静御前「時を超える女」になった経緯を描く物語

 

 

そして、今回、私が「サザン小説」の題材に選んだのは、

2022(令和4)年10月19日にリリースされた原由子のソロ・アルバム、

『婦人の肖像(Portrait of a Lady)』

に収録されていた、

『鎌倉 On The Beach』

という曲である。

『鎌倉 On The Beach』

は、作詞は桑田佳祐原由子の「合作」で、作曲は原由子が単独で行なった楽曲であり、その原由子がメイン・ボーカルを務めている。

なお、この曲について原由子は、

「『鎌倉物語』(1985年に発表したサザンの曲)の頃、恋をしていた世代にとっての続編のような気持ちで。鎌倉は子供の頃から色々とご縁があり大好きな街」

と、コメントしている。

つまり、『鎌倉 On The Beach』(2022)とは『鎌倉物語』(1985)「続編」のような曲であり、まさに「新・鎌倉4部作」の「最終回」に相応しい曲ではないか…と私は思い、「サザン小説」の題材として選ばせて頂いた。

それでは、「前置き」はそれぐらいにして、

「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」の「第32弾」、そして「新・鎌倉4部作」の「第4話(最終回)」、

『鎌倉 On The Beach』(原案:桑田佳祐・原由子)

をご覧頂こう。

 

<序章・『あの人が居ない海』>

 

 

「あの人」を失ってから、私(わたくし)という人間は、全てが変わってしまいました。

私の「想い人」…私の最愛の人、源義経様が亡くなった後、「抜け殻」のようになってしまった私は、自分が生きて行く意味を見出せず、遂に自ら命を絶ってしまいました。

しかし、どういうわけだか、私は、

「時を超える女」

になってしまいました…。

死んだ筈だった私は、私の師匠で、「恩人」でもあった「白菊様」を介して、義経様の剣術の先生だった鬼一法眼先生に、不思議な力を授かり、

「時を超える女」

になった…という事は、これまでお話して来た通りでございます。

しかし…だからと言って、私が最も逢いたかった方…義経様にお逢い出来るわけではございません。

むしろ、最愛の人に逢えないまま、「魂」だけが「この世」を彷徨ってしまう…考えてみれば、そんな残酷な事は無いでしょう…。

私は、そんな事を思いながら、「あの人」が居なくなってしまった、朝靄漂う鎌倉の海辺に、独り虚しく佇んでいました…。

 

<第1章・『大銀杏』>

 

 

私の最愛の人…源義経様を「死」に追いやった後、義経様のお兄様・源頼朝様は、権力の基盤を固め、

武士によって日本という国を治める、初の武家政権、

「鎌倉幕府」

を作られました。

しかし、それから程なくして頼朝様も亡くなってしまい、その後は「鎌倉幕府」の内部で、身内同士による、血で血を洗う悲惨な争いが起こりました。

そして…亡き頼朝様の遺児で、3代目となる、

「鎌倉殿」

の座に就いたのは源実朝様でしたが、その実朝様も非業の死を遂げられました。

あれは、私が源頼朝様・北条政子様のご夫妻の前で、

「白拍子」

を舞ったのと同じ場所…鎌倉の鶴岡八幡宮に大雪が降った、或る夜の事です。

源実朝様は、鶴岡八幡宮での参拝を終えられ、雪が降りしきる中、鶴岡八幡宮の大階段を降りようとされていました。

その時…鶴岡八幡宮の階段の下の方にある、

「大銀杏」

の木の陰に一人の男が隠れていたのでございます。

 

 

その男…即ち、頼朝様の嫡男で、2代目の「鎌倉殿」だった源頼家様の次男、公暁様は、

「大銀杏」

の陰に隠れ、実朝様が来られるのを、じっと待ち構えていました。

そして、実朝様が「大銀杏」の側まで来られた時…公暁様は「大銀杏」の陰から飛び出し、いきなり実朝様を斬り殺してしまいました…。

「何て事を…」

私は、すぐ側で、その一部始終を見ておりましたが、あまりの悲惨さに言葉を失いました。

これで、源氏の嫡流は途絶えてしまい、以後、「鎌倉幕府」は北条氏の天下になりましたが、義経様が平家と戦い、そして平家を倒し…やがてその義経様も亡くなってしまいましたが…ここに至るまで、どれだけ多くの血が流れた事か…。

「鎌倉」

というのは、本当に血塗られた忌まわしい所だと、私は思いました…。

 

<第2章・『盂蘭盆会(うらぼんえ)』>

 

 

人間というものは、本当に愚かな存在です。

「時を超える女」

になってしまった私ですが…私は幽玄の存在として、人間社会を見て来ましたが、

いつの世も、人間は人間同士で争ったり、殺し合いをしたりと、いつまで経っても、そういう愚かな事ばかりを繰り返していました。

そもそも、義経様も、お身内の頼朝様によって追い詰められ、命を落とされました。

「何で、人間ってそういう愚かな事ばかりを繰り返すのかしら…」

私はすっかり、人間という存在に絶望していました。

そして、いつまでも義経様に捉われれしまっている、私自身にも…。

先程、私は、

「鎌倉は血塗られた忌まわしい所」

と申しましたが、それでもなお、私は何故か、

「鎌倉」

という所から離れ難く、気が付けば長い時代(とき)を、「鎌倉」の地で過ごしていました。

それは、かつて義経様が過ごしていた所…という以上の「何か」が、ここ「鎌倉」には有るような気がしていたからかもしれません。

ところで、

「盂蘭盆会(うらぼんえ)」

という行事がございますが、俗に「お盆」と言われる季節には、死者の魂が「この世」に帰って来ると言われています。

現に、この私も「そういう存在」ではございますが…。

 

 

しかし、この私も、

「盂蘭盆会」

の参道に立ってみても、遂に義経様とお逢い出来る事はありませんでした。

「義経様!?」

ある時、そう思い、ハッとして振り返ってみると、そこにはただ、一陣のつむじ風が吹いているばかりでございました…。

その度に、私はガッカリしてしまいましたが、「鎌倉」は、「この世」と「あの世」の境目にあるような不思議な感じがして、私はいつまでも「鎌倉」に留まっていたのかもしれません。

「私、いつまで義経様に捉われているのかしら…」

私は自分で自分の事が情けなくなりました。

「人間とは愚かな存在だ」

と、私は申しましたが、この私自身も、そんな愚かな人間の一人だったのです。

いや、私はもう「人間」ではないのですが…。

 

<第3章・『夏の日の物語』>

 

 

「時を超える女」

になってしまった後…私には色々な出来事がございました。

そのお話は、また別の機会にでもさせて頂く事と致しまして…。

或る夏の、「鎌倉」での出来事について、お話したいと思います。

先程、申し上げた通り…私は常に、義経様の幻影を追い、気が付けばとても長い時間(とき)が過ぎてしまいましたが、

或る夏の日、鶴岡八幡宮で、私は一人の男の子と出逢いました。

その男の子は、よく鶴岡八幡宮に来ていましたが、その男の子はよく、

「歌」

を歌っていました。

それは、ほんの小さな歌声ではありましたが、その歌声は私にはハッキリと聴こえました。

そうです、私はとても「耳」が良いので…ほんの小声でも、よく聴こえてしまいます…。

私は、まずその「歌声」に惹かれました。

それは、何の歌なのか、私にはわかりませんでしたが、暫く様子を見ている内に、どうやら、その男の子が自分で作った歌らしい…という事が、何となくわかって来ました。

そして、その歌声の主を見た時…私はとても驚きました。

「義経様…」

その男の子は、あの義経様に、とても良く似ていました(※少なくとも、私にはそう見えました)。

 

 

「義経様の再来だわ…」

私は勝手に、そう思ってしまいました。

一度、そう思ってしまうと、私にはその男の子が、もはや義経様にしか見えなくなりました…。

それは、多分、

「他人の空似」

だったのでしょうけれど、私は、

「義経様の生き写し」

とも思える、その男の子に釘付けになってしまったのです。

季節は夏、鶴岡八幡宮の上空の青い空には、白い雲が浮かんでいました。

そして、空には鳥のさえずりが聴こえ、辺りには爽やかな風が吹き、あの大銀杏の枝は、何処までも高く、青い空に向かって伸びていました…。

ちなみに、「この世」の人には、通常、私の姿は見えません。

私が、自分の「意思」で、「この世」の人の前に姿を現さない限りは…。

その男の子は、どうやら鶴岡八幡宮がとても「お気に入り」の場所のようで、よく来ていましたが、

彼は、現代の「鎌倉」の高校生の男の子…のようでした。

「この人の前に、姿を現してみたい…」

私は次第に、その気持ちが抑えられなくなっていました…。

 

<第4章・『舞姫』>

 

 

そんなある日の夜の事…。

私は遂に、あの男の子の前に姿を現しました。

その日、彼はいつものように、鶴岡八幡宮へと姿を現しました。

彼は、お友達と一緒に居ましたが、彼がお友達と別れた後…私は、私の力を使い、彼を「幽玄」の世界に導いたのです。

その時、彼は恐らく、私と出逢った事を、

「夢」「幻」

のように思ったかもしれませんが、「この世」の人である人を「幽玄」の世界に導いた時…「この世」の人は、それを「夢」か「幻」か、それとも「現(うつつ)」か…判然とはしなくなってしまうのです。

「ここは何処…?」

彼は、呆然としているようでしたが、私は彼の前で、

「白拍子」

の舞を踊りました。

「しづやしづ しずのおだまきくりかえし むかしをいまに なすよしもがな…」

そうです、私がかつて、鶴岡八幡宮の舞台で、源頼朝様・北条政子様ご夫妻の前で、最愛の人・源義経様の事を想って歌った歌を、ここでも披露致しました…。

その時は、私自身も、これからどうしたいのか、よくわかっていませんでした。

しかし、一つわかっていたのは、私もその男の子に惹かれていた…という事でございます…。

 

<第5章・『Mr.Moonlight(ミスター・ムーンライト)』>

 

 

その後、暫く経ってから…ある満月の夜、何処でどう聞いたのかはわかりませんでしたが、

あの男の子は何やら「不思議な言葉」を唱えていました。

私は、その「不思議な言葉」に導かれるようにして、再び、彼の前に姿を現しました。

そして、私達は夜の七里ガ浜の海で、ひと時を過ごしました。

その時、私は彼に対し、いつまでも戦いや争い事を繰り返す、人間の愚かさについて、嘆いてしまいました。

「人間って、いつまで経っても、馬鹿ばっかりよ…。戦(いくさ)をしたり、罪を犯したりね…。どうして、いつの世になっても、人間って、馬鹿な事ばかりを繰り返すの?」

最初は、私も努めて冷静に話そうとしていました。

しかし、私は次第に感情が昂ぶり、

「私、ずっと時の流れを見て来たけど…。あまりにも人間が成長しないから、本当にガッカリしてるの…。いつまで経っても、同じ事の繰り返し。どんな時代になってもね。私の大切な人も、戦(いくさ)で亡くなったわ…。それなのに…」

と言って、泣いてしまいました…。

私は、どんなに時代(とき)が経っても、義経様を失った痛手から立ち直ってはいなかったのです。

その時…彼は黙って、私の言葉を聞いていましたが、彼は私に、こんな事を言いました。

「…それでも、生きて行くのが人間ってものじゃないの?確かに、あまり成長しないかもしれないけど、みんな一生懸命に生きてると思うけどな…」

彼の言葉を聞いて、私はハッとしました。

確かに…そうかもしれないな…と、私は思いました。

ふと見ると、夜空の満月の光が彼を照らしていましたが、彼の姿は満月によく映えていました。

「素敵な人ね…」

私は、心の中でそう思っていました。

でも…彼は「この世」の人であり、私とは住む世界が違います。

だから、どんなに惹かれたとしても、私は彼とは一緒には過ごしてはいけない身なのです。

私の胸には切なさが込み上げていました…。

 

<第6章・『決意』>

 

 

本当は、いけない事だとはわかっていました。

しかし、私はある「決意」を固めていました。

それは、何かと言うと…。

「彼を、私の世界に連れて行く」

という事です。

私は幽玄の身ですから、本来であれば、「この世」の人と共に過ごす事は出来ません。

しかし、私が「その気」になれば、「この世」の人を、私の世界に連れて行く事は出来るのです。

私は、もうどうしようもなく、彼に惹かれていました…だから、今度、彼と逢った時に、それを実行に移そうと思っていました。

そして、あの夜の七里ガ浜で過ごしてから、幾日かが過ぎた後…私は、彼が唱える、

「不思議な言葉」

に導かれるようにして、再び彼の前に姿を現しました。

その時、私はちょっとした「イタズラ心」を出して、現代風の恰好…麦わら帽子を被り、白いワンピースを着て、彼の前に姿を現しました。

私の出で立ちを見て、彼は面食らっていましたが…。

その時、彼は私に、ある「贈り物」を渡してくれました。

それは、お化粧道具で…爪に塗る「マニキュア」でした。

「私にくれるの?有り難う…」

私は、彼に贈り物をもらったのがとても嬉しくて、特に深くは考えずに、そのマニキュアを塗ってみました。

その後、彼は私に、現在(いま)の鎌倉の街を、色々と案内してくれました。

それは、とても楽しいひと時でした。

「こんな風に、あの方と楽しく過ごした事も有ったな…」

私の脳裏には、ふと義経様の事が蘇っていました…。

でも、今、目の前に居る彼も、とても素敵な人でした。

「やっぱり、この人と一緒に過ごして行きたい…」

私は、もはや自分の気持ちを抑えられなくなっていたのでございます…。

 

<第7章・『鎌倉 On The Beach』>

 

 

その後…私は彼と一緒に、

「江ノ電」

という電車に乗りました。

「江ノ電」

とは、鎌倉と藤沢の間を走る電車で、湘南の海沿いを走る電車ですが、私にとって色々と縁のある場所を走る電車でもあります。

この時、私は彼に導かれ、初めて「江ノ電」に乗りました。

そして、江ノ島の手前…そこは、義経様がお兄様に頼朝様に手紙を書いたものの、拒絶されてしまった、

「腰越」

という所でしたが、私は義経様の事を思い出し、とても胸が苦しくなってしまいました…。

私は、いつまでも義経様に捉われてはいけないと思い、そのためにも、彼と一緒に居たい…と、思っていたのかもしれません。

そして、「江ノ電」江ノ島の駅に到着しました。

 

 

私は、彼と一緒に、江ノ島が見えるビーチに行きました。

ビーチに着くと、私はサンダルを脱ぎ、思わず駆け出していました。

私は、海がとても好きです。

でも、たった独りで来る海よりも、こうして誰かと来る海は、本当に楽しい…と思いました。

私が本当に楽しそうにしていたからか…彼は目を丸くしてビックリしていました。

その時…少し大きな波が来て、私は思わず悲鳴を上げ、彼に抱き着いてしまいました。

「危ない!!気を付けろよ…」

そう言って、彼は私を抱きとめてくれました。

それがとても嬉しく、私は、

「連れて来てくれて、有り難うね…」

と、彼に言いました。

そして、私は思わず、

「ねえ、私…。もっと早く貴方と出逢えていたら…」

と、言ってしまいました。

しかし、私はハッとして口を噤みました。

そんな事を言っても、仕方がありません。

だって、そもそも私は彼とは住む世界が違います…だから、それは叶わぬ願いでした。

「だから、私はこの人を、私の世界に連れて行こうとしている…」

私は心の中で、そう思いましたが、勿論、そんな事は口には出しません。

「ごめんなさい…。余計な事を言ったわ…。行きましょう」

私は彼を促し、ビーチを後にしました。

気が付くと、江ノ島には今まさに夕陽が落ちようとしており、夕陽がビーチを照らしていました…。

 

<終章・『幽玄の風』>

 

 

私と彼は、二人して、夜の「江ノ電」の「江ノ島駅」のホームのベンチに座っていました。

その時、私は自分の「力」を使い、他の人が誰も来ないようにして…彼と二人きりになっていました。

その時、私は彼に対し、私が彼に逢いに来た目的を告げました。

「貴方は、私の『想い人』に、面影がとても良く似ているわ…」

私は彼に、彼が義経様にとてもよく似ている…という事を仄めかしました。

「だから、何度でも逢いたくなっちゃって…」

それは、私の「本音」でございました…。

「あの方は…私とお別れする時…最後に口づけをしてくれたわ…。私、それが忘れられなくて…」

私は彼に、そう言いました。

私は目を閉じ、彼の「口づけ」を待っていました。

もし、これで彼が私に「口づけ」をしてくれたら…彼はもう、私からは逃れられず、私の世界に連れて行く事が出来るのです…。

彼は私の手を握り、そして、彼の顔が、私の顔に近付き、彼の唇が私の唇に触れようとした、その時です。

彼は、我に返ったように、私から離れ、私にこう言いました。

「ここで、別れよう。僕達は、もう会っちゃいけないと思う。それに…僕は、君の想い人じゃないから」

彼はハッキリと、私にそう言ったのです。

その時、私は気が付いていました。

「あのマニキュアのせいね…」

彼が私に贈り物としてくれた、あの「マニキュア」…どうやら、その「マニキュア」には、彼が「この世」に留まれるような、何か不思議な力が有るのに違いない…と、私は察したのです。

彼は私の手を握っていましたから…私の爪に塗った、あの「マニキュア」が、彼を「正気」に戻したに相違ありませんでした…。

 

 

その時、辺りに一陣の風…「幽玄の風」が吹き、私の耳元で、こんな「声」が聴こえたような気がしました。

「静。こんな事をしてはいけないわ…」

そうです、それは私の師匠…「白菊様」の声でした。

恐らく、彼には聴こえていなかったでしょうけれど、私にはハッキリと聴こえました。

私は、生まれつき「耳」がとても良いのです…。

そして、私も「理性」を取り戻しました。

「わかったわ…。ここでお別れしましょう」

私は、彼にそう告げました。

本当は、彼をそのまま「江ノ電」に乗せ、彼を私の世界に連れて行くつもりでした。

けれども、私はそれは諦め、

「貴方は、ここに残って。これに乗ったら、貴方はもう、この世には戻れなくなるわ…」

言い、彼に私が被っていた麦わら帽子を渡しました。

「今まで、本当に有り難う。さよなら…」

私は彼に「別れ」を告げ、そのまま「江ノ電」に乗り、その場を後にしたのでございます…。

「白菊様…。これで良かったのですよね…?」

私は、他に誰も居ない「江ノ電」に乗り、そう呟きました。

やはり、住む世界が違う「この世」の人を、連れて来てしまう事は良くないと、私は思いました。

ですが、そう簡単に彼の事を忘れる事も出来ないと、私は思っていました。

いつの間にか、私は彼の事を、とても愛してしまっていたのでした…。

事ほど左様に、

「愛」

とは、とても不思議なものでございます…。

それは、人間が持っている、とても大切な感情であるのと同時に、大変恐ろしいものでもあります。

「愛」とは一体、何なのか…それを解き明かすために、私の長い旅路はまだまだ続いて行くのであろう…と、私は思いました。

そして、これをお読み頂いた皆様が、

「鎌倉」

にいらっしゃった時…少しでも、私の事を思い出してくれたら…これに優る幸せはございません…。

 

(『サザンの楽曲・勝手に小説化』シリーズ~『新・鎌倉4部作』・完」)

 

 

 

『鎌倉 On The Beach』

作詞:桑田佳祐原由子

作曲:原由子

唄:原由子

 

朝靄漂う モノクロームの海辺で

裸足の指に絡む 砂が冷たい

 

風さえまだ無く 潮騒だけが響く

角のとれたガラスを 拾い集めてた

 

濡れたサンダルを脱いで 茜色に染まり始めた

東の空 手を合わせて

 

ほら幽玄の風 鳴いて ヒューララ Oh Oh

生かされて私は ここで幻想(ゆめ)を見る

 

盂蘭盆会の参道(みち)すれ違うのは誰?

思わず 振り返れば 人影のつむじ風

 

山の端さやかに 夏が両手を広げた

飛び交う鳥の声に 心さすらう

 

鶴岡八幡宮(じんじゃ)の向こうに 白い雲が沸き立ち

銀杏が天に蒼き 枝を伸ばしてる

 

街のざわめきの中 不意に募る切なさは何故

遠い記憶 呼び覚ますの?

 

今 悠久の舞 静やかなる季節(とき)

儚くも 美しい 白い花びらよ

 

星月の郷 呼びかけるは 誰?

糾(あざな)う糸のように 幸せは巡り来る

 

ほら幽玄の風 鳴いて ヒューララ Oh Oh

生かされて私は 一人歩き出す

 

盂蘭盆会の参道(みち)すれ違うのは誰?

思わず 振り返れば 人影のつむじ風

想い人よ何処へ

夏の日の物語