【サザンの楽曲「勝手に小説化」㉔】『Moon Light Lover』(原案:桑田佳祐) | 頑張れ!法政野球部 ~法政大学野球部と東京六大学野球について語るブログ~

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少々マニアックな事なども書くと思いますが、お暇な方は読んでやって下さい。

私が大好きなサザンオールスターズ桑田佳祐の楽曲の歌詞を題材にして、私が「短編小説」を書く…という、

「サザンの楽曲・勝手に小説化」

シリーズを、このブログにて断続的に書いているが、これまでに、

「23本」

の小説を書いて来ている。

そして、今回はその「新作」を書かせて頂く。

 

 

という事で、私がこれまで書いて来た、

「サザンの楽曲・勝手に小説化」シリーズは、下記の「23本」である。

 

①『死体置場でロマンスを』(1985)

②『メリケン情緒は涙のカラー』(1984)

③『マチルダBABY』(1983)

④『Ya Ya(あの時代(とき)を忘れない)』(1982)

⑤『私はピアノ』(1980)

⑥『夢に消えたジュリア』(2004)

⑦『栞(しおり)のテーマ』(1981)

⑧『そんなヒロシに騙されて』(1983)

⑨『真夜中のダンディー』(1993)

⑩『彩 ~Aja~』(2004)

⑪『PLASTIC SUPER STAR』(1982)

⑫『流れる雲を追いかけて』(1982)(※【4部作ー①】)

⑬『かしの樹の下で』(1983)(※【4部作ー②】)

⑭『孤独の太陽』(1994)(※【4部作ー③】)

⑮『JOURNEY』(1994)(※【4部作ー④】)

⑯『通りゃんせ』(2000)(※【3部作ー①】)

⑰『愛の言霊 ~Spiritual Message』(1996)(※【3部作ー②】)

⑱『鎌倉物語』(1985)(※【3部作ー③】)

⑲『夕陽に別れを告げて』(1985)

⑳『OH!!SUMMER QUEEN ~夏の女王様~』(2008)

㉑『お願いD.J.』(1979)

㉒『恋するレスポール』(2005)

㉓『悲しい気持ち(Just a man in love)』(1987)

 

 

そして、今回、私が「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」「新作」の題材として選んだ曲は、

1996(平成8)年にリリースされた、サザンの通算12枚目のアルバム、

『Young Love』

に収録されていた、

『Moon Light Lover』

という曲である。

この曲は、とにかく素敵な雰囲気の曲であり、しっとりとした「大人の曲」というイメージが有る。

 

 

桑田佳祐も、この曲の事は、殊の外、気に入っているようであり、

『Moon Light Lover』

が発表された1996(平成8)年以降、サザンのライブでは必ずと言って良いほど、歌われている。

そして、この曲が始まると、サザンファンは皆、聴き惚れてしまうのが常である。

勿論、私もこの曲はとても大好きである。

 

<「サザンの楽曲・勝手に小説化」シリーズでお馴染み(?)の「ベターデイズ」の物語について…>

 

 

ところで、このブログを前々からお読み頂いている方は、よくご存知(?)の事と思うが、

「サザンの楽曲・勝手に小説化」

シリーズでは、サザンをモデルとした架空のバンド、

「ベターデイズ」

の物語を、これまでに何本が書いて来ている。

「ベターデイズ」

とは、元々、サザンを輩出した青山学院大学の音楽サークルの名前だが、私はその名前を「拝借」し、

「ベターデイズ」

の物語を書かせて頂いている。

先程、述べた通り、このバンドはあくまでも「サザンっぽいバンド」ではあるが、あくまでもサザンではなく、架空のバンドである。

…というわけで、

「ベターデイズの物語」

に関連した小説は、下記の通りである。

 

【「ベターデイズ」関連の話】

④『Ya Ya(あの時代(とき)を忘れない)』(1982)

⑤『私はピアノ』(1980)

⑧『そんなヒロシに騙されて』(1983)

⑪『PLASTIC SUPER STAR』(1982)

⑲『夕陽に別れを告げて』(1985)

㉑『お願いD.J.』(1979)

㉒『恋するレスポール』(2005)

 

【鎌倉3部作】

⑯『通りゃんせ』(2000)

⑰『愛の言霊 ~Spiritual Message』(1996)

⑱『鎌倉物語』(1985)

 

 

…という事で、何がどう関連しているのかは、宜しければ、上記の小説をお読み頂ければ幸いであるが、

今回、私が「新作」として書く、

『Moon Light Lover』

も、その「ベターデイズの物語」の「続編」である。

それでは、前置きはそれぐらいにして、

「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」の「第24弾」、

『Moon Light Lover』(原案:桑田佳祐)

を、ご覧頂こう。

 

<序章・『桐壺』>

 

 

今から、私は「秘密の恋」の話を書く。

私は音楽活動をしている者だが、ある時期、私はスランプに苦しみ、曲が全く書けなくなってしまった事が有った。

それは本当に辛く苦しい時期だったが、ある出来事をキッカケに、私は再び音楽を生み出す事が出来るようになった。

そして、そのキッカケというのが、他ならぬ、私自身の、

「秘密の恋」

だった。

そして、この話は、今まで誰にも話した事は無い。

しかし、私にとっては、とても大きな出来事だったので、どうしても書き記しておきたいと思い、こうして「手記」として残している。

だから、この話は誰かに読まれる事を前提としてはいない。

私は、この「秘密の恋」について書き、木の箱に入れ、ある場所へと隠しておいた。

だから、もしも今、これを読んでいる人が居るとすれば、それを見つけ出したから…という事になるであろう。

それはともかく、私がこうして書き留めているのは、ある曲を生み出すまでの物語である…。

 

<第1章・『花宴(はなのえん)』>

 

 

「みんな、どうも有り難う!!」

ステージの上で、ユウコの笑顔が弾けていた。

そして、私の大切な仲間達…タカシ、ヒロシ、カズユキ、ヒデユキさん…彼らもまた、生き生きとした表情だった。

私達は、一応、プロのバンドである。

私は、青山学院大学の音楽サークルで出逢った仲間達と共に、

「ベターデイズ」

というバンドを結成していた。

当初、私がボーカルを務めていたが、私は歌にあまり自信が無かった。

そこで、このバンドのギタリスト・タカシが、彼の友人だというユウコを、ボーカルとして連れて来た。

すると、ユウコはボーカルとして物凄い才能を発揮し、

「スーパーボーカル・ユウコ」

「変身」し、このバンドを引っ張ってくれるようになった。

私は、このバンドの曲を作り、ユウコがその曲を歌う…というパターンが確立して行ったが、私は不思議と、

「ユウコのために」

と思うと、何故か、次々に曲を作れるようになって行った。

こうして、我々のバンド活動は軌道に乗り、そして紆余曲折を経て、私達はプロのバンドとしてデビューする事が出来た。

「みんな、逢いたかったよ!!」

普段は大人しいユウコは、一度、ステージに上ると、まるで「別人」のように、スイッチが入り、お客さんをノリノリで煽るような「スーパーボーカル」に変身する。

そして、私達のバンドも、ユウコに引っ張られるように、まるで神がかったような演奏が出来てしまう。

それは本当に「化学反応」と言って良かったが、間違い無く、ユウコは私の…いや、私達の「運命の女神」だった。

今日のライブもまた、大盛況だった。

ライブ会場は超満員だったが、ボーカルのユウコ、ギターのタカシ、ドラムのヒロシ、ベースのカズユキ、そしてパーカッションのヒデユキさん…という、

「ベターデイズ」

のメンバー達も皆、嬉しそうだった。

だが、実はこの時、私にはとても大きな悩みが有った。

それは、まだ誰にも言ってはいなかったのだが…。

しかし、私は表面的には、いつものように「満面の笑顔」で、ステージ上でピアノを弾いていた。

プロである以上、ステージに立てば、そんな「悩み」など、お客さんには見せてはいけないと、私は思っていた…。

 

<第2章・『若紫』>

 

 

「私、歌は元々、素人だったから、もっと頑張らないと…」

その頃、ユウコは口癖のように、いつもそんな事を言っていた。

ユウコは、出逢った時から抜群に歌が上手い子だったが、

「私は、ちゃんと歌は習った事は無いから、このままじゃダメだと思う」

と、ユウコは常々、言っていた。

「ベターデイズ」

が、プロとしてデビューしてからも、ユウコは自分のボーカルに磨きをかけようと、ボイトレの先生に付き、基礎から歌を練習していた。

とにかく、ユウコは人一倍、向上心が強い人だった。

しかし、私はユウコはそんなボイトレなんかしなくても、彼女にしか無い、独特の歌の魅力が有ると思っていた。

「ユウコには、他の人には無い、お客さんの心を鷲掴みにしてしまう才能が有る。だから、そのままでも良いと思うよ…」

私は当初、そう言っていたが、ユウコは首を横に振った。

「有り難う。でも、私はもっと頑張らないと…」

とにかく、ユウコは、こうと決めたら絶対に曲げない性格だった事もあり、熱心に歌の練習に励んでいた。

「ユウコにはユウコの良さが有るんだけどな…」

率直に言って、私はユウコに、

「歌なんか、習いに行かなくて良いよ」

と、よっぽど言いたかったが、ユウコがあまりにも熱心なので、言い出せなかった。

それに、先程も書いたが、その頃の私には、ある「悩み」が有った。

その「悩み」が、私の心を占めるようになっており、私は次第に憂鬱になっていた。

 

<第3章・『空蝉(うつせみ)』>

 

 

ユウコは、私にとって、公私ともに、大切な「パートナー」だった。

私とユウコは、

「ベターデイズ」

がデビューする前から交際していた。

勿論、その事はバンドのメンバー達も知っていたし、その頃はファンにも公言はしていなかったが、私達が「恋人同士」というのは、恐らく「公然の事実」だった。

「それじゃあ、お疲れ…」

その日、次のライブに備え、私達は集まり、リハーサルを行なったが、その帰り道、私はいつものように、私が運転する車の助手席に、ユウコを乗せていた。

その頃、私とユウコは別々に住んでいたが、私はいつも、ユウコが住む横浜まで、ユウコを車で送ってやっていた。

「こないだのライブ、凄い盛り上がったね!!」

「ああ、本当に凄かったな…」

ある夏の夜、私とユウコは、いつものように、車中で色々なお喋りをしたりしながら、「ドライブ」を楽しんでいた。

「今度のライブ、曲順はどうしようか?」

ユウコは、いつもの調子で、お喋りをしていたが、私は、

「ああ…」

などと、つい生返事をしてしまっていた。

すると、私の異変を察したらしいユウコが、私の顔を覗き込むようにして、

「…ねえ、貴方、こないだから、ちょっと様子が変だよ?」

と、心配そうな表情で聞いて来た。

「どうしたの?何か有った?」

ユウコに聞かれた私は、重い口を開いた。

「実は…。最近、曲が全然、思い浮かばないんだよ…」

私は、呻くように言った。

そう、私の「悩み」とは、その事だった。

私の言葉を聞くと、ユウコが息を呑んでいるのがわかった。

私は、ユウコと出逢って以来、それこそ泉が湧くように、次々に曲のアイディアが思い浮かんでいた。

だが、「ベターデイズ」がプロとしてデビューし、順調に活動をスタートさせた後…私は、

「早く新曲を書け」

という、事務所からの催促が、段々とプレッシャーになっていた。

そして、追い込まれた私は、焦れば焦るほど、曲が全く出来なくなってしまったのである。

「俺はもう、才能が枯れて、空っぽになってしまったのかもな…」

私がそう言うと、ユウコは顔面蒼白になっていた。

「…そうだったの…。今まで、気が付かなくて、ごめんね…」

ユウコは、泣きそうな顔になって、俯いてしまった。

「いや、ユウコのせいじゃないよ…」

私は、こうなる事が嫌だったから、ユウコには何も言えなかったのだった。

 

 

「ねえ、何か力になれる事、無い?」

ユウコは、私の肩に手を置いて、そう言ってくれた。

「大丈夫だよ、心配しなくても…」

私は、ユウコの気持ちは有り難かったが、そう答えるしかなかった。

それから、私とユウコは、二人して黙りこくってしまった。

窓の外には、ベイブリッジの夜景が見えていた。

そして、ユウコの家に着くと、

「それじゃあ、また明日ね…」

そう言って、ユウコは車を降りた。

「ああ、おやすみ…」

私はそう言い残し、車を走らせた。

バックミラー越しに、ユウコが心配そうに、私の車を見送っているのが見えた。

「どうしようかなあ…」

私は、車中で独りになると、溜息をついた。

さっきは、ユウコを心配させまいと、

「大丈夫だ」

とは言ったが、状況は全く好転していなかった。

その時、私はふと思い立って、「ある場所」へと向かう事にした。

それは、私の高校時代の「思い出の場所」だった…。

 

<第4章・『朧月夜』>

 

 

私は、車を走らせ、鎌倉へと向かった。

鎌倉と言えば、私は鎌倉学園という高校に通っていたので、私にとって、青春の思い出が詰まった場所だった。

その夜、私は久しぶりに鎌倉に行ってみたいと思い立ったのである。

そして、私は鎌倉の海が見える所…由比ガ浜に着くと、車を止めた。

私は車を降りて、夏の夜空を見上げると、そこには少し靄がかかったような満月が有った。

「朧月夜か…」

私はしばし、美しい月を眺めていた。

そして、どれぐらい経った頃か…。

ふと、辺りに一陣の風が吹いた。

 

 

「ん…?」

気が付くと、満月の下、一人の女性が、波打ち際に佇んでいるのが見えた。

私は、その女(ひと)の姿を見ると、思わず、

「アッ!?」

と、声を上げそうになった。

その女(ひと)は、私にとって、忘れようにも忘れられない女(ひと)…。

高校3年の夏、私が出逢った、とても不思議な女(ひと)が、今また、私の目の前に姿を現していた。

「…これは、夢か?幻か…?」

私は目を凝らしたが、どうもこれは現実のようだ。

その女(ひと)は、あの時と同じように、とても美しく、そして何処か儚げな様子だった。

「お久し振りね。お元気だったかしら?」

その女(ひと)は、私に向かって微笑み、ハッキリとそう言った。

「うん…」

私は、もう逢う事はあるまいと思っていた女(ひと)を目の当たりにして、何と言って良いかわからなかったが、

「君も…。元気だった?」

と、聞いた。

「まあ…。元気だった?って聞くのも、何か変かな…」

私は思わず、そんな事を言ってしまった。

よくわからないが、この女(ひと)は、どうも、この世の人ではないような、時を超越した存在のようだ。

そういう事を思っていたので、思わず、そう言ってしまったが、

「フフッ…」

と、その女(ひと)は笑うと、

「ええ。私は元気よ…」

と、答えた。

それから、私とその女(ひと)は、暫くの間、ただ黙って見つめ合っていた。

 

<第5章・『夕顔』>

 

 

その時、私は何故か、

「夕顔」

を連想していた。

『源氏物語』

で、主人公の光源氏が、正体不明の女・夕顔と恋に落ちる場面が有る。

私にとって、その女(ひと)も、

「正体不明の女」

という意味では、

「夕顔」

と全く同じだった。

いや、この女(ひと)の正体は、かの有名な源義経と相思相愛だった、「あの女(ひと)」だと私は勝手に思っていたが、私がその名前を口に出してしまうと、魂が持って行かれてしまうから、絶対に口にするなと、私は、高校時代の親友・M君のお母さんから厳命されていた。

その事を私はよく覚えていたから、私は決してその名は口にしなかった。

 

 

ふと気が付くと…。

今夜の彼女の出で立ちは、白いブラウスにロングスカートという物だった。

だが、それよりも、私の目を奪ったのは、彼女の唇だった。

その女(ひと)は、いつも意外な恰好をして現れるので、私を驚かせるが、

その夜の彼女は、鮮やかなルージュの口紅を付けていた。

「その口紅、とても良く似合うよ…」

私は思わず、そう言ってしまった。

「そう?有り難う…」

彼女は、私の褒め言葉(?)を、素直に受け取ってくれた。

すると、彼女は、思いがけない行動に出た。

「ねえ。ちょっと…」

彼女は、いきなり私の手を掴むと、私の掌(てのひら)に、ルージュの口紅で、何かを描いていた。

私はビックリしてしまった。

「君、いきなり何を…?」

私は、右の掌を見た。

その掌を見て、私は、ハッとした。

そこに描いてあったのは…。

 

 

「私、もう行かないと…」

気が付くと、由比ガ浜の夜が明けようとしていた。

その女(ひと)は、そう言い残し、その場から立ち去ろうとしていた。

「ねえ、君!!ちょっと待ってよ。次は、いつ逢える?」

私がそう聞くと、彼女は少し考えていたが、

「それじゃあ、次の満月の夜に、また此処で…」

と、言った。

「次の満月の夜だね…」

私がそう言うと、辺りに霧が立ち込め、彼女は姿を消していた。

私は、つい先程、彼女が握っていた、私の右の掌を見た。

そこには、ルージュでハートのマークが描いてあった。

「一体、どういうつもりなんだ…」

私は、呆然とその場に佇んでいた…。

 

<第6章・『薄雲』>

 

 

「あいつは、ちょっと頭がおかしくなったんじゃないか?」

私は全く知らなかったが、その頃、私は「ベターデイズ」のメンバー達から、そんな風に噂をされていたらしい。

あの女(ひと)と、何年振りかで「再会」した後…。

私は、次の満月の夜にも、由比ガ浜で、あの女(ひと)に逢った。

そして、その次の満月の夜も…。

気が付くと、いつぞやのように、私はまた、あの女(ひと)に夢中になっていた。

勿論、その事はユウコ「ベターデイズ」のメンバー達には言っていなかったが…。

しかし、自分では全く普通に過ごしているつもりでも、その頃の私は、かなり様子がおかしかったようである。

私は、満月になる度に、いそいそと、あの女(ひと)に逢いに行っていた。

「君と一緒に、お酒を飲んでみたくて…」

私は、彼女と「再会」した次の夜、彼女とワインを酌み交わした。

そして、私はそのまま、彼女と「口づけ」を交わしてしまった…。

「まずいぞ、この女(ひと)と深い関係になってしまうのは…」

私は、頭の中ではそんな事はわかっていたが、あの女(ひと)と逢うと、そんな理性など、何処かに吹っ飛んでしまっていた。

そして、私とあの女(ひと)は、そのままズルズルと、

「男女の関係」

になってしまった。

だが、彼女と朝まで過ごすと、彼女はまるで泡沫(うたかた)のように、霧と共に、掻き消すように姿を消してしまう…。

「一体、俺は何をやっているんだ…」

私は毎度、そう思うのだが、気が付くと、どうしても、あの女(ひと)に逢いたくなってしまうのだった。

そう、私は完全に、あの女(ひと)に狂っていた…。

 

 

だが、「副産物」も有った。

私は、あの女(ひと)と過ごして行く内に、段々と、頭の中に、曲のイメージが湧いて来るような気がしていた。

「これだよ、この感覚だよ!!」

私は、久し振りに高揚感を感じていた。

「俺は、悪魔に魂を売ってでも、曲を作ってみせる!!」

私は全く覚えていないのだが、その頃、私がそんな事を言っていて、とてもビックリしたと、後でユウコが言っていた。

とにかく、皆が言う通り、その頃の私は、ちょっと「おかしく」なっていたのかもしれない…。

「ねえ?貴方、本当に大丈夫なの?何か、顔色も良くないし…」

ユウコが、心配そうな様子で、私に聞いていた。

「大丈夫だよ。ユウコは、自分の歌の練習を頑張れば良いから」

私は、そう答えていた。

まさか、満月の度に「浮気」をしているなどと、ユウコに言える筈も無かったが…。

「そうなの…。とにかく、無理しないで。私、貴方が心配だから…」

ユウコは心底、私を心配してくれていた。

「俺は、これ以上、ユウコを裏切るわけにはいかない…」

その時、私は強くそう思っていた。

 

<第7章・『幻』>

 

 

その次の満月の夜…。

私は、由比ガ浜の海で、あの女(ひと)が現れるのを待っていた。

そして、その夜、一陣の風と共に、あの女(ひと)が私の前に姿を現した。

彼女は、いつものように、妖艶な笑みを浮かべていた。

「君は何故、僕に逢いに来た?」

私は、彼女の目を見据えて、そう尋ねた。

それは、私が初めてこの女(ひと)に逢った、高校時代にも聞いた事だった。

「前にも言ったでしょう?貴方は、私の想い人に、とてもよく似ているから…」

彼女は、そう言った。

「そうか…。でも、僕は君の想い人じゃないから。僕は、僕だから…」

私がそう言うと、彼女は、

「そんな事、わかってる。私は、貴方の事を、ずっと愛していたのよ…」

と、言っていた。

その口調は、少し怒っているようにも聞こえた。

しかし、私は、彼女に対し、

「有り難う。でも、僕には大切な人が居るから…」

と、言った。

「それに、僕と君は、住む世界が違う。だから、一緒には過ごして行けない。そうだろう?」

私が一気に言うと、彼女は、黙ってその言葉を聞いていた。

「…そう、わかったわ。私、本当は今日、貴方を私の世界に連れて行くつもりだった…。でも、貴方がそう言うなら、仕方ないわ」

そう言った彼女の目には、涙が光っていた。

「…私、もう二度と貴方の前には姿を現さないわ…。それで良いわね?」

彼女は、そう念を押す。

私は、黙って頷いた。

彼女は、私に近付き、口づけをした。

その口づけは、少し涙の味がした。

「…その人を、これからも大切にしてあげて…。さよなら…」

最後に彼女はそう言い残し、そして、霧と共に姿を消した。

気が付くと、私の手には、あのルージュの口紅が有った…。

 

<終章・『夢浮橋』>

 

 

「とうとう、曲が出来たのね!!」

ユウコが、表情を輝かせていた。

私は遂に、久し振りに会心の曲を作る事が出来た。

我ながら、本当に素晴らしい曲が書けたと自負していた。

「私、本当に心配してたけど…。こんなに素敵な曲が書けるなんて、貴方、やっぱり凄いわ!!」

ユウコに褒めてもらい、私も照れ臭かった。

「有り難う…」

私は、そう答えたが、実はこの曲は、あの女(ひと)の事を思って作った曲だった。

そう、満月の夜に逢っていた、夢とも現(うつつ)ともつかない、不思議なあの女(ひと)の事を…。

「この曲、何ていうタイトルなの?」

ユウコに聞かれ、私はこう答えていた。

「この曲は、『Moon Light Lover』っていう曲だよ…」

 

 

 

 

『Moon Light Lover』

作詞・作曲:桑田佳祐

唄:サザンオールスターズ

 

夏のルージュで描いた合図(サイン)

手の掌(ひら)に……

欲望に負けそうな 嗚呼 夜もある

 

濃(こま)やかな Moon Light

頬に浴びて囁く 誘惑の Mid-Night

今宵天使も濡れている

 

愛がスローに満ちたワイン 

酔わせて……

噂になりそうな 嗚呼 恋の味

 

匂艶(にじいろ)の Good Time

君を抱いて搦めた 情熱の Night Time

夢の瞬間(とき)は逃げてゆく

 

行き過ぎたくらい 愛されてスゴイ Woo, Baby

いつ果てない Love Touch

命のかぎりに

堕ちそうなくらい 君無しじゃ辛い Woo, Baby

星屑が消える頃 波音も途絶えた

 

あのルージュで描いた合図(サイン)

この胸に……

今にも泣きそうな 嗚呼 君がいる

 

柔らかな Sunshine

何も言わず涙の静寂は Good-Bye

無情に夏は遠去かる

 

惚れ過ぎたくらい 愛しくてスゴイ Woo,Baby

夢儚(はかな)い Love Touch

この世の果てまで

折れそうなくらい サヨナラは辛い Woo, Baby

泡沫(うたかた)の恋は何故 面影を残すの?

 

濃(こま)やかな Moon Light

昨夜(ゆうべ)君に囁く 誘惑の Mid-Night

今宵天使は泣いている

 

行き過ぎたくらい 愛されてスゴイ Woo, Baby

いつ果てない Love Touch

命のかぎりに

堕ちそうなくらい 君無しじゃ辛い Woo, Baby

艶(あで)やかな口づけを交わすのは 月明かりの下で