【サザン・勝手に小説化⑳】『OH!! SUMMER QUEEN~夏の女王様~』(原案:桑田佳祐) | 頑張れ!法政野球部 ~法政大学野球部と東京六大学野球について語るブログ~

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法政大学野球部を中心として、東京六大学野球についての様々な事柄について、思いつくままに書いて行くブログです。
少々マニアックな事なども書くと思いますが、お暇な方は読んでやって下さい。

私が好きなサザンオールスターズの楽曲の歌詞を元に、私が「短編小説」を書くという、

「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」

は、今まで、このブログで「19本」を書いて来た。

サザンの楽曲の歌詞が題材なので、基本的には、その歌詞に基づいてストーリーを書いているが、

これが、やってみるとなかなか難しいが、挑戦し甲斐の有る事でもある。

 

 

なお、私が今まで書いて来た、

「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」

「19本」は、下記の通りである。

 

①『死体置場でロマンスを』(1985)

②『メリケン情緒は涙のカラー』(1984)

③『マチルダBABY』(1983)

④『Ya Ya(あの時代(とき)を忘れない)』(1982)

⑤『私はピアノ』(1980)

⑥『夢に消えたジュリア』(2004)

⑦『栞(しおり)のテーマ』(1981)

⑧『そんなヒロシに騙されて』(1983)

⑨『真夜中のダンディー』(1993)

⑩『彩 ~Aja~』(2004)

⑪『PLASTIC SUPER STAR』(1982)

⑫『流れる雲を追いかけて』(1982)(※【4部作ー①】)

⑬『かしの樹の下で』(1983)(※【4部作ー②】)

⑭『孤独の太陽』(1994)(※【4部作ー③】)

⑮『JOURNEY』(1994)(※【4部作ー④】)

⑯『通りゃんせ』(2000)(※【3部作ー①】)

⑰『愛の言霊 ~Spiritual Message』(1996)(※【3部作ー②】)

⑱『鎌倉物語』(1985)(※【3部作ー③】)

⑲『夕陽に別れを告げて』(1985)

 

 

…という事で、今回は、

「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」

の、「新作」を書いてみようと思うのだが、今回は、ちょっとぶっ飛んだ小説(?)を書かせて頂きたい。

その題材として選んだのは、2008(平成30)年にリリースされた、サザンオールスターズのシングル、

『I AM YOUR SINGER』

という曲のカップリングだった、

『OH!!SUMMER QUEEN ~夏の女王様~』

という曲である。

この曲は、それこそ真夏の季節を描いた曲であり、今の真冬の時期に書くのは、季節外れも良い所だが、そういう事は気にせず(?)書いてみる事とする。

 

 

そして、今回の物語は、ゲーテが書いた、

『ファウスト』

を下敷きにして書かせて頂く。

それでは、前置きはそれぐらいにして、

「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」の「第20弾」、『OH!!SUMMER QUEEN ~夏の女王様~』を、ご覧頂こう。

 

<第1章・『大学者』>

 

 

その部屋の本棚には、沢山の本が有った。

ここは、とある大学の研究室である。

その部屋で、1人の白髪の老人が、椅子に腰かけ、ぼんやりと本棚を眺めていた。

彼は、何やら憂鬱そうな表情である。

そして、彼はとても疲れた様子だった。

「私が、この世で為すべき物は、もはや何も無い…」

彼は深い溜息をついた。

やがて、彼は立ち上がると、本棚に歩み寄り、1冊の本を手に取った。

その本には、

「初田誠」

という著者の名前が有った。

そして、それは他でもない、今、本を手に取っている、その老人の名前であった。

彼…初田誠は、ゆっくりと本のページをめくっていた。

その本のタイトルは、とてもシンプルだった。

それは、

『歴史』

というタイトルの本だったが、初田は彼の全生涯をかけて、この本を書いて来た。

そして、この『歴史』というタイトルのシリーズは、全部で200冊以上も有った。

初田は、世界の歴史でも、まだ誰もやった事が無い事…。

「たった1人で、世界のあらゆる地域の通史を書く」

という大偉業を成し遂げた人物だった。

勿論、日本の歴史も、そこに含まれる。

普通、学界では専門分野というものが有り、学者は、自分が専門で研究している時代の本は書く。

しかし、たった1人で、世界の全ての歴史を書き上げるという、途轍もない事を、彼はやってのけた。

今、この部屋の本棚に並んでいるのが、そんな彼が今まで書いて来た、

『歴史』

のシリーズの、全ての本である。

「しかし、それが何だというのだ…」

初田は、また独り言を言うと、再び深い溜息をついた。

こんな「大仕事」を成し遂げた初田の心には、絶望と虚しさしか無いようだった。

その時、初田がふと、部屋の隅に目を向けると、1人の異様な男の姿が目に入った。

「ん…?」

初田は、訝し気に、その男を見た。

そして、初田はハッとして、息を呑んだ。

その男はニヤニヤと笑っていたが、その男の周りには、どす黒い影が有り、どう見ても「まとも」な人間とは思えなかった。

あまりにも異様な雰囲気に飲まれ、初田は硬直したように、その場に立ち尽くしていた。

 

<第2章・『悪魔』>

 

 

どす黒い影に包まれた、異様な雰囲気の男…。

その男は、一見すると、普通の人間のように見えた。

その男は黒いタキシードを着ており、紳士風にも思えたが、異様だったのが、その顔だった。

ニヤニヤと笑っている、その男の目は、時折、赤く光り、初田に向かって、射貫くような視線が向けられていた。

「まるで、悪魔みたいな奴だ…」

初田は直感的にそう思っていた。

「何だね、君は…?」

初田は恐る恐る、その男に向かって問いかけた。

「俺か?俺は、お前の案内人さ…」

異様な男は、初田の質問に、そう答えた。

「案内人?何の事だ?」

わけのわからない事を言っている、異様な男に向かって、初田は更に問うた。

「お前は、自分の人生を深く後悔しているだろう?俺は、そんなお前の魂を救いに来てやったのさ」

異様な男は、初田を見下したような様子で、なおもニヤニヤと笑っていた。

「後悔だって?私は何も後悔などしていないぞ。余計なお世話だ」

初田は、憤然として、その男に言い返した。

「ふーん、そうかい?お前の人生は、これで本当に満足だったのか?」

異様な男は、初田の顔を覗き込んで、そう言った。

「そうだ。私は人生をかけて、『歴史』という本を書いて来た。それを成し遂げた以上、後悔など無い」

初田は、その男を睨みつけながら、そう言った。

「それより、君は何者だ?名前は何だ?」

初田は異様な男に詰め寄った。

 

 

「おっと、失礼。俺の名前はメフィストフェレス…。まあ、メフィストとでも呼んでくれ」

その男は、自らの名前を名乗った。

「冗談だろ…」

初田は絶句した。

「それじゃあ、やっぱりお前は悪魔…」

初田はそう言いかけたが、その男…メフィストは、

「ちょっと待った。それ以上、言わない方が良いぜ…」

と言って、初田を制した。

メフィストの顔からは、先程までのニヤニヤ笑いが消え失せ、世にも恐ろしい形相をしていた。

初田はそれを見て、黙り込んだ。

「よし、わかればそれで良いんだ」

メフィストはそう言うと、懐から1枚の写真を取り出し、初田に渡した。

「お前、この女を覚えてるだろう?」

メフィストから手渡された写真を見て、初田はハッとした。

「これは…」

それは、初田にとって、忘れようにも忘れられない女性だった。

 

<第3章・『契約』>

 

 

「グレース…」

その女性は、かつて初田が留学していた、アメリカで知り合った女性だった。

初田が留学した、アメリカの某大学で、初田の研究仲間だった女性である。

その写真は、初田が若かりし頃…数十年前に、かつて同じ研究室に居た頃の、その女性の姿だった。

「お前は、かつてその女を深く愛していた。だが、お前はその女を捨てた…」

メフィストは、再びニヤニヤ笑いながら、初田を挑発するように言った。

「違う!!捨てたんじゃない!!私は…」

初田の息が荒くなっていた。

そして、初田はガックリと力が抜けたように、椅子に腰を下ろし、両手に顔を埋めた。

「私は…。本当はグレースと結婚したかった。だが、私には大切な研究が有った。私は、自分の学問の研究を進めるか、グレースを選ぶか…。どちらかを選ぶしか無かったんだ…」

初田は呻くように言った。

「私は、自分の学問の研究を進めながらだと、グレースを幸せにはしてやれないと思ったんだ。だから…」

それは、これまでの数十年間、初田が心の奥底に閉じ込めていた思いだった。

初田は、自分の学問の研究と、グレースとの幸せな生活と、「二者択一」を迫られ、結局は研究の道を選んだ。

それが、澱のように深く、彼の心の奥底に溜まり込んでいたのである。

「ほら見ろ、やっぱりお前は、自分の人生を後悔して来たんじゃないか…」

メフィストは、声を上げて笑っていた。

「お前は、この女を捨てて、研究の道を選んだ。そして、これだけの本を書き上げた。それで、お前が得た物って、何だったんだ?」

メフィストは、初田に追い打ちをかけるように、更に冷笑していた。

「確かに、お前は学者としての名声を得た。しかし、お前の心は愛に飢えていた。そして、お前はそのまま生涯を終えようとしている…」

「うるさい、黙れ!!」

メフィストの言葉に耐え切れなくなった初田は、声を荒らげた。

「だから、俺はお前の魂を救いに来てやったと、言ったろう?お前が望むなら、今から、俺はお前の人生をやり直させてやる」

メフィストの言葉に、初田は思わず顔を上げた。

「どういう事だ…?」

初田からの問いに対し、メフィストはこう答えた。

「お前と俺で、取り引きをしよう。俺は、お前の望みを叶えてやる。だが、そのかわり、お前がそれに満足したら、俺がお前の魂を貰う。どうする?」

メフィストからの提案に、初田は少し考えていたが、

「わかった。良いだろう。私の魂など少しも惜しくない」

と、答えた。

「だが、私が本当に満足出来るかどうかは、わからないが」

初田はそう言って、肩をすくめた。

 

 

「よし、契約成立だな」

メフィストは、ニヤリと笑った。

「一応、サインしてもらおうか?契約だからな…」

いつの間にか、メフィストの手には、「契約書」が有った。

そして、メフィストは初田にそれを渡したが、初田は、まるで夢遊病者のように、その契約書にサインをしていた。

そして、その契約書が空中に浮き、メフィストの手に戻った。

メフィストは満足気に、その契約書を眺めていた。

「それじゃあ、早速始めようか。おい、ちょっと目を閉じてろ…」

メフィストに言われるまま、初田は目を閉じた。

そして、再び目を開けた時…そこには思いがけない光景が有った。

 

<第4章・『夢人島』>

 

 

「ここは…?」

初田が気が付くと、彼は何処かの南の島に居るようだった。

青い海と青い空が何処までも広がる、リゾート・アイランドのような島である。

そして、初田はハッとした。

彼は、いつの間にか何十歳も若返り、筋骨隆々の逞しい身体になっていた。

「お前は、七つの海を股にかけた英雄…。シンドバッドに生まれ変わったんだ」

いつの間にか、初田の前に姿を現したメフィストが、またしてもニヤニヤ笑いながら「解説」していた。

「お前は、この世界じゃ英雄だ。お前は、お好みの美女をより取り見取りで選び放題だ。どうだ、楽しみだろう?」

どうやら、メフィストの計らいにより、初田は「英雄」シンドバッド「転生」したらしい。

「お前みたいな堅物は、どうせ、今までロクに女にも縁が無かっただろう。だから、お前を女なら選び放題の男に生まれ変わらせてやったのさ。ま、せいぜい楽しむが良いさ…」

メフィストはそう言い残すと、いつの間にか姿を消した。

確かに、メフィストが言っていた通り、脇目も降らず、研究一筋の人生を送って来た初田は、女には全く無縁だった。

だが、その初田は今、肌は浅黒く日焼けした、水も滴る良い男に「変身」していた。

彼は、青い海と青い空が広がる、その島に有る、立派な宮殿に居るようだった。

 

 

「シンドバッド様、お帰りなさいませ…」

ふと見ると、そこには目の覚めるような美女が居た。

「シンドバッド様、今度の航海は大変でしたでしょう…。さあ、船旅のお疲れを癒して下さい」

その美女は、シンドバッド…いや、初田の手を取り、彼をベッドへと誘った。

初田は、その女に手を取られるまま、フラフラとベッドに導かれて行った…。

そして、それからというもの、彼は目眩くような愛欲の日々を過ごして行った。

それは、今まで彼が味わった事が無いような快楽だった。

 

 

更に、最初に彼を誘った美女の他に、毎晩、入れ替わり立ち替わり、様々な美女が現れ、

彼はベッドで、それらの美女の相手をしていた。

俗な言い方をすれば、それはまるで「ハーレム」のようだった。

「こんな思いは、味わった事が無い…」

すっかり美女達に骨抜きにされた初田は、率直に、そう思っていた。

そして、そんな日々が何ヶ月も続いた、ある日…。

あの男、そう、メフィストが初田の前に姿を現した。

「随分、お楽しみのようだな…」

メフィストは、最初に現れた時と同じく、ニヤニヤと笑っていた。

「どうだ?充分に満足したか?」

メフィストは、初田の顔を覗き込んだ。

だが、初田は肩をすくめて、

「確かに、最初は楽しかった。だが、こんな生活は、すぐに飽きた。こんな事では、私の魂はちっとも満足などしていない」

と言った。

その言葉を聞き、メフィストは、

「お前も、つくづく欲深い男だな…」

と言って、溜息をついた。

「それが、人間ってものだろう?」

初田は、挑むような視線をメフィストに向けた。

「こいつは、一本取られたな。確かにそうだ。人間とは欲深い生き物だからな…」

メフィストは、思わず苦笑いしていた。

「わかったよ。それじゃあ、お前の望みは何だ?言ってみろよ」

メフィストに聞かれた初田は、間髪入れず、こう答えた。

「私は、世界三大美女に会ってみたい。トロイのヘレン、クレオパトラ、楊貴妃…。まあ、それが可能ならだがな」

初田がそう言うと、メフィストは、

「何だ、そんな事か。それなら容易い事だ…」

と言った。

「おい、また目を閉じてろ…」

メフィストに言われるまま、初田は再び目を閉じた…。

 

<第5章・『トロイのヘレン』>

 

 

初田が目を開けると、そこは、先程まで初田が居た、何処かの南の島ではなく、また別の場所になっていた。

「ここは…?」

初田がそう聞くと、側に居たメフィストは、

「ここは、古代ギリシャの世界だ」

と、答えた。

「古代ギリシャ!?という事は…?」

「そうだ。お前のお望み通り、お前はトロイのヘレンに会えるってわけさ」

メフィストと初田の間で、そんなやり取りが有った。

「トロイのヘレンに…」

初田は、期待に胸を膨らませた。

なお、初田は、先程までの船乗りシンドバッドではなく、今度は古代ギリシャの兵士の恰好をしていた。

勿論、初田の肉体は、若返ったままである。

「今から、お前は誰にも怪しまれずに、トロイのヘレンの寝室に行けるぞ。さあ、行って来いよ…」

どうやら、メフィストの魔術(?)により、初田は本当に誰にも怪しまれず、平然とした様子で、警備の兵士達の間をすり抜け、いとも簡単に、立派な寝室の扉の前に辿り着いていた。

初田は、ちょっと躊躇っていたが、やがて意を決して、

「失礼します…」

と言って、その寝室に入って行った。

 

 

「…どなたかしら?」

その寝室では、世にも美しい、高貴な女性が、椅子に腰かけ、お付きの侍女に髪を梳かせていた。

「スパルタからの、火急の報せを持ってまいりました…」

初田は、咄嗟に口から出まかせを言った。

「そう。わかったわ。貴方、席を外してもらえる?」

その美しい高貴な女性は、お付きの侍女を下がらせた。

お付きの侍女は、胡散臭そうな視線を初田に向けたが、やがて一礼をして、部屋から出て行った。

こうして、初田は、その高貴な女性…そう、トロイのヘレンと、遂に2人きりで対面していた。

「それで、火急の報せって、何?」

彼女はそう聞いて来たが、元々、このトロイのヘレンという人は、スパルタ王の娘だった。

絶世の美女として有名だったヘレンの元には、沢山の求婚者が押し寄せていた。

ヘレンはその中の1人と結婚したが、その後、トロイの王子・パリスによって、無理矢理、拉致されてしまい、ここ、トロイに連れて来られた…。

そのヘレンを奪還するために、スパルタはトロイに戦いを仕掛けた。それが、

「トロイア戦争」

という、伝説の戦いである。

つまり、今、初田の目の前に居る女性…「トロイのヘレン」と呼ばれる事になる、この女性が、「トロイア戦争」の原因となっていたのであった…。

歴史学者の初田は、瞬時に、その経緯を頭に思い描いていた。

「火急の報せというのは、嘘です。王妃様、今すぐスパルタにお帰り下さい。そうでなければ、いつまでも、この戦争は終わりません…」

初田は思わず、そんな事を言ってしまっていた。

それは、歴史学者としては、あるまじき事だったが、彼はそう言わずにはいられなかったようである。

 

 

彼女…トロイのヘレンは、初田の顔をじっと見つめていたが、ホッと溜息をつくと、首を横に振った。

「ダメよ…。運命には逆らえないもの。私は、その運命に従うしかないのよ…」

彼女の表情は、とても悲しそうだった。

あまりの美貌のため、図らずも「トロイア戦争」の原因になってしまった、トロイのヘレンという人は、運命に流されるまま、ここまで来てしまった。

そんな境遇にあった彼女は、全てを受け入れ、流されるまま生きて行くしかないと、達観しているようだった。

「何て、悲しい運命の人なんだ…」

初田も、すっかり彼女の運命に同情していた。

「貴方も、早く行きなさい。あんまり、ここには長居は出来ないのでしょう?」

トロイのヘレンにそう言われ、初田はハッとした。

彼女は、何かを知っているような表情だ。

だが、それ以上、彼女は何も言わなかった。

「わかりました。では、これで失礼致します…」

初田は、トロイのヘレンに一礼すると、逃げるように寝室を出た。

部屋の外では、あの侍女が聞き耳を立てていたようだが、初田は、そのまま駆け出して行った。

 

<第6章・『クレオパトラ』>

 

 

そして、初田が気が付くと、彼はまた別の場所に立っていた。

今度は、彼はとても暑い所に居た。

どうやら、何処かの宮殿のような場所のようだ。

だか、それは何処だか、わからなかった。

「ここは…?」

初田がそう聞くと、いつの間にか初田の側にピッタリとくっついていたメフィストが、

「シッ!!静かにしろ」

というような調子で、人差し指を自分の口に当て、初田を、宮殿の柱の陰に隠れさせた。

その宮殿では、精悍な顔つきの中年の男が、玉座に腰かけていた。

「あの男は…?」

初田が小声で尋ねると、メフィストは、

「あれは、ユリウス・カエサルだ」

と答えた。

「カエサル…」

これまた、超大物の登場に、初田は息を呑んだ。

そして今まさに、そのカエサルに対し、「贈り物」として、束ねられた大きな絨毯が献上されようとしていた。

「って事は、もしかしたら、あの中に…」

初田がそう思った矢先、その束ねられた絨毯が、従者によって床に置かれると、その絨毯がクルクルと巻かれ、やがて、その絨毯の中から、1人の半裸の女性が姿を現した。

「あれは、クレオパトラ…」

柱の陰から、初田は食い入るように、その姿を見ていた。

そして、カエサルもまた、目を丸くして、絨毯の中から姿を現した美女…クレオパトラの姿を凝視していた。

「カエサル様。初めてお目にかかります…」

クレオパトラは、妖艶な微笑を浮かべ、カエサルに近付いて行った。

この時、クレオパトラは、エジプトの王位を弟と争っていたが、エジプトに進軍して来ていた、ローマ帝国軍を率いるカエサルに、助けを求めに来ていた。

厳重な警備の目をかいくぐるため、クレオパトラは、こんな奇抜な方法で、カエサルの前に姿を現していた。

「カエサル様。私と手を組んで下されば、エジプトと、この私は、貴方の物になります…」

クレオパトラは、そんな事を言っていたが、そんなクレオパトラの姿を見て、カエサルは早くも、クレオパトラの事を気に入っている様子だった。

 

 

その後、初田とメフィストは、一旦その場を後にした。

「どうだ?今度はクレオパトラに会わせてやっても良いぜ…」

メフィストは、またニヤリと笑って、そう言った。

「そうか。私も、クレオパトラと話してみたい」

初田は、そう答えた。

今度は、初田は古代エジプトの宮廷に仕える、若い従者のような服装になっていた。

初田は、今度も怪しまれずに、難なくクレオパトラの寝室に入って行った。

「失礼します。クレオパトラ様…」

初田が寝室に入って行くと、そこには、あの伝説の美女・クレオパトラが、半裸の姿で横たわっていた。

「何か、ご用?」

クレオパトラは、首を傾げていた。

寝室の部屋には、彼女が焚いたと思しき、お香の良い匂いが立ち込めていた。

「クレオパトラ様。一体、何故あのような事をなさったのですか…?」

初田はズバリ、クレオパトラに対し、問いかけた。

それは、もしもクレオパトラに会えるのであれば聞いてみたいと、彼がずっと思っている事でもあった。

「何故って…。それは、あれしか手が無かったからよ」

クレオパトラは、肩をすくめて、そう答えた。

「私は、カエサル様の力を借りるしか無かった。だったら、女の武器だって何だって使うわ…」

クレオパトラは、淡々と答えていた。

「しかし、貴方は…」

初田は、この後、クレオパトラがどうなるのかを知っていた。

この後、彼女は波乱の人生を送り、最後は自ら命を絶ってしまう…。

その運命を知っているだけに、初田はとても複雑な気持ちだった。

「とにかく、自分の運命は、自分で切り開くしか無いのよ。そうじゃない?」

クレオパトラは、そう言って初田の目を見据えていた。

それは、あのトロイのヘレンとは対照的だった。

全てを諦めたようなトロイのヘレンと比べ、クレオパトラの目には強い意志の力が感じられた。

「そうですね…」

初田は、呟くように答えた。

「…話は済んだか?それじゃあ、次に行こうか?」

いつの間にやら、側に来ていたメフィストが、初田の耳元で囁いた。

そんな様子を見て、クレオパトラは不思議な微笑を浮かべていた。

「運命は自分で切り開く、か…」

初田は、先程のクレオパトラの言葉を反芻していた。

 

<第7章・『楊貴妃』>

 

 

どれぐらい時間が経ったのか、初田にはわからなかったが、

彼はまた、何処か別の場所に立っていた。

聞くまでもなかったが、一応、初田はメフィストに聞いてみた。

「ここは…?」

すると、メフィストからは、予想どおりの答えが返って来た。

「ここは唐の時代の中国だ。最後の一人…楊貴妃とお前を会わせてやる」

遂に、初田は楊貴妃の時代に来ていた。

楊貴妃と言えば、

「傾国の美女」

の代名詞のような女性である。

楊貴妃は、唐の皇帝・玄宗の寵愛を受けた、絶世の美女だった。

だが、楊貴妃に夢中になり、彼女に魂を奪われてしまった玄宗は、政治が疎かになり、唐という国は傾いて行った…。

つまり、楊貴妃が、唐という国を傾けた「元凶」のように言われているという、可哀想な人でもあった。

「楊貴妃にも、聞いてみたい事が有る。早速、彼女に会わせてくれ」

初田がメフィストに言うと、

「わかってるよ」

メフィストはそう答え、彼は指をパチンと鳴らした。

気が付くと、初田は唐の宮廷の高官の服装をして(※勿論、肉体は若さを保っていた)、楊貴妃の寝室の目の前に立っていた。

「失礼致します…」

こういう状況には、すっかり慣れっこになっていた初田は、すんなりと楊貴妃の部屋に入って行った。

そして、初田は楊貴妃の姿を目にしたが、

「世の中には、こんなに美しい人が居るのか…」

と、初田は思わずにはいられなかった。

トロイのヘレンも、クレオパトラも、確かに美しかったが、今、彼の目の前に居る楊貴妃は、本当にこの世のものとは思えないような美貌であった。

「これじゃあ、玄宗も夢中になる筈だ…」

彼は、心の中でそう思っていた。

「楊貴妃様、お話がございます…」

初田が、楊貴妃に話しかけると、彼女は驚きをあまり顔には出さず、

「何かしら?」

と、答えた。

 

 

「楊貴妃様。貴方は何故、皇帝陛下に、それほど尽くすのですか?」

それは、不躾な質問だったが、楊貴妃は、それほど気にした様子も無く、

「それは、あの方が私の恩人だからよ…」

と、答えた。

「私は、ただの田舎娘だったのよ。それが、あの方のお陰で、こんなに素晴らしい日々を送らせてもらっているわ。それは感謝するに決まっているでしょう…」

楊貴妃は、さも当然のように答えていた。

しかし、玄宗があまりにも楊貴妃に夢中になり過ぎたせいで、唐という国の政治体制は、どんどん、おかしな事になっていた。

そして、その怨嗟の声は、徐々に楊貴妃に対して向けられるようになっていた。

「しかし…。このまま行くと、貴方はとても恐ろしい目に遭ってしまいます…」

初田は、ズバリ、彼女の運命を示した。

この後、唐では大反乱が起き、楊貴妃は悲しい最期を迎えてしまう…。

「それならそれで、仕方がありません。私は、あの方の愛に応えなければならないのです。それが、愛というものでしょう…」

楊貴妃は、ハッキリとそう答えた。

それは、運命を諦めきっていた、あのトロイのヘレンとも違い、楊貴妃は自らの意思で、それがたとえ危険な道だろうと、突き進もうとしていたのであった。

「それが、愛というもの…」

初田は、楊貴妃の言葉を繰り返していた…。

 

<終章・『グレース』>

 

 

「どうだ?お望みどおり、世界三大美女に会わせてやっただろう?これで満足したか?」

長かった時空の旅を終え、気が付くと、初田は、自分の研究室に戻っていた。

「満足はしていないさ。でも、私の魂なんぞ、いくらでもお前にくれてやる。私がこの世から消えても、悲しむ者など誰も居ないからな…」

初田はそう言って、肩をすくめた。

「そうか。それじゃあ、遠慮なく頂くぜ…」

ニヤリと笑たメフィストがそう言った刹那、部屋には、かつての初田の想い人…グレースの姿が有った。

「ダメよ。貴方、今まで、彼女達の言葉の、何を聞いていたの?」

突如、部屋に姿を現したグレースを見て、初田は驚愕の表情だった。

「人間は、与えられた運命を全うしなきゃ。簡単に自分の運命を投げたらダメなのよ…」

グレースは諭すように言っていた。

「そうか、確かにそうだな…」

初田の目に輝きが戻っていた。

「メフィスト。私の夢を叶えてくれて、お前には感謝している。だが、私はまだこの世で為すべき事が有る。だから、ここから立ち去れ」

初田はメフィストの目を見据え、ハッキリとそう告げた。

「ふん。つまらん奴だ。まあ、いいさ…」

最後にメフィストはそう言い残すと、その姿は何処かに消えていた。

「有り難う、グレース…」

初田はグレースにお礼を伝えようとしたが、グレースの姿も消えていた。

「グレース…」

グレースは、初田の魂を救うために、姿を現してくれたのかもしれなかった。

そして、トロイのヘレンもクレオパトラも楊貴妃も…。

初田は、この時、初めて人間の「愛」を実感していたのかもしれなかった。

それは、彼の長い人生で最後に到達した結論であった…。

 

 

『OH!!SUMMER QUEEN ~夏の女王様~』

作詞・作曲:桑田佳祐

唄:サザンオールスターズ

 

青い海遠く

揺れる夢人島 Island

さあおいで オンナ Daisu-King!!

恋の花咲く Paradise

 

そこに見たのは

世にも Visionな女軍団("Onna-Go-Bangs")

Oh, baby 触っちゃ Aching!!

カラダ絵になる Super-Size

 

輝く Twin Peaks

溢る Seves Seas

今に漏れそうな Fantasy!!

 

燃えろ!! 1,2,3,4, Baby C'mon!!

踊ろう!! Let's go sexy 渚で!!

やがて大好きな Rhyyhmが

愛に豹変(かわ)るまで

 

好きさ!! Young beautiful Lady C'mon

夏の太陽 ギンギン ドゥビドゥワ!!

たとえ楊貴妃が裸で俺を口説いても

Oh!! Summer 美人 da Face!!

 

君に抱かれ

眠る常夏 Island

嗚呼 どうして オンナ Daisu-King!!

星も群れ飛ぶ Paradise

 

揺れる谷間も

熱い Visionな女軍団("Onna-Go-Bangs")

Oh, Baby, Yes, I'm coming!!

一滴(ひとつ)残さず Deep Inside

 

今宵 Kiss me please

そして Love & Peace

気絶するほど Ecstasy!!

 

だけど A,B,C,D, するのは

これが永久迷宮すべてかい?

やめて!!最後の言葉は

夏が終わるまで

 

いつも Doki-Dokiするのは

君が Queen of Beautyだからさ

たとえクレオパトラまでが

俺を口説いても

女王様は偉人 da Grace!!

 

燃えろ!! 1,2,3,4, Baby C'mon!!

踊ろう!! Let's go sexy 渚で!!

やがて大好きな Rhyyhmが

愛に豹変(かわ)るまで

 

好きさ!! Young beautiful Lady C'mon

夏の太陽 ギンギン ドゥビドゥワ!!

たとえ楊貴妃が裸で俺を口説いても

Oh!! Summer 美人 da Face!!