【サザンの楽曲「勝手に小説化」⑲】『夕陽に別れを告げて』(原案:桑田佳祐) | 頑張れ!法政野球部 ~法政大学野球部と東京六大学野球について語るブログ~

頑張れ!法政野球部 ~法政大学野球部と東京六大学野球について語るブログ~

法政大学野球部を中心として、東京六大学野球についての様々な事柄について、思いつくままに書いて行くブログです。
少々マニアックな事なども書くと思いますが、お暇な方は読んでやって下さい。

本日(12/24)はクリスマスイブである。

そして、ちょうど1年前(2022/12/24)のクリスマスイブの日、私はこのブログで、

「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」の「第1作」である、

『死体置場でロマンスを』

を書いた。

つまり、私が初めて、サザンの楽曲の歌詞を題材にして小説を書いてから、本日(2023/12/24)で丸1年が経ったという事になる。

それ以来、私はこのブログで、「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」として、合計「18本」の「短編小説」を書いて来た。

 

 

なお、これまで書いて来た、「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」の「18本」は、下記の通りである。

 

①『死体置場でロマンスを』(1985)

②『メリケン情緒は涙のカラー』(1984)

③『マチルダBABY』(1983)

④『Ya Ya(あの時代(とき)を忘れない)』(1982)

⑤『私はピアノ』(1980)

⑥『夢に消えたジュリア』(2004)

⑦『栞(しおり)のテーマ』(1981)

⑧『そんなヒロシに騙されて』(1983)

⑨『真夜中のダンディー』(1993)

⑩『彩 ~Aja~』(2004)

⑪『PLASTIC SUPER STAR』(1982)

⑫『流れる雲を追いかけて』(1982)(※【4部作ー①】)

⑬『かしの樹の下で』(1983)(※【4部作ー②】)

⑭『孤独の太陽』(1994)(※【4部作ー③】)

⑮『JOURNEY』(1994)(※【4部作ー④】)

⑯『通りゃんせ』(2000)(※【3部作ー①】)

⑰『愛の言霊 ~Spiritual Message』(1996)(※【3部作ー②】)

⑱『鎌倉物語』(1985)(※【3部作ー③】)

 

ところで、今月(12月)に入り、私は、今年(2023年)このブログで書いて来た「連載記事」をご紹介する企画を行なっていたが、今回は、「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」の「1周年」を記念(?)し、久々に、その「新作」を書いてみる事としたい。

そして、私が今回の題材に選んだのは、1985(昭和60)年のサザンオールスターズのアルバム『KAMAKURA』に収録されていた、

『夕陽に別れを告げて』

という楽曲である。

この曲は、桑田佳祐が、母校の鎌倉学園高校時代の事を思って作った曲であり、私もとても大好きな曲である。

1995(平成7)年に私が初めて行ったサザンオールスターズのライブで『夕陽に別れを告げて』を歌ってくれた時は、私もとても嬉しかったものである。

という事で、誠に僭越ながら、この小説は私から皆様へのクリスマス・プレゼント(?)のつもりで書かせて頂く。

それでは、「サザンの楽曲・勝手に小説化」シリーズの「第19弾」、『夕陽に別れを告げて』(原案:桑田佳祐)を、ご覧頂こう。

 

<序章・「クリスマス・ライブ」>

 

 

「見て、見て!!もうお客さんが一杯だよ!!」

舞台袖から客席の様子をチラっと見てきたユウコが、楽屋の方に駆け戻って来ると、とても上ずった声で、バンドのメンバー達に、その状況を告げていた。

「そうか!?よし、やってやろうぜ!!」

ギターのタカシは、何だかやたらと張り切っていた。

ドラムのヒロシと、ベースのカズユキは、特にペースを乱されまいとして、努めて落ち着いた態度を保とうとしているが、緊張している様子は、その表情からも、よく伝わって来た。

「何だか、凄い事になってるなあ…」

このバンドでは「最年長」で、パーカッションのヒデユキさんは、目を丸くしていた。

「どうしよう…。何だか緊張して来ちゃった…」

ユウコは、ライブの前は、いつもそうだが、顔は真っ青で、ガタガタと震えていた。

「ユウコなら、大丈夫だよ。ユウコは、お客さんが沢山居る方が、歌は絶好調になるからな」

私がそう言うと、無口なカズユキが、少しニヤッと笑っていた。

このバンドのボーカル、我らがユウコは、普段は大人しい子だが、いざステージに立つとスイッチが入り、

「スーパーボーカル・ユウコ」

に変身してしまう。

それは、私達全員が知っている事だった。

「だから、いつも通りやれば大丈夫だよ!!」

私がそう言うと、ユウコも少し安心した様子だった。

 

 

それにしても、ちょっと前までは、こんな事になるなんて、このバンドのリーダーを務めている私も、全く予想していない事だった。

私達のバンド…「ベターデイズ」は、ギターのタカシの熱心な勧めで、アマチュア・バンドのコンクールに出場したところ、何と、「ベターデイズ」はそのコンテストで「優勝」してしまった。

そして、「ベターデイズ」は、プロのレコード会社から「スカウト」され、プロ・デビューする事になってしまったのである。

今日は、そのデビューに先駆けて、都内の某ライブハウスで、「ベターデイズ」のプロ・デビューを記念する、

「クリスマス・ライブ」

が行われるのだが、開演前に、既に会場は超満員になっていた。

「ベターデイズ」は、既に沢山のライブは経験していたが、こんなに大きなライブハウスで、しかも、これだけのお客さんの前に出るのは、勿論、初めての事だった。

「やっぱり、プロになるっていうのは、凄いもんだなあ…」

あれだけ、一番「プロ」になる事にこだわっていたタカシが、そんな事を言うので、私は思わず苦笑いしてしまった。

 

<第1章・「花束」>

 

 

すると、そこへ楽屋のドアがノックされた。

「開演10分前です」

会場のスタッフの人が入って来て、そう告げると、バンド・メンバー達の表情が引き締まった。

「それと、贈り物が届いてますよ…」

スタッフは、花束を持っていた。

「有り難うございます」

私はスタッフの人にお礼を伝え、花束を受け取った。

そして、花束に添えられたメッセージ・カードを見て、思わず、

「あっ!?」

と、声を上げそうになった。

そこには、懐かしい名前が書いてあった。

それは、私の高校時代の親友…M君の名前があった。

「何、何!?ファンの人から?」

「一体、誰からなんだよ?」

バンドのメンバー達が、一斉に駆け寄り、興味津々と言った様子で、私に聞いて来た。

 

 

「…高校時代の友達からだよ」

私がそう答えると、

「高校って、鎌倉学園の事?」

と、ユウコが言った。

「うん、そうだよ。鎌倉学園…」

私は、ポツリと答えた。

「へー。そう言えば、私、貴方から高校時代の話って、あんまり聞いた事ないかも」

ユウコはそう言ったが、私は、自分が鎌倉学園出身だとは言っていたが、高校の頃の話は、ユウコも含め、他のメンバー達にも、あまり話していなかった。

「でも、わざわざ花束をくれるなんて、優しい人だね!!」

ユウコは、ニコニコして、そんな事を言っていた。

「そうだね、M君は良い奴だから…」

私は呟くように言った。

そんな私の様子を見ていたタカシは、

「…お前、大丈夫か?何か、様子が変じゃないか?」

と、目ざとく、そんな事を言った。

「そうか?まあ、ライブ前だから俺も緊張してるんだよ」

と言って、私は肩をすくめた。

「そうか…」

タカシも、それ以上は何も聞いて来なかった。

考えてみれば、高校卒業以来、M君とは会っていなかった。

M君は、志望校の早稲田大学に受かり、今は早稲田で学生生活を送っている筈だった。

会いに行こうと思えば、いつでも会いに行けた筈だが、今日まで何となく疎遠になってしまっていた。

会えば、「あの夏」の辛い思い出が蘇って来そうな気がして、避けて来てしまったのかもしれない。

私は、それがM君にも申し訳無くて、「罪悪感」も感じていた。

それに、私は「鎌倉」での日々を、全部捨ててしまわないと、自分がおかしくなりそうな気がしていた。

 

<第2章・「冷たい夏」>

 

 

高校3年生の夏、私は忘れ難い体験をした。

前に何処かに書き残した事が有るが、私は、とても不思議な女性に出逢った。

その女(ひと)は、とても美しい女(ひと)だったが、見た事も無いぐらい、とても青白い顔をしていた。

私は何度か彼女と逢ったが、逢う度に、自分でもどうにもならないぐらい、彼女に惹かれて行くのを感じていた。

その時、私の同級生で、私の大親友だったM君は、私の事をとても心配してくれていた。

「お前、何か様子が変だぞ?」

私が、初めてその女(ひと)と出逢った後、文字通り、私の心がその女(ひと)に奪われてしまっている事に、真っ先に気付いてくれたのも、M君だった。

自分では気付いていなかったが、私はいつも、その女(ひと)の事を考え、ボンヤリしている事が多くなっていた。

「その女(ひと)は、この世の人ではないのよ。生身の人間じゃないのよ」

M君のお母さんは、趣味で「占い」をやっているという人だったが、M君のお母さんから、そういうショッキングな事を告げられ、私は呆然としてしまった。

「このまま行けば、貴方の魂はその人に奪われ、貴方は黄泉(よみ)の国に連れて行かれてしまうかもしれない…。貴方は、このままズルズルと、その人に引っ張られてしまうのか、それとも、自分でその人への思いを断ち切るのか、二つに一つよ」

M君のお母さんは、そう言った。

つまり、私は究極の選択を迫られていた。

あの女(ひと)と結ばれたければ、私は、あの女(ひと)と一緒に黄泉(よみ)の国に行き、二度とこの世には戻って来られない。

一方、あの女(ひと)への思いを断ち切ると、多分、あの女(ひと)と逢う事は二度と出来ない…。

しかし、私は「決断」を下した。

 

 

そして、夏休みのある日、私は彼女と逢い、最後の「デート」をした。

彼女は、私の前に現れる時は、いつも和装だったが、その日は何故か、白いワンピースを着て、麦わら帽子を被っていた。

「どう?似合う?」

そう言って彼女は屈託なく笑っていた。

「うん、とても似合ってるよ…」

私はそう答えたが、それは私の「本音」だった。

しかし、彼女はこの世の人間ではないのだ。

このまま一緒に居続けられる筈も無かった。

私は1日、彼女と一緒に過ごしたが、夜の帳が降りた、「江ノ電」「江ノ島駅」で、私から彼女に別れを告げた。

「わかったわ…。ここでお別れしましょう」

暫く黙り込んでいた彼女は、そう答えた。

やがて、暗闇の中から姿を現した「江ノ電」に、彼女は乗り込んだ。

「貴方は、ここに残って。これに乗ったら、貴方はもう、この世には戻れなくなるわ…」

彼女は、そう言っていた。

やはり、彼女は私を一緒に黄泉(よみ)の国に連れて行こうとしていたのか…。

彼女の頬には涙の跡が有った。

「今まで、本当に有り難う。さよなら…」

最後に、彼女はそう言うと、被っていた麦わら帽子を私にくれた。

そして、彼女が乗った「江ノ電」は、そのまま暗闇の彼方へ消えて行った…。

私の手元には、確かに彼女が被っていた麦わら帽子が残っていたが、彼女はそれっきり、私の前には姿を現さなくなった。

私も辛かったが、私はもう二度と彼女とは会わないと「決断」を下したのである。

きっと、彼女は黄泉(よみ)の国に帰ったのだろう…。

だとすれば、彼女の居場所は、もう二度と私にはわからない事だった。

私は、自分で決断を下した事だとは言え、それからの夏の日々は、すっかり自分の心が冷え切ってしまったような気がしていた。

 

<第3章・「開花」>

 

 

さて、私があの女(ひと)と別れた経緯は、前にも書き残した事が有ったが、

その後、私にある「異変」が起こった。

それは、私が趣味で続けていた「音楽」に関する事である。

私はそれまで、趣味でピアノやギターを弾いたりしていたが、あの女(ひと)と別れた直後から、急に自分のオリジナルの曲が作れるようになってしまったのである。

まず、私はあの女(ひと)との思い出を、

『鎌倉物語』

という曲として書いたが、この曲は本当にあっという間に出来上がった。

そして、私は『鎌倉物語』を、真っ先にM君に聴かせた。

「凄い良い曲だな!お前、スゲーな!!」

M君は、そう言って大絶賛してくれたが、

「この曲が出来たのは、あの女(ひと)のお陰なんだよ…」

と、私が言うと、M君は複雑そうな表情を浮かべていた。

私と、あの女(ひと)との出来事を知っているのは、M君M君のお母さんだけだった。

つまり、これは3人だけの「秘密」だったが、こんな突拍子も無い話は、他の人に言っても、多分、誰も信じてくれなかったに違いない。

そして、それ以降も、私は次々にオリジナルの曲を作って行った。

それは、「恋」の曲ばかりだったが、私は何故か、脳裏にあの女(ひと)の事を思い浮かべると、次々に曲が思い浮かんでしまうのだった。

これは、どう考えても、あの女(ひと)が私に見えない力を送ってくれている…としか思えなかった。

「何か、お前、すっかり恋愛の達人みたいになって来たな…」

新曲が出来て、M君に向かって聴いてもらっている内に、M君がそんな事を言ったので、私は思わず苦笑いしてしまった。

ちなみに、高校は男子校だった事も有って、私もM君も、高校3年間、とうとう一度も「彼女」は出来なかった。

いや、私は「あの女(ひと)」の事がトラウマのようになってしまい、余計に「彼女」を作る気にもなれなくなってしまった…というのも「本音」だった。

「お前、やっぱり、あの女の事が忘れられないんだな…」

ある日、M君がポツリと、そんな事を言った事が有った。

やはり、M君には、私の気持ちが手に取るようにわかっているようだった。

「まあ、それも仕方無いよな!!」

M君は、笑顔を浮かべ、出来るだけ明るい調子で言うと、後は何も言わなかった。

本当に、M君とは友達思いの良い奴であった。

私は、そんな友人を持てて幸せだった。

 

<第4章・「大舞台」>

 

 

季節は、夏から秋になった。

そろそろ大学受験も近付きつつあったが、私は青山学院大学を目指し、M君早稲田大学を目指していた。

私は、青山学院大学に行き、音楽サークルで、もっと音楽を楽しみたいと、漠然と思い描いていた。

そして、秋の学園祭の季節。

私は何と、高校の学園祭のステージで、歌う事になってしまった。

元々、私は友達もそんなに多くなかったが、私が趣味で音楽をやっている事は、同級生も皆、知っている事だった。

「お前、せっかくだから、学園祭のステージで歌ってみたら?」

同級生にそう言われ、他の同級生達も賛同してしまい、どうやら本当に学園祭で歌う羽目になってしまいそうな雲行きだった。

私は困ってしまったが、

「まあ、せっかくだし…。良いんじゃないか?」

と言って、M君もニヤニヤしていた。

「しょうがないなあ…」

私は、曲を作るのは好きだったが、自分の歌にはそれほど自信が無かった。

だが、こうなった以上は、仕方が無い。

私は腹を括って、学園祭のステージに立った。

そして、私は初めて、沢山の人の前で歌う事になったが、私はそこで歌った曲は勿論、

『鎌倉物語』

だった。

私は冷や汗をかきながら、どうにかこうにか歌い終えたが、気が付くと、ヤンヤの大喝采が起こっていた。

この時、私は改めて、

「音楽って、良いなあ…」

と、思っていた。

「この先もずっと、音楽を楽しんで行けると良いなあ…」

私は、そんな事も夢見ていた。

しかし、この時、私がどんな気持ちで『鎌倉物語』を歌っていたのか…私の本当の気持ちを知っていたのは、M君だけだった。

 

<第5章・『さらば鎌倉』>

 

 

さて、それからの数ヶ月…。

私はとにかく、受験勉強だけに没頭した。

「とにかく、青山学院に入るんだ…」

私は、その事だけに集中しようとしていた。

しかし…。

どう頑張っても、私の脳裏には、あの女(ひと)の事が思い浮かんでしまっていた。

「邪魔しないでくれよ!!」

その都度、私は邪念(?)を振り払おうとしたが、それは本当に大変な事だった。

きっと、誰しも、誰か好きな人が居て、どうしても、その人の事が頭から離れなくなってしまう…という経験は有ると思うが、相手が「この世」の人であれば、まだ良い。

しかし、私の脳裏に出て来てしまうのは、「この世」には居ない人なのだから、どうしようもなかった。

やがて、私は無理にあの女(ひと)の事を頭の中から追い出そうとする事は諦め、どうしても勉強に集中出来ない時は、ギターを弾いたり、ピアノを弾いたりして、心を落ち着かせた。

そして、少し心が落ち着いた所で、また勉強机に向かうのだった。

そんな風に、私は大変な「悪戦苦闘」の末に、どうにか青山学院大学に受かる事が出来た。

「やったな、おめでとう!!」

M君は、まるで自分の事のように、喜んでくれていた。

「M君も、おめでとう…」

M君も無事に、志望校の早稲田大学に合格したので、私もM君の事を祝福した。

こうして、お互いに志望校に受かる事が出来て万々歳だったが、私は密かに心に決めていた事が有った。

それは、

「高校を出たら、もう鎌倉には戻らない」

という事だった。

元々、私は鎌倉が大好きであり、だからこそ、鎌倉学園という学校に通う事が出来て本当に良かったと思っていた。

だが、あの女(ひと)との事が有って以来、鎌倉に来てしまうと、また、あの女(ひと)の事を思い出してしまうのではないか…私は、そう思っていた。

だから、私は断腸の思いだったが、自分が前に進むためにも、「鎌倉」の地を捨て去ろうと決意していた。

「それじゃ、またな!!」

「うん、またね…」

高校の卒業式が終わり、私とM君は、そう言ってサラっと別れたが、それはお互いに、

「また、いつでも会おう」

というような、軽い調子だったからである。

勿論、私はM君とは会わないなどとは思っていなかったが、「鎌倉」に戻らないという決意は変わっていなかった。

振り返ると、想い出深い鎌倉学園の校舎が、夕陽に照らされていた。

私は、その光景を目に焼き付け、踵を返し、鎌倉の地を後にした。

 

<第6章・「仲間と恋人」>

 

 

さて、こうして見ると、私がいつまでも、あの女(ひと)の虜になっている…というように思われるかもしれないが、

高校を出て、私はキッパリと「鎌倉」の地から離れたのを機に、ようやく、私の脳裏から、あの女(ひと)の幻影が去ろうとしていた。

そして、それは私にとって、とても大切な「出逢い」が有ったからでもあった。

一つは、青山学院大学の音楽サークルで出逢った仲間達…一緒にバンドを結成した仲間達である。

ギターのタカシ、ドラムのヒロシ、ベースのカズユキ、そして、ちょっと遅れて入った、パーカッションのヒデユキさん…。

みんな大切な仲間達だ。

そして、もう一つは…我がバンドのエース…ボーカルのユウコである。

私達のバンドは、結成以来、本当に色々な事が有ったが、一緒にそれを乗り越え、絆を深めて行った。

「バンドをやってて、良かった…」

私は心底、そう思っていた。

 

 

私達のバンド…「ベターデイズ」のボーカルとして迎えたユウコは、

さっきも書いた通り、一度ステージに上がると、何かが憑依したようにスイッチが入り、

「スーパーボーカル・ユウコ」

に変身してしまうが、それはまるで「歌の女神」に愛されているかのようであった。

私は、ボーカルとしてのユウコに魅了され、気が付くと、ユウコのために、次々と曲が作れるようになって行った。

それは、高校時代の「あの女(ひと)」と同じかもしれないが、ユウコは確かに目の前に居る人である。

ユウコは、私にとっての、「音楽のミューズ(女神)」であった。

そして、ユウコは私の「恋人」でもある。

つまり、私にとって、ユウコ公私共に大切なパートナーだった。

「どうやら、自分は女の人が絡むと、良い曲が書けるみたいだな…」

内心、私はそう思い、思わず苦笑いしてしまった事も有った。

それは、私の中で、ようやく「あの女(ひと)」が「思い出」に変わろうとしている事も意味していた…。

 

<第7章・『夕陽に別れを告げて』>

 

 

「皆さん、本番です!!」

私は、ライブハウスのスタッフの人の声に、ハッとして我に返った。

どうやら、M君から貰った花束とメッセージカードを見て、私は高校時代の思い出に耽っていたが、いよいよライブの定刻がやって来ていた。

「いよいよだな!!」

「よっしゃ、一丁やるか!!」

ライブのステージに上がる時間がやって来て、「ベターデイズ」のメンバー達の表情にも、気迫が漲っていた。

「じゃあ、いつもの『アレ』をやろうか!?」

ユウコがそう言い、私達は全員で円陣を作り、肩を組んだ。

それは、ライブ前の私達の「儀式」であった。

「みんな、楽しくやろうな!!」

私は、みんなに声を掛けた。

そして、「頑張るぞ!!」「オー!!」という気合いを入れた。

私達にとっては、それで充分だった。

何しろ、「ベターデイズ」は最高のバンドなのだから…。

ちなみに、花束に添えられた、M君からのメッセージカードには、

「今日見てるから、頑張れ!!」

と、一言だけ書いてあった。

これまで疎遠になっていた事など、何も書いておらず、その気遣いが私にはとても嬉しかった。

やっぱり、M君はとても良い奴だ。

「ライブが終わったら、M君と会おう」

私は密かにそう思い、それをとても楽しみにしていた。

そして、私達は満員のお客さんが待っている、ライブハウスのステージへと向かって行った…。

 

 

 

 

『夕陽に別れを告げて』

作詞・作曲:桑田佳祐

唄:サザンオールスターズ

 

遠く離れて High-School

揺れる想い出

心にしみる 夏の日

 

恋人の居場所も

今は知らない

毎日変わる 波のよう

 

あの日々は もう帰らない

幻に染まる

 

oh もう逢えないのだろ My Friends

時が 流れるまま

 

(oh oh~)She was in love with me one day, 

oh yeah

涙が こぼれちゃう

 

色あせた校舎に

別れを告げる

鎌倉の陽よ サヨナラ

 

独り身の 辛さを

音楽(おと)に託して

お互いに 笑いあえる

 

夢ばかり 見てた頃に

忘れられぬ女性(ひと)よ

 

oh もう逢えないのだろ My Friends

瞳の 奥で泣く

 

(oh oh~)She was in love with me one day,

oh yeah

言葉に ならぬほど

 

We were in lovely nights as one, oh yeah

時が 流れるまま

She was in love with me one day, oh yeah

涙が こぼれちゃう