【サザンの楽曲「勝手に小説化」⑰】『愛の言霊』(原案:桑田佳祐)【3部作-②】 | 頑張れ!法政野球部 ~法政大学野球部と東京六大学野球について語るブログ~

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少々マニアックな事なども書くと思いますが、お暇な方は読んでやって下さい。

私が好きなサザンオールスターズ桑田佳祐の楽曲の歌詞を題材に、私が「短編小説」を書く、

「『サザンの楽曲・勝手に小説化』シリーズ」(原案:桑田佳祐)は、現在、「16本」有る。

そして、前回の記事からは、新たな「3部作」を書いており、前回の「短編小説」は、「3部作」の「1作目」である。

 

 

なお、今まで私が書いて来た、「『サザンの楽曲・勝手に小説化』シリーズ」の「16本」は、下記の通りである。

 

①『死体置場でロマンスを』(1985)

②『メリケン情緒は涙のカラー』(1984)

③『マチルダBABY』(1983)

④『Ya Ya(あの時代(とき)を忘れない)』(1982)

⑤『私はピアノ』(1980)

⑥『夢に消えたジュリア』(2004)

⑦『栞(しおり)のテーマ』(1981)

⑧『そんなヒロシに騙されて』(1983)

⑨『真夜中のダンディー』(1993)

⑩『彩 ~Aja~』(2004)

⑪『PLASTIC SUPER STAR』(1982)

⑫『流れる雲を追いかけて』(1982)

⑬『かしの樹の下で』(1983)

⑭『孤独の太陽』(1994)

⑮『JOURNEY』(1994)

⑯『通りゃんせ』(2000)

 

上記の「16本」は、基本的には全て独立した「短編小説」であるが、

その内の⑫~⑮は、全て繋がっている「4部作」であり、

また、前回の記事で書いた『通りゃんせ』は、「3部作」の「1作目」である。

 

 

という事で、前回の『通りゃんせ』「続編」の題材として、私が選んだサザンの楽曲は、

1996(平成8)年にリリースされた、『愛の言霊 ~Spiritual Message』である。

この曲は大ヒットしたので、ご存知の方も多いと思われるが、「生」と「死」をテーマにした、深遠な歌詞が何とも印象深く、私も大好きな楽曲である。

 

 

前回の『通りゃんせ』では、主人公である「僕」が、ある日、不思議な女性に出逢い、次々に奇妙な体験をする…という物語を書いた。

そんな不思議な「鎌倉の夜」を体験した主人公は、その後、どうなってしまったのであろうか?

それでは、前置きはそれぐらいにして、「サザンの楽曲・勝手に小説化」シリーズの「第17弾」、『愛の言霊 ~Spirotual Message』(【3部作-②】)を、ご覧頂こう。

 

<第1章・『宴の後』>

 

 

「お前、最近、何か変だぞ?」

僕が通っている高校の同級生で、親友のM君が心配そうに、僕の顔を覗き込んで来た。

「変って、何が?」

僕は、彼に聞き返した。

「何がって…。お前、最近何か、上の空っていうか…。ボーっとしている事が多くないか?」

M君にそう言われたが、僕自身としては、特に何か変わった事も無いと思っていた。

ここは、僕が通っている鎌倉学園高校の教室である。

休み時間になると、僕は席に座って本を読んだりしている事が多かったし、その時も僕は本を読んでいた。

だから、M君にそう言われても、僕は、

「いや…。いつも通りだけど?」

と、答えるしかなかった。

しかし…。

一つ、思い当たる事が無いではなかった。

つい先日、僕は「鶴岡八幡宮」に立ち寄った帰り、とても不思議な女(ひと)に出逢った。

そして、その女(ひと)に導かれるようにして、僕は次々に不思議な光景を見た…。

その時、僕は何かの宴に出ていたような気もするのだが、ハッキリと覚えているのは、闇夜に燃え盛る篝火だけなのである。

ただ、その時に僕の傍らに居た、あの女(ひと)の顔は、鮮明に覚えていた。

 

 

「お前、あの日、学校の帰りに鶴岡八幡宮に行ったよな?」

「うん、行ったよ」

「その後、お前、何処に居た?」

「何処って…」

M君に聞かれたが、僕もハッキリとは思い出せなかった。

ただ、気が付いたら、鶴岡八幡宮の大鳥居に前に居た事は、覚えている。

「お前の家の人が、俺に心配して電話して来たからな。お前が全然帰って来ないから…」

M君にそう言われても、僕はその間の事を、あまり覚えていない。

だから、何も答えようが無かった。

「あの後ぐらいから、お前、ちょっと変だぞ?」

M君は、ますます心配そうな様子である。

M君が、あまりにも心配そうな様子だったから、仕方なく、僕は覚えている限りの事を話した。

「実は、あの後、僕は変な女の人に出逢ったんだよ…」

僕は、気が付くと、自分が知らない道に迷い込み、そこで、和装の若い女性と出逢った…という事を話した。

「で、その女の人に手を引かれ、変な鳥居をぐくった事は、覚えてる。でも、その後の記憶は、ボンヤリしてるんだよね…」

僕がそう言うと、M君は、何やら難しい顔をして、考え込んでいた。

「わかった。お前、今日、俺の家に来い」

M君が、有無を言わさぬ調子で言ったので、僕はビックリした。

「良いけど…。急にどうしたの?」

「いいから。今日の放課後、俺の家に来るんだぞ。わかったな?」

M君は、再度、念押ししていた。

 

<第2章・『水晶の館』>

 

 

M君の家は、鎌倉駅の近くで、「骨董屋」を営んでいた。

僕も、何度か遊びに行った事は有るが、そのお店には、色々な「年代物」の品が有り、僕はそれを見るだけで、何だかワクワクしてしまう。

でも、今日のM君は、僕を連れて来ると、その「骨董屋」ではなく、店の奥へと僕を導き入れた。

「母さん。居る?」

M君が、店の奥に居たM君のお母さんに声を掛けると、

「どうしたの?」

と言って、彼のお母さんが顔を出した。

「こんにちは…」

僕は、M君のお母さんには、何度か会った事が有ったので、一応「顔見知り」ではあったが、とりあえず、ペコリと頭を下げて、挨拶した。

「あら、いらっしゃい」

M君のお母さんは、ニッコリと笑った。

だが、M君は、さっきからずっと、険しい顔をしていた。

「母さん。こいつ、こないだから、ちょっと変なんだよ…」

M君は、お母さんにそんな事を言った。

「変って、どうしたの?」

M君のお母さんは、怪訝そうな表情だ。

「こないだ、こいつが、何か変な女に出逢ったって言っててさ…」

M君は、ごく大雑把に、僕から聞いた話を、彼のお母さんに聞かせていた。

すると、さっきまで、にこやかだった、M君のお母さんの表情が変わり、お母さんも真顔になっていた。

「わかったわ。もう少し、詳しいお話を聞かせてくれる?」

僕は、M君のお母さんに促され、店の奥へと入った行った。

 

 

店の奥の部屋に入って行くと、僕はビックリしてしまった。

その部屋は薄暗く、部屋の中央の机の上には、何やら怪しげな水晶玉が置いてあった。

「母さん、何か占いに凝っててさ…」

M君は、実はお母さんは趣味で占いをやっているのだと、僕に伝えた。

「まあ、素人の占いだと俺も思ってたんだけどね。何か母さん、人より霊感が強いらしくて…」

M君の話を聞いて、僕は、

「へー、そうなんだ…」

と、呆気に取られていた。

「まあ、立ち話も何だから、座ったら?」

M君のお母さんに促され、僕は椅子に座った。

M君も僕の隣の席に座ると、M君のお母さんも椅子に腰かけ、机の上に置いてある水晶玉に向かい、何やらブツブツと、怪しげな呪文(?)を唱え始めた。

その時は、よく聞き取れなかったが、どうやら、

「生まれく叙事詩(せりふ)とは…」

というような言葉を言っているらしかった。

「貴方が見たのって、この女の人じゃない?」

M君のお母さんに聞かれ、僕は水晶玉を覗き込んだ。

M君も、僕と一緒に身を乗り出すようにして、水晶玉を凝視していた。

すると、そこに映っていたのは…紛れもなく、あの女(ひと)であった。

「そうだよ、この人だよ!!」

僕は思わず、大声を出してしまった。

「でも、一体、何で…」

僕は、わけがわからなかった。

「それはね…」

M君のお母さんは、僕に意外な事を告げた。

 

<第3章・『言霊』>

 

 

「この女の人は、この世の人ではないのよ…」

M君のお母さんの言葉は、あまりにも衝撃的であった。

「…この世の人ではないって…。どういう事?」

僕がそう聞くと、M君のお母さんは、

「だから、この世に生きている人間じゃないって事。貴方が出逢ったのは、生身の人間じゃないって事よ」

と、アッサリと告げた。

「そんな事を言われても…」

僕は、俄かには信じ難い話を聞き、呆然としてしまった。

「でも、僕…。あの人の手の感触とか、ハッキリ覚えてるよ。それでも、あの人は、この世の人じゃないっていうの?」

僕は、更にM君のお母さんに聞いた。

だが、M君のお母さんは、僕からの問いにはハッキリとは答えず、

「ねえ、『平家物語』って、知ってるわね?」

と、逆に質問して来た。

「うん、知ってるけど…」

そう、「源平合戦」源氏に敗れた、平氏(平家)方の無念と怨念が詰まった物語を、「琵琶法師」達が、語り伝えて来た物語である。

僕でも、その事は知っている。

 

 

「じゃあ、『耳なし芳一』の話も、知っているわね?」

M君のお母さんに聞かれ、僕はウっと詰まった。

勿論、僕も知っているが、とても恐ろしい物語である。

「知ってるけどさ…。平家の亡霊が、芳一っていうお坊さんに取り憑いたって話だろ。ゾッとしねえな…」

何も言えない僕に替わって、M君がそう答えた。

「母さん。つまり、こいつには、亡霊が取り憑いてるって言いたいのか?」

M君が、核心を衝いた質問をした。

だが、M君のお母さんは、その質問にはハッキリとは答えなかった。

 

 

「…そう言われてみれば、思い当たる所が有るよ。あの女の人って、もしかしたら…」

その時、僕の脳裏にハッキリと、あの女(ひと)が白拍子の衣装を着て、不思議な「能舞台」の上で舞い踊っていた姿が蘇って来た。

「あの女(ひと)って、もしかしたら義経の…」

僕がそう言いかけた時、M君のお母さんは、厳しい口調で、

「駄目よ!それ以上、言葉に出したら駄目」

と、僕が言い掛けるのを遮った。

「貴方、『言霊』って聞いた事が有る?人間が口に出した言葉には、『言霊』という魂が宿るのよ…」

M君のお母さんが、淡々とした口調で話していた。

「貴方は今、その女の人が取り憑いている。でも、貴方がその女の人の名前を口にした時…。貴方の魂は、本当に黄泉(よみ)の国に連れて行かれてしまうかもしれないわ。貴方は今、その瀬戸際に居るのよ」

M君のお母さんの言葉を聞き、部屋の中の空気が一気に冷たくなったような気がした。

僕達は皆、暫くの間、何も言えずに黙り込んでしまった。

「母さん。でも何で、その女がこいつに取り憑いてるんだよ?」

やっと口を開いたM君は、お母さんにそう聞いたが、

「さあ…。理由は、わからないわ」

と、お母さんは肩をすくめていた。

僕は、暫くの間、黙っていたが、

「ねえ…。僕、またあの女(ひと)に逢いたいんだけど…。どうしたら良い?」

と、M君のお母さんに聞いた。

「お前、何を言ってるんだよ!!」

M君は、ビックリしていた。

だが、僕は、

「あの女(ひと)が何で僕に取り憑いているのか…。直接、聞いてみたいんだよ。ねえ、どうすれば良いか、方法を教えてよ」

と、お母さんに頼み込んだ。

M君のお母さんは、僕からの頼みを聞くと、

「わかったわ。貴方、なかなか度胸が有るわね…」

と、少し笑顔を見せた。

「それじゃあ、今度の満月の夜…。貴方は、私が今から言う言葉を唱えなさい。それはね…」

M君のお母さんが教えてくれたのは、さっき、水晶玉に向かって、何やらブツブツと唱えていた、あの「呪文」だった。

「でも、気を付けるのよ。絶対に、向こうに引っ張られないように…」

M君のお母さんがそう言っていたが、僕は、

「うん、わかってるよ…」

と答えていた。

 

<第4章・『釈迦堂の満月の夜』>

 

 

その夜は、新盆の満月の夜だった。

僕は、再び、あの女(ひと)に逢おうと、鎌倉の「ある所」に来ていた。

「あの女(ひと)は、この世ならぬ人…。そんな人には、満月の夜になると、逢いやすくなる…」

M君のお母さんは、そんな事を言っていた。

それは、本当かどうかは、わからない。

でも、今の僕には、それしか方法が無かった。

僕は、もう一度、あの女(ひと)に逢って、話を聞いてみたいと思っていた。

 

 

そこは、昼間でもあまり人通りが多くない、

「釈迦堂」

と呼ばれる場所だった。

正確に言えば、

「釈迦堂の切通し」

と呼ばれる場所であり、鎌倉幕府が建てられた時、軍勢が通りやすくするように、切り立った崖の間に掘られた道であり、それを「切通し」と呼んだ。

僕は、新盆の満月の夜、その「釈迦堂の切通し」に立つと、M君のお母さんから教えてもらった「呪文」を唱えた。

「生まれく叙事詩(せりふ)とは 蒼き星の挿話 夏の旋律(しらべ)とは 愛の言霊…」

意味はよくわからなかったが、とにかく、教えられた通りに、僕は「呪文」を唱えた。

 

 

すると、辺りに一陣の風が吹いた。

そして、気が付くと、僕の目の前には、あの女(ひと)が立っていた。

彼女は、出逢った時と同じ、袿(うちぎ)に小袖という和装であった。

そして、あの時と同じく、彼女の顔は青白く、まるで血が通っていないように見えた。

「来てくれたの…」

僕がそう言うと、彼女は黙って頷いた。

「あの時は、楽しかったわ…」

彼女は、意外な事を言った。

それは、あの「鶴岡八幡宮」で出逢った夜の出来事を言っているのであろうか?

「ごめん、僕はあの時の事はあんまり覚えてないんだ…」

僕が正直にそう言うと、彼女は、

「いいのよ」

とだけ、答えた。

「でも、君の舞は綺麗だったよ…」

僕は、「白拍子」の姿で舞い踊っていた、彼女の姿は覚えていたので、その事を伝えた。

「有り難う…」

彼女は、ちょっと微笑んでいるように見えた。

考えてみれば、彼女が僕に向かって、少しでも笑顔を見せてくれたのは、この時が初めてかもしれない。

「ねえ。ちょっと付いて来て…」

彼女は、またしても僕の手を取り、歩き始めた。

僕も、黙って彼女の後を付いて行った。

 

<第5章・『閻魔堂』>

 

 

「ここは…?」

気が付くと、僕は何処かのお寺の中に居た。

「閻魔堂よ…」

僕の問いに、彼女は答えた。

彼女に言われて気が付いたが、そこは通称「閻魔堂」…本当の名前は「円応寺」という、お寺であった。

このお寺には、運慶が作ったとされている、

「閻魔大王」

の座像が有る。

僕とあの女(ひと)は、その「閻魔大王」の座像の前に立っていた。

今、僕達が居る「閻魔大王」の座像が有る部屋は、夜の闇の中にあり、何故か、「閻魔大王」の座像だけが、ボンヤリと光に照らされていた。

それにしても、改めて見ると、何とも迫力が有る座像である。

「極楽とか地獄って、本当に有るのかな…」

思わず、僕はそんな事を言ってしまい、ハッとした。

しかし、彼女な特に気を悪くした様子も無く、

「黄泉(よみ)の国って、この世の人達が思っているよりも、ずっと近くに在るのよ」

と言っていた。

それは、あっけらかんとした調子でもあった。

「そうなんだね…」

やっぱり、貴方はこの世の人じゃないから…と言いたい所を、僕はグッと堪えた。

「貴方も、その内にわかるわ」

彼女は、そう言った。

「それじゃあ、行きましょう…」

彼女は再び、僕の手を取り、歩き始めた。

 

<第6章・『由比ガ浜』>

 

 

気が付くと、僕とあの女(ひと)は、夜の由比ガ浜の海岸に立っていた。

由比ガ浜には、僕と彼女以外、人っ子一人、居なかった。

いつもなら、もう少し人が居る筈なのに…。

だが、その女(ひと)と一緒に居ると、次々に不思議な事が起こるという事が、僕にはわかっていたから、その時も、特段、不思議には思わなかった。

「私の大切な人は、みんな亡くなってしまったわ…」

夜の海を見ながら、彼女はポツリと呟いた。

そう言えば、初めて出逢った時も、彼女はそんな事を言っていたのを、僕は思い出した。

「父上や、母上も…。もう一度、逢いたいわ…」

彼女の横顔は、とても悲しそうだった。

「わかるよ…。僕も、お父さんとお母さんは、もう居ないから」

僕がそう言うと、彼女は、ハッとした表情をした。

「僕の両親、僕が小学生の時に亡くなったんだ。僕は、今は叔父の家に引き取られているんだよ」

僕は淡々と説明した。

子供の頃、父と母を亡くした時…僕は本当に悲しかった。

「お父さんとお母さんは、もう、この世に居ない。もう逢う事は出来ない…」

ハッキリとその事がわかった時、僕の胸は、悲しみで押し潰されそうだった。

「ごめんなさい…。辛い事を思い出させてしまって…」

彼女は俯いていた。

「良いんだよ。もう、だいぶ慣れたから…」

僕は、努めて明るい調子で応えた。

それは強がりではなく、何年もかけて、僕は「悲しみ」から立ち直っていた。

僕の周りには、大切な友達も居たし、それに僕には「音楽」という心強い味方が居たからである。

 

 

気が付くと、由比ガ浜の夜空に、花火が上がっていた。

「何で、こんな所に花火が…」

僕は、思わず笑ってしまっていた。

「また、君の仕業なんだろ?」

そう言うと、彼女もフフッと笑っていた。

彼女は、意外に「イタズラ」好きのようだ。

こう言うのも何だが、僕は彼女と心を通わせる事が出来た…ような気がしていた。

彼女の顔は、花火に照らされていたが、こうして見ると、何処にでも居そうな、僕と同年代の女の子にも見えた。

「時間よ、止まれ…」

僕は、そんな事を言ってみたい気分にもなっていた。

つまり、その時、僕は彼女と居て幸せだと思っていたのであった。

しかし、僕にはどうしても、彼女に聞きたい事が有った。

「ねえ…。君は何で、僕に逢いに来たの?」

僕が彼女にそう聞くと、彼女の顔から、スッと笑顔が消えた。

「…どうしても知りたい?」

彼女は、真顔になっていた。

僕は、思わずゴクリと唾を飲みこんだ。

そして、覚悟を決めた僕は、コクリと頷いた。

「いいわ…。そんなに知りたいなら、教えてあげる…」

彼女がそう言うと、いつの間にか花火は消え、再び由比ガ浜に静寂と暗闇が戻っていた。

 

<第7章・『人の世の運命(さだめ)』>

 

 

「あれを見てちょうだい」

彼女に促され、夜空を見上げると、そこには満天の星空があった。

「あの星空は、人間がこの世に生まれる、ずっと前から有るわ…。そう、幾千億年も前からね…」

一体、彼女は何を言うつもりなのか?

僕は、黙って彼女の言葉を待った。

すると、それまで淡々と話していた彼女の表情が、俄かに厳しくなった。

そして、その表情には「怒り」の色が有った。

「人間って、いつまで経っても、馬鹿ばっかりよ…。戦(いくさ)をしたり、罪を犯したりね…。どうして、いつの世になっても、人間って、馬鹿な事ばかりを繰り返すの?」

遂に、彼女は「仮面」を脱ぎ捨て、今まさに、「本音」を話している…僕は、そう思った。

「私、ずっと時の流れを見て来たけど…。あまりにも人間が成長しないから、本当にガッカリしてるの…。いつまで経っても、同じ事の繰り返し。どんな時代になってもね。私の大切な人も、戦(いくさ)で亡くなったわ…。それなのに…」

彼女は、肩を震わせ、泣いていた。

きっと、彼女は今、大切な「あの人」の事を思い浮かべているに違いなかった。

そして、彼女はその事を「この世」の僕に伝えたくて、時を超え、姿を現した…という事かもしれない。

「…それでも、生きて行くのが人間ってものじゃないの?確かに、あまり成長しないかもしれないけど、みんな一生懸命に生きてると思うけどな…」

僕は、彼女に「反論」した。

僕の言葉に、虚を衝かれたのか、彼女は暫く黙り込んでしまった。

「…確かに、そうかもしれないわね」

やっと、彼女は口を開く。

後は、僕達はひたすら黙ってしまい、2人して夜の海を見ていた。

そして、僕は両親が亡くなって以来、ずっと気になっていた事を、彼女に聞いてみた。

「人間って、死んだらどうなるのかな。人間は、何処から来て、何処へ行くのか…。そして、この魂は誰のものなのか…」

勿論、僕は今まで、誰にもこんな話をした事は無かった。

でも、彼女なら、何か答えてくれるかもしれない…僕はそう思っていた。

「貴方にも、その内、わかる時が来るわ…」

僕からの問いに、彼女は一言だけ答えた。

その時、彼女は微笑んでいたが、正直に言うと、僕は彼女の笑顔に魅了されていた。

 

 

気が付くと、由比ガ浜の東の空に、太陽が昇り、空に朝焼けを作っていた。

そして、いつの間にか、彼女の姿は消えていた。

「もっと色々と聞きたい事が有ったのに…」

僕には、彼女に対する未練が残っていた。

また、彼女に逢う事が出来るのであろうか?

僕はただ一人、由比ガ浜に佇んでいた…。

 

(つづく)

 

 

『愛の言霊 ~Spiritual Message』

作詞・作曲/桑田佳祐

唄:サザンオールスターズ

 

生まれく叙事詩(せりふ)とは 蒼き星の挿話(エピソード)

夏の旋律(しらべ)とは 愛の言霊

 

宴はヤーレンソーラン

呑めど What Cha Cha

閻魔堂は 闇や 宵や 宵や

新盆(ぼん)にゃ 丸い 丸い 月も酔っちゃって

由比ガ浜 鍵屋 たまや

 

童っぱラッパ 忘れ得ぬ父よ母よ

浮き世の侘しさよ

童っぱラッパ 名もない花のために

カゴメやカゴメ 時間よ止まれ

エンヤコーラ!!

 

生まれく叙事詩(せりふ)とは 蒼き星の挿話(エピソード)

夏の旋律(しらべ)とは 愛の言霊

 

縁はヤーレンソーラン

千代に What Cha Cha

釈迦堂も 闇や 宵や宵や

鳶が湘南浪漫 風に舞っちゃって

縁の先ゃ 黄泉(よみ)の国や

 

童っぱラッパ 戦禍(いくさわざわ)う人の

涙か蝉しぐれ

童っぱラッパ 祭り囃子が聴こえる

遊べよ遊べ ここに幸あれ

エンヤコーラ!!

 

生まれく叙事詩(せりふ)とは 蒼き星の挿話(エピソード)

夏の旋律(しらべ)とは 愛の言霊

 

THE MESSAGE FROM T.C.

IT SOUNDS LIKE AN M.C.

THE MESSAGE FROM T.C.

COME A COOL RAP TO ME

 

<Indonesian Rap訳>

遥か以前から光輝く星を見つめる時、涙ぐんでしまう

人間の存在、肉体、それらは、宇宙からの言霊を記憶するのだ

 

生まれく叙事詩(せりふ)とは 蒼き星の挿話(エピソード)

夏の旋律(しらべ)とは 愛の言霊

 

禮(らい)!

 

幾千億年前の星の光が 人の世の運命(さだめ)を僕に告げるの

過去に多くの人が 愚かな者が 幾千億年前の星の光見て

戦をしたり 罪犯したなら ぼくもまたそれを繰り返すのか

今は滅びた星の光なのに 見つめるままに 夢に見るたびに

涙ぐむのはなぜなのか そして僕はどこから来たのか

この魂は誰のものなのか Yeah,Yeah,Yeah