青山剛昌が描く『名探偵コナン』は、1994(平成6)年に「少年サンデー」で連載開始以来、「29年」が経過し、
2年後の1996(平成8)年、『名探偵コナン』は日本テレビでアニメ化され、それ以来、「27年」が経過、
翌1997(平成9)年に「コナン」は映画化され、第1作『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』が公開された。
それ以降、「コナン映画」は毎年公開され、遂に今年(2023年)「コナン映画」シリーズの最新作、
映画『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』は「コナン映画」シリーズ史上初めて、「興行収入100億円」を突破した。
さて、『名探偵コナン』といえば、
登場人物達の「恋模様」が描かれる「殺人ラブコメ漫画」としての要素が有る。
という事で、今回は「コナン」のメイン・キャラクター、江戸川コナン(工藤新一)・毛利蘭・灰原哀たちが織り成す、
「殺人ラブコメ漫画」としての『名探偵コナン』について、語らせて頂く事としたい。
それでは、ご覧頂こう。
<アニメ版『名探偵コナン』の声優陣について~声優界のスーパースター達の共演>
『名探偵コナン』には、多種多様な、魅力的なキャラクター達が登場している。
前回と前々回の記事でも書いたが、「コナン」の面白さの秘訣は、何と言っても登場人物が大変魅力的であるという事に尽きる。
そこで、まず今回はアニメ版の『名探偵コナン』の主な「声優陣」について、ご紹介させて頂く。
アニメ版『名探偵コナン』登場人物の主な声優陣
江戸川コナン…高山みなみ
工藤新一&怪盗キッド(2役)…山口勝平
毛利蘭…山崎和佳奈
毛利小五郎…神谷明⇒小山力也
灰原哀…林原めぐみ
阿笠博士…緒方賢一
小嶋元太&高木刑事(2役)…高木渉
円谷光彦…大谷育江
吉田歩美…岩居由希子
鈴木園子…松井奈桜子
工藤優作…田中秀幸
工藤有希子…島本須美
服部平次…堀川亮
遠山和葉…宮村優子
ジン…堀之紀
ウォッカ…立木文彦
ベルモット…小山茉美
…というわけで、「コナン」の声優陣達は、いずれも声優界の超一流、スーパースターばかりであり、
恐らく、「コナン」の声優陣について語るだけで、1つの記事になってしまうので、ここでは軽くご紹介させて頂くが、
江戸川コナンを演じる高山みなみは、1989(平成元)年に公開された、宮崎駿監督の映画『魔女の宅急便』で、オーディションを勝ち抜き、主役のキキを演じた(※途中で登場する、絵描きのウルスラという女性との2役)。
その『魔女の宅急便』で、キキのボーイフレンドのトンボを演じていたのが、山口勝平であるが、
後に高山みなみが江戸川コナンを、山口勝平がコナンの正体である工藤新一を演じる事となるのだから、運命というのは不思議なものである。
翌1989(平成元)年、高橋留美子が原作の『らんま1/2』は、更に「コナン」と縁が深い作品である。
主人公の高校生格闘家・早乙女乱馬は、中国での武者修行中、「娘溺泉」に落ちてしまい、
「水を被ると女になり、お湯を被ると男に戻る」
という特異体質になってしまったが、男の「乱馬」の役を山口勝平、女の「らんま」の役を林原めぐみが演じた。
山口勝平は、後に工藤新一を演じる事となるのは前述の通りだが、林原めぐみは、後に灰原哀の役を演じる事となる。
更に、乱馬の父・早乙女玄馬の役を演じた緒方賢一は、後に「コナン」では阿笠博士、
『らんま1/2』のヒロイン・天道あかねを演じた日高のり子は、後に「コナン」では世良真純、
そして、天道あかねの姉・天道なびきを演じた高山みなみは、後に江戸川コナンを、それぞれ演じる事となる。
『らんま1/2』と『名探偵コナン』は、このように「姉妹作品」と言っても良いぐらい、声優陣で言えば、とても縁が深い間柄である。
高山みなみは、とても多才な人で、TWO-MIXというユニットでボーカルを務め、
何と、自ら作詞・作曲も行い、『名探偵コナン』の主題歌『TRUTH〜A Great Detective of Love〜』も手掛けた事が有る。
更に、「コナン」には、TWO-MIXの「本人役」として、江戸川コナンと高山みなみが「共演」するという、「神回」も有った。
これは、コナンを演じる高山みなみのために、青山剛昌がわざわざそういう話を描き、アニメ化された際には、高山みなみは、本人とコナンの「2役」を演じるという離れ業を見せた。
こういう所が、「コナン」はとても面白い。
そして、「コナン」で最も人気が有るキャラクターと言っても良い灰原哀を演じるのは、
ご存知、声優界のビッグ・スター、林原めぐみであるが、
林原めぐみは、どんな役で違和感なく演じ分けてしまう天才声優であり、歌手としても大活躍するスーパースターである。
『平成天才バカボン』ではバカボンの役を、一世を風靡した『新世紀エヴァンゲリオン』では綾波レイを、林原めぐみが、それぞれ演じていたが、これが同一人物の声とは俄かには信じ難い。
そして、「コナン」の原作者・青山剛昌は、「エヴァ」での「綾波レイ=林原めぐみ」の声に惚れ込み、
「灰原の役は、是非とも林原めぐみさんにやって欲しい」
と熱望し、それが実際に叶ってしまった。
従って、「コナン」での灰原は、クールな綾波レイ風な声で林原めぐみが演じているが、灰原がこれだけ人気キャラクターになったのは、林原めぐみが演じたからであると言っても過言ではない。
それぐらい、「灰原哀=林原めぐみ」の声は、とても魅力的である。
<「殺人ラブコメ漫画」としての『名探偵コナン』①~幼馴染で同級生の工藤新一&毛利蘭~やがて江戸川コナン&毛利蘭の不思議な関係に…>
さて、『名探偵コナン』といえば、
「黒の組織によって、身体を幼児化させられてしまった高校生探偵・工藤新一が、江戸川コナンを名乗り、黒の組織を追い掛ける」
というのが、大きなストーリーの軸になっているが、その「本筋」は、なかなか進展しない。
そのかわり、作者の青山剛昌が言うところの「殺人ラブコメ漫画」の要素が、非常に大きい。
「コナン」は、毎度毎度、沢山の殺人事件が起こり、それをコナンが次々に解決して行く一方、登場人物達の様々な「恋愛模様」が、事細かに描かれている。
それを、青山剛昌は「殺人ラブコメ漫画」と自称しているが、どうやら青山氏は、メインのストーリーよりも「ラブコメ」を描く方が好きらしい(?)。
という事で、「殺人ラブコメ漫画」としての「コナン」の最大の見所といえば、工藤新一と毛利蘭の「恋模様」であろう。
新一と蘭は、元々、幼馴染であり、子供の頃から、お互いに「新一」「蘭」という名前で呼び合う仲である。
だが、あまりにも距離が近すぎたせいか、この2人は長い間、ただの「友人同士」であった。
そして、新一と蘭は同じ帝丹高校に通う同級生となった。
その頃、新一は高校生探偵として大活躍しており、蘭も空手部主将として青春の日々を送っていた。
新一は、とてもカッコイイ男の子であり、蘭もとても可愛い女の子であった。
新一と蘭は、いつも軽口を叩き合ったり、喧嘩したりしていたが、実はお互いの事を意識するようになっていた。
だが、お互いにその思いは胸に秘めたままである。
そんなある日の事、新一と蘭は、遂に2人で遊園地に「デート」に行く事となった。
新一と蘭は、とても良い雰囲気である。
そして、この「デート」を機に、2人は付き合う事になってもおかしくはなかった。
だが、この時、新一はとんでもない事件に巻き込まれてしまう。
これまで述べて来た通り、新一は「黒の組織」に「毒薬」を飲まされ、身体が「幼児化」してしまった。
こうして、新一は蘭の前から、忽然と姿を消してしまった。
新一が、突然、蘭の前から居なくなってしまった、まさにその直後、
新一と入れ替わるように、江戸川コナンという不思議な少年が蘭の眼前に現れた。
実は、コナンという少年の正体は工藤新一であるが、コナンは「黒の組織」の目を逃れるため、蘭にその事を明かす事は出来ない。
コナンは蘭の父親・毛利小五郎が営む「毛利探偵事務所」に居候する事となり、コナンと蘭の奇妙な共同生活が始まった。
なお、コナンは蘭の事を、
「蘭ねえちゃん」
と呼んでおり、蘭はコナンの事を、
「コナン君」
と呼んでいる。
だが、コナンという少年は、どう見ても「普通の子供」ではない。
あまりにも頭脳明晰であり、それは工藤新一を彷彿とさせた。
蘭も、一緒に過ごして行く内に、コナンの正体を怪しみ、時々、
「コナンの正体は新一なのでは?」
という事を見破りそうになる。
だが、その都度、コナンはどうにか蘭の追及を逃れ、引き続き、江戸川コナンとして過ごして行く。
コナンは、あくまでも正体を隠し、小学生として過ごしている。
だが、蘭がピンチに陥った時は、コナンは身を挺して蘭を守ったり、
時には、「蝶ネクタイ型変声機」で新一の声で話して蘭に連絡を取ったりして、
コナンは陰に日向に蘭を見守っている。
蘭も、不思議な少年のコナンを頼りにするようになる。
こうして、コナンと蘭は、いつしか強い絆で結ばれて行くようになった。
<「殺人ラブコメ漫画」としての『名探偵コナン』②~灰原哀と江戸川コナン(工藤新一)の関係は?>
一方、江戸川コナンと灰原哀の関係は、どうなっているのであろうか?
灰原の登場の経緯は、前回と前々回の記事で詳しく書いたので、ここでは割愛するが、
灰原は元々、「黒の組織」の科学者であり、工藤新一を「幼児化」させた「毒薬」の開発者も灰原であった。
そんな灰原も、大切な姉を組織に殺された事により、組織に怒りを覚え、組織から脱走した。
そして自らが開発した「毒薬」を飲んだ灰原も「幼児化」し、その「幼児化」した姿でコナンの前に姿を現した。
当初、コナンは「毒薬」を開発していた灰原に激しい怒りを持っていたが、灰原の姉が殺されてしまったという「悲しい過去」を知り、灰原が背負う業の深さに思いを馳せるようになった。
「幼児化」した灰原は、正体を隠し、コナンや「少年探偵団」の面々と「同級生」として、小学生として過ごす事となるが、
当初、灰原はあまり喋らず、「超クール」な女の子であった。
何しろ、出自が出自なだけに、灰原の心は暗く鬱屈していた。
灰原は、あまりにも重く暗い過去を背負っていただけに、心から笑う事が出来なくなっていたのである。
そんな灰原に対し、「少年探偵団」はとても仲良く接した。
「ちょっと変わった子だな」
ぐらいは思ったかもしれないが、あくまでも「友達」として、灰原に接してくれていたのである。
やがて、灰原はコナンや「少年探偵団」のメンバー達と行動を共にし、
様々な事件を解決したり、一緒に危機を乗り越えて行った事で、徐々に心を開いて行く。
当初、冷たく素っ気なかった灰原も、いつしか、「少年探偵団」の前では、明るい表情を見せたりするようになり、
すっかりコナンや「少年探偵団」の仲間として、溶け込んで行くようになった。
その様子を見て、一番ホッとしていたのはコナンだったであろう。
では、コナンと灰原の関係の推移を見て行く事としよう。
コナンと灰原は、お互いの「正体」を知っている同士である。
コナンは「灰原哀」が彼女の偽名であると知りながら、いつも彼女の事を「灰原」と呼んでいるが、
灰原は、皆の前ではコナンの事を「江戸川君」と呼び、
コナンと2人きりの時は、「工藤君」という、彼の本名で呼んでいる。
コナンと灰原は、お互いの事情を知る者同士として、「相棒」のような間柄になるが、それは不思議な関係であった。
では、灰原はコナンの事を、どう思っているのであろうか?
灰原が登場した当初、こんな場面が有る。
「少年探偵団」の吉田歩美は、コナンの事が大好きであるが、ある時、歩美は灰原に対し、
「灰原さんって、何でそんなにコナン君の事がわかっちゃうの?…好きなの?コナン君の事…」
という質問をした。
それに対し、灰原は、
「安心して…。私、彼の事、そういう対象として見てないから…」
と、クールに答えていた。
それを聞いて、歩美は安心していたが、この頃は灰原は本当にコナンの事は「そういう対象」としては見ていなかったと思われる。
だが、灰原は「黒の組織」に追われる身であり、時として灰原の身に「黒の組織」の追っ手が迫り、灰原がピンチに陥る事が有る。
コナンは、その都度、命懸けで灰原を守り、灰原を危機から救っている。
灰原は、「私は、毒薬を作り、組織の犯罪に手を貸してしまった…。私は、普通に生きていてはいけない身なんだ…」という負い目を感じており、ピンチになると、自らの命を捨てるというか、投げやりになってしまう事が有る。
だが、灰原を命懸けで助けたコナンは、
「逃げるなよ、灰原…。自分の運命から逃げるんじゃねーぞ」
と言って、灰原を諭す。
こうして、「少年探偵団」の面々からは「友情」という絆を得た灰原は、
自らの危険も省みずに自分の命を助けてくれたコナンに対し、灰原は、いつしか特別な思いを抱くようになった。
一方、コナンはどうだったのかといえば、
毛利蘭や、蘭の友人・鈴木園子から、
「コナン君、歩美ちゃんと哀ちゃん、どっちが好きなの?」
などと冷やかされ、蘭から、
「ねえ、コナン君の好きな人、教えて?」
などと言われているが、コナンは心の中で、
「だから、オメーだっつーの…」
と言ったりしている。
あくまでも、コナン=新一が好きなのは蘭であり、灰原の事は「相棒」と思っているに過ぎない。
だが、灰原がコナンの事を好きになってしまっているような描写が、段々と増えて来る。
ある時、新一の母親・有希子から、コナンは、
「灰原さん、新ちゃんの事ばっかり見てたわよ?彼女、新ちゃんの事ばかり見つめてたわよ?…女の子が男の子を見つめる時は、その子の顔に何か付いてるか、その子に恋してるからに決まってるじゃない」
などと言われていた。
コナンは、「あの灰原が?まさかぁ…」と言って、取り合わない。
しまいには、「なあ灰原、オレの顔に何か付いてるか?」などと言って、灰原に「はぁ?」と言われる始末である。
そう、コナンは灰原の思いなど、全く気付いていない(?)のである。
<灰原哀と毛利蘭の関係~当初、蘭に苦手意識を持っていた灰原は…?>
灰原は、どう見てもコナンの事が好きになっているようである。
だが、灰原は決して、その思いを口に出す事が出来ない。
何故なら、コナン=新一の好きな人は、あくまでも毛利蘭である事を、灰原も良く知っているからである。
コナン=新一は、蘭の事で頭が一杯であり、他の子が入る余地は無い。
それを知っている灰原は、当初、蘭の事がとても苦手であった。
灰原と蘭が初めて出逢った当時、灰原はいつも蘭から逃げていた。
蘭が、阿笠博士の家に住んでいるという灰原哀という女の子の事を知り、挨拶に行った所、
灰原は、蘭を避けるように、パソコンで何やら作業(?)に没頭するフリをしたりしていた。
このように、蘭が自分の近くに来ると、灰原は蘭から逃げている。
「私、逃げてる…?冗談じゃないわ…」
蘭は心の中で、そんな事を言っているが、では何故こんなに灰原は蘭の事を避けているのであろうか?
それには、こんな理由が有った。
その後、暫く経った頃、コナンと阿笠博士や「少年探偵団」、そして灰原たちは海に遊びに行った。
そこには偶然、蘭も来ていたのだが、灰原は蘭の姿を見ると、蘭を避けるように、海にも入らず、浜辺でじっとしていた。
だが、そのため灰原は熱中症で倒れてしまう。
その灰原の異変に真っ先に気が付いたのが蘭である。
「今度からは、具合が悪くなったらちゃんと言ってね!哀ちゃん!!」
蘭は、明るく屈託ない調子で灰原に話しかけた。
だが、灰原は全く返事をしない。
そして、灰原はコナンや博士にこんな事を言った。
「相手はイルカ…。そう、海の人気者…。暗く冷たい海の底から逃げて来た意地の悪いサメなんかじゃ、とても歯が立たないでしょうね…」
そう、灰原は、太陽のように明るい蘭を、海の人気者・イルカに喩え、「日陰者」のように自分を思っている灰原は、自らを「サメ」に喩えた。
「彼女と私では、住んでいる世界が違うのよ…」
そんなコンプレックスも有り、灰原は蘭を避けていたのである。
そんな自分が、いくらコナン=新一の事を好きでも、蘭には敵いっこない…という切ない思いも、そこには込められていたであろう。
そんな風に、灰原は蘭の事に対し、一方的に苦手意識を持っていた。
だが、蘭はとても真っ直ぐな気性の人である。
この時、ある殺人事件が解決された後、蘭は犯人に対し、こんな事を言った。
「勇気って言葉は身を奮い立たせる正義の言葉…。人を殺す理由なんかに使っちゃダメですよ…」
灰原は、その言葉にハッとした。
灰原は蘭の言葉を聞き、とても感銘を受けたのである。
「勇気…。身を奮い立たせる勇気の言葉…」
心の中で、蘭の言葉を反芻した灰原は、勇気を振り絞って、蘭の所へ歩み寄った。
浜辺には、蘭と園子が佇んでいたが、灰原は蘭に対し手を差し伸べ、
「私の名前は灰原哀…。よろしくね…」
と言って、初めて自らの名を名乗った。
灰原は遂に蘭に心を開き、友達になりたいという気持ちを伝えた。
その言葉に、蘭もとても嬉しそうな様子であった。
こうして、灰原は様々な葛藤を乗り越え、遂に蘭と心を通わせた。
この場面は、「コナン」の物語の中でも特に美しく、素晴らしい場面であると私は思う。
青山剛昌という人は、こういう心の機微を描かせると天下一品である。
…という事で、『名探偵コナン』の面白さを理解するためには、
江戸川コナン(工藤新一)・毛利蘭・灰原哀という主要キャラクター達の関係性を把握しておく事が、何よりも重要である。
これを知っているのと知らないのでは、映画『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』の面白さも全然違って来ると言って良い。
というわけで、次回は、主要キャラクター達の関係性を踏まえた上で、映画『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』について、語らせて頂きたく思っている。
(つづく)