先日、私はこのブログで、サザンオールスターズの『死体置場でロマンスを』という楽曲を元に、「短編小説」を書いた。
『死体置場でロマンスを』は、1985(昭和60)年のサザンのアルバム『KAMAKURA』に収録されていた楽曲であるが、
歌詞がストーリー仕立てになっており、それが非常に面白く、一度聴いたら忘れられないインパクトが有った。
「いつか、この曲を元に、小説を書いてみたい」
と、ずっと思っていたが、遂に、このブログで、それをやってしまったわけである。
という事で、今回は『死体置場でロマンスを』に引き続き、
「サザンの楽曲 勝手に小説化」シリーズ(?)の第2弾として、
1984(昭和59)年のサザンのアルバム『人気者で行こう』に収録されている、
『メリケン情緒は涙のカラー』という楽曲を元に、「短編小説」を書いてみる事としたい。
この曲もストーリー仕立てになっているが、とてもカッコ良く、素晴らしい楽曲であり、私も大好きな曲である。
それを、頼まれもしないのに、勝手に小説化させて頂く。
それでは、「原案:桑田佳祐」の『メリケン情緒は涙のカラー』の物語を、ご覧頂こう。
<第1章・『ニューヨークの女』>
私は、かつて外交官を務めていた。
1930年代、日本でいえば昭和初期の時代、私は仕事で、アメリカのニューヨークに滞在していた。
ニューヨークといえば、当時から既に「摩天楼」が立ち並ぶ、世界有数の大都市として知られていたが、
ニューヨークには多種多様な人種の人達が居り、活気に満ち溢れていたが、
私もニューヨークの街の喧騒が大好きであった。
当時の私は、仕事柄、沢山の国の人達と出逢い、情報交換をしていたが、
ある日の事、仕事で知り合った、さる上流階級の婦人から、私はニューヨーク州の南東に浮かぶ、ロングアイランド島の豪邸で開かれる、パーティーに招かれた。
正直言って、私はパーティーの場などは苦手だったが、
「これも仕事の内だ」
と割り切って、私はそのパーティーへと出掛けて行った。
パーティーには、上流階級の人だけではなく、様々な職種の人達も来ており、皆、それぞれ楽しそうに歓談していたが、
それらの人達へ、いちいち挨拶回りをしていた私は、少し休むために、部屋の隅の椅子へ腰を下ろした。
そして、私が「あの女」と出逢ったのは、そんな時だった。
私が、椅子に腰掛けながら、ふとパーティー会場を見回してみると、
ふと、1人の女に目が留まった。
その女は、私から見ると、ハリウッド映画の大女優として知られた、メアリー・ピックフォードに、とても良く似ていた。
つまり、かなりの美人だったが、彼女もまた、私と同じく、所在なさそうに1人で佇み、右手にグラスを持ち、何処か退屈しているように見えた。
そして、私と彼女は、ふと目が合ったが、彼女は私を見て、ニッコリと微笑んで見せた。
私も、いつも仕事でそうしているように、軽く会釈をして、愛想笑いを返した。
すると、その女は私の方に近付いて来て、
「こんばんは」
と、挨拶をして来たので、私も、
「こんばんは」
と挨拶を返した。
「こういうパーティーには、よくいらっしゃるのですか?」
私が尋ねると、彼女は首を振って、
「いいえ、初めてよ」
と答えた。
「ねえ、ここは暑いわ。少し外で休みましょう」
彼女は、そう言って、私を促したが、私も彼女に言われるまま、彼女と一緒に部屋の外へ出た。
その夜のロングアイランド島の空には、とても美しい月が出ていた。
私達は、邸の庭を歩きながら、こんな会話を交わした。
「貴方は、ああいうパーティーには、よくいらっしゃるの?」
「いいえ、私も初めて来ました」
「そうなの。貴方、お仕事は何をしていらっしゃるの?」
「外交官です。今日は、仕事で知り合った方に招かれまして…」
「そうだったのね」
そこで少し会話が途切れたが、彼女はふと、思い付いたように、
「ねえ。貴方はニューヨークに来て、どれぐらい経つの?」
と聞いてきたので、私は、
「半年ぐらいですね」
と答えた。
「そう。それじゃあ、ニューヨークの暮らしにも慣れたのかしら?」
「ええ、まあ…」
彼女に聞かれ、私はニューヨークでの暮らしにも、少しずつ慣れて来たと答えたが、
そこで彼女は意外な事を口にした。
「貴方、お芝居には興味は有る?」
私は、そういう話題になるとは思っておらず、少しビックリしたが、
「芝居ですか?まあ、それなりには…」
と答えたところ、彼女は、
「そう。それなら、今度、私はブロードウェイの舞台に立つので、良かったら見に来ない?」
と言って来たのである。
どうやら、彼女は本当に「女優」だったらしい。
「ブロードウェイの舞台ですか!?それは凄いですね」
私は素直に感心し、
「そういう事なら、是非、見に行かせて頂きます」
と、答えていた。
その返事を聞いて、彼女は、パッと表情を輝かせ、とても嬉しそうな顔をした。
「有り難う!とても嬉しいわ」
こうして、トントン拍子に話は進み、私は彼女が出演するという、ブロードウェイの舞台を見に行く約束をしてしまったが、
彼女は、「今度、舞台を見に来てくれたら、受付に言ってくれれば、タダで入っても良い」とまで言ってくれたので、これは断るわけにもいかないと、私は思ったのである。
しかし、それよりも何よりも、彼女は私の「タイプ」だった、というのが、私が彼女の舞台を見に行くと約束してしまった、最大の要因である。
「それじゃあ、今度、劇場でね!」
私は、彼女から、舞台が行われる日付や、会場などの詳細を聞き、
「必ず、見に行きます」
と、約束した。
そして、私は彼女に、
「貴方の、お名前を聞いてませんでしたね」
と言ったところ、彼女は、
「あら、ごめんなさい。まだ言ってなかったわね。私の名前はエリーよ」
と、自分の名前を教えてくれた。
こうして、私はその女…「エリー」と出逢ったが、今にして思えば、この「エリー」という名前は、果たして本当の名前だったのかどうか…。
しかし、ともかく、彼女の名前は「エリー」という事で、話を進める事とする。
<第2章・『ブロードウェイの女』>
ロングアイランド島でのパーティーから少し経った頃、
「エリー」が出演するという、ブロードウェイの舞台の日がやって来た。
普段、仕事が忙しく、私は芝居見物などをしている暇は無かったが、
初めてブロードウェイを訪れた私は、その煌びやかさ、華やかさに圧倒されてしまった。
ブロードウェイは、昔も今も「芝居の街」だが、1930年代、ブロードウェイのミュージカルは、全盛期を迎えており、
どの劇場も、連日、超満員の観客で埋め尽くされていた。
私は、彼女が出演する公演が行われる劇場を訪れ、
受付で、「エリーさんにお招き頂いている」という旨を伝えた。
その時、私は実は、「エリー」に渡すために、赤い薔薇の花束を持っていた。
「これを、エリーさんに渡して頂けますか?」
私は、受付の人にそう伝えたところ、受付の人が、中の係員に一言二言、言葉を交わすと、
「楽屋にご案内しますので、エリーさんに直接お渡しして下さい」
と、私は係員に言われたのである。
私は驚いたが、せっかくの機会という事もあり、私は係員に導かれ、劇場の裏口から、楽屋の方へと通された。
「こちらに、いらっしゃいます」
係員にそう言われ、私は楽屋の部屋をノックすると、中から、
「どうぞ」
という返事が返って来たので、私はドアを開け、中へと入って行った。
楽屋では、「エリー」が大きな鏡を見ながら、舞台のためのメイクをしていたが、鏡の中に、花束を持った私の姿を見ると、パッと振り向き、
「来て下さったのね!とても嬉しいわ!!」
と、顔を輝かせた。
「舞台、頑張って下さい!!」
私は「エリー」に花束を渡すと、「エリー」は、
「有り難う!!」
と言って、とびっきりの笑顔を見せた。
彼女に喜んでもらえて、私としても、花束を持って行った甲斐が有ったというものである。
「舞台、頑張るから、見守っていてね」
「エリー」にそう言われた私は、楽屋を後にすると、客席に着いた。
客席は、既に超満員であり、皆、今か今かと開演を待っていた。
そして、「エリー」が出演する舞台が幕を開けたが、
「エリー」が出演していた舞台は、後に、映画『巨星ジーグフェルド』で描かれたような、絢爛豪華な物であり、
歌あり、踊りありの、とても華やかなショーだった。
「エリー」の役どころは、「準主役」ぐらいの、重要な役であり、舞台上の「エリー」は、とても生き生きとした様子で、輝いていた。
私は、「エリー」の姿に、すっかり見惚れてしまったが、それと同時に、
「アメリカっていうのは、凄い国だな…」
と、思ったものである。
こんな絢爛豪華な舞台が、毎日、ブロードウェイの沢山の劇場で開かれているというのは、考えてみれば、本当に物凄い事である。
こうして、舞台の幕が閉じると、観客席からは万雷の拍手が起こった。
気が付くと、私も席から立ち上がり、力いっぱい拍手をしていたが、とても素晴らしい舞台に、私はとても感動していた。
カーテンコールで、出演者一同が姿を現した時、「エリー」は客席に私の姿を見付け、笑顔で私に手を振って来た。
この時、私は「エリー」の事を、すっかり好きになっている事に気付いていた。
<第3章・『白い恋人達』>
舞台が跳ねた後、私は再び、楽屋に「エリー」を訪ねた。
「今日は、来てくれて本当に有り難う!!」
「エリー」は頬を上気させ、私に笑顔を見せた。
「エリー、本当に素晴らしい舞台だったよ」
私は、心の底からそう思い、「エリー」の舞台がいかに素晴らしかったかを伝えた。
「エリー」は、大きな舞台を成功させ、幸せいっぱいの様子であった。
そして、この時、私は我ながら呆れるぐらいの大胆さ(?)で、
「エリー、舞台の成功を祝って、今度一緒に食事に行こう」
と、「エリー」を誘ってみたところ、「エリー」は少しビックリした顔をしていたが、
「いいわよ!」
と、返事をしてくれたのであった。
こうして、舞台を見に行った勢いに任せ(?)、私は「エリー」を誘い、
それから暫くした後、彼女と一緒にディナーに行った。
「エリー」は、スターを夢見て、田舎からニューヨークに出て来て、日夜レッスンに励み、
そして、この度、ようやく大きな役を得る事が出来たという事を、熱っぽく語っていた。
私は、今まさに夢を叶えようとしている「エリー」の事が、とても眩しく見えた。
「貴方は、どうして外交官になったの?」
「エリー」にそう聞かれた私は、
「色々な国に行って、もっと広い世界を見たかったから」
と答えたが、
「そのお陰で、こうして君と知り合えたのだから、本当に良かった」
と、思わず言ってしまっていた。
その言葉を聞き、「エリー」は顔を赤らめた。
その後、私と「エリー」はデートを重ね、恋人同士となった。
その間、「エリー」は女優として活躍を続け、私も外交官として忙しく働いていたが、
気が付くと、ニューヨークは冬になり、セントラルパークは雪景色となっていた。
思えば、私がニューヨークに来たのは、ちょうど1年前の冬であり、それから1年が経っていたのである。
そして、そんなある日の事、私に「辞令」が届いた。それは、
「ニューヨークでの勤務を終え、日本に戻って来るように」
との内容であった。
私は、「エリー」にその事を告げると、彼女はとても悲しそうな顔をした。
「そんな…。せっかく、こんなに親しくなれたのに…」
彼女は俯き、涙を堪えていた。
しかし、私としても、これはどうしようも無い事であった。
暫く考え込んだ後、「エリー」は、こんな事を言った。
「ねえ…。今度、私も日本に行ってみたいわ!!」
「エリー」にそう言われ、私は、
「わかった。日本に帰って、落ち着いたら、必ず手紙を書くから。そうしたら日本に来てくれないか」
と言うと、「エリー」は、
「わかったわ。必ず、日本に行くわ!!」
と、答えた。
こうして、私は後ろ髪を引かれる思いで、日本に帰ったが、
「エリー」との約束通り、私は一旦、落ち着くと、
「迎えに行くから、横浜に来て欲しい」
という手紙を出した。
それから、程なくして、「エリー」から返事が来た。
「必ず行くから、横浜で待っていて欲しい」
手紙はそう書いてあった。
こうして、私は横浜の港で、「エリー」を迎える事となった。
<第4章・『ヨコハマの女』>
ニューヨークで、一旦「エリー」と別れてから、暫くして後、
「エリー」は船に乗って、日本へとやって来た。
私は、横浜港で「エリー」を迎えたが、船上の「エリー」は私の姿を見付けると、力いっぱい、手を振って来た。
入国手続きを終え、「エリー」は日本に上陸し、私の方へ駆け寄って来た。
「逢いたかったわ!!」
「エリー」は、私に抱き着いて来たが、周りの日本人達が、その様子を見てビックリしていた。
その頃の日本では、人前で男女が抱き合うなど、考えられないような時代だったのだから、仕方が無い。
それはともかく、私は「エリー」の長旅の疲れを労い、
「宿を取ってあるから、案内するよ」
と言って、「エリー」を宿泊先のホテルへと連れて行った。
「エリー」の宿泊先は、当時、横浜に有った、
「BUND HOTEL(バンド・ホテル)」という所だったが、「エリー」は、
「とても素敵な所ね」
と言っていた。
どうやら、彼女はこのホテルを気に入ってくれたようである。
「エリー、今日はゆっくり休んだら、明日、横浜の街を案内するよ。何処に行きたい?」
私がそう尋ねると、「エリー」は少し考えてから、
「チャイナ・タウンを見たいわ。それから、日本のお芝居を見てみたい!!」
と答えた。
「わかった。それじゃあ、明日、案内するからね」
私は「エリー」にそう約束した。
「エリー」は、流石は女優なだけあり、日本の芝居に興味が有るようだった。
翌日、私は「エリー」を案内し、横浜の「チャイナ・タウン」、即ち「中華街」に行った。
「エリー」は、物珍しそうに、キョロキョロと辺りを見回していたが、
アメリカ人の彼女にとって、「中華街」はとても珍しいのだろうと、私は思った。
私と「エリー」は、「中華街」に有る、1つの店に入り、一緒に食事をした。
「エリーは、中華料理は初めてかい?」
「いいえ。前に食べた事が有るわ」
私達は、そんな会話を交わした。
私は、「エリー」を山下公園の「薔薇園」にも案内した。
「エリー」は、薔薇の花がとても好きな女性だった。
沢山の薔薇を見て、彼女はとても喜んでいたが、
「薔薇って、とても美しいけど、棘が有るから、気を付けないといけないわね」
と、「エリー」は唐突に、そんな事も言っていた。
今にして思えば、その時、「エリー」は何か私に伝えようとしていたのだろうか…。
<第5章・『芝居小屋にて』>
その後、私は「エリー」のたっての希望により、
当時、伊勢佐木町界隈に沢山有った、芝居小屋が立ち並ぶ辺りへと、彼女を連れて行った。
当時の伊勢佐木町は、東京・浅草と共に、沢山の映画館や芝居小屋が有る、「芝居の街」だった。
「ブロードウェイに比べたら、見劣りするかもしれないけど…」
私は、そんな事を言ったが、「エリー」は、
「そんな事ないわ。活気が有って、とても楽しい所ね」
と言って、その雰囲気を楽しんでいる様子だった。
私達は、伊勢佐木町の芝居小屋の1つに入った。
ちょうど、その日は、当時、浅草で大人気だった、エノケン(榎本健一)・ロッパ(古川ロッパ)の芝居が、横浜に「遠征」に来ていたのであった。
当代きっての人気者、エノケン・ロッパの「共演」という事も有り、芝居は大盛況だったが、私は「エリー」のために、あらかじめチケットを取っておいたのである。
私と「エリー」は、隣同士に座り、芝居見物をしたが、面白おかしいエノケン・ロッパの芝居を見て、「エリー」も大笑いしていた。
その後、芝居の幕間の時に、「エリー」は私に、
「ちょっと、化粧室に行ってくるわ…」
と告げて、席を立った。
「ああ。行っておいで」
私はそう答えた。
しかし、その後、「エリー」はいつまで経っても、戻っては来なかったのである。
舞台の後半が始まっても、「エリー」は、席に戻って来なかった。
「エリー、どうしちゃったんだろう…」
私は、「エリー」の事が気になり、その内、舞台の内容も頭に入らなくなってしまった。
やがて舞台が終わったが、とうとう「エリー」は席に戻らなかった。
「エリー、どうしたんだ?」
私は席を立ち、「エリー」を探しに行ったが、芝居小屋の何処にも、「エリー」の姿は無かった。
「すみません、さっき、外国人の女の人が、ここに来ませんでしたか?」
私は、入口の係員にそう聞くと、その係の人は、
「ええ。さっき、いらっしゃいましたよ。外に出て行かれました」
と答えたのである。
「何だって!?」
私は、ビックリしてしまった。
「エリー」は、私に何も告げず、芝居小屋から出て行ってしまったという。
「それで、彼女は何処へ行きました!?」
「さあ…」
係員に聞いても、サッパリ要領を得なかった。
私は、血相を変えて、外へ飛び出した。
<第6章・『夜霧のチャイナ・タウン』>
「エリー!!何処へ行ったんだ!?」
私は、突然、プッツリと姿を消してしまった「エリー」を、必死に探し回った。
彼女が何処へ行ってしまったのか、私には皆目、見当が付かなかったが、
私は、先程「エリー」と共に訪れた、「中華街」に行ってみた。
「中華街」には夜霧が立ち込めていたが、私は「エリー」の名を呼び、駆け回っていた。
ふと気が付くと、中華街の中ほど辺りに、何とも怪しげな扉が有る建物が有った。
そこは、私も噂に聞いていたが、中は「アヘン窟」であると、囁かれている場所だった。
入口には、数人の中国人の男がたむろしていたが、私は、彼らに、
「アメリカ人の女を見かけなかったか?」
と、聞いた。
最初は、「さあ、知らねえな」というような返事だったが、私が、なおも必死に食い下がり、
「メアリー・ピックフォードに良く似た美人の女だ。本当に見掛けなかったか!?」
と聞いてみたところ、中国人の内の1人が、
「ああ。さっき、ここを通ったぜ」
と答えた。私は、
「本当か!?それで、彼女は何処へ向かった!?」
と、急き込んで聞くと、男は肩をすくめ、
「さあな」
と答えた。
どうやら、「エリー」はこの道を通ったらしい。
しかし、何故、彼女が、こんな怪しげな場所を通ったのだろうか…。
私は、なおも、腑に落ちなかった。
<第7章・『黒い薔薇』>
散々、辺りを探し回ったが、結局、「エリー」の行方は、手掛かりさえ掴めなかった。
疲れ切った私は、彼女が宿泊する「バンド・ホテル」の部屋へと帰って来た。
すると、私はそこで信じられない物を目にした。
部屋のバスタブを見ると、そこには一輪の黒い薔薇が置いてあったのである。
「何だ、これは…?」
さっきまで、こんな物は無かった筈である。
この黒い薔薇は、一体、何を意味するのであろうか?
それが意味する所が全くわからないだけに、なおの事、不気味であった。
ふと、ホテルの部屋の窓の外を見ると、
国籍不明の巨大なタンカーの姿が、横浜の港の灯に揺れていた。
「あんな船、停まってたか…?」
私は、首を傾げた。
少なくとも、「エリー」を横浜に出迎えてからは、あんな船は確かに、港には無かった。
先程の黒い薔薇と言い、「エリー」が消えてしまった事と、何か関連が有るのであろうか?
私は考え込んでしまった。
<終章・『メリケン情緒は涙のカラー』>
すると、部屋の扉がノックされた。
私は、すぐに部屋の扉を開けると、そこにはホテルのボーイが立っていた。
「これを、お預かりしております…」
彼は、手に電報を持っていた。
私は、それを受け取ると、そこには、こう書かれていた。
「サンギョウドウロニテマテ…『産業道路にて待て』って事か!?」
横浜の近くに、「産業道路」という名で知られるバイパスが通っているが、
このメッセージを書いた人物は、私をそこに呼び出したという事である。
「もしかしたら、エリーはそこに居るのか…?」
私は、そこに行くべきか、それとも、「エリー」の帰りを待つべきか、思い悩んでいた。
なお、この時、私は気が付いていなかったが、黒い薔薇の花言葉は、
「決して滅びる事の無い愛」
を意味するという。
果たして、これは「エリー」からのメッセージなのだろうか…。
…という事であるが、
この「短編小説」の元になった、サザンオールスターズの、
『メリケン情緒は涙のカラー』の歌詞を、ここでご紹介させて頂こう。
なお、桑田佳祐の自筆の歌詞カードが収められているので、そちらも、併せてご紹介させて頂く。
『メリケン情緒は涙のカラー』
作詞・作曲:桑田佳祐
唄:サザンオールスターズ
メリケン情緒は涙のColor(カラー)Oh,no
翔びかう妙な叫びが Yokohamaに
エノケン・ロッパの芝居途中どうして Oh,no
彼女の姿が消える??
※夜霧のChina townを中ほど行くあたり
吐きだめ たなびく 魔の扉 Oh,oh,oh.
I belong to you, my iife is SORA-MIYO
今ここにいない 打つ手も無い
悲しく Lonely man
BUND-HOTEL(バンド・ホテル)のバスタブにゃ 黒い薔薇
殺意告げる message on the floor
漂うムードは 胸元 heavy, Oh no
行方も手がかりさえ見つからず
なぜか国籍不明の Big Tanker(ビッグ・タンカー)Oh, no
港の灯に揺れている
※山手の裏町 いばらの地の果てに
噂のシンジケート 謎の影 Oh, oh, oh.
I belong to you, my iife is SORA-MIYO
頻闇惑う命まで
今宵も Lonely man
”産業道路にて待て"との連絡は
夢をつなぐ message from the man
※※良くない予感を脱ぎ捨てて
彼女の帰りを待つの
メリケン情緒は涙のColor(カラー)Oh,no
彼女の姿が消える