三谷幸喜と『鎌倉殿の13人』③ ~『古畑任三郎 VS SMAP』と、映画監督・三谷幸喜のデビュー | 頑張れ!法政野球部 ~法政大学野球部と東京六大学野球について語るブログ~

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今年(2022年)のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は、大河ドラマ史上に残る大傑作である。

そして、『鎌倉殿の13人』の脚本を書いているのが、当代一の脚本家・三谷幸喜であるが、

『鎌倉殿の13人』が、毎回、視聴者をテレビの前に釘付けにしているのは、間違いなく、三谷幸喜の力量の為せる業であろう。

 

 

さて、『古畑任三郎』シリーズの脚本を手掛け、一躍、大人気脚本家となった三谷幸喜であるが、

1999(平成11)年、その『古畑任三郎』のスペシャルドラマとして、SMAPが犯人役として登場した、

『古畑任三郎 VS SMAP』が放送された。

という事で、今回の「三谷幸喜ヒストリー」は、伝説の『古畑任三郎 VS SMAP』と、その前後の時代を描く。

この時代は、「映画監督・三谷幸喜」がデビューした時代でもあった。

それでは、ご覧頂こう。

 

<1996(平成8)年の『古畑任三郎』第2シリーズ・第4話に木村拓哉(SMAP)が登場~木村拓哉は、「SMAP×SMAP」で「古畑拓三郎」を演じ、田村正和も絶賛!?>

 

 

 

1996(平成8)年1~3月にかけて、フジテレビで放送された、『古畑任三郎』第2シリーズの第4話(1996年1月31日放送)で、SMAP木村拓哉が、犯人役として登場した。

木村拓哉といえば、当時、主演ドラマが悉く大ヒットするという、当代きっての大スターだったが、

その「キムタク」が、「古畑」に登場するという事で、大きな注目を集めていた。

この「古畑任三郎VS木村拓哉」は、終始、緊張感溢れるストーリーだったが、

「田村正和VS木村拓哉」という、天下の二枚目同士の対決でもあり、2人の演技合戦でも注目されていた。

 

 

 

そのクライマックスで、こんな場面が有る。

木村拓哉が演じる犯人は、大学の研究室の助手であるが、

「好きな時計台が見えなくなったから」

という、実に身勝手な理由で、時計台の前に立てられた観覧車を爆破しようとしていた。

そして、観覧車に爆弾を仕掛けていたところを警備員に見られてしまい、キムタクはその警備員を撲殺してしまう。

古畑は、見事な推理力で、キムタクの犯行を暴いたが、危うく爆破されそうだった観覧車には、今泉(西村雅彦)も乗っていた。

その後、観覧車の爆破は、寸前の所で阻止されたのだが、古畑は、

「何故、あの観覧車を爆破しようとしたのですか?」

と、キムタクに聞いたところ、前述の答えが返って来た。

キムタクから、前述の身勝手な「動機」を聞かされた古畑は、一瞬、唖然とした表情をした。

その後、古畑は、彼にしては珍しく、怒りを露わにして、キムタクにビンタを食らわせた。

いつも冷静沈着で、クールで紳士的な物腰の古畑にしては、とても珍しいシーンであり、私も衝撃を受けたが、

大事な相棒である今泉がそんな理由で爆殺されそうになったという事に、古畑も、こみ上げる怒りを抑えられなかったのかもしれない。

という事で、

「古畑の、キムタクへのビンタ」

は、古畑シリーズ屈指の、伝説の名場面として、今も語り継がれている。

 

 

 

木村拓哉の、「古畑」シリーズへの登場は、思わぬ「余波」をもたらした。

SMAPの看板番組である、フジテレビの「SMAP×SMAP」で、

木村拓哉は、前述の「古畑」シリーズへの出演の後、古畑任三郎の物真似で、「古畑拓三郎」なるキャラクターに扮し、「古畑」のパロディをやるようになったのである。

古畑任三郎は、実に特徴の有るキャラクターであり、色々な人が物真似をしていたが、キムタクによる古畑の物真似は、本当に絶品であった。

そして、古畑任三郎を演じる田村正和も、キムタク(木村拓哉)による古畑拓三郎を絶賛し、

「木村君の古畑の物真似は素晴らしい。僕の後釜を、彼がやれば良いんじゃないかな」

とまで言っていたそうである。

なお、「古畑拓三郎」では、草彅剛が今泉の役を演じ、これまた良い味を出していた。

 

<1997(平成9)年4月~6月…フジテレビ『総理と呼ばないで』放送~視聴率は低迷し、三谷幸喜は「酷評」されるが…?>

 

 

 

さて、『古畑任三郎』シリーズを大当たりさせ、一躍、「国民的脚本家」となった、三谷幸喜であるが、

その三谷が、「古畑」シリーズに続き、フジテレビの連続ドラマの脚本を手掛けたのが、

田村正和鈴木保奈美が主演した、『総理と呼ばないで』である。

『総理と呼ばないで』では、田村正和が内閣総理大臣、鈴木保奈美が総理夫人を演じ、その他、豪華キャストが脇を固めているが、鈴木保奈美は「古畑」シリーズにゲストで出演し、大好評を博していたため、今度は「ファーストレディー」役として、田村正和演じる総理大臣との共演を果たした。

 

 

『総理と呼ばないで』の主人公で、田村正和が演じる内閣総理大臣は、支持率が低迷し、国民には全く人気が無く、窮地に陥っている。

そして、この総理大臣は、作中では常に「総理」と呼ばれ、名前は明かされない(※基本的には、作中では、登場人物の名前は明かされず、それぞれ役職名だけで呼ばれている)。

ファーストレディーである鈴木保奈美にも、家庭では「総理」と呼ばれているが、その夫婦仲も冷え切っており、「総理」は公私共に大変な状況だった。

そんな「総理」の苦悩と奮闘が、首相秘書官(西村雅彦)、内閣官房長官(筒井道隆)、副総理(藤村俊二)、首相官邸のメイド(鶴田真由)、総理令嬢(佐藤藍子)らの、個性溢れるキャストと共に描かれている。

なお、総理夫人の学生時代の友人であり、官邸事務所秘書係主任を務める戸田恵子が、良い味を出しているが、

『アンパンマン』の声優として有名な戸田恵子は、実写での演技力も高く評価され、この後、三谷作品には数多く出演する事となる。

 

 

という事で、『総理と呼ばないで』は、三谷幸喜にとって、かなりの意欲作だったのだが、

視聴率は、初回こそ22.6%を記録したものの、それから徐々に視聴率は低下し、

遂には、第7話で9.3%にまで落ちてしまった。

『総理と呼ばないで』は、三谷お得意の「舞台劇」のような話だったのだが、

「『総理と呼ばないで』は、あまり面白くない。動きが少なく、キャストの良さも活かされていない」

などと、「酷評」されてしまった。

これには三谷もショックを受け、

「一時は、もう脚本を書くのはやめようと思った」

とまで、思い詰めてしまったという。

『古畑任三郎』シリーズの視聴者が、その流れで『総理と呼ばないで』を見てみたところ、その期待を裏切られたという事かもしれないが、今、改めて見返してみると、『総理と呼ばないで』も、なかなか面白い作品である。

そして、『総理と呼ばないで』がリアルタイムで放送されていた頃、後半はかなり視聴率を盛り返し、最終回(第11話)では、視聴率は18.9%まで上昇していた。

やはり、『総理と呼ばないで』というドラマの面白さが伝わる人には、ちゃんと伝わっていたという事であろう。

 

<1997(平成9)年11月…三谷幸喜の初監督作品、映画『ラヂオの時間』公開~「東京サンシャインボーイズ」の舞台劇が映画化され、大好評を博す>

 

 

 

『総理と呼ばないで』で、視聴者からの反応が今一つだった事により、

一時は「脚本家廃業」まで考えていた三谷幸喜であるが、

そんな三谷の起死回生の作品となったのが、1997(平成9)年に公開された、映画『ラヂオの時間』である。

三谷幸喜は、1993(平成5)年に、フジテレビのドラマ『振り返れば奴がいる』の脚本を書いた時に、その内容が大幅に改変されてしまうという、苦い経験が有ったが、

その時の経験を元に、三谷が主宰する劇団「東京サンシャインボーイズ」で、

「当初の脚本から、メチャクチャに改変され、スタッフや出演者達が右往左往しながら進んで行く、生放送のラジオドラマ」

という内容の舞台劇『ラヂオの時間』が、同年(1993年)に上演された。

その『ラヂオの時間』は、舞台劇の名脚本家・三谷幸喜の素晴らしさが遺憾なく発揮された傑作であるが、

4年後の1997(平成9)年、今度は三谷幸喜が初めて映画監督を務め、

「三谷幸喜脚本・監督」

として、映画『ラヂオの時間』が製作・公開されたのである。

 

 

 

 

映画『ラヂオの時間』は、平凡な主婦だった鈴木京香が脚本を書いた、『運命の女』というタイトルの、生放送のラジオドラマの舞台裏を描いた作品であるが、

プロデューサーの思惑や、出演者達の勝手なアドリブにより、当初の脚本からはメチャクチャに改変されたまま、

「結末がどうなるのか、誰にもわからない」

という状態で、ラジオドラマは、どんどん進行して行ってしまうという、抱腹絶倒のコメディである。

そして、前述の鈴木京香の他、ディレクター・唐沢寿明、プロデューサー・西村雅彦、主演女優・戸田恵子や、井上順・細川俊之らの個性豊かな登場人物や、小林隆・伊藤俊人などの「三谷組」のお馴染みのメンバー達が、右往左往しながらも、何とか生放送のラジオドラマを成立させようと、奮闘して行く。

という事で、三谷幸喜の初監督作品となった、映画『ラヂオの時間』は、各賞を総なめにするなど、高く評価され、ここに、

「映画監督・三谷幸喜」

は、華々しくデビューを飾った。

以後、三谷作品は映画の世界でも、次々に話題作・ヒット作を世に送り出して行く事となる。

 

<1998(平成10)年7~9月…フジテレビのドラマ『今夜、宇宙の片隅で』放送~ビリー・ワイルダー監督の名作映画『アパートの鍵貸します』を下敷きにした、ロマンチック・コメディ~残念ながら視聴率は低迷>

 

 

 

 

1998(平成10)年7月~9月、フジテレビで『今夜、宇宙の片隅で』という連続ドラマが放送された。

『今夜、宇宙の片隅で』は、三谷幸喜が脚本を書いたロマンチック・コメディであり、

飯島直子・石橋貴明・西村雅彦の3人が主演を務めているが、ニューヨークを舞台に、この3人の奇妙な「三角関係」が綴られた、ラブ・ストーリーである。

とてもお洒落で、ロマンチックな物語であり、三谷幸喜としても、かなり力を入れて書いた作品だったという。

 

 

 

 

 

なお、『今夜、宇宙の片隅で』は、三谷幸喜が敬愛する映画監督、ビリー・ワイルダー監督による、

1960(昭和35)年の映画『アパートの鍵貸します』を下敷きにしているとの事だが、

『アパートの鍵貸します』は、一言で言えば「サラリーマンとOLの社内恋愛の物語」である。

冴えないサラリーマンであるジャック・レモンが恋焦がれているOLが、シャーリー・マクレーンであり、

実は、そのシャーリー・マクレーンは、ジャック・レモンの上司の男と、不倫の恋をしていた。

ジャック・レモンは、その事を知り、一旦は身を引こうとするが、不倫の恋に破れ、身も心も傷付いていたシャーリー・マクレーンのために、献身的に尽くそうとする…というような話であり、今見ても非常に面白い。

いかにもビリー・ワイルダー監督らしく、

「とてもお洒落で、大人なラブ・ストーリー」

であり、三谷としても、この作品には、かなり憧れていたのではないだろうか。

 

 

 

 

そして、三谷幸喜が、

「『アパートの鍵貸します』のような作品を書いてみたい!!」

と、かなり意欲を燃やして書いたのが、『今夜、宇宙の片隅で』だったのである。

三谷としては、初めて「ロマンチック・コメディ」に挑戦したという事になるが、

敬愛するビリー・ワイルダー監督作品のように、洗練された、お洒落なラブ・ロマンスを作り上げようと、三谷も気合いが入っていた。

 

 

 

『今夜、宇宙の片隅で』は、前述の通り、飯島直子・石橋貴明・西村雅彦の3人による、

奇妙な「三角関係」がテーマであり、この3人の関係が、微妙な緊張感を孕みながらも進んで行くが、

3人の心情が、とても丁寧に描かれており、非常に面白い作品だった。

「一体、この3人の関係は、どうなって行くのか!?」

という事で、毎回、視聴者を釘付けにしたが、残念ながら、視聴率は平均11.5%と言う、今一つの結果に終わってしまった。

渾身の力作とも言うべき作品の視聴率が「低迷」してしまった事により、三谷は民放の連続ドラマの脚本を書く意欲を失ってしまったようだが、

『今夜、宇宙の片隅で』という作品自体の出来栄えは素晴らしく、もっと評価されて良いドラマである。

 

<1999(平成11)年1月3日…伝説のスペシャル・ドラマ『古畑任三郎 VS SMAP』が放送~孤児院出身のスーパーアイドル・SMAPと、古畑任三郎の対決を描く>

 

 

 

 

 

1999(平成11)年1月3日、新春スペシャルドラマとして、

『古畑任三郎 VS SMAP』が放送された。

あの『古畑任三郎』の犯人役として、SMAPの5人が、SMAP「本人」として登場するという事で、大きな注目を集めていたが、

このドラマにおけるSMAP(中居正広・木村拓哉・稲垣吾郎・草彅剛・香取慎吾)は、全員、孤児院出身という設定であった。

そして、SMAPのメンバーの1人、草彅剛が、彼の暗い過去を知る、卑劣な男(宇梶剛士)によって恐喝されている事を知り、草彅剛のために、メンバー達が協力して、SMAP全員の手によって、その恐喝犯を殺害してしまうのである。

 

 

 

 

当代一の人気グループ、SMAPが、メンバーを守るためとはいえ、「殺人」を犯してしまうという、かなり衝撃的な内容であり、三谷も、かなり気を遣って、「やむにやまれぬ理由で、SMAPが殺人を犯した」というストーリーの脚本を書いているが、

「古畑任三郎 VS SMAP」

という、ビッグ・スター同士の共演は大きな話題を呼び、何と視聴率32.3%を記録している。

そして、SMAPを孤児院時代から知っており、彼らをずっと支えて来た女性マネージャー役として、戸田恵子が登場しているが、最後の最後までSMAPのメンバー達を信じていた戸田恵子は、かなり印象深いキャラクターであり、物語に深みを与えている。

なお、『古畑任三郎 VS SMAP』では、有能な巡査・西園寺守(石井正則)が初登場し、この後、放送される事となる、『古畑任三郎』第3シリーズでも、西園寺守はレギュラー出演している。

 

<1999(平成11)年4月~6月…『古畑任三郎』第3シリーズ放送~平均視聴率25.1の大ヒットを記録~「三谷幸喜の代表作は、古畑任三郎」という事を改めて示す>

 

 

さてさて、前述の『古畑任三郎 VS SMAP』が高視聴率を記録し、

その後、1999(平成11)年4月~6月にかけて、『古畑任三郎』第3シリーズが放送された。

古畑任三郎(田村正和)・今泉慎太郎(西村雅彦)という、いつもの「相棒」に加え、

今泉よりも、かなり優秀な西園寺守(石井正則)が加わった事により、古畑の実質的な「相棒」は、西園寺に取って替わられてしまった。

そのため、今泉が単なる「道化役」になってしまったというのは、正直言って残念だったが、

それでも、3年振りに「古畑」が連続ドラマとして放送されるという事で、「古畑」ファンは大喜びであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでは、1999(平成11)年4月~6月に放送された、

『古畑任三郎』第3シリーズの、各エピソードのタイトルと犯人役を、ご紹介させて頂く。

いずれも豪華ゲストであり、古畑任三郎(田村正和)との手に汗握る対決が描かれた。

 

【『警部補 古畑任三郎』第3シリーズ(1999.4~1999.6)】

①『黒岩博士の恐怖』(緒形拳)※2時間スペシャル

②『若旦那の犯罪』(市川染五郎)

③『その男、多忙につき』(真田広之)

④『灰色の村』(松村達雄・岡八朗)

⑤『古畑、歯医者へ行く』(大地真央)

⑥『再会』(津川雅彦)

⑦『絶対音感殺人事件』(市村正親)

⑧『哀しき完全犯罪』(田中美佐子)

⑨『頭でっかちの殺人』(福山雅治)

⑩『追いつめられて』(玉置浩二)

⑪『最も危険なゲーム(前編)』(江口洋介)

⑫『最も危険なゲーム(後編)』(江口洋介)

 

 

『古畑任三郎』第3シリーズは、平均視聴率25.1%、最終回は視聴率28.3%を記録し、

改めて、「三谷幸喜の代表作は、古畑任三郎である」という事を示したと言えるが、

三谷としては、意欲作である『今夜、宇宙の片隅で』が、視聴率的にはコケてしまったのに対し、

「古畑」を書けば、またしてもヒットしてしまったというのは、少し複雑な心境だったかもしれない。

「古畑を書けばヒットするのは、わかっている。だが、もっと様々なジャンルの作品を書いて行きたい」

と、この頃、三谷幸喜は思っていたのではないだろうか。

事実、この後、「古畑」は数年にわたり「封印」されてしまう。

「古畑任三郎以外の作品でも、面白い作品を書いて、それをヒットさせたい」

と、三谷は熱望していた。

そして、この後、三谷幸喜はいよいよ、長年の念願だった「NHK大河ドラマ」の脚本を手掛ける事となるのである。

 

(つづく)