「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。」
学校で一度は見たことがあるだろうこの一文、『土佐日記』の冒頭から始まる一文。作者は紀貫之、平安時代の歌人です。
この『土佐日記』、男性である紀貫之が女性をよそおって書いた、というのが特徴として挙げられます。
1000年前の時点でこんなハイセンスな考えをする人がいたという日本。現代の混沌とした社会の荒波に揉まれている我々は、よりひねくれた考えをしているに違いない…(?)
そう、私もそのひねくれ族の一人。中高6年間を男子校で過ごしたことで、大切な何かを失ってしまった私。
アイマスの楽曲を聴くたび、心の底から膨れ上がる…
「俺も女の子になって恋してぇ~」
紀貫之(きのつらゆき)
(871?-946)
さて、我々は恋愛モノの映画や小説、ドラマやアニメを観たり読んだりすることで恋心などを感じたりすることはできますが、アイマスの曲を聴いたり歌詞を読んだりすることでもできちゃうんですね。
アイマスの楽曲は恋心や片想いなど、「恋愛」をテーマにした曲が多々あります。
その中から今回は「歌詞」、そして歌詞を担当する「作詞家」に注目して、筆者Doraoが「女の子じゃないけど女の子の気持ちになることができた(?)」、「恋したことないけど恋しちゃった(?)」、と感じた曲を紹介していこうと思います!
①『Kawaii Make My day!』
作詞:八城雄太
作曲:石濱翔(MONACA)
歌唱:メロウ・イエロー
まずは『Kawaii Make My day!』。中野有香、水本ゆかり、椎名法子の3人組ユニット「メロウ・イエロー」が歌唱を担当しています。
「おしゃれをしてもっとかわいくなりたい!」という女の子の気持ちがふんだんに詰め込まれた、キュート全開の曲になっています。
歌詞全部を紹介していると尺が足りませんので、さくさく紹介していこうと思います。さっそく見ていきましょう!
【一番Aメロ】
『画面の中の女の子、カワイすぎ大問題』です
緊急集合! 輪っかになって作戦会議です
鏡の中の自分が「変わりたい!」そう言ってるから
あの手この手で リノベーション
登場人物である女の子が最先端のファッションを見て、「自分もこうなりたい!」と、オシャレやカワイさに対する憧れを感じ取ることができますね。
【一番Bメロ】
さあ!
(がんばって!)折れちゃうリップ?
(がんばって!)リサイタルドレス?
(がんばって!)とりあえずドーナツ?
(がんばった!)できたてのカワイイ♪(カワイー!)
自信もって きっと街中がランウェイ(Yeah!)
試行錯誤してオシャレをしている女の子の頑張り様がうかがえます。
ばっちりオシャレがきまった時のワクワク、高揚感はさながら、近所の街中でも女の子の目にはランウェイの様に映っているようでしょう。
「がんばって!」のリズムに合わせて、オシャレをしてどんどんカワイくなっていく女の子の様子が想像できてとても好きです。
他にも、女の子は「オシャレ = カワイイ」と思っている様子が度々あり、オシャレに対する不慣れや幼さ、も感じ取れて良いですね。
【一番サビ】
ああ オシャレをしたから会いたいな
最初はあの人に見てほしくって
リボンぎゅっと かわいくなーれ!(Fu)
ああ ちょっぴりまつげが重たいな
それなのにお空が明るくなった
きっと大丈夫!
リップは晴れ色(晴れ色リップ)
スキップも軽いよ
make my day!
そしてサビでは無事にオシャレできた女の子のワクワクした様子が、カワイさ全開のメロディと共に描かれています。
極めつけはやはりここ、
「ああ ちょっぴりまつげが重たいな それなのにお空が明るくなった」
筆者が女の子になりたい!と思ったきっかけになったフレーズです(?)。どうしてまつげが重たいのに空が明るく感じたのだろうか…?
女の子がオシャレをした際に、まつげにマスカラを塗ったのでしょう。
マスカラを塗ったことで、いつもよりまつげは重たく感じるけど、マスカラを塗ってまつげがカールしたことで、視界が拡がり空が明るく感じることができた、ということを表しているんですね。
女の子のワクワク感をサビの前半と後半で、直接的・比喩的にそれぞれ表現しており、作詞家八城雄太氏のすごさを感じ取ることができます。
また、二番のサビでは同じような表現として
「ああ なんだか世界が変わったな ほんの5cmだけ 空中散歩」
というフレーズがあります。
これも、女の子がヒールを履いたことで、いつもより身長が少しだけ高くなり、視界がまるで世界が変わったかのように感じたことを表しています。そのワクワク感はさながら空中散歩をしているみたい、ということを表現しています。
本当に素晴らしい歌詞です。八城雄太、いったい何者なんだ…
一番までは視聴動画でも聴くことができるので、良かったら下記リンクからカワイさ全開の曲と歌詞を聴いてみてください!
②『不埒なCANVAS』
作詞:只野菜摘
作曲:烏屋茶房
歌唱:輿水幸子、塩見周子、相葉夕美
続いて、『不埒なCANVAS』。輿水幸子、塩見周子、相葉夕美が歌唱担当をしています。
この楽曲は「THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 3Chord」シリーズのCDに収録されている楽曲です(全3枚)。
このCDシリーズの特徴として、それぞれのCDに収録されている「不埒なCANVAS」、「踊るFLAGSHIP」、「イケナイGO AHEAD」の3曲で1つのストーリーを紡いでいます。(「銀のイルカと熱い風」や「秋風に手を振って」などが収録されている、「THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER SEASONS」シリーズと同じ感じです。)
そして、不埒なCANVASを含めた上記3曲の作詞を担当しているのが「只野菜摘」さんです。
只野菜摘さんの特徴として、「男女の思春期の恋愛を書かせたら右に出る者はいない」と、筆者は思います。
また、同氏は的確な比喩的・直接的な表現を用いて恋愛の様子を描いていくのも特徴です。
では、只野菜摘さんの素敵な歌詞を見ていきましょう。
【一番Aメロ】
不埒なCANVASに
気がついたら描いてる
君の顔や くちびる
つきあえたなら どうかなって
半分は廃墟だ ガラス細工 高いビル
隙間を突き抜ける飛行機雲が かっこいいな
一番のAメロから曲タイトルの不埒なCANVASが登場してきますが、もうさっそく何を言っているのか分からないですよね…
不埒なCANVASって何…?、半分は廃墟、ガラス細工、高いビル…?、いったい何を伝えているのだろうか。
以前、同サークルの別の企画で、不埒なCANVASの歌詞解説を行ったことがあるのですが、同じ一番Aメロについて説明したパワポがこちら。
情報量が多いですね… 簡単に説明してみたいと思います。
不埒なCANVASは、片想いをしている男の子が女の子に告白するまでの心理描写が描かれている楽曲です。
一番Aメロでは、女の子に対する純粋な恋愛感情と、思春期特有の恋愛に対する恥ずかしさや虚栄心が、不埒なCANVASという男の子の心の中で巡っている様子が描かれています。
その末に、男の子が純粋な恋愛感情に憧れを抱きます。
このように、只野菜摘さんは高度な比喩表現を適度に混ぜながら歌詞を書いています。何を表そうとしているのか、解読に時間はかかりますが、歌詞を理解したときの気持ちよさは比べ物になりません。
今、男の子と同じ気持ちになれたかもしれない!
私も恋しちゃったかもしれない!
歌詞を理解したときに、登場人物の気持ちを共有することができる。
作詞家の文才力に思わずうっとりしてしまいますね。
上記以外にも、曲の二番以降でも不埒なCANVASには様々な比喩表現を用いた歌詞が見られます。
【二番Aメロ(一部)】
下心のCANVASにある
絶対見せらんない空中庭園
【二番Bメロ】
曲線だらけで モノクロの世界
水彩画みたいな雫で
君は無意識に色をつけていく
さて、上記のように、様々な比喩表現が「不埒なCANVAS」の楽曲の中で使われていますが、楽曲のラストではこのように描かれています。
僕と つきあって
すごくシンプルに一言で書かれていますね。
曲中では、様々な比喩表現を用いて男の子の悩んでいる心理描写が描かれていますが、楽曲のラストでは、比喩表現を一切使わないシンプルな一言で、悩みを克服して告白をする男の子の誠実な心理描写が描かれています。
さんざん難しい比喩表現を使って視聴者を唸らせておいて、最後はシンプルな一言で締める。この清々しいほど気持ちが良い対比はたまりませんね…
また、この箇所だけ演奏が止まって無音の中で歌われており、静寂な中で男の子が告白をしている様子がうかがえます。
本当に素晴らしい歌詞です。只野菜摘、いったい何者なんだ…
最初の方でも説明しましたが、このストーリーは次の『踊るFLAGSHIP』へと続いていきます。男の子の告白に対して女の子はどう応えるのか、気になった方はぜひ「THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 3Chord」シリーズの楽曲を聴いてみてはどうでしょうか。
さぁ、そろそろ締めましょう。
「俺も女の子になって恋してぇ~」なんてくだらない欲望をたらたら垂れ流していましたが、多彩で素敵な作詞家たちと出会い、彼らが紡ぐ歌詞を読むことで、ワクワクしたりドキドキしたり、様々な気持ちで心を満たしてくれます。
アイマスの楽曲は、多様で豊富な楽曲でいっぱいですが、曲を構成する「歌詞」というもう一つの要素についても焦点を当ててみるのもよいものですね。
(筆:Dorao)