
─ 秋の暖かな陽気が残る、11月某日 ─
朝8時30分、5人の敏腕プロデューサーが、ここ新宿駅東口・アルタ前広場に集結した。
快晴の青空が広がる絶好の天気だというのに、彼らの表情はひときわ重く、強張っている。
なぜならば、この先12時間にも及ぶ”死闘”の壮絶さをみなが予感しているためであった。
「アイドルマスターモバイルi」─通称「アイモバi」。
iPhoneのGPS機能と連動し、実際に全国各エリアに散らばるお仕事をこなしてファンを獲得していくエリアゲームだ。
日本全国を細かなエリアに区分すること、505エリア。うち東京だけでも99エリアが存在している。また、島嶼部のみで獲得できるお仕事も少なくなく、その全エリア制覇には多大な資金や労力、それなりの時間が必要となる。
そこで我々はふと思った。
「では、人は1日でどれだけのエリアを制覇することができるだろうか?」と。
そして、「俺とアイツではどちらがプロデューサーとして上なのか?」と。
そう、我々はそれらの疑問を、われわれ自身の手と足で払拭するためにここにいる。
─ “チーム対抗・12時間耐久アイモバ対決”の幕開けである。
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本企画で対決するチームを紹介しよう。
まず、”はらみーの鬼”ことtakoちゃんPと
”ょぅι゛ょアイドルなら俺に任せろ”レオナルドPがタッグを組む「takoチーム」。
対するは、”俺が持たないアイマスCDなどない”黒エナメルP、
”ウェイの皮を被ったオタク”ことナイヤP、
かぶきあげPの三人で構成される「黒エナチーム」。
この2チームによって1日の獲得エリア数を争い、その数が多いチームが勝者である。
ルールは2つ。
・制限時間は午前9時から午後9時までの12時間
・獲得エリアは東京都(島嶼部含む)のみ
移動手段やルートは完全に各チームの戦略に委ねられる。戦略とはつまり、担当アイドルの営業活動をどれだけ効率的に行えるか、という意味において、実際のアイドルプロデュースにきわめて近しいものだといえるだろう。すなわち、アイモバ対決の敗北は同時にプロデュース能力の敗北をも示しているのだ。
─ 絶対に負けられない戦いがここにある。 ─
スタート時刻は9時ちょうど。
今日の意気込みについて、予定ルートを再確認しながらtakoちゃんPは言う。
「アイマス研で普段お世話になっている先輩方を相手に勝負をするということで大変恐縮です。ですが、先輩方ももう相当にお年を召してらっしゃるのでこの勝負でサクッと勝って引導を渡したいと思います。目標獲得エリアですが、東京はエリアが密集している場所が多く、効率を考えて行動すれば中々の数をこなせるのではないかと思うので70エリアは取りたいですね。私は千早Pではないのでピタリ賞は狙いません。」
そして、対する黒エナメルPは
「朝から何やってんだって思うでしょ?大丈夫、ぼくも思ってる まぁ60エリアくらい取れればいいかなぁ、奴らには負けたくないけど楽しんでいきたいよね」
と述べた。
お互いのチームは口々に罵り煽りあいながらもその心中では健闘を讃えあい、それぞれが開始地点へと定めた駅へと別れていった。
そして、日本中の時計が約束された時刻を指したと同時に、お互いのプロデューサーとしての矜持を賭したアイモババトルの火蓋が切って落とされた。
汗と涙とπタッチの12時間の死闘が今、始まりを迎えたのである。
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【takoちゃんPチーム】
takoチームは黒エナチームと別れた後、スタート地点である品川駅へと向かった。駅に着いたと同時に開始時間の9時となったため、早速品川駅構内で品川エリアをゲット。その後品川駅で一度降り、徒歩で数分歩いたところにある天王洲エリア、大崎/五反田エリア(9:17)をゲット。
ここで品川駅併設のコンビニで3000円分のiTunesカードを購入。普段から少しずつお仕事をこなしていたおかげで回復アイテムは多少のたくわえがあったが、おそらく足りなくなるので元気ドリンク(課金アイテム)用にと先に準備した。今回の企画の費用はサークルから降りるのかとても気になるところである。
お金の問題からは一度目を背け品川駅から京浜東北線に乗って蒲田駅へ向かった。そこで道中を含め大井町エリア、大森エリア、蒲田/羽田エリアをゲット(9:43)。
今回は東京エリア限定ということで神奈川県には入らず、折り返し次の目的地を目指した。
ここで私は重大なミスに気が付いてしまった。なんと消費アイテムの体力軽減減少アイテムを使用していなかったのである。ゲームを始めてからもったいなくて手に入れても使わず眠らせていたそれらを惜しげもなく使用していくこと数分、それまでエリアごとの消費体力が28だったのに24まで減り、体力満タンでMax4エリアの取得が可能になったのである。これでひょっとすると先ほど購入したiTunesカードのクレジットを使わずに済むのかもしれない。ミーハーな私はアイモバに課金するよりデレステに課金して無料で10連ガチャが引きたかったのである。ついでにファン獲得数強化アイテムも使用し、エリアゲットの旅を再開した。
蒲田駅から京浜東北線で折り返し新橋駅を目指す。途中で浜松町/芝浦エリア、田町/三田エリア、新橋エリア(10:02~10:07)をゲット。新橋駅で一度降り、徒歩で銀座エリア、有楽町/日比谷エリア、日本橋エリア(10:20)をゲット。
アイモバ民御用達のMap Plusを私も駆使することで順調にエリアをゲットしていきこの段階で10エリア突破。東京が合計99エリアあることを考えるとここで全体の1/10の工程が終了したことになるが普段降りない駅で降りたり、知らない町を歩くことが楽しくまだ疲れは見られなかった。
続いて新橋駅から銀座線に乗り換え築地駅へ向かった。しかし、築地エリアは他のエリアと違い駅構内では取得できず、外に出て取得有効エリア範囲内まで移動。無事エリアでのお仕事を終えた(10:39)。
一度通ったところを引き返す方法より徒歩で駅間を歩いたほうが効率がいいということで、築地駅から勝どき駅まで歩き月島/晴海/豊洲エリアをゲット(10:53)。takoチームは若いのである(2回目)。
勝どき駅から大江戸線で門前仲町駅へ向かい、そこから東西線に乗り換え葛西駅を目指した。道中で深川エリア、木場エリア、辰巳/新木場エリア、砂町エリア、葛西臨海公園エリアをゲット(11:19)。
砂町エリアは東西線に乗っていると東陽町駅と南砂町駅の線路間でのみ取得可能というとてもシビアなエリアであったため、該当エリアに入った際に来い…来い…と呟きながらお仕事エリアを連打していたがどう見ても変質者だった。東西線ユーザーのみなさまごめんなさい。しかし、後述するがそれほど焦って砂町エリアをとる必要はなかったのである。
葛西駅で降り、効率化から今度は路線バスに乗り亀戸駅を目指した。ロケ当日私たちは東京フリー切符を購入していたため路線バスも乗り放題であった。
亀戸駅から総武線に乗り小岩駅へ向かった。道中青砥エリア、柴又エリアをゲット(12:05)。一区切りついたということで、昼食をとりに小岩駅で輿水幸子役竹達彩奈さんがCM出演された某牛丼屋さんへ。牛丼のお肉は揺れていた。
【黒エナメルPチーム】
takoちゃんPチームの2名に対して年齢が高い3人のプロデューサーによって構成されているのが、黒エナメルPがリーダーを務める「黒エナチーム」だ。彼の担当であり、そして黒エナチームが今回プロデュースするアイドルでもあるのが我那覇響である。
リーダー以外のメンバーは、ナイヤP(所恵美担当)、かぶきあげP(高槻やよい担当)だ。ナイヤPはナビゲーターを、ワタクシかぶきあげPは取材を務める。
まず、われわれ黒エナチームはスタート地点の新宿駅東口から、徒歩での新宿近郊のエリア獲得を目指した。バトル開始後と同時の9:00に新宿東口エリアを獲得してからのんびり歩いて東進し、9:09に新宿1~2丁目エリア、9:20に新宿南口/代々木エリア、9:39に西新宿エリア、9:45に新宿歌舞伎町エリアを立て続けに獲得し、新宿駅に隣接するエリアを制覇したのである。チームは途中でたびたびお世話になっている新宿バルト9を撮影するほどの余裕を見せ、滑り出しは上々といえる。
そして黒エナチームは新宿から西へと範囲を広げる戦略を採った。¥1590の東京フリーきっぷを購入したうえで9:54にJR中央線に乗車し、そのまま9:59に高田馬場、10:00に中野、10:10に高円寺/阿佐ヶ谷、10:15に荻窪/西荻を獲得した。また、黒エナPは荻窪エリア獲得直後に、そのすっかり存在を忘れていた「岐阜の和傘」アイテムを使用した。これでファン獲得数を向上できるという。この行動からは彼のプロデューサーとしての敏腕ぶりが窺い知れよう。精神的に、これで勝ったも同然である。

[印刷した路線図を片手に電車内で戦略を立てるリーダー・黒エナメルP(右)とチームのブレイン・ナイヤP(左)。]
引き続き10:20に吉祥寺/三鷹、10:30には国分寺/国立を獲得した後は、これ以上の西進はむしろ時間的損失になると判断、東小金井駅で吉祥寺まで折り返し、フリーきっぷの適用外ではあるが京王井の頭線を攻めていく方向を採る。
10:51に下高井戸エリアをクリアし、久我山駅で下車した後に、徒歩で成城エリアへと向かった。11月とは思えないほど強い日差しが徐々にオタク3人の体力を蝕んでいくなか、めげずに11:00に成城エリアを獲得。再び久我山駅から京王線に乗車し、11:20に明大前、11:25に下北沢を制覇。新宿周辺を片付けてから東京西部へと足を伸ばし、徐々に都内へと範囲を広げていく我々の戦略は今のところは至って計画通りと言って良いだろう。夜神月も真っ青である。
しかし、下北沢駅を下車した我々がとった「徒歩で南進して三軒茶屋/三宿・用賀/駒沢を獲得する」狙いが凶と出てしまった。地図上では近いように見えた距離が、歩いてみると相当に遠いことに気付いたのである。次第に暑さを増す日射も合わさって確実に体力を消耗していくなかで、我々は細い道をふらふらとただ三軒茶屋駅を目指して歩いていった。さながら死の行進である。11:50に三軒茶屋/三宿、11:55に用賀/駒沢を獲得したものの、三軒茶屋駅に着いたのは結局11:58となってしまった。時間と体力のとんだ無駄であった。同時に、この辺りから三人の口数が段々と減っていくことになる。しかしこの企画で立ち止まることは敗北をも意味する。歩みを止めてなどいられない。新たなエリアへと向かう以外、ほかに我々に認められた権利など無いのである。それがアイドルマスターモバイルだ。
三軒茶屋駅からは東急田園都市線を利用して二子玉川方面へと向かい、12:18に二子玉川エリアを獲得、二子玉川駅で大井町線に乗り換えると12:20に上野毛、12:22に自由が丘エリアを獲得する、息もつかせぬ過密スケジュールぶりである。自由が丘駅では東急東横線に乗り換え、12:28に田園調布、12:44に目黒、12:45に中目黒、12:48に恵比寿/代官山、12:50には渋谷明治通り/宮益坂を獲得した。
そして渋谷駅を下車し13:05に徒歩で渋谷駅周辺を獲得すると、黒エナチームの三人は昼食と午後のプランニングのためにステーキハウスへと入っていったのである。
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ここまでの途中結果は、
takoちゃんPチームの獲得数は21エリア、
黒エナメルPチームの獲得数が26エリアだった。
数字の面を考えると黒エナチームが一歩リードしているものの、今後の戦略如何によっては逆転の可能性も当然考えられる。まだまだ予断を許さない状況だ。
今のところエリア数を僅かに上回っている黒エナメルPが口を開く。
「通勤中の人たちに混ざって、行ったことない場所にこういう機会に行くっていうのもいいもんだよね 午後からも行ったことないところにいくのでエリアとり頑張るゾ(ステーキ食いながら)」
そして会話の中でさらりと「40~50(エリア)はとりたい。いや、もっとイケるっしょ」とやたらムカつく口調で言い放ったのであった。彼の有り余る自信が見てとれる。
対してリードを奪われた形のtakoちゃんPは、午前を振り返ってこう語った。
「午前中で合計21エリアが取れたことと、エリアが特に密集している山手線内の方にまだ行っていないことも考えれば、上々ではないかと思います。午後もこの調子で頑張りたいです。」
両者一旦の昼休憩を挟んだコメントでは、どちらもまだまだ余裕をちらつかせる内容であった。さぁ、お互いのメンツを賭けたこの果てないプロデュースバトルはどちらが勝利を手にするのだろうか?
(地獄の後編へ続く)