さて昨日の続きをいくよ。

 

1971年の日本シリーズ

相手は4度目の対戦となる

阪急ブレーブス

 

実は俺ね

シリーズ直前の9月5日

アトムズ戦(現ヤクルト)で

打席に立った時

内角球をよけそこねて

右手の甲にボールを

当てちゃったんだよ。

 

たいしたことないだろうと思って

次の回マウンドに立ったけど

ボールを握って

すぐにダメだとわかった。

 

あんまりにも悔しくて

ウォーミングアップの

第1球をバックネットに投げつけ

自分からマウンドを降りた。

 

病院へ行って

診てもらったら

亀裂骨折してやがった。

 

1971年の阪急は

69年に入団した

山田久志、福本豊、加藤秀司の

若い3人が頭角を現し

過去に対戦したチームとは

違っていた。

特に福本の足は

阪急の野球を変えたとも

言われていたんだ。

 

俺は福本には

絶対に走られない

自信があったが

マウンドに立てなきゃ

話が始まらない。

 

そこで

いつもお世話になっている

接骨医の吉田増蔵先生の

ところへ行ったんだ。

 

先生、俺の右手をいじっただけで

「よし、これでくっついた。

投げてみろ。」と言われたが

その時はまだ痛くて

ボールが握れない。

 

どうやら靭帯もかなり

損傷していたらしい。

70歳の吉田先生では

そこまで治すのが

もう限界になっていた。

靭帯を治療するには

相当の指圧力がいるらしい。

 

そこで広島から合気道の

専門家が呼ばれて

治療を続け

2週間後にはボールが

投げられるようになっていた。

 

よし!

これで日本シリーズに間に合う!

 

そう思ってからは

すぐに森さんと一緒に

いかに福本を

セカンドでアウトにするかを

研究して特訓したんだ。

 

森さんは

もともと肩が強かったけど

当時34歳

衰えがないとは言えない。

 

当時の新聞には

「森昌彦の肩では

歩いている福本でも

殺せないだろう」と

書かれてしまうほどだった。

 

この言葉は

俺を奮い立たせた。

 

だったら俺がけん制球で

福本をファーストに縛り付けておいて

素早い投球モーションで投げ

森さんが正確にセカンドへ

送球するための時間を

稼げばいいじゃないか。

 

それこそが

チームプレーだと思った。

 

森さんも毎日

スローイングの特訓をした。

セカンドベースに

ボールを当てる練習だ。

 

その位置に投げて

土井さんが捕ったグローブに

福本の足が入ってきて

アウトにするイメージだ。

タッチでアウトにしてるようじゃ

間に合わないだろう。

 

そして日本シリーズがやってきた。

1971年10月12日

第1戦 西宮球場

 

先発は俺だ。

 

福本は

7回までに3度出塁して

1回盗塁を成功させていた。

俺はランナー福本との

対戦をしたくて

わざと打たれてるようだったよ(笑)

 

そして

巨人が2対1でリードしたまま

迎えた9回裏。

先頭の福本に

またしてもヒットを打たれた。

 

しかしここは正念場と

俺はランナー福本との勝負に

全神経を注いだ。

 

まずはしつこく

けん制球を投げた。

それは西宮球場のスタンドから

非難の歓声が上がるほどの

しつこさだった。

 

でもこれは俺の計算で

1球ごとに

タイミングを変えて

投げたんだよ。

 

ピッチャーは

セットポジションで

長くボールを持つと

クセが出やすい。

 

だから

1球目は1秒

2球目は3秒

3球目は5秒ためておいて

4球目が0.5秒

ってな具合に

俺のペースに巻き込むよう

リズムを崩して投げたんだ。

 

それにね

けん制する時って

肩が微妙に開くんだよね。

それで打者に投げる時は

その開いた肩を戻してから投げる。

 

だけど俺は肩を開いたまま

ホームに投げられたから

わかりづらかったと思うよ。

 

そして

予想していたタイミングで

福本は走り

俺はクイックモーションで投げた。

 

森さんは練習通りに

セカンドベース上に投げ

土井さんが捕った

グローブめがけて

福本の足が入ってきてアウト!

 

シミュレーション通りだった。

そしてそのゲームは勝った。

 

その試合以後

福本は走らなかった。

 

短期決戦では

1球、1打、1アウトが

どれだけ試合の流れを

変えてしまうか

その怖さを

福本が知っていたからだと思う。

 

もし彼が

同じリーグの選手だったら・・・

考えただけでも

なんだかワクワクしてくるね。

 

 

 

【 掲示板 】

スポーツ報知連載第15回

「今でも悪太郎」