あさきゆめみしと日出処の天子・夢の饗宴 | ほりきりのブログ

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 先日3月16日(金)に展覧会に行ってきた。

 大和和紀・山岸涼子二人展

 少女漫画の巨匠二人。題材が「あさきゆめみし」と「日出処の天子」
 なんという豪華な!ファン垂涎の展覧会である。

 教えてもらったのは美術展ナビさん。羽生展とかでさんざんお世話になってるから私のXに流れてきた。
 なんかすごいのが!札幌でやるって!興奮してすぐ娘に連絡していっしょにいこーね!と約束した。

 初日におふたりがやってきてトークショーもやるって。えー、行きたいね、申し込もうね。
 そして日程を見て、3月9日。だめだ、これは私仙台にいるから。
 もちろんチケット発売のはるか前だったが、言霊は大事である。
 ちなみにこのトークショー付チケットというのは、先着で数十分で完売したそうだ。さすがです。

 ということで、無事仙台に行って帰ってきてから、母子の都合をあわせてこの日に行くことになった。



 場所は東1丁目劇場。
 どこだよここ?聞いたことないぞ。
 どうやら元の四季劇場だって。
 ああなるほど、大通の東1丁目。テレビ塔の所から創成川を渡ってちょっと行った所だ。
 私はここで、あの「オペラ座の怪人」を見た。2014年フィギュア界最大のオペラ座祭りが始まる直前の夏だった。ちなみにベアントムを購入したのはここの売店だ。(劇団四季でちゃんと売ってた公認マスコットなんだよ)


 開場は11時。5分前くらいに着いたらもう入場待ちの列になってた。
 待ちながら、入口に貼ってあったポスターをパチリ。
 ガラスだから後ろが写り込んでる。札幌の東側はビルはあっても華やぎがない。



 建物の中に入った途端に出迎えるスタンド花。
 この中になんと、萩尾望都さまから!
 ひいいい、ビッグネームがすぎる。巨匠二人の展覧会には大巨匠からの花が届くんだ~~


 これがちゃんとよくできたお花で。
 大和和紀様へ、のお花はこちら。

 明るい華やかな色合いのたくさんの種類の花を集めている。これは源氏のまわりの多くの女君をあらわしているのであろう。
 いろんな花が揃ってて、どの花が誰をイメージしているのかはわからないけど、桜があるのは、きっと樺桜の君・紫の上だろうな。

 そして山岸涼子様へ、はこちら。

 赤と白。赤が厩戸王子で白が毛人かしらん。
 で、赤は赤でも、色合いや花の形が独特というか雰囲気ありすぎというか。もうめっちゃ厩戸王子じゃん。
 さすがです。望都さま。キャラクターの本質をよく理解して具現化されたお花です。

 もう入る前から興奮してしまいました。



 チケットは事前にロッピーで買っていたので並ばずにスムーズ。前売り券じゃなくてもローソン購入の方が絶対に楽です。
 建物の中にはいると、ああ確かに四季劇場だ。赤のビロード張。懐かしいな。



 まず、大和和紀先生と山岸涼子先生。
 お二人とも北海道出身。和紀先生が札幌なのは存じてましたが山岸先生はわからない。でも高校はお二人とも札幌で、学校は違っても同じ年で、当時としてはお互い唯一の漫画友だちだったそうです。(レベルが高すぎる)
 入って最初は、そんなお二人の札幌時代を思い起こす書き下ろし漫画が原稿の状態で並ぶ。

 和紀先生の大通公園で育った子供時代はかわいらしい。

 でもびっくりしたのが山岸先生が描いていた、高校時代に手塚治虫先生にお会いした話だな。
 雪まつりで来道していた手塚先生のイベント会場に行って、そこで二人で原稿持って突撃したって。女子高生が!すごい度胸だな。そして手塚先生が超やさしくてていねいに見てくれてくれたって。なんか古き良き時代の伝説のようだね。
 (そして和紀先生の制服姿を見て、娘とあの高校だ!とわかってしまった)

 こんなにすごい実績を持つ少女漫画界の巨匠二人が、どちらも札幌の高校で、しかも同い年って。すごい奇跡だ。
 同様に高校時代を漫画一本やりで過ごした私にとっても、夢のような話だった。



 さあメイン展示に行きます。
 まず白黒の原画がいっぱい。ずらーーっと並んでいる。
 たまに書店とかである原画展てカラー原画が多くて、こうして白黒の、コマ割った漫画のかたちの原画が見られる機会はめったにない。貴重なものだ。くいつくように見た。


 大和和紀先生の「あさきゆめみし」
 ご存じ源氏物語の漫画版。これで源氏物語のストーリーを学んだ人は数知れず。(もちろん私も)今年の大河ドラマが紫式部だからタイムリーでもあるな。
 連載2回分の原稿が並ぶ。普通にストーリーが読める。紫の上と明石の上が顔を合わせる場面と、女三宮降嫁のくだりだった。

 2大ヒロインの髪の毛の描写がやばい。黒艶ベタだけでなく、線で一本一本描いているのがすごすぎる。それがふたり横顔で向かい合わせている場面なんてもう、髪の毛がうなってるわ。
 線が細い。目やまつげの描写が繊細すぎる。いったいどんなペン使ってどうやって描いてるんだと娘と二人で首をひねりながら見てた。(こういう見方しちゃうからなかなか先に進まない)

 髪の毛の艶ベタはアシスタントさんではなく和紀先生が必ず塗るそうで。うん、あれはベタ塗るってより筆(筆ペンかもしれないけど)で描いてるんだもんな。
 娘は源氏物語の基本ストーリーをわかっていなかったから母がレクチャーしながら見ていたんだが、女三宮の絶対顔を出さない後ろ姿の描写、そのものすごいうねる黒髪を見て「この人病んでるの?」と指摘した。鋭いな娘よ。病的というよりは徹底した箱入りのせいか自我がないんだよ。あとから相関図のカットで顔を見せたけど、目に光がないんだ。その異常性が顔を見せずにうねる黒髪で表現してた。てか根本知識がない娘にそれとわからせた。すごい表現だな。さすがだな。

 そして修正用のホワイトがほぼない。修正なしで一発であの線決めてるんだ。すごい。原画がとにかくきれい。神の原画だわ…


 山岸涼子の「日出処の天子」
 こちらはいろんな場面をランダムに。厩戸王子が子供の頃に初めて毛人と出会った頃から、たくさんの名場面をちりばめて(サービスショットも)最終回のラストページまで。
 なんか一気に全巻読み直したような感じだ。

 こちらも原稿がきれいなのね。もうこのくらいの巨匠だとみなさんそうなのか。自分のホワイトだらけの汚い原稿を思い返し、あんなんじゃ全然だめなんだな。
 娘はこっちは夢中になって読んだクチだ。二人して王子がどうだ、毛人がどうだとコソコソしゃべりながら見ていた。
 原画の一枚一枚の下に山岸先生ご自身と解説が添えてあって、読みながら理解を深めつつ、そこにご本人のツッコミがはいっているのがさらに楽しかった。


 たくさんの原稿の、白と黒の美しさ、圧巻のテクニック。別世界のようなカラー原画よりも、リアルで生々しい線が私の中に飛び込んでくる。ものすごい情報量におぼれそうだった。



 次は麗しいカラー原画がたくさん。

 あさきゆめみしのカラー原画といえば、もう絢爛豪華な花園のようである。
 鮮やかな発色はカラーインクを使っているのだろうけど、この描き方はもう日本画だと思う。美人画では上村松園さんが好きで旭川まで展覧会に行ったくらいなんだけど、あの方の美人画は少女漫画イラストのルーツだと思っている。その現代の美人画の最高峰が、このあさきゆめみしのときの和紀先生だろうなあ。
 で、その旭川の展覧会で、上村松園の「焔」の下描きを見たのだ。本画は来てなかった。上野にあるんだって。でも色塗る前の線画の方がより生々しくてショックだったっけ。それは六条御息所がモチーフなんだけど。それと同じテーマの絵を和紀先生も描いている。六条御息所が源氏の正妻の葵の上をとり殺すシーン。こええええ。やっぱどなたが描いても御息所のインパクトすごいわ。
 

 あさきゆめみしのカラー画は、鮮やか華やか明るさ透明感なのに対して、日出処の方は、一段解像度が低いかのように色合いが鈍い。これはどういう絵具でどうやって塗っているのだろう。不思議だ。
 光源氏が多くの女君たちが集団でいるのに対して、 厩戸王子はすっくと一人で立っている。王子がそこにいるだけで絵が成立する。ダントツの存在感だ。
 厩戸をメインにした絵の数々を見ていて、思い至ったのは、これは仏画だ。
 確かに聖徳太子は仏教を奨励した人ではあるけれど。実際に四天王の鎧を着せたり、孔雀明王をモチーフに孔雀に乗せたりしてる絵があるけれど。王子が一人でただ立っているだけでも、仏画に見える。
 なんかすごくストンときた。
 



 ああすごいものを見た。白黒にしてもカラーにしても、人の手でここまで描けるものなのだ。
 今は漫画もデジタル化が進んでいるらしい。娘に説明してもらうと、全部パソコンで描く人もいれば、ペン入れした段階の絵をスキャナーして仕上げをパソコンでするんだって。アナログな漫画描きにはわけがわからん。
 でもそうすると、こういう完成した生の原画というものが紙の形に残らないんだって。ここでこうして神のような原画が見られる僥倖は今このときまでなのかもしれない。

 元漫研部員と現役デザイナーは、胸いっぱいお腹いっぱい全身に美を取り込んで、会場を出た。


 出た所でグッズを売っているようなんだけど、あらかた完売してしまっていて、欲しいものがないよ。
 アクキーのガチャポンというのもいまいち作りに魅力に欠けるぞ。これガチャガチャして末摘花の君が出てきたらしぼむじゃないか…
 でもなんか記念をと思ってマスキングテープを。衣装の柄みたいなので、それも厩戸のは売り切れてた。明石の上の衣装イメージのテープを買って帰る。
 本も置いてあったけど既存の本で。こんなにすごい展示やるのなら薄くてもいいから図録作れよ。展覧会の常識じゃん。詰めが甘いな札幌市。



 美術展ナビにこの展覧会の告知が出たときに、たぶん本州の人たちから、全国巡回を望むコメントがたくさんあった。東京でやってくれ、大阪で、名古屋で、やってくれと。でもきっぱりと他の都市への巡回はありませんと書いてある。(トークショーでお二人が揃った日は全国からガチ勢が集まったらしい)
 だってこれ主催が札幌市だし。北海道にマンガミュージアムを望む一環として企画されたものらしい。(そんなものが本当にできるのなら楽しみだな)
 なによりも、お二人が出会って共に高校時代を過ごした、ここ札幌は聖地なのだ。他での開催はありえないということだ。
 私はどうしても見たい展覧会のために海を渡ったことは何度もある。平家納経のために両国へ、若冲のために上野へ、グッチギャラリーのために銀座へ行ったぞ。
 だから、どうしても見たければ、札幌まで来いやあ!
 


 名残惜しくも帰ろうとするときに、後回しにしていた入口の看板を撮影。。


 あさきゆめみしの方は2ショット。
 これは源氏と…紫の上だと思い込んでたけど、この髪型って藤壺?うーんわかんない。


 日出処の方は王子だけ。
 これは隣に立てるんじゃない?と娘に言ったけど、謹んで辞退されました。いや、怖いって。




 すばらしいものを見せていただきました。もう大満足です。
 こちらの会期は3月24日まで。本当は宣伝のためにはすぐに書いてアップした方がよかったんでしょうが、ちょっと王子の妖気にあてられたのか調子悪くしてねえ。(王子やばい)
 あと1週間くらいありますね。最後に週末あるし、真ん中に祝日あるし。札幌、および近郊の方で興味ある方はぜひ。19時までやってるからお近くなら仕事終わりに飛び込んでも。ほんとにすごい展示です。

 そしてどうしても見たいという全国のファンの方は、まだ間に合いますよ。
 札幌まで来いやあ、もとい、いらっしゃいませ!