夏色 2 美人のうす紅 | ほりきりのブログ

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 道立旭川美術館で行われていたのは「上村松園・松篁・淳之展」だ。私は松園さんの美人画が大好きだ。札幌の地下歩行空間で松園さんの大きなポスターを見かけたときから絶対行きたいと思っていた。若冲さんのために上野まで行く奴だもん、旭川などわけもない。

 松園さんがお母さん、松篁さんが子供、淳之さんが孫。三代にわたる日本画家の家系だ。
 松篁さんは花鳥画。でも金魚が1番好きだった。
 淳之さんは鳥、鳥、鳥。お家にものすごい数の鳥飼ってていつもスケッチしてるってのはいつかテレビで見たことがある。鳥にさわるのが苦手の私は訪問できそうにない。
 そして松園さん。日本画の展覧会に行くと一つくらいは松園さんの絵があってありがたく眺めるんだけど、こんなにたくさんいっぺんに見たのは初めてで興奮した。

 松園の美人画は現代の少女マンガイラストのルーツだと思っている。浮世絵のように真っ白じゃなく、西洋の油彩のように濃い光と影でなく、ほのかに陰影をつけている。白い指の先をうす紅でぼかして立体感をつけるのって、少女マンガの人、これまねしたでしょ。昔の少女マンガの色使いまさにこれだもの。着物の柄を微にいり細にいり描き込み、でも上品な色の使いで絶対顔の邪魔はしない。この着物の描きかたは大和和紀が引き継いでいると思う。
 
 若い頃の絵がかわいらしく、ベテランになるにつれてリアルになっていくのは現代の漫画家さんも同じ。(中には全く変わらない方もいるが…美内先生とか…細川先生とか…)松園さんも30代の頃の美人画はかわいかった。目ぱっちり。長いまつげが細い線でこまかく描かれている。ほおは明るく色づいておくれ毛さらさら。若い娘はとてもかわいい。
 典型が「雪吹美人図」おみやげにチョコの入った箱(箱に入ったチョコじゃないところが…)買ってしまった。

 チケットになっているのが「花がたみ」
 はじめチカホで大きなポスターで見たとき、すごい違和感だった。着物は色といい柄といい完璧に美しい。が、顔が変。口ゆがんでるし、目つき変だし。きれいなのに気持ち悪い。
 で、現物を見て、横の解説を読んだ。地方にいた皇子が帝になるために恋人をおいて都に行く。彼女は皇子を慕うあまり別れに送られた花籠を持って都に行き、帝の行列をさえぎり、その前で狂人の舞をおどるという。
 納得。なんかいっちゃってる目をしてると思っていたら本当にそうだったのね。すごいな、松園さん。背景の物語知らないのにちゃんと本質がわかる。ものを伝える力って、すごい。

 今回の展覧会で珍しかったのが、下絵を多く見られたこと。紙に墨でがっちり下描きして、その上に絹をひいて描くんだね。なるほど、消しゴムで消せないもの。本画と比べるとおもしろい。着物の柄はさらっと描いてあるのもあるけど、大きな絵になるほど正確にぎっちり描きこまれているので下絵の方がまっ黒。
 そして下絵の中で(むしろ全作品の中でも)1番のインパクトだったのが「焔」源氏物語の六条の御息所に想を得た絵だ。古典にうとい連れに解説してやった。(私は大和和紀ファン)光源氏の愛人が正妻の出産のときに生霊になって正妻を取り殺す話だ。それを聞いて絵を見て、一発で理解したようだ。重苦しい黒髪。おくれ毛を口にくわえて、横にらみする目がすごく怖い。墨一色の下絵、最初に描いた線だからこそ、表情がより生々しい。
 これ本画ないの?他のはみんな下絵本画のセットなのに。本画どこにあるの?東博…また上野か~ 去年若冲さん行ったときについでに行けばよかったの…遅いわ!
 でも白黒だけでマンガの絵描いてきた私には、下絵の方がより近しくて興味深い。こういう作品は総合的な日本画展にはまず出ない。この下絵の焔が見られただけでも旭川に来た意味があったような気がした。

 松園さんの絵をたっぷり見て大満足。これだけの数を北海道で見られるとは本当にありがたいことだ。少女マンガをベースに持つのものには、松園さんの美人画は原点なのだとつくづく思った。