International news of last week(先週の国際ニュース3月11日号)

 

↓メルマガ「国際ニュース・カウントダウン 3月4-10日 by INCD-club」

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米大統領戦、バイデンvsトランプが確定(5日)☆

・米大統領選でスーパーチューズデーの予備選が5日行われ、両党の候補者が確定した。

・民主党はバイデン現大統領、共和党はトランプ前大統領で、前回と同じ構図になる。

・両候補者は80歳前後。歴史的にも異例の高齢者候補同士の争いになる。

・政策面では米国第1か同盟国との協調か、移民問題、環境、中絶などで対立する。

・トランプ氏は2021年の議会乱入事件関連など裁判を抱え、その行方も選挙に影響する。

・トランプ氏当選ならウクライナ支援にも影響しかねず、世界は「もしトラ」を警戒する。

◆米大統領が一般教書演説、トランプ氏と対決色鮮明(7日)

・バイデン大統領は7日一般教書演説を行った。

・前任者という言葉を使いながらトランプ氏を繰り返し批判した。

・ウクライナへの支援、議会占拠事件などを挙げ、米民主主義に脅威をもたらしたと非難。

・連邦最高裁により連邦全体での中絶自由が覆されたのは、トランプ氏のせいとした。

・富裕者や大企業への増税を提案。選挙戦で中間層を取り込む狙いを見せた。

・移民問題は政府提案の法案への賛成を共和党に求め、多様性尊重を訴えた。

・ガザ戦争では2国家共存が長期的な解決策と強調。休戦への具体策は乏しかった。

・トランプ氏は演説に合わせてSNSでバイデン氏を批判。対決色を鮮明にした。

中国全人代開幕、成長目標5%、首相の会見は廃止(5日)☆

・全人代が開幕。李強首相が政府活動報告をし、2024年成長目標を5%前後に定めた。

・不動産や金融のリスク管理を強調。少子高齢化なども課題に掲げた。

・米国に対抗し、新たな国際秩序を目指す姿勢を確認。台湾統一を強調した。

・これまで全人代後に行われてきた首相の記者会見は廃止した。

・ここ数年政府→党への権限の移管が進んでおり、そうした姿がより鮮明になる。

・習近平体制は3期目に入り、現体制になってから1年が経過した。

・習1強が進む一方、経済は不動産バブルの崩壊など問題に直面する。

ガザ戦争5カ月、ラマダン前の休戦は実現せず(7日)☆

・ガザでの戦争が始まって5カ月を経過。イスラエルによる攻撃が続く。

・ガザでの死者は3万人を超え、人道危機は深刻さを増している。

・米国やエジプト、カタールは10日のラマダン入り前の休戦を目指したが、交渉は難航。

・交渉は手詰まりの状況で、事態の悪化が進む。

・紛争は周辺に飛び火。イエメンのフーシ派は6日アデン湾で貨物船を攻撃。死者が出た。

パキスタン、シャリフ前首相就任(8日)

・国民議会はPML(N)のシャバズ・シャリフ前首相を首相に選出した。

・2月8日の選挙では予想に反し、野党PTI系の無所属候補が最大勢力に躍進した。

・しかしPML(N)と人民党が連立維持で合意した。野党系は反発する。

・同国では2022年に軍とPTIのカーン首相が対立。PML(N)などがカーン氏を不信任した。

・2月の選挙ではカーン氏の逮捕などで野党を抑圧したが、野党系が得票を伸ばした。

・同国は経済腐心にも直面する。政治が安定しなければ混乱がさらに拡大する。

 

寸評:of the Week

 

【米大統領選と一般教書演説】  

米大統領選は5日のスーパーチューズデーを経て、民主・共和両党の候補者が確定した。民主はバイデン大統領、共和はトランプ前大統領という前回と同じ争いだ。2日後にはバイデン大統領が一般教書演説を行い、トランプ氏との対決色を鮮明にした。大統領選を8カ月後に控え、米国はどんな状況にあるのか。(→国際ニュースを切る)

【中国全人代】 

中国の全人代が開かれ、政府活動報告で中国の抱える課題や取り組みを説明した。これまで閉会後に行われていた首相の会見は廃止され、習近平体制の下で党が政府を主導する構造が一層鮮明になった。(→国際ニュースを切る)

 

国際ニュースを切る

 

◆大統領選と一般教書に見る米国の実情

米大統領選は5日のスーパーチューズデーを経て、民主・共和両党の候補者が確定した。民主はバイデン大統領、共和はトランプ前大統領という前回と同じ争いだ。その2日後にはバイデン大統領が一般教書演説を行いトランプ氏を繰り返し批判、対決色を鮮明にした。大統領選を8カ月後に控え、米国はどんな状況にあるのか。

▼バイデンvsトランプ

5日のスーパーチューズディには全米15の州で予備選が行われ、共和党ではトランプ氏が14州を取って圧勝。ヘイリー元国連大使が撤退を表明し、トランプ氏が候補者に確定した。一方民主党は、現職のバイデン氏以外に有力な候補者が立たず、同氏で確定している。

11月の投票日時点で、バイデン氏は81歳(当選した場合2024年1月の2期目就任日には82歳)。トランプ氏は78歳。異例の高齢候補者による大統領選になる。

▼一般教書演説で対決鮮明

2日後の7日に行われた一般教書演説で、バイデン氏は「前任者」などと直接名指しを避けながら、トランプ氏批判を繰り返した。ウクライナ戦争に関連して、トランプ氏がプーチン・ロシア大統領に「何でも好きにしたらいい」と言ったと批判。2021年の議事堂占拠事件ではトランプ氏の責任を問い、「米国の民主主義に深刻な脅威をもたらした」と非難した。中絶問題では、連邦レベルでの中絶自由を最高裁が2022年に覆したのはトランプ氏が原因と決めつけた。

これに対しトランプ氏は、演説中にSNSでバイデン批判を展開。対決をあらわにした。大統領選の年の一般教書は国民に団結を求めるより、選挙対策の色合いを強めることが多いが、今年は特に際立った。

ウクライナ支援、パレスチナ、大企業増税

バイデン大統領は一般教書で、ウクライナ支援の必要性を強調。パレスチナ問題は長期的に「2国家共存」が解決策と言う一方、目先の戦闘休止については踏み込んだ発言に至らなかった。

経済は失業率減少など好転している事例を強調。格差是正に富裕層や大企業への増税を提案した。移民問題は政府提案の法案採択などを求める一方、多様性の重要性を強調した。中国については「対決を望んでいるわけではない」とやや対決色を弱めた。

▼政治の制度疲労?

米国はこれまで若者が活躍する社会と見られてきたが、今回大統領選は全く異なる風景になる。時計の針を逆転するような動きだ。欧州ではフランスのマクロン大統領や英国のスナク首相が40歳代でトップになるなど政治の若返りが適切に進んでいる。米国と対照的だ。

高齢者同士の争いには、概して批判的な見方が多い。しかしその原因についての分析は様々だ。その中で、米国政治の制度疲労と見る見解には一理がある。

▼分断・内向き

分断も現在の米社会を読み解くキーワードの一つだ。バイデン氏は一般教書でトランプ氏批判を繰り返し、国民に団結を呼びかけることは極めて少なかった。演説で格差是正を強調しながら、トランプ氏の岩盤支持層である白人の貧困層への配慮は全くといってよいほどなかった。最初から敵と味方を分けているような印象もある。

分断は国際的な脈略でも重要だ。一般教書演説がロシアやイランの批判を強めたのは自然だろうが、グローバルサウスや途上国に触れることはなかった。

トランプ氏は大統領選に向けた演説で、「米国第1」を繰り返す。世界より米国を優先する内向きの姿勢だ。

▼移民と中絶

世論調査で大統領選の争点を尋ねると、上位に来るのが移民問題。2月のギャラップの調査では28%でトップだった。米国内のニュースは、しばしば不法移民による犯罪がヘッドラインを飾る。移民や不法移民は全国民的な問題だ。バイデン政権は発足当初、前政権に比べ移民に寛容な政策を取った。しかし政権発足後に不法移民が増加(南西部国境を超えた不法移民は2023年に254万人)。規制の再強化に追い込まれた。

バイデン大統領は一般教書で移民問題にも時間を費やして言及。政権の移民政策をPRするとともに、米社会の多様性の重要性を強調した。しかし、課題への具体策が十分とは言い難く、野党共和党に批判の材料を与える結果になっている。

共和党は、移民問題を大統領選の争点にすべく戦略を繰り広げてきた。今のところ奏功している印象だ。

一方、民主党は中絶問題を大統領選の争点にしようと試みる。米国では1970年代以降、連邦レベルで中絶の自由が保証されてきたが、2022年の最高裁判決で覆された(州により異なる判断になった)。

▼対立する政策

バイデン政権はトランプ前政権の政策の多くを否定するが、実は受け継いでいるものも少なくない。対中関係もその1つ。米中関係はトランプ政権時代から対立を深めたが、バイデン政権になっても基本的な姿勢は変わっていない。

一方、移民政策、中絶、環境、西側同盟諸国との国際協調のあり方などに関しては違いが目立つ。この辺が、大統領戦の争点になるし、米国分断のテーマにもなっている。

トランプ・リスク

トランプ氏は2021年の議会占拠事件への責任を含め、4件の裁判を抱えている。裁判の結果が大統領選を左右する可能性があり、異例の事態だ。

バイデン大統領の政策や行動の予想が付きやすいのに対し、トランプ氏の行動が予想し難いのも対照的だ。トランプ氏が再選された場合、ウクライナやパレスチナ始め世界に影響を与える問題で予想外の政策を取る可能性がある。世界は「トランプ・リスク」を真剣に考え始めている。

▼分断と対立の世界

2020年の大統領戦で敗北したのにも関わらず、トランプ氏は有権者のかなりの支持を得て、当選する可能性を持っている。この事実は重い。要因は様々あるのだろうが、米国の分断(およびその背後にある格差拡大)や内向き化は重要だ。2016年の大統領選で「トランプ・サンダース現象」として指摘された点は、改善していないばかりかむしろ深刻さを増している。

世界的にも分断・対立が深まり、取り残された地域はむしろ増加している。既存の民主主義や国際協調の理念では課題に対応できず、不満を持つ人々が既存秩序に反発するのはむしろ当然かもしれない。そうした状況下で、ウクライナ戦争が起き、ガザ戦争では国際的な平和主義や人道主義などが根底から問われている。

米大統領選でトランプ氏は「米国第1」を強調し、バイデン氏の一般教書からはグローバル統治の発想は見えてこなかった。世界も米国もそうした現状にあることは、改めて認識しておく必要があるのだろう。

 

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◆中国全人代が映す現状

中国の全人代が5日始まった。冒頭の政府活動報告は中国の抱える課題や取り組みを説明。2024年の経済成長は前年に引き続き5%前後とした。これまで全人代終了後に開催していた首相の会見は廃止し、習近平総書記の体制下で党が政府を主導する構図が一段と鮮明になった。

▼習近平3期目、1年経過

昨年3月の全人代で、習近平体制3期目の新執行部が発足してから1年が経過した。この間、世界の分断・対立が深刻化し、米中対立は深まった。中国国内では経済の減速や人口減少、少子高齢化が進んだ。そうした中での改題。コロナ禍が一段落し、参加者はマスク着用を求められなくなった。

経済減速

政府活動報告で李強首相は、ポスト・コロナの中国経済について「持ち直し」したと公式見解を述べた上で、「持続的に回復して上向く基盤はまだ盤石でない」と厳しい見方を示した。

実際、中国経済は困難に直面している。実質経済成長率は、2019年の6.0%から2022年はコロナ禍で2.2%に減少。2021年は反動で8.1%に回復したが、2022年は再度の反動や大規模ロックダウンの影響で3.0%に落ち込んだ。2023年は反動要因もあり5.2%だった。

物価はデフレ圧力が高まり、CPIは2024年1月まで4カ月連続で前年比マイナスになっている。人民元の相場も下落し、2023年には32年ぶりにドルベースのGDPがマイナスになった。

不動産不況

経済減速の要因は、ウクライナ戦争の影響、中国経済の成熟、米中対立の影響、世界経済の原則、高齢化など様々な要因が指摘される。これらの影響で、設備投資や輸出は減少・減速している。

加えて特徴的なのが、不動産バブルの崩壊だ。大手業者の恒大グループなどが経営危機に直面し、地方政府は不良債権を拡大している。李強首相は活動報告で、不動産や金融リスクを大きな課題として掲げた。

▼米中対立の影響

米中対立の激化で、米国は西側同盟国と組んで先端半導体などの輸出を禁止したり、中国製品の輸入に制限を加えたりしている。国際企業が中国の生産拠点を東南アジアなどに移す動きも相次いでいる。米国の貿易相手国は長年中国が第1位だったが、2023年にはメキシコやカナダが中国を上回った。国際環境の変化は中国経済に影響している。

李強首相は報告で、対外開放を強調する一方、中国の先端産業育成や中国ブランドの育成を掲げた。課題を明確に示している。

▼少子高齢化

活動報告は高齢化対策の充実や、子育て支援を訴えた。中国の人口は2022年から2年連続で減少。2023年には人口世界1の座をインドに奪われた。生産年齢人口はすでに2013年にピークを記録している。

中国政府は1979年からの1人っ子政策を2015年に廃止(2人まで認める)、2021年には3人まで認める政策に転じた。しかしこうした政策の効果は表れず、2022年の合計特殊出生率は1.09と日本の1.26をも下回る。人口減少、少子化の問題の深刻さを物語る。

▼新国際秩序目指す

国際関係では、独立自主の外交政策を維持すると確認。現在の米国中心秩序とは異なる「新型国際関係の構築」を推進すると強調した。覇権主義に反対すると、米国に対抗する構えを示した。

台湾問題では祖国統一を実現する姿勢を確認。軍事の強化なども強調した。

経済発展と共に、中国の国際的な存在感は拡大し、影響力も高まっている。台湾や南シナ海問題にみるまでもなく、中国の圧力や脅威も強まっている。ウクライナ戦争を受けて、中露間の決済など国際金融の分野でも中国の存在感が高まり始めた。

ただし、米国中心に変わる国際秩序を築くとなると、課題は限りない。中国もその点はよく理解している。

▼政府→党に権限移行、政策決定見えにくく

中国では2022年の共産党大会で習近平総書記が3期目入りを決定。2023年全人代で週3期目の政府などの体制を整えた。習1強が鮮明になり、共産党が政府などを主導する色彩が一段と強まっている。

全人代の首相会見廃止は、政策決定権の政府→党への移行を象徴する。中国の政策決定が、従来以上に外から見えにくくなる可能性がある。全人代からは習近平体制3期目の中国の変化の一部か垣間見える。

 

◎今週の注目(3月11-17日&当面の注目)

 

・ロシアの大統領選が15-17日に行われる。プーチン大統領の5選が確実視されるが、どこまで圧勝した形になるのか。選挙後、ウクライナ戦争対応などでプーチン体制がどう動くかも注目点だ。

・ウクライナ戦争、ガザ戦争は引き続き世界の注目事項。

・ポルトガルの総選挙が10日に行われる。