迫り来る“心不全パンデミック”の危機 その実態は
2023年3月1日 午後5:52
新型コロナの流行で、誰もが知るところとなった「パンデミック」という言葉。
実はいま、もう1つの“パンデミック”が、私たちの命を脅かそうと迫ってきています。
それは“心不全パンデミック”。
心臓から全身に血液や酸素が送れなくなる「心不全」。これが怖いのは「不治の病」だと云う事です。
患者数は年々増え続け、推計120万人。年間のがん患者数を上回る規模となっています。
医療者たちが、本来は感染症の拡大を表す“パンデミック”という言葉をあえて使って、心不全医療の危機を訴えるのはなぜなのか。医療現場の最前線に密着しました。
(クローズアップ現代取材班 藤島温実)
“心不全パンデミック”の波にさらされる病院は
冷え込みが厳しさを増していた、ことし2月。
茨城県にある土浦協同病院の救命救急センターには、毎日のように心不全の患者が運び込まれていました。多くは高齢者ですが、中には40代の“現役世代”も。
患者や家族は、その症状について「突然、胸の痛みや息苦しさに襲われた」と訴えていました。
心不全とは高血圧や糖尿病、更には不整脈や心筋梗塞など、様々な疾患が心臓に負荷をかけ、全身に血液や酸素を送る“ポンプの機能”が働かなくなる状態のことをいいます。
薬や治療法の開発が進められてきましたが、それでも心不全になると完治は望めないのが現状です。
こちらの病院では、心不全で入院する年間の患者数が5年ほど前までは300人台で推移していましたが、その後大幅に増え、500人近くに達する年も出ているということです。
心不全の患者を受け入れる病棟のベッドは常にほぼ満床の状態。
1日に何度も綱渡りのベッド調整が行われ、最も回復傾向にある患者にお願いして、別の診療科の病棟に移ってもらっています。1床を捻出するのに四苦八苦している毎日です。
循環器内科の角田恒和医師は、この現状に危機感を募らせています。
角田恒和医師
「ベッドが満床だと」「救急車で運ばれてくる」
「緊急処置が必要な救急患者さんの」
「受け入れをお断りせざるを得ない事が」
「現実に起き始めています」
「又、心不全の」
「一歩手前の状態にある患者さんで」
「事前に検査や手術の予定を組んで」
「入院してくる方も多くいますが」
「ベッドが空かないので」
「直ぐに入院して貰えず」
「2か月近く待機をお願いするケースもあり」
「その間に病状が悪化し」
「救急車で運ばれて来てしまう方もいる状況です」
「何とかできなかったかと悲しくなりますし」
「この悪循環には可也の危機感を持っています」
なぜ満床続く?心不全患者が滞留する理由
満床が続く背景には、患者数の増加に加えて、心不全という病の特性が大きく関係しています。
それは「入院の長期化」と「繰り返される再発」です。
入院中は、服薬の調整など時間をかけた専門的な治療が必要になりますが、心機能が低下した患者は急速に体力も落ちてしまい、その回復にも時間がかかります。
70代の男性が、心臓の状態を判定する検査を受けてみると…。
理学療法士
「同年代の人に比べると」
「体力は62%しかないですね」
患者
「えー!それしか無いんですか?」
「自信なくなるな…」
医師
「入院中ベッドで寝ている時間も長かったので」
「体力が落ちてしまったんだと思いますよ」
この病院におけるすべての患者の平均入院日数はおよそ10日ですが、心不全患者の中には2か月を超えても退院できない患者もいるということです。
そして、心不全はひとたび症状が落ち着いても「改善」と「悪化」を繰り返し、だんだん体の機能が落ちていきます。
その途中、急激に悪化することを「急性増悪」といい、そのたびごとに「再入院」となる人も多いのが実情です。この病院では、3人に1人が退院から2年以内に再入院している現実があります。
心不全の患者が入院している病棟を訪ねると、私たちの取材に応えてくれた人がいました。羽賀實さん(仮名・64)。鼻には酸素のチューブがつながれていました。
羽賀さんが心不全と診断されたのは2011年。東日本大震災が発生する直前でした。長年10トントラックの運転手をしていましたが、心不全になってから生活は一変。
急に呼吸ができない発作のような状態に襲われては救急搬送され、再入院に。
その数は23回にものぼっています。年を重ねるごとに頻度も多くなっていて、去年1年間だけで7回も入院を繰り返しました。
羽賀 實さん
「最初はちょっと入院して」「薬を飲んで先生の言うことを聞いていれば」
「落ち着くのかなと思っていましたが」
「病状が進むにつれて」
「想像していたのとは」
「全然違う病気だと気づきました」
「とにかく動けなくなっていくんです」
「何度も再入院を繰り返すのはきついです」
羽賀さんは病院のベッドで、大好きなラーメンの雑誌をながめるのが唯一の楽しみだといいます。
いま人気を集めているラーメン店のページをめくりながら、小さな声でつぶやきました。
羽賀 實さん
「以前はよく妻と一緒に」「おいしいお店を見つけに」
「あちこち行っていたんです」
「でも塩分をとりすぎると」
「心臓に負担がかかって」
「あっという間に」
「呼吸が苦しくなってしまうので」
「もうラーメンは食べに行けないなと」
「こうして雑誌を見ることだけが」
「いまの楽しみですね」
心不全患者の再入院をどう防げばよいのか、病院のスタッフたちも頭を悩ませています。
80代の男性は、入院中に体の機能が急速に落ち、高齢の妻と暮らしていた自宅には戻ることができなくなりました。その後、特別養護老人ホームへの入所が決まり、病院から施設へ患者の情報を引き継ぐリモート面談が行われることに。
そこからは、病状の悪化を防ぐためのケアを行き届かせる難しさが見えてきました。
病院スタッフ「施設では、どれぐらいの頻度で体重を測っていただけますか?」
施設の看護師「1か月に1回ぐらいですかね」
病院スタッフ「もっと頻繁に測っていただくことは難しいでしょうか?」
「できれば、毎日測るのが良いのですが…」
施設の看護師「ごめんなさい、それってどんな意味がありますか?」
病院スタッフ「体重の増加は、心不全の悪化をキャッチできる指標になるので…」
施設の看護師「うーん…ごめんなさい。どんなに頑張っても2週間に1度が限界ですね」
リモート面談を終えて、病院のスタッフは葛藤する思いを明かしてくれました。
病棟の看護師
「私たちとしては」「できる範囲でお願いするしかないですが」
「やはり退院してから再び体調を悪化させて」
「すぐにまた戻ってきてしまう」
「患者さんが多いのが現実です」
「受け入れる側にも」
「いろんな事情があって」
「対応できる事・できない事があると思うので」
「しかたがない面もあるのですが…」
「再入院を防ぐって永遠の課題で…」
「本当に難しいです」
ひっ迫軽減できないか… 立ちはだかる「地域連携」の壁
患者の急増に加え、長期に及ぶ入院、そして繰り返される再入院。重い現実がのしかかる中、病院の社会福祉士たちは転院先を見つけるため、1日中電話をかけ続けます。
土浦協同病院は24時間体制の救命救急と高度先進医療を提供する「急性期病院」ですが、地域には、その後の患者の治療・ケアにあたる「慢性期病院」や「回復期病院」など、中規模から小規模の病院もあります。
しかし、現実はなかなかうまくいきません。
慢性期病院や回復期病院には循環器の専門医がいないことが多く、細やかな体調管理が必要で、再発を繰り返すリスクの高い心不全の患者の受け入れには不安を持たれてしまうといいます。
社会福祉士 太田理恵さん
「病棟のひっ迫状況をひしひしと感じているので」『転院先を見つけられなかったらどうしよう…』
「と、重い気持ちになることもあります」
「わらにもすがる思いで電話をかけている毎日です」
急性期の治療を終えた後も
この病院では現在、急性期の治療を終えたあとの患者のさまざまなケアまで担っています。
大きな役割を果たしているのが、心機能と体力の回復を図る「心臓リハビリ」。
患者の胸とモニターを機器でつなぎ、心電図を常に確認しながら有酸素運動を行い、効果的な運動量を見極めていきます。
入院中は毎日、理学療法士と一緒にリハビリに取り組める環境がありますが、退院したあとも外来でリハビリに通い続ける患者は、すべての入院患者の1割にも満たないといいます。
この現実もまた、再入院をまねく要因になっていると理学療法士は苦悩しています。
「心機能や体力が回復しきることはまず無くて」
「むしろ退院してからが」
「本当に意味でのスタートといえます」
「しかし高齢の患者さんの場合だと」
「外来でリハビリに通うための」
「交通手段が確保できなかったり」
「ご家族のサポートを得られなかったりすると」
「通えないということになります」
「また比較的若い患者さんだと」
「すっかり体の調子が良くなったと思い込んで」
「リハビリに通わなくても」
「大丈夫だと過信してしまう」
「知らず知らずのうちに」
「再び心臓に負担が掛って居る事も」
「少なくないんです」
「そこが忸怩たる思いですね」
また心不全患者にとっては、抜本的な食生活の見直しも欠かせません。
病院では管理栄養士を配置し、患者ひとりひとりに対して「栄養指導」も行っています。特に注意を促すのは「塩分の取り過ぎ」について。
栄養指導を受けていたのは、心不全の診断を受けた57歳のトラック運転手の男性。
管理栄養士は
「塩分を取り過ぎると血圧があがり」
「血管に負担がかかることで」
「心疾患などが引き起こされる」と説明。
そして塩分をなるべく避けるために、すぐに心がけられる方法を紹介していました。
👉ラーメンなどの汁はすべて飲み干さない。
👉調味料の使い方に気をつける。「かける」のではなく「つける」。塩味以外に、辛みや酸味も利用する。
👉野菜や果物に含まれるカリウムは塩分を体の外に排出してくれるので、継続して食べる。
「仕事が不規則で」
「休憩できる夜中や朝方に」
「食事をとることもしょっちゅうでした」
「ふだん味が濃いものばかり」
「食べていた気がします」
「ああ、こういう食べ方が」
「大事なんだなとわかったので」
「これから実践していきたい」
と、話していました。
急性期病院だけで“心不全パンデミック”に立ち向かうのは「不可能」
心不全患者の治療に力を注ぎ、ひとりでも多くの患者を救いたいと話す角田医師。
しかし、これから先も患者が増え続けていったとき、急性期病院だけで心不全パンデミックに立ち向かうのは不可能だと焦りを募らせています。「慢性期・回復期まで」
「急性期病院が」
「担っていかなくてはいけないとすると」
「患者さんへのケアは」
「確実に追いつかなくなります」
「ベッドがいっぱいになると」
「急性心筋梗塞などの」
「1分1秒を争う患者さんを受け入れられなくなり」
「救える命が救えない事態となります」
「高度な先進医療を提供したいのに」
「それができないと云う事も起きかねません」
「地域の医療機関や介護施設などが」
「連携して心不全の患者さんを受け入れ」
「支えていく仕組みを」
「すぐにでも作らなければ」
「心不全の急性期治療は」
「破綻してしまうと思います」
【取材後記】
土浦協同病院への密着取材が許された8日間。救命救急センターに運び込まれた急性心不全の患者が心肺停止に陥ったときには、一気に現場の空気が緊迫感に包まれました。大勢の医師が総出で処置にあたり、患者は一命をとりとめました。
病床がすべて埋まるということは、こうした患者の受け入れができなくなるということなんだ…。そう思うと「心不全の医療破綻」は、まさに目前まで迫っているのかもしれないと怖くなりました。
患者の増加は今後10年以上続き、ピークを迎える2035年には130万人に達するとみられています。
“心不全パンデミック”の脅威は増していくばかりです。専門医が複数在籍し治療設備も整っている急性期病院ですが、いまのように患者の回復期までのケアを担う体制は果たして持ちこたえられるのか。
私の目の前で救われた“あの命”のように、どんなときでも患者が守られるためにいま何が必要なのか。
早晩訪れる“未来”を変えるための行動が、いまこそ求められていると強く感じました。
(クローズアップ現代取材班 藤島温実)
※Gen
主流メディア気取りの反社ものどきの犬HK。
心不全が突然降って湧いて来る訳がないだろ。
しれっと昔の発症者を入れて居るが
そんなので心象操作ができると思ってるらしい。
犬HKも、記事内に登場してきた医療関係者達も
ワクチン接種のワの字も出さないのは何故?
自分達が煽って、自分達が打ちまくったからだろ?
「心不全パンデミック」等と云う表現は陳腐過ぎ。
そんな事が通用すると思って居るらしい。
彼らが全方位に吊し上げを喰らう日が楽しみだ。