件の5年生達に笑われて、しばらく気落ちしていた私だったが、麗子ちゃんと玲子ちゃんの励ましで、気を取り直した。
「A先生のレッスンをいきなり受けるのが心配なら、近々、A先生が音楽院内のコンサートホールで公開レッスンするから見に行ってみたら?」
と2人のレイコちゃんに勧められ、私はその公開レッスンを見に行くことにした。
公開レッスン当日、ホールにはたくさんの人達が見に来ており、満席だった。
そこには件の2人を含む5〜6人ぐらいの5年生達もいて、私に気づくと、こちらを見てヒソヒソ話をして笑っていた。
A先生の公開レッスンが始まった。
最初の1人、ショパンのバラード1番のレッスンだけ見ると、子供の幼稚園のお迎えがあった私は急いで帰った。
しかし、そのほんの短い時間だけ見学した公開レッスンはとても素晴らしく、印象に残った。
またA先生の奏法がホラーク先生の奏法と一緒だと感じたことも決め手となり、A先生にやっぱりコンタクトしてみよう、と決心した。
考えてみれば、私みたいな年齢の人間が音楽院に在籍していること自体、すでに他の人の失笑を買っているに違いない。
そう考えると、この上、さらに失笑を買っても同じことだ。
「やって後悔」より「やらなくて後悔」のほうが引きずると、心理学でも学んだではないか。
それに、A先生の門下生にしてもらえないのは当たり前だし、先生に1回レッスンしてもらえるだけでありがたいことだ。
友達が門下生であるというだけで、連絡を取らせてもらえるのだから、感謝しかない。
そんな風に私は開き直り、気持ちが定まった。