今年度の音楽院でのピアノ科のレッスンはすべて終わってしまっているので、A先生の門下生である友達に、A先生の電話番号を教わった。なので、とりあえずA先生のご自宅でプライベートレッスンを受けるつもりであることを報告すると、
彼女達は驚愕の表情を浮かべて、
「A先生って誰か知ってるの?!」
と叫ぶように言った。
「え?よく知らない。
門下生である友達からは、どんな作曲家の曲の指導もできる先生で、特にショパンの指導に定評があると聞いているけれど。
どんな先生なの?」
「この音楽院のピアノ科で一番高名な先生よ!
複数の主要な国際ピアノコンクールの審査員も歴任しているすごい人よ。」
「ええっ、そうなの?!」
と今度は私が驚いた。
それを聞いて、先日、この2人の5年生の彼女達とお茶した時、
「日本からわざわざ頑張って留学してきたんだから、ここにいれる間はあらゆるチャンスを活かして貪欲に学びたい。」
と5年生の彼女達が言っていたのを思い出した私は、彼女達も、もしかしてA先生のプライベートレッスンを受けたいかも知れないと思ったのだった。
それで、
「もし良かったら、あなた達もA先生に先生に会ってみる?門下生の友達から教わったから、私、今、A先生のご自宅の電話番号持ってるんだけど、その電話番号いる?
音楽院の今年度のレッスンは終了していても、プライベートレッスンを申し込んで自分との相性見ればいいんだって。そうしたら今からでも来年度に先生変わることも可能らしいよ。」
と私がいうと、彼女達は目を丸くして、
「この音楽院では、学生側が希望すれば、ほとんどの場合、どんな先生の門下生にもなれるけど、A先生とD先生だけは、例外で、門下生になるための特別な試験があるのよ。
A先生って、そういう特別な先生なのよ。」
「A先生のところなんか、国際コンクール目指してるようなすごい子しか、門下生になれないわよ。
そもそも敷居が高すぎて、A先生にコンタクトしてみようなんて思いつきもしなかったわ。
あそこは10代や20代なりたてのすごい子達がいくところ。
私達なんか20代後半で、トシなんだから、門下生にしてもらうこと自体、そもそも無理よ。」
とアラフォーの私に向かってそう言い放つと、立ち去って行ったのだった。
彼女達の去る後ろ姿を見ていると、彼女達が互いに顔を見合わせた後、蔑んだ笑みを浮かべながら、私を振り返ったのを良く覚えている。