老舎原作のドラマ。全28集。
日中戦争期の北京を舞台に、四世代の家族が同居する「四世同堂」の一家とそれをとりまく周囲の人々の生活が、戦争で徐々に壊されていく物語。
日中戦争終結40周年を記念して作られた作品。八十万字もの分量を誇る原作に対し、二十八集というのは少なすぎなんじゃないかと思われるだろうが、当時の大陸はまだテレビドラマ制作の黎明期であり、殆どのドラマは十話程度で終わってしまう作品ばかりだった。その転換期ともなったのが本作。二十八集という話数は当時でも多い方だったのだ。中国ドラマの歴史を語る上でも、なかなか重要な位置づけにある作品。
話数が少ないとはいえ、物語はうまくまとまっている。日本軍の侵略は殆ど間接的な描写で済まされているが、これがかえっていい演出になっている。それまで同じ一角に住んでいた隣人や家族が、ある日唐突にいなくなっていく。ある者は日本兵に処刑され、ある者は国のために戦場へ向かい、ある者は病気や貧困で死ぬ。日本兵が直接市民に危害を加える描写は無いが、戦争の影響は徐々に平穏な暮らしを壊していく。これが庶民の感じる戦争であり、占領体験なのだと実感させられる演出だった。まあそもそも、原作自体があんまり直接的な戦争描写をしていないので、その路線にドラマ制作陣がうまく乗っかったということだろう。撮影技法が未熟な点も結構目立つが、それも古い作品ならではの味。
キャストもそれぞれ素晴らしい。後に制作されたリメイク版ドラマや舞台でも、本作のビジュアルを踏襲しているものが少なくない。中国人にとってはまさに古典的名作だろう。
日本軍は悪として描かれているものの、原作で登場したあの日本人の老婆も出てくるし、そこまで酷い表現はされていない。そういえば80年代は日中関係が割と良かった時期だった。日中戦争終結40周年を掲げながらも、やたら抗日意識を煽る作品を原作にしなかったのは、そういう事情もあるのかもしれない。
ドラマ主題歌の「重整河山待后生」も素晴らしい名曲。老北京を舞台としたこのドラマのために、伝統芸能である京韻大鼓の名手・骆玉笙を起用している。
老舎作品が好きなら、絶対に見て損はない作品。
以下キャスト
祁老人/邵华
祁家の家長。祁家の第一世代。生粋の北京人。外国の侵略や王朝変動も乗り越えてきたため、日本軍の北京占領も大したことではないと考えていたが…。
祁瑞宣/郑邦玉
祁家の第三世代。学校で英語を教える教師。日本の侵略に心を痛め、国のために戦いたいとは思いつつも、守るべき家庭があるため苦悩する。
韵梅 /李维康
瑞宣の妻。もとは気弱だったが、戦争の影響により徐々にたくましくなっていく。
祁家の第三世代。真ん中の弟。教養が無く目先の利益に走り、ついには日本軍の走狗にまでなってしまう。演者さんは後のリメイク版で冠晓荷を演じる。何となく因縁を感じて面白い。
祁家の隣人。胡同では裕福な家だが、周囲からは煙たがられている。典型的な漢奸で、日本軍に取り入ろうとするも、その目論見はやがて裏目に出ることに。阿Q並みに精神的勝利法がお得意な人。
リメイク版のレビューもあります。よろしければどーぞ。
http://ameblo.jp/hopeseven/entry-10885361392.html