あれは3年前だったか、イギリスの片田舎で犯罪に巻き込まれた。その前年に関わった芝居と似ているプロット。悪質な手口。どんどんパーソナルスペースに忍び込む陰と誹謗中傷。切り込まれた深い傷。生き延びる為に、自分の中の何かにメスが入れられ、切り離された。西洋医学に頼る瞬間。犯人はお前かと問われ、壊れた。そして友が一人去って行った。

この切り離され、どこかの闇に廃棄された一部が時々痛い。もう存在しない部分の痛み。悪夢の中で、この捨てられた一部が瞳を開ける。失ってしまった子供、私の。


佇む人がいる。私は見つめる。目が合っているのかいないのか。佇む人の過去に想いを馳せる。その人の肩にのしかかる重さを感じてみようとする。


自分の不甲斐無さを感じつつも走り続ける。「止まったら死ぬ」呪いをかけられているマラソンランナーみたいに。


去って行った友からエールが送られて来るミラクル。遠くにいるのに、去って行ったのに。


また幕が開き、幕が下りた。満員御礼、大盛況の舞台。


トラックが遅れてやって来る。廃棄にならなかったモノ達を運ぶために。

運転手が胡散臭い。道がわからないトラック運転手の助手席で、このまま予定の行き先では無くどこかの闇、たぶん、廃棄場のような場所にこのまま連れ去られるのではという恐怖がよぎる。


「ニュースを見たか」
「この国のミルクはミルクの味がしない」
「将来的に人口の50パーセントがガンになる」
「ニュースが言っていた」


「ニュースを見たか」
「この国のミルクを飲んではいけない」
「将来的に人口の50パーセントが人間では無くなる」
「ニュースが言っていた」


「ロシアはいい」
「人々は幸せで、素朴で、人間だ」

「ロシアの片田舎に大きな家を買おう」
「人間でいられるように」



街の灯りが遠ざかる。

やはり廃棄場へ行くのか。

やはり、私が犯人か。


人間で無くなる前に廃棄になるのは、ある意味幸せなのかもしれないと思ってみる。サイボーグになったら殺して欲しい。


目を閉じると眩しい光が見えた。

誰かが道のわからないロシア人運転手と私を待っている。



満月が叫ぶ
「最後の味方を失っても、走れ!とにかく走れ!」