安部公房『密会』 | ホーストダンスのブログ

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フランス文学が続いたので、そろそろ日本人作家の作品を読みたくなり、安部公房作品で未読の『密会』を読みました。


表題からは妻子ある男が人目を忍んで逢引をするようなテーマを想像しますが、内容的には、以前読んだ『燃え尽きた地図』など失踪三部作と言われるものに近く、この作品も『失踪シリーズ』に加えても良いのではないかと思われました。


若い夫婦が熟睡していた深夜、呼んでもいない救急車が到着し、わけもわからないまま若い妻が搬送されていく場面からスタートします。

いきなり突拍子もない展開ですが、これは安部公房作品には珍しいことではありません。ここから夫が妻を探すための大病院の探索が始まります。

妻が搬送された病院はそれほどの苦労もなく特定できるのですが、その病院に乗り込んでからが予想外のトラブル続きとなります。

いきなり病院の各種手続の代行などを請け負う斡旋屋なる怪しげな業者が登場します。この斡旋屋は患者の院外への連れ出しの手助けも請け負うなど相当いかがわしい商売をしています。

その他にも「試験管ベビー」として誕生した副院長の女性秘書、溶骨症という奇病に罹っている少女、下半身が馬(!)という副院長など強烈なキャラクターが登場します。

夫は様々な困難に遭遇しながらも病院の警備主任に就任するなど病院内部に深く食い込んでいき、徐々に妻の居所に近づいては行くのですが、妻を連れ戻すという目的は達成できません。夫が、妻とともに院外へ脱出させようとした溶骨症の少女と二人で幽閉され、最終的には自分も妻も少女も巨大な病院機構の一部(病院の職員や患者)とならない限り生きながらえることはできないことを悟りますが、病院側から手を差し伸べられることはないまま(二人が助かるかどうかわからないまま)作品は終わります。

(表題の『密会』は最後の二人だけが幽閉された状態を指しているのです)


ここには書いていませんが、かなり性的描写が多く(といっても性欲を掻き立てるようなものではなくむしろグロテスクな描写です)、これはこの大病院が、性的表象が氾濫する現代社会を比喩的に表しているという解釈もあるようです。


他の安部公房作品に劣らず、読者に強烈な印象を残す作品です。安部公房ファンなら必読の書だと思います。