スタインベック『怒りの葡萄』 | ホーストダンスのブログ

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アメリカのノーベル賞作家、ジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』を読みました。

世界小説100選にも名前があることはずっと前から知っていたにもかかわらず、なぜか今まで読んだことがありませんでした。


これほど内容に引き込まれた小説を読んだのは久しぶりのことで、私がこれまで読んだ小説のうちベスト10には入ります。これまで読んでいなかったことを強く後悔しましたが、逆に、これまで名作と言われる作品をかなり読んできていても、まだこれほどの名作に巡り会えていないこともあることを知り、読書の道の奥深さを改めて認識しました。


場合は世界恐慌と同時期のアメリカです。オクラホマ州など北西部の農民は、当時大規模に発生した砂嵐によって自分たちの農場が耕作不能となったため、果実摘みの仕事があるといわれていたカリフォルニアへ大挙して移動します。しかし、カリフォルニアは同じように移動してきた農民であふれかえっており、労働力として買い叩かれた彼らは低賃金での労働を余儀なくされ、定住する場所もなく、毎日の食事にも事欠くような暮らしを続けることになります。

この作品はそうした農家の一つであるジョード家の人々が故郷オクラホマを追われ、苦労の末カリフォルニアに辿り着くものの、カリフォルニアでも悲惨な目に遭う、という救いのない日々をリアルに描いています。


冒頭、主人公であるトム・ジョードは些細な喧嘩で人を殺してしまい服役中でしたが仮釈放され、故郷オクラホマに戻ってきます。しかし、そこで見たのは、まさに砂嵐に見舞われた直後の実家の悲惨な状況でした。オクラホマでの生活を諦めたジョード一家は、ばら撒かれていたビラでカリフォルニアでは多くの労働者を必要としていることを知り、家財道具を売り払って古いトラックを買い、狭い荷台に家族全員で乗り込んで西に向かいます。

過酷な移動の旅は物語前半の山場です。出発してまもなく環境変化に耐えられなかった祖父が亡くなり、カリフォルニアに近づく頃にはトムの従兄弟やトムの義弟が集団から離脱し、祖母も亡くなります。

大変な苦労を重ねてカリフォルニアに着いた一家を待っていたのはさらに過酷な環境でした。カリフォルニアには本来必要な労働力を大きく上回る労働者が流れ込んだため、彼らの賃金は低く買い叩かれてしまったのです。一家総出で丸一日働いても一日の食費も十分に賄えないような状況に置かれた彼らは、住む場所や職を求めて彷徨うジプシーのような生活を送ることになります。

そのような中、主人公トムは仮釈放中の身でありながら再び殺人を犯し、一家から離れざるを得なくなります。また、トムの妹で、身重であるにもかかわらず夫が逃げ出してしまったシャロンは赤ちゃんを流産し、さらには大雨による洪水で住む場所も失ってしまうという、まさに救いのない状況の下で物語は終わります。


このような展開の小説ですから、読者はどんどんその世界に引き込まれていきます。全体としては、出エジプト記を彷彿とさせる一大スペクタクルとも言うべき作品ですが、特に一家がトラックでオクラホマからカリフォルニアを目指す前半は、秀逸なロードノベルでもあります。

発表当時は内容の真実性などを巡ってアメリカ国内で大論争を巻き起こし、禁書扱いにする州まであったとのことですが、一方で、現実は小説に書かれた世界よりもっと酷かったという指摘もあったそうです。


アメリカ小説の名作は、奴隷制度や黒人差別問題などを扱ったものが多いですが、白人貧農層に焦点を当てた名作に巡り会えたのは大きな収穫でした。

ヘンリー・フォンダ主演で映画化されているそうなので、いずれそちらも見てみたいと思います。