村上春樹のデビュー作である『風の歌を聴け』を読みました。
改行の多い文体で200ページ弱の作品ということで、1日で読み終えました。
村上春樹が29歳の頃、ジャズ喫茶を経営する傍ら深夜に執筆した作品だそうです。
主人公は村上春樹と同年代の青年で、彼が東京の大学に通う21歳の学生だった1970年の夏、故郷に帰省していた半月ほどの間の出来事を回想しながら綴った私小説という形式をとっています。
後に発表された作品に比べると荒削りで、初々しさを感じさせる青春小説ですが、主人公の心理描写や街中のありふれた情景をみずみずしく描き出すところなど、大小説家としての才能が随所に表れているように思います。
主人公は、団塊の世代に生まれ、大学生時代には安保闘争を経験し、その後は典型的なサラリーマン?として家庭を築いていく、という外見的には極めて平凡な人生を送っている人間ですが、人生のモラトリアムともいうべき大学生時代、ありあまる時間の中でこの作品に描かれているやや非日常的な体験を通じて精神的成長を遂げていったことが読者に伝わってきます。
現代日本的な教養小説の一つと言えるでしょうか。
この作品中には多くの音楽や文学作品、映画などが当時の文化・風俗を伝えるものとして登場しますが、それ以上に頻繁に出てくるのが「ビール」を飲む場面(と煙草)です。
人間が成長する過程ではたくさんの芸術に触れることが不可欠だと思いますが、その経験を深化・定着させるためには「酒」も必要なのかもしれませんね。