川端康成『山の音』 | ホーストダンスのブログ

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川端康成の名作『山の音』を読みました。川端康成といえば、まずは『雪国』、『伊豆の踊子』といった作品が思い浮かぶと思いますが、今回、なぜこの作品を手に取ったかというと、ノルウェー・ブック・クラブというところが発表した『史上最高の世界文学100選』に日本の近代文学で唯一出てくるからです。(ちなみに日本文学では他に『源氏物語』が選出されています。)
私が文学作品を読み始めて3年半ほど経ちますが、その当時既に40歳を過ぎていた私は、これからの限られた時間で本を読んでいくなら、やはり長年にわたって高い評価を受けてきた名作と言われるものを読んでいこう、と決めました。最初のうちは私が知っている範囲の「名作」を手当たり次第に読んでいたのですが、ある程度「名作」を読んでいくうちに何か基準となるようなものを探すようになり、そこで見つけたのがノルウェー・ブック・クラブの『100選』でした。ここには日本文学は2作品しか出てきません。『源氏物語』は納得ですが、もう一つがこの『山の音』というのは意外な感じがしました。作者の川端康成は日本の近代文学を代表する文豪ですが、恥ずかしながら『山の音』は最近まで私は知らず、果たして世界各国の名だたる名作と並ぶほどの作品なのだろうか、と思っていました。

というわけで、読後の感想ですが、さすが『100選』に選ばれるだけのことはある、という感じです。川端康成の作品の中でも私が読んだ中では最も素晴らしいものだと思います。実は川端康成の作品は、何となく淫猥でドロドロした雰囲気があまり好きではなかったのですが、この作品を読んで少し印象が変わりました。
舞台は終戦後間もない時期の鎌倉です。主人公は60過ぎの初老の会社経営者で、一つ年上の妻と息子夫婦と暮らす男です。作品中はかなり年老いた感じで描かれていますが、当時は60歳というと完全に「老人」という扱いだったのでしょう。現在の感覚でいうと70過ぎくらいのイメージですね。
その主人公は自分の衰えを自覚しながら暮らしています。(表題の『山の音』は、深夜目を覚ました主人公が聞いた地鳴りのような山の音を自分の死期を告知されたのではないか、と感じたところから来ています。)主人公の妻は、昔、主人公が思いを寄せていた女性の妹で、姉ほどの美貌ではないものの、まずまず仲良く暮らしている夫婦です。
主人公の息子は戦争帰りの美男子で、若く美しい妻を持ちながら、結婚後2年も経たないうちに戦争未亡人と浮気している、どこかシニカルな雰囲気を持つ男、その妻は若く、可愛らしい少女のような女性で、主人公を実の父のように慕っています。
その家庭に、与太者のところへ嫁いでいた主人公の長女が二人の子どもを連れて出戻ってきます。この娘は不器量で、美しかった妻の姉に似てくれたらという主人公の密かな願いを打ち砕いてしまった娘です。そのせいか、主人公はこの娘にあまり強い愛情を注いでこなかったようで、むしろ今は長男の娘の方を可愛がっています。
そのようなやや複雑な人間関係で構成される家庭を舞台に、いろいろな事件が起こっていきます。長男の嫁の妊娠と堕胎、長男の浮気相手の妊娠・・・。そして主人公が長男の嫁に対して抱くやや屈折した恋心。四季折々の鎌倉の風景が描かれる中で、登場人物の心の綾が繊細な筆致で綴られていきます。

私にはまだ少し早い気がしますが、男は初老に差し掛かり、自分の体の衰えを感じたり、漠然と死を意識するようになった時、この主人公のように、自分の初恋の人を強く思い出したり、若く美しい女性に対して、潜在的に肉感的な思いを秘めながら淡い恋心を抱いたりすることがあるような気がします。私が主人公の年齢になる20年後くらいにもう一度読んでみたい作品です。
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