三島由紀夫『鏡子の家』 | ホーストダンスのブログ

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先週、私を除く家族4人は一足早く東京へ戻りました。これから3か月ほどの間、家族と離れて単身生活となります。
まだ数日ということで、あまり実感がわきませんが、これから徐々に寂しさを感じることになるでしょう。必然的に読書の時間は増えそうです。

そこで、今回の読書記録は、三島由紀夫の『鏡子の家』です。松山に来て、純文学の読書をするようになって間もない時期に三島由紀夫の作品はかなり読んだのですが、先日、たまたま見かけたサイトで、大学生に読ませたい小説10冊にこの作品が挙げられていました。推薦者によると、三島作品の中では、『金閣寺』や『仮面の告白』などよりこれをよむべし、とのことで、この作品を読めば、三島がボディビルで身体を鍛えた理由や市ヶ谷で割腹自殺した理由がわかる、と述べています。

昭和30年頃の頽廃的な雰囲気の漂う時代の中、資産家の娘で、犬好きの旦那を追い出して小さい娘と暮らす鏡子とその家に出入りする4人の若い男たちの
生活が描かれています。

鏡子は謎めいた美女で、男たちの情事の話を聞くことを愉しみとしているものの、決して彼らとは関係を持たず、一段高いところから男たちを見ている
感じです。ただし、読者にあまり強い印象は与えません。
それよりも、個性豊かな4人の男たちの生活とその内面感情が、三島らしい実に流麗な筆致で描かれています。
4人はそれぞれ、破滅思想を持ちつつも外面的には有能な商社マン、物事を深く考えることをしないボクサー、ボディビルに取り憑かれた売れない俳優、才能豊かな画家という面々です。私には、彼らは三島が持っていた多面的自我とでも言える存在ではないかと思いました。彼らは三島の分身であり、言い換えると、彼らを統合した存在が三島である、とも考えられます。
商社マン清一郎は、東大法学部を出て大蔵省へ入省した典型的エリートという三島の経歴とダブるところがありますし、ボディビルやボクシングは三島自身が熱中していたものですし、画家夏雄は文学者・三島の芸術性を体現しているだけでなく、小説終盤まで童貞というところも、『仮面の告白』に描かれている三島の姿に通じるものがあります。

そして、何より三島の作品を読んで感心させられるのは、その筆力です。画家夏雄が、自分の見た風景を作品に仕上げていく過程を表現した部分などは、どんなに優秀な画家でも語ることのできない、芸術創造の真髄に迫ったものではないでしょうか。三島がこの作品を執筆したのは34歳の時とのこと、私のような凡人と天才との差を痛感させられます。以前、『金閣寺』を読んだ時にも同じような思いを持ちました。恐るべき文人ですね。

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