真っ先に咲く梅に続いて杏や桃、李が花開き、桜が暖かい春を彩る――
また楽しみな季節がやってきた。
公園や庭園など各地の名所に、今年も大勢の人が足を運ぶことだろう。
「桃李もの言わざれども下自ら蹊を成す」とは、中国の言葉である。
桃や李は何も言わないが、その花の美しさや果実に引かれて人が集まり、自然と木の下に道ができる。
同じように、徳ある人のもとには自然と人々が寄ってくる。
魅力のある人をよく「花のある人」という。
世阿弥は著書『風姿花伝』で、能楽者の「花」について「時分の花」と「まことの花」に分けた。
前者は若さによる華やかさ、後者は修行によって身についた美しさである。
苦労で自分を磨き、内面からにじみ出た輝きこそ、「まことの花」なのだろう。
しかし、本当に「花のある人」には、さらに深い魅力があるように思う。
若さにしろ経験にしろ、〝自分だけ〟が輝くのではなくして、〝周囲〟をも明るく照らす、という〝温かさ〟があるのではなかろうか。
人の幸せのために、精いっぱい果たそうとする時、人は無上の「花」になる。。。