これまで、人に言わないように意識してきたことがある。
自分の中だけにしまってある「記憶」というのは不思議なもので、
時の経過と共に少しずつ変化していってしまう。
特に自分にとってつらい出来事は自然と忘れてしまうか
もしくは実際に起こったことよりもそのイメージが抽象化されてしまい
曖昧な記憶になってゆく。
僕には忘れてしまう前に、どうしても書かなければいけないことがある。
今日は兄の命日だ。
4年前の今日、11月30日に彼は死んだ。
自死だった。
正しくは彼は12月3日に息を引き取ったが、僕は彼が死を決意し、それを実行した11月30日が命日なんだと思う。
あの夜、病院についた僕に担当医がこう言った。
「脳に酸素が送り込まれない時間が長かったため、大脳皮質はすでに機能していません。今は脳幹だけが生きている状態です。」
つまりは、僕らが泣いたり笑ったり、話したり考えたり、いわゆる人間を人間たらしめている・・兄を、兄たらしめている部分は、僕が駆けつけたときにはすでに死んでいたのだ。
僕の前に横たわっていたのは兄の姿をした、ただの肉体に過ぎなかった。
だからこの日が「僕の兄の死んだ日」なんだろう。
大抵の大人は死ぬにしても、ひとり黙ってひっそりと死んでいくものだが、彼は違った。
「オレは人生をQuiteしようと思う。」
そう宣言して、家族兄弟を巻き込んでの壮絶な死だった。
当時僕は自分の家族を集めてこう言った。
「兄に死んで欲しくない、死なせるわけにはいかない。だからしばらく迷惑をかけるかもしれないけど、よろしく頼む。」
そうして仕事が終わるとすぐに兄のところへ・・
独りにさせないように・・
毎日毎日、兄弟3人集まっていろいろな話をした。
育った環境が複雑で、一緒に生活する時間が極端に短かった僕たち兄弟が、初めて過ごす日々・・
今まで一度も来たことがない息子のサッカー観戦に誘うと、「おぅ、行こう」といって二人で出かけた。
結婚してから一度も泊まったことなどないのに、「今日泊まっていけば?」というと、「そうだな」と言って二人で夜中まで酒を呑んで、ギターを弾いて、唄を歌った。
僕はそれが・・・世間の一般的な兄弟みたいな毎日がうれしかった。
そんな風に1ヶ月が過ぎ、2ヶ月が過ぎ・・・・
3ヶ月目が終わりに近づいたころ、僕はこんな風に考えるようになっていた。
「これだけやったんだから、もう大丈夫。」
「こんなに話しあったのだから、兄は死なない。」
「兄のためにオレはこんなにがんばったのだから、もしこれでもし死んだとしても・・・」
そしてそのとおりになった・・・
僕は兄を死なせてしまった。
僕は彼の墓がどこにあるのか知らない。
そればかりか、手を合わせたこともなければ、線香一本あげたこともない。
いまだに彼を送り出せずにいる・・
僕だけが、彼の死を受け入れることができないのかもしれない。
彼は4年前の今日、僕に4回電話をかけてきた。
なぜ僕は、最初の電話でスグに彼のところは駆けつけなかったのだろう?
なぜ僕は、彼のシグナルに気がつかなかったのだろう?
本当に気がつかなかったのだろうか?
気づかない振りをしていただけじゃないのだろうか?
そう考えない日はない・・
仕事をしているとき、バイクに乗っているとき、音楽を聴いているとき、サッカーを観ているとき・・何をしていても、ふと、そのことを考えてしまう。
自分を責めずにいることができない。
自分を赦せる日は来るのだろうか?
彼の電話の最後の言葉は
「またかけるよ・・」
だった。
追いつけない速度で去っていくキミを
僕はもうつかまえることができない。
生きている限り
君と僕とは遠くなるばかりだろう。
だけど僕は走る事をやめない。
走り続ける僕の足跡は
君がいた証だから。
そして、いつかこの人生を終え
走り終えたそのときに
俺はここまで来たよ、と
君に笑ってあえるだろう。
今夜、ダニエルが飛行機で旅立つ。
赤いテールライトがスペインに向かっている。
ああ、ダニエルが「さよなら」って手を振っているのが見える。
それともあれは君のカタチをした、ただの雲なの?
スペインは綺麗なところだってね。 ボクは行ったことがないけど。
ダニエルは「最高の場所だよ」って言ってた。
でも行ったきり、戻ってこないわけじゃないよね?
あぁ神様、ダニエルがいなくて寂しい。
本当に寂しいよ
ダニエル、ボクの兄貴。
まだ痛むのかい? 癒されることのない傷が痛むのかい?
君の目はもう死んでいるけど、ボクよりいろんな物を見てるんだよね?
ダニエル 兄貴は星 空の星。
ダニエル 君はかけがえのない兄さんだったよ。
まだ痛むかい? 永遠に癒されることのない傷が痛むんだね?
兄貴の目はもう死んでいるけど、ボクよりいろんな物を見てるんだものね?
ダニエル、君はまるで、空に浮かんだ星のようだよ。
今夜、ダニエルがひとりぼっちで旅立つ。
赤いテールライトが西の空に消えてゆく。
ほら、ダニエルが「さよなら」って手を振っているのが見える。
でもそれは、ダニエルのカタチをした雲なの?
雲でもいいから逢いたいよ












