2012/4/13 郁彩、坂本麗衣、ヒグチアイ@北参道strobe cafe | 音楽偏遊

音楽偏遊

最近見たライブや気になるアーティスト、気に入った店や場所など偏った嗜好で紹介してまいります。アーティストさんへの言及などは、あくまで私個人の見解であり、特に中傷や攻撃を意図したものではないこと、ご了解下さい。

------------------------------------------------
「The Soulful Voice」@北参道strobe cafe
出演:ヒグチアイ →坂本麗衣 →郁彩
------------------------------------------------
13日の金曜日。地下のstrobe cafeへの階段を降りると、出演者の名前がある看板にジェイソンの切り抜き写真が張ってあった。お茶目~(笑)さあ楽しみなスリーマンの始まりだ。

と、その前に少し時間を戻そう(笑)今日は中途半端に夕方時間があったので、原宿をぶらぶら。駅から表参道を下っていくと、忽然とフォーラムの前の交差点に巨大な建物が!ずっと工事中だったこの角地に、ついに完成!「東急プラザ表参道原宿」だ。

特に目立つのが「SHEL'TTER TOKYO」。建物のフォーラム側の地下1階から2階までを占め、かなり目立つ外壁。あのmoussyやrienda、SLY、Rodeo Crownsなどを多店舗展開するバロックジャパンが仕掛ける同社の新たな旗艦店だ。同社全ブランドの洋服を揃え、MIXコーディネートを楽しめるだけでなく、「食」「遊」までミックスした複合商業施設。代官山にオープンしたオシャレで極楽のような知的空間「蔦屋書店」や日本初上陸の「COX COOKIES & CAKE」まで、中に取り込んでいるという。

東急プラザには他にも、トミーヒルフィガーやローヴス、ミネトンカ、アップバンクストア、東急ハンズ、スタバなど世界の有名ブランドから原宿の有名セレクトショップ、雑貨店まで入店。飲食ではなんと、「世界一の朝食」で有名なカジュアルレストラン「bills」までが出店する。湘南の店に並ばずとも、表参道で食べれるようになるという。こっちも行列必至だね。ここは間違いなく新たな観光ショッピングスポットになるだろう。

来週、4月18日オープン。通りかかるとSHEL'TTERではレセプションが開かれる前のよう。きっと著名モデルやファッション関係者らがごっそり集まり、バロックのことだから、派手に盛り上げたことだろう。

☆ ☆  ☆   ☆    ☆    

そんな綺羅星のような世界のトップブランドの集まりに比べるとスケールは小さいが、今夜のスリーマンも東京のアコースティックなライブシーンでは、それこそ綺羅星のような女性実力派シンガー3人が集まった。坂本麗衣、ヒグチアイ、郁彩(いであ)---小さめなstrobe cafeという箱では、超満員必至な顔ぶれだ。

案の定、開場の10分以上前に行ったというのに、店舗の前に15人ほどの行列が地下から地上、そして道路へと続いているではないか。予想はしてたが驚き。そして嬉しくなった。やはり皆この日を待ってたんだねー。小雨が降り始めていたが、外に並んでも苦にならなかったのは、今夜のライブがそれだけ楽しみだったからさ。

いよいよライブ開演の頃には50弱の椅子席は当然すべてふさがり、後方に20人以上のファンが立ち見する大盛況ぶり。後からの客は入ることもできないほどの、満員電車並みの混み方だった。

「The Soulful Voice」は、ずば抜けた歌唱力でメキメキ頭角を表してきた21歳、郁彩の企画ライブ。まさにソウルフルな声でファンを魅了し続ける、坂本麗衣とヒグチアイという素晴らしいアーティストが同時に出演。一番年下だというのに郁彩、よくこの2人を呼んでくれた、えらいぞ!郁彩を含め個人的に大好きなアーティスト勢揃い。ずっと前からこの日が来るのをワクワク待ってたよ。

さらに、郁彩が苦労して準備したコラボもたっぷりあるとか。これは興奮もの。ライブ後のコラボの感想は、歌い手が違うと、同じ曲でもこれほど印象が変わるのかという驚きや、個性派ソウルボイスとして抜群の存在感を持つ彼女たちが一緒に歌うと、unisonでさえ交わらないという発見の面白さなど見所満載だった。

何より3人の今の在り様がくっきり浮かび上がり、ニタニタ笑ってしまった。ゴルフや麻雀は性格が出るというが、ミュージシャンの場合は、それがコラボ。素晴らしい歌の競演ってだけでなく、対郁彩で苦戦する二人のお姉さんたちの姿に優しさやプライドが透けてみえるようだった。

その構図を簡単に言うと、ってこれ言うと郁彩が怒るかもしれないが、「反抗期の少女と、大人の階段に足をかけた女の子と、吸いも甘いもかぎわけた大人の女の三つ巴」(笑)それぞれのコラボで、人生の違うステージにいる2人と、まだ心をうまく開けない少女とのトークがギクシャクしてしまうのは致し方あるまい。

さて、ではどんなライブだったか。

まずトップバッターで登場したのがヒグチアイ。彼女にとっては3日連続ライブの1日目。その初日、彼女は思いのほか軽快で、歌いっぷりがポップ!こんなヒグチアイもいいじゃないか!

ヒグチアイと言えば、印象的な強く太い個性的な声と、圧倒的で緊迫感ある迫力の絶唱がトレードマーク。あたかもステージから見えない手が伸びてきて首を絞められ、強引に引っぱり寄せられるような、有無を言わせぬ豪腕シンガーぶりが唯一無二だった。

それが今夜は、韓流でいう「恨」、あるいは演歌のコブシ回し的な歌唱は鳴りを潜め、彼女自身が軽やかに音楽を楽しんでいるオーラを出しまくっている。

最近、かわいくなったと専らの評判だが(笑)、楽しげに軽やかに歌っている彼女の元に、こちらから駆け付けたくなる雰囲気。その存在の近さ、親しみやすさは、力業じゃなくてもお客さんを振り向かせ、十分惹き付ける。

特に久しぶりに聞いた「目の中の世界」が良かった。昔のような重さがなく、透明感ある水彩画のような暖かさが滲む。「ココロジェリーフィッシュ」も軽妙で、逆にグルーヴが増した感じだ。冒頭に歌った「日常」は、最近、彼女の歌で1ジャンルとなりつつある、身近なさりげない幸せをジャジーなピアノに載せて、暖かく歌っていて好感。なんなんだ、この変化は。

MCで最近人に対し心を開けるようになり、多くの人と会うのが楽しくなってきたと話していた。実際、見てると本当に無邪気な笑顔を浮かべている事が多くなった。MCも明るくなった。

そうした全てが、彼女の歌を変えつつあるのだと思う。勿論、昔のドシっとした重さと迫力は何にも変えがたい魅力だ。それでも、今のヒグチアイの方が僕は好きだな、てへっ。迫力は技巧と気合で出せるが、軽妙さは出せない。結果として、彼女の音楽の幅が、縦横に広がった感じ。事実、今夜の「黒い影」は迫力十分で、強いヒグチアイの印象もしっかり残した。

「変わっていく自分に不安はある。だけど、きっと良くなっていくと自分を信じている。そうでなかったとしても、いずれは良くなると信じてる」と、MCで話す彼女の顔にも笑顔があった。これは、いわばヒグチアイの「ココロ開放宣言」。ヒグチ史上に残る言葉だったのではないか?

そして今夜のヒグチアイは、カワイイだけじゃなく優しかった(笑)何かと突っかかる強気な郁彩を、軽くいなし、笑顔で受け止めるお姉さんの余裕と優しさがあった。

本人に言うと、「私、優しくなんかないから」と繰り返し手を振っていた。お笑い芸人に「本当は真面目な奴なんですよ」というようなもんで、強面イメージを崩す営業妨害になる言葉と思っているのだろう。今後、ヒグチに「優しい」は禁句とするか………って、単なる照れ隠しだな、あれは(笑)

もっとも、コラボで郁彩の「このままじゃ」を歌う前に、郁彩に「この曲は20代前半の若い女の子の気持ちを歌ってるんだけど、アイさんが歌うと20代後半な感じですよね~」と言い放たれ、こめかみがぴくつく場面も。微笑ましい(笑)

にこにこしながら「後でなぐるぞ」と返していたが、このフレーズって、木下直子姐さんにヒグチアイがよく言われてたもの。あるいはヒグチハル企画で、見田村千晴からも言われてたね~。今夜、あの強気で向こう見ずだったヒグチが、立場を変えて姉役務めている姿を見ると、お父さんは感慨ひとしおだよ~(涙)

その「このままじゃ」は郁彩版とかなり違う大人仕様。少しテンポを落として、装飾音も減らし、ややムーディーに。「郁彩の歌が難し過ぎて」と言い訳してたが(確かに技巧的に歌いこなす郁彩ならではの曲だが)、ヒグチ版も悪くなかった。ヒグチアイも大人になってきたな。

最後は再びソロで、名曲「メグルキオク」をピアノ弾き語り。逆に、この曲は郁彩じゃあ歌えない。ヒグチアイならではの強さと緊迫感あるサビが、心を揺さぶった。

今夜のヒグチアイを見ていて、今までにない感情が沸いてきた。それは………w

【セットリスト】
1)日常
2)ココロジェリーフィッシュ
3)目の中の世界
4)黒い影
5)このままじゃ(コラボ vo&pfヒグチ、vo>郁彩)
6)メグルキオク


2番手は若い二人に挟まれて、坂本麗衣の登場だ。

彼女もピアノ弾き語りだが、ヒグチアイとは全く違う、かわいらしさや脆さもある声。なのだが、その歌はロックしていて、全身から飛び散る汗は彼女が体育会系であることの証明。その歌は切なさや炎のような熱さを秘めており、大人の魅力たっぷり。惚れてまうやろ!

最近は、年始の艷女@Graffitiから3ヶ月弱、ライブをお休みしていた彼女。実質的に活動を再開したのは4月1日の川崎ミュージックバトルの2nd Stage@Serbian Nightからで、その時は3曲だけ。こうしてまとまって歌うステージは再開後初めてなので、ファンとして、それはそれは楽しみにしていた。

転換時に見ていると、今夜はサポートがイフィのみ。そしてグランドピアノ。さらに彼女の愛器、J-45もステージに置かれる。こ、これは… イフィとのツインギターでないとすると、確かワンマンで一度見せたイフィ on pianoで奏でるJ-45が今夜聞けるのでは?ちょー嬉し過ぎる展開だぞ。

とか期待を膨らませながら見ていると、おやっ?なんか今夜の坂本麗衣は、一味違う。「ギフト」といい、「月明かりの部屋で」といい、爆走する全開のエンジン調ではなく、おだやかに空を舞う花びらのようなアコースティック!!格好良いのは変わらないが、その種類が違うのだ。strobe cafeで聞いているからかもしれないが、どこかHarmonick Hammockの音楽に通じるような感覚が。

MCで、2ヶ月余ライブをしていなかったが、自分では忙しくあっという間だった、今年はライブの本数は少くなめで、今夜のような編成でアコースティックを極めてみようかと思っている、との言葉が。

そして3曲目は題名未定の新曲。とりあえず「小雨 part2」だとか。そう、あのゆるりの「小雨」に近い雰囲気。本人いわく、ガツーンとではなく、聞けば聞くほど味が出るような局との紹介が。曇り空のオープンカフェのBGMにぴったりくるような優しく切ない曲調でした。

そして、やはり今夜の「J-45」、「楽器交換ターイム」と宣じて、イフィのピアノをバックにギブソンのギターをかき鳴らし、この曲を歌ってくれました。それでも途中のアレンジ?が少し変わっていて、あえてサビをガツーンと盛り上げないバージョンに。いつもと違う味わい。

最後はイデアとのコラボ。未成熟な少女が大人の男性に合わせようと背伸びするという歌。それを、坂本麗衣お姉さまに歌わせようとは(笑)麗衣さんが、がんばって歌っていて、しっかり麗衣節にしてしまうのを聞いてると、なんか可笑しくて笑い出しそうに(麗衣さん、すんません)。途中からイデアが歌うと、やはりしっくりときた。それはそうだ(笑)

麗衣さん、「私のような年上が混じって、怖がらせたいないか心配だった」と逆に恐縮しているのに、イデアはおかまいなしで、ずばずば話すから、かみ合わない。その間が可笑しかった。


【セットリスト】
1)ギフト
2)月明かりの部屋で
3)新曲(曲名未定、小雨part2)
4)Baby Don't Cry
5)J-45(「楽器交換タイム!」笑、gt&vo坂本麗衣、pfイフィ)
6)背のび(コラボ gt&vo郁彩、pf&vo坂本麗衣)


さあ、そして、企画者の郁彩がトリで登場。

「いつもしている腕時計、今日は外してきたんです」って言葉が記憶の残っているが、何でその話だったんだっけ?そして歌いだしたのが「私はこうしてウソをつく」だったのだが、益々そのつながりがわからないなあ(笑)

とにかく、郁彩のターンで注目だったのが再びのコラボだ。しかも、今度は郁彩がほかの二人の曲を歌うというもの。これが何より面白かった。

まずは坂本麗衣の代表作「遠くから」。麗衣さんいわく「この曲を他人に歌ってもらうのは初めて」とのこと。それでも、敢えて歌が上手いと聞く人がこの曲をどう歌ってくれるか聞きたかったとのこと。果たして、「遠くから」を郁彩が歌うと、なんか違和感が。ややスローなアレンジで伴奏もなく、郁彩が一人で歌いだす。Aメロが終わると同時にジャーンと賑やかに。

遠くに離れている彼女/彼氏を思い、切なく歌い上げて欲しいサビだが、イデアが歌うとやや平板。歌う前に「麗衣さんのファンの方、ごめんなさい」と繰り返してた。きっと、そんな事気にしすぎて伸びやかに歌えなかったのだろう。Goin' My Wayなようでいて、こういう所で脆さを出してしまうのが、今の郁彩らしい。

続いてヒグチアイの「大人」をコラボ。音譜おとなは汚い音譜という歌詞がえらく気に入った様子。私にはとても書けませんといいながら、私の気持ちが分かっているよう、とイデア。この曲は、いわば反抗期の若者特有の青さが特徴。まさに、今のイデアに合っていると納得。

作者のヒグチアイがこの曲を歌っていたころ、僕は彼女を知った。そして、その後、この曲を歌わなくなった時期も知っている。「恥ずかしくて、もうこの曲は歌わない」と封印したのだ。ヒグチアイが、まさに大人になっていく課程とともにこの曲があり、大人度を測る尺度のような曲なのだ。だから、イデアがこの曲を歌うという事が、あまりにもリアルで腑に落ちた。なるほど、そういうこと?

この後のMCで、イデア自身が自分への焦燥、ちょっとしたことで落ち込んだこと、人を呼び出して渋谷で泣いたことなどを告白。「こうして悩めるっていいことじゃないか」と慰めてあげた体の大きいお兄さんがいたそうな(笑)

そんな迷える彼女らしい曲が、ラストの「ヒカリ」。音譜いつからか辞めてたよね、期待すること音譜なんて歌詞が切実で、頼りなげで、「郁彩、大丈夫か」と声をかけて上げたくなる。今夜の彼女のステージでは、印象深い1曲となった。

1)私ははこうしてウソをつく
2)secret
3)遠くから (コラボ vo&pf坂本麗衣、vo>郁彩)
4)大人 (コラボ vo&pfヒグチアイ、vo>郁彩)
5)ヒカリ

企画主宰でトリを務めた郁彩に、お客さんから暖かいアンコールの手拍子が湧き上がる。

アンコールは、彼女がゲスト2人を呼び込んで、3人揃って郁彩の持ち歌では最もアッパーな「free」の「ジェイソン Ver.」(13日の金曜日だから、笑)。Aメロをon pianoのヒグチアイが、Bメロをハンドマイクの坂本麗衣が歌っていく。二人ともそれぞれの個性が滲む歌いっぷりで、聞き応えあり。それでも、やはり郁彩がサビを熱唱すると、素晴らしい。本当に自分の歌なら郁彩は最高だな~。

あ、郁彩への批判じゃないよ。ある意味、ヒグチよりも麗衣さんよりも上手いと言ってる訳で、これは最上級の誉め言葉だよ。

ただその上で、まだ若い彼女は、これからどんどん引き出しを増やしていけばいいってこと。どんな曲でも歌いこなし、デュエットでもコーラスでも極上の音を紡げる懐のふか~いシンガーになって欲しいのだ。それができるだけの才能なのだから。

懐を広げるには、歌唱力はもちろん、ココロの強さや許容力も鍛える必要があるだろう。大いに悩んで、大いにぶつかりながら、それでも懸命に真っ直ぐに進んでいけば、郁彩なら必ず上へ上へと昇っていける、そう思う。だから、今は尖っていていい。ヒグチアイもちょっと前まで尖がってたぞ。それが分かっているから、お姉さんたちも郁彩に寛容だった。

郁彩は、振り返らず、前を向いて歩いて行け!