「月刊ノマド2011ファイナル」@代官山NOMAD
出演:安里麻紀 →すとう舞 →高橋あすか →キョロザワールド
→ひなたなほこ →ヒグチアイ →斉藤麻里
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3月から始まった2011年度の月刊ノマドも、いよいよ本日がファイナル。エントリーしたこの7人のシンガーソングライター達は、毎月ノマドに1度は出演して新曲を披露しなければならないという苦行?いやチャレンジに挑んでき。そしてついに、今夜がその最後。
色々と感想はあるけれど、やはり最後の2人には圧倒されたね。ヒグチアイは、これっぽっちも立ち止まる気はなく突き進む姿勢を見せ、斉藤麻里は堂々と盛り上げ、今夜のクライマックスを演出してフィナーレを飾った。素晴らしかった。
ほかの5人も個性を存分に発揮、1年の集大成を見せていたと思う。特にキョロザワールドの曲はスケールの大きさとその豊かな世界観に戦慄した。
これだけのタレントが揃い、しかもその軌跡を追っかけてきたファンにとっても見逃せないファイナルとあって、お客さんの数も半端ない多さ。それを見越して、店もテーブルをすべて下げ、ぎっしりと椅子を約60席並べたが、軽く埋まって10人以上の立ち見客も。お客さんも入れ替わりで出入りしていたので、のべ100人近くは来場したのではないかな。開場前、お客さんの列は3階から1階にまで続き、その先も折り返し伸びていったとか。
むんむんの熱気の中、1番手の安里麻紀からライブはスタート。それぞれ5曲程度ずつ歌い継いでいく。安里は、やや幼い声ながら、どこか脆さを感じさせる大人の魅力もある。その歌は、声が伸びやかで、広がりがあって結構好きだ。
特に今夜は、バラードの「アルタイル」が良かった。彼女も大切に歌っており、心がこもっていた。


<セットリスト>
1)丸と四角
2)shine
3)アルタイル
4)ボーダーライン
5)恵み(新曲)
2番手のすとう舞と3番手の高橋あすかは、出番中ちょっと外に出ていて聞き逃す。
で、4番手のキョロザワールドから再び中へ。
キョロちゃんのすごいところは、語り出した途端に彼女の世界観で会場の彩りを一新してしまうところ。「歌う詩人」と呼ばれるだけあり、そのMCはまるで詩を読んでいるように、すてきな表現と軽やかな音韻に満ちている。そして、その歌は力強く、深く広い世界観に聞きほれてしまう。
彼女は一曲、一曲、歌う前に詩のような言葉をつぶやく。まるで、子ウサギのようにふわふわで小さくて繊細な言葉はまるで、アリスの魔法の世界へのトンネルのように、どこか懐かしい異次元の世界に連れ去られる。
それでいて歌は結構激しく、アップテンポで痺れる。この日も、冒頭の「君の望む世界」から


そして2曲目の「それが愛なら」がまた、スケールが大きいのだ。始まりでは「愛」という身近なテーマを歌いながら、その壮大な情景描写や心に引っかかるメロディラインと詩が、頭の中に響き、世界と愛と恋人と自分が渾然と交じり合うような感覚にとらわれる。すごい。
その中でも今夜、7人のすべての曲の中で最も感動したのが、「夜は朝をつれてくる」だった。


キョロザワールドはメロディも詩も素敵だから、CDで聞くのも良いが、やはり彼女という存在の質感を感じられるライブで聴くと、格段に感動するね。素晴らしいアーティストだ。
<セットリスト>
1)君の望む世界
2)それが愛なら
3)君のことを信じているだけさ(新曲)
4)夜は朝をつれてくる
~詩の朗読~「僕がうたを歌えるのはいつも君が~音楽は衝動だ!」
5)しるし
5番手は宴会部長(笑)のひなたなおこ。世界観という点では、キョロちゃんとは全く異次元の彼女にしか作れない空気を持っている。彼女がステージに上がると、途端に太陽の光が降り注いだような暖かさと幸せ感に包まれるのだ。彼女の笑顔を見ていると、何でも許してしまいたくなる。その愛らしい性格と、幸せに満ちた笑顔は、これをハッピーと言わず何をハッピーというんだ、とさえ思えてくるから不思議w
その上、彼女には秘密兵器がある。キーボードのいっくんだ。MJこと、もじゃもじゃ頭の彼の明るいノリと、実はすごい鍵盤プレイが、彼女の歌とステージをもり立てる。ひなっちゃんは歌というより、そのステージングこそが見もの。「ないない」とか、自分で仕掛けてお客さんに「ないない」と手でバッテンを作らせ、「落ち込むな~」とみせる笑顔がかわいいよね。
そのちょっとした表情、視線、手の動きで様々なシーンを描きだし、感情を伝えてくる。ほんと、アクターやなあ。いや実際、もともとは女優志願で舞台やっていたというし、今でも彼女の企画イベントは演劇的な要素が強いんだよね。歌を聞かせるというより、舞台で魅せる。その才能は素晴らしい。歌唱力だけ取り出したらイマイチ(ごめん)なんだけど、そのステージはすごく見たいと思わせるのだから。
<セットリスト>
1)Nai Nai
2)チェリーボーイとパスタさん
3)NO MAP(新曲)
4)0(ゼロ)
5)ドングリ
ちなみに彼女が月間のまどのために作った曲は、タイトルが先行。曲名の最初を、NOMADの5文字を左から右へ、そして右から左へと順番に決め手いったもの。1曲目は「Nai Nai」で、Dで「Dongri」やOを0(ゼロ)と歌ったり。そして10ヶ月目の最後に、「NOMAP」地図なき世界のNで見事彼女の月刊ノマドは完結したわけだ。
タイトル先決めという閃きで曲作りで少し楽をしたはずの彼女だが、それでも毎月新曲を披露しなければいけないことには結構苦労した、と独白してた。「もうやりたくない」と泣いたアーティストもいた。産みの苦しみって、自分の仕事を考えても大変なことなのだと分かる。それだけに今夜のファイナルで、最後の10曲目の発表に辿り着いた、充実感や解放感はひとしおだったろう。多くのアーティストの顔にそんな表情が浮かんでいて、ちょっと感動的だった。
ところが6番手で登場したヒグチアイは、他のみんなとかなり違う姿勢をみせつけた。
なんと今夜歌った全5曲すべてが新曲だった!(正確には、最初の曲は昨日初発表した曲だが)。ファイナルで皆が力尽きたと言っているところ、彼女はこれっぽっちじゃ物足りないわ、と言わんばかりに、ファイナルのこの日のために5曲も新曲を書いてきたのだ。すごい!
しかも、新曲の一つ一つが濃い!彼女の野太い歌唱と相まって、それぞれエッヂが立ったインパクトある曲に仕上がっているのだ。
先月のワンマンへ向けてこの1年間、身も心も傾けてきたばかり。年末にかけてライブの本数も無茶苦茶多いなか、少し気を抜いても良さそうなもの。新曲ノルマは1曲なんだから、それで十分と自分を甘やかしても、誰も文句はないはず。だが、彼女はけっして立ち止まる気などないぞという強い姿勢で望んでいた。前へ、前へ。今の彼女は、どこまでも進軍していかなければ、納得できないのだろう。昨日の自分はすでに過去、どれだけ高く評価されていても、明日の自分は常に前進しなければ勝ち得ないと思っているのだ。「永遠のウォーカー」として。
そんな彼女にも種々の悩みや壁があろう。それでも、ただひたすらに前進できる、それだけで天才といえるかもしれない。今夜は初めて、そう認識した。彼女は、単なる才能と声に恵まれた歌い手で終わる人間ではないのだ。
MCではこう語った。「月刊ノマド終わっても寂しくない。だって毎月曲を書いて、ファンの前で発表することは、当たり前にやるべきことだと思ってるから。最後とか気にすることはない。これからもノマドに出演するし、一緒にやってきた皆とも共演していくし、どんどん新曲を書いていくのだから」と。くぅー、なんか泣けるな。
<セットリスト>
1)くだらない歌と誰かの毎日
2)曲線と直線
3)2番目のボタン
4)ツンデレ
5)さっちゃん
そんな今夜の新曲オンパレードは、それぞれ特徴がある曲調で面白かった。1)は、「村田直樹と申します」の続編のようなポップさと、軽妙な歌詞で楽しい。2)は


この後のトークからの展開が、また笑えた。ひなたなおこのステージの後だし「みんな盛り上がりたいのだろうに、私のステージでは盛り下げて申し訳ない」から、「みんなを盛り上げさせてあげたい」と作ったアッパーな曲を歌うと宣言。ヒグチアイ史上初めて?珍しく手拍子を求める。
そして前奏で紹介した曲名が「ツンデレ」。会場から爆笑。この自虐的なところ、Mか(笑)彼女はテンションの低いトークとライブ中の仏頂面に定評?があり、しかも楽曲が激しく緊張感の高いマイナーコードが多いから「ツン」キャラとしてよく突っ込まれている。それだけに、自分から「デレ」もあるのよ、って歌うところが楽しい。
本人もこの曲を歌っている間ずっとニタニタしていて、この日、一番楽しげ。そうやって笑顔を浮かべているのも、いいよ。
新曲シリーズのラストは「さっちゃん」でまた笑いを誘う。前奏からして、♪さっちゃんはね、幸子っていうんだ本当はね~♪だから、一体こいつは何を歌い出すんだ?とお客さんの注意をひく。そこから、一気に自分のオリジナルの、しかも説得力ある歌にしてしまう辺りはさすがの力技。めきめきと、ステージを盛り上げる技を身に付けつつあるなあ。
新曲ばかり5曲だったが、中にクオリティの低い曲が混ざっていた訳ではなく、十分に金を取れるステージだった。プロ意識を持ちながら演奏する彼女は、すでに上のステージへ狙いを定めているのだろう。
そして、そんなヒグチを上回るエンターテイナー性で、10ヶ月の長きに渡った月刊ノマドの艦尾を見事に飾ったのが、トリの斉藤麻里だった。
ノマドが彼女にフィナーレを託したのも納得。むしろ、今夜の7人のうち、これだけの大団円を演出できるアーティストは彼女をおいていなかったろう。
今夜はいきなりの「ダイブ」で一気に高いテンションに。しょっぱなからのコール&レスポンスに、今夜のお客さんは当然のようにみんな大声でついていく。この日、このノマドに集まった面々は皆コアなファン層だからね。
そして月刊ノマドで作り、先日のバースデーワンマンで発売した一人でできたもん新アルバム「ひとり旅」にも収録した「モンスター」「魔法のバンドエイド」、月刊ノマドCDに収めた「また会いましょう」と歌い継いでいく。彼女の歌は熱いんだよね。声だけならヒグチの方が強いんだけど、斉藤麻里は全身全霊、すべてを歌にのせてくるような躍動感と力強さがある。それは持ち味の違いなのだが、麻里ちゃんはより一緒に歌いたいと思わせてくれる。そして歌わせてくれるのだ。
最後は今年の彼女を大きく飛躍させたといえる「メロディ」だ。この曲を通じて、今年何回、彼女と、そしてお客さんみんなと一体感を感じたことか。その興奮は、素晴らしい思い出として一つ一つが、聞くものそれぞれの中に刻み込まれたと思う。
今夜もサビはノマドにいる全てのお客さんが、一つになって大きな声で麻里ちゃんと歌った。


<セットリスト>
1)ダイブ
2)モンスター
3)魔法のバンドエイド
4)また会いましょう
5)メロディ
en.新曲(曲名は?)
大きな拍手に送られステージを降りた彼女(+ギターサポート三井真一、イェー)は、再び盛大なアンコールに応えて舞台に登場。「いやー、アンコールがなかったら月間ノマドの最後の新曲を発表できず、終わらないところだったよ」と笑いを誘って、アップテンポで高揚感のある最後の新曲に。タイトルは未定らしいが、テーマは「感謝」だ。
途中で、ノマドのスタッフひとりひとりの名前を呼び「ありがとう」という即興の歌詞も挟み、お客さんにも「ありがとう」と歌う。そして間奏で、出演者をみなステージに上げて、最後は全員で一緒に歌い上げる。今年の月刊ノマドを見てきたお客さんも気持ち良く10ヶ月を締めくくりたかったことだろう。そんなみんなの空気をよく読んだ(笑)、いい曲だった。
2011月刊ノマド出演のみなさま、ハレルヤ!!
この10ヶ月に各々が発表した新曲の中から、録音バージョンとライブバージョンの各2曲、7人で計14曲を収めたコンピレーションアルバムも、今夜発売に。本日は入場料にそのCD込みで1500円という超お得料金。明日以降は500円で販売される。さっそく、何度も聞いています。とてもいいよ!