2011/9/12 ハイバナ、木下直子、ヒグチアイ@gee-ge | 音楽偏遊

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最近見たライブや気になるアーティスト、気に入った店や場所など偏った嗜好で紹介してまいります。アーティストさんへの言及などは、あくまで私個人の見解であり、特に中傷や攻撃を意図したものではないこと、ご了解下さい。

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「gee-ge. open 1周年記念ライブ」@渋谷gee-ge
出演:小柳ゆかり→吉川靖(from HARTONE) →ヒグチアイ→ghostnote→木下直子→ハイバナ
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1周年と銘打つライブがこの9月、渋谷gee-ge で連日開かれているが、その中でも今夜は本命のひとつ。なんと言ったって、店長自らのバンド、ハイバナがトリを飾り、そのタイトルもずばり1周年記念ライブだ。

何より今夜の出演者の顔触れとその出演順が、周年記念らしい。gee-geのブッキングはこの1年、主に二つの流れがあったと思う。一つは言わずとしれた鉄平さんによる「鉄ロックフェス」や「Grateful☆Girls」などの女性シンガーソングライターイベント。もう1つがバンドやそのメンバーのソロ活動などの企画だ。今夜は、その二つの流れからそれぞれ3組ずつが選ばれ、紅白のように交互に応酬していく形態。この1年のgee-geを振り返るような気分になる。

勿論、ブッキングの都合があるから、出演者が紅白のように1年間を代表する歌手とは言い切れないだろうが、少なくとも女性陣の3組に関して、僕には全く異存なし。他の人選も当然ありだが、この3人は3人とも個人的に大好きでレスペクトするアーティストばかり。こうした場に彼女たちが出てきて嬉しい限りだ。

さらに、バンド系が3組ということで、gee-geの客席の3分の2が女性で埋まっている。おお、驚きの光景。女性が多いって、いいものだ。今夜、彼女たちが初めて木下直子やヒグチアイを聞いてどんな反応を示すか、それが楽しみだ。


そんなイベントのトップバッターに選ばれたのが、小柳ゆかりだ。

おやなぎ選手、今夜はなんと自らピアノ弾き語り。初めて見たー。前から、いずれやるとは話していたが、今日それを披露するとは少々驚き。そして、いつも鬼のように爆発的伴奏を聞かせる桑井麻友に代わって、本人がどんなピアノを聞かせるのか興味津津。まあ、でも、あの天地が割れるようなピアノが印象的なシラーはやらないよなー。あれは麻友ちゃんでないと無理だよなあ、などつらつら考えながら、彼女の演奏を楽しむ。

すると、歌い語る彼女の印象が「親しみやすく可愛い」。いつもとかなり違うぞ~(笑)いつもは演奏を任せ、集中力を研ぎ澄まし自分の世界に没入しているせいか、とっつきづらい。ステージ上でほとんど笑顔もない。それが、今夜は「ピアノ緊張してます」「慣れなくて」など曲間に話しながらニコニコしている。アーティストって面白い。

そんな緊張感をたたえつつも、彼女ならではの浮遊感ある音楽世界を紡ぎ出していく。音符が飛び交う「のだめ」の妄想のような、天才ならではの世界。独特のボーカルが聞くものを、その世界へ誘う。うーん、さすがだ。もっと、鬼のように歌えるようになると、すごい事になるだろうなあ。

定番のヤドリギで、その独特の世界を現出し、新曲「呼んで」は女の表に出さない本音の部分が響く。そして最後になんと「シラー」のピアノ序奏を弾き始めたではないか。おおー。これって、あの部分どうなるの、とそればかり気になってしまう。ぐいぐいと盛り上がっていって、強く鍵盤を叩き叩き歌う。激しさはばっちり伝わるが、さすがに自分で歌いながら、麻友ちゃんのように「芸術は爆発だー」といった感じに弾くのは無理か。でもナイストライ!

1)ヤドリギ
2)夢の途中
3)呼んで(新曲)
4)シラー

演奏後の物販コーナーでも、なんか彼女の雰囲気が違って、いろいろ話しかけてしまいました。お付き合い頂き申し訳ない。次のピアノ弾き語りも期待してます(笑)


2番手は吉川靖。普段はHARTONEというロックグループのボーカルで、1人では歌っていないそうだが、さすが声帯が鍛えられている。力強くきれいな声で、ドラマを作る。アコギ弾き語りで、温かい声でフォークっぽい曲が似合っている。これ、全然ありだよな。ファンの女性陣も盛り上がっている。

そして3番手はヒグチアイだ。

珍しく1週間ほどライブから遠ざかっている間にひどい風邪をひいたそうで、今日は病み上がり。そのため、いつものような元気がないとのことだが、力が溢れていない時の彼女のステージが最近特に心に響くことに、彼女も一部のフリークも気付きつつある。そう、今夜の演奏はしっとりと良かったのだ。

とにかく、昨今のピアノ弾き語り女性シンガーソングライターの中で、彼女の圧倒的な迫力のボーカルの右に出るものはいない。逆に強過ぎて、中低音が得意の音域の彼女だけに、そのままの勢いで高音になだれ込み脱線してしまうことも1年ぐらい前まではしばしばあった。ところが昨今は、高音域でも音符が激しく上下する楽曲でも歌いこなすように。その上達ぶりは素晴らしい。特に力が有り余っていない時は、より丁寧に歌おうとするから、曲の表現力が増して、感動も一層高まるのだ。

今夜の1曲目の「青い春」から違う。青春の奔放さを歌いながら、彼女自身は外から自分を見つめるように冷静に大切に、青かった頃の自分の姿を描き出していく。

2曲目の「合鍵」では失恋の悲しさ、無力さを陰影深く、抑えた声で刻んでいく。歌詞はあれだが(笑)、彼女の著しい成長を感じる1曲だ。一転してダークで激しい「黒い影」で、これぞヒグチアイのど迫力を見せつける。

MCは11月27日にここgee-geで開く初ワンマンの話題。そこに込める思いはワンマンのタイトル「東京」に現れている。そして歌う「東京」。その切り口の鋭さ、曲のスケール、ヒグチアイらしい世界観……いつのまにか、この曲はまさにココロジェリーフィッシュに続く彼女の代表曲になりつつある。

1)青い春
2)合鍵
3)黒い影
4)東京
5)メグルキオク

ラストの「メグルキオク」のメロディラインは難しい。歌おうと思っても簡単に歌えないのだ。自らの
現時点の実力をぶつけた1曲なのだろう。ライブのラストをこの曲で閉めるのが、いまや定番になっている。この曲は沢山のヒグチアイが詰め込まれていて、その熱唱に必ずお腹いっぱいになる。


4番手はghostnoteという岡山出身の3ピースロックバンド。

すごい実力派。といっても、聞くものを突き放すのではなく、寄り添うようなロック。親しみを感じるのだ。

曲名が全くわからず、以下のセットリストは不完全。なのだが、それぞれの曲で歌詞が印象的だった。そのフレーズを取り敢えず曲名に変えて並べてみる。でもそれが分かるというだけで驚き。彼らの音楽は、詞がしっかり届くのだ。決してメロディやビートありきのバンドではない。何を表現するのか、歌詞を通じどう問いかけるのか、その曲作りのプロセスをとても大事にしているのだろう。それを思い、とても好感。いいバンドだ。

1)フライハイ?
2)風に吹かれて?
3)東京メトロ?
4)東京?
5)まあいっか?


トリ前に登場したのが木下直子。女性シンガーソングライターによる紅組のトリを貫禄で努める。

ヒグチアイほど激しく歌わなくても、十分に力強く心に響く。それが木下直子だ。何がすごいのか。それは歌詞なのではないだろうか。その歌詞は、詩として読んでも、一言一言が力強さに満ちているのだ。だから響く。彼女の魂に触れ、その熱さにビビりそうになる。

たぶん、今夜いた多数の女性客の心も、彼女の曲に癒されたのではないか。彼女の歌を聞きながら、体を震わせていた客は多かった。女性シンガーの物販にあまり女性客が来ている様子はなかったが。

1)赤い靴のワルツ
2)夢の島
3)私を守るもの
4)Hello,Hero
5)生きとし生けるもの

最後に歌った「生きとし生けるもの」のスケールの大きさといったら。なんて素晴らしいアーティストなんだろうと、つくづく思う。


そしてオオトリがハイバナだ。これが、無茶苦茶カッコいい!

バンドのボーカルはナルシストであれ、とクイーンだかミック・ジャガーだかが言ってたが、ハイバナのボーカル、gee-ge店長の矢野有祐のカリスマ性はどうだ。

絶対的な自信、その洗練された動き、センスと音楽感、客を煽る目の熱さと冷ややかさ。女が惚れるのは分かるが、男だって虜にしそう。サルーキ=のチヨ君以来だな、男性ボーカルにほれそうになったのは。こういう魅力的なシンガーが、世にはまだまだ沢山いる。だからライブは止められない。

彼らの洗練されたロックで、会場は大盛り上がり。「ハイバナを、gee-ge を今後もよろしく!」と彼が締めて、ライブは終了。しかし、宴は終わることなく続いたようだよ。

ハイバナを慕うロッカーから、鉄平さんにステージにあげて貰った駆け出しの女性シンガーソングライター
まで、今、gee-geに集まるミュージシャンの数は続々と増えている。朝までのバータイムに打ち上げできて、その後にgee-ge のステージに出るようになったミュージシャンも多いという。ここは音楽好きが行き交う広場やサロンのような存在になっている。

開店1周年のgee-geが、いま渋谷ミュージックの核のひとつに名乗りあげた事は間違いない。