これだからヒグチアイはやめられません!
最近、聞いた彼女のライブの中では、今夜のライブは個人的な評価で1、2を争う内容。迫力はいつでも十分な彼女だが、この日は抑えが効いていて、Aメロの最初から歌に陰影があり、彼女の持ち味の強い迫力ある声がサビでひときわ輝いていた。ほんと、いい時はいいんだよなあ。
強弱、光と影、裏と表。その振幅が大きいほど、心を揺さぶるのがアコースティックやポップスの美点。ラップやヒップホップ、エレクトロはそれがないから好かん。トランスが無理矢理な酩酊なのに対し、アコースティックな楽曲で歌に持たせる振幅は、恋愛の感情に似てる。
ヒグチアイを見ていると、1曲単位では別のライブで歌ってた「証」や、初めて聞いた時の「永遠のウォーカー」、静かな環境に響いた「目の中の世界」など、印象深いパフォーマンスは多々ある。でも、今夜は1つのステージトータルで心が揺さぶられた。思わず「ブラバー」と声をあげたくなる(ヒューとかはやったけど、笑)。
1)さくら
2)ココロジェリーフィッシュ
3)青い春
4)君とそのまま
5)めぐる記憶
特に「めぐる記憶」は、感動もの。もはや強いだけではない彼女の歌に、そろそろ酔う人が急増する予感。勿論、強く歌うと時折声が割れるとか、もっと余韻をとるためブレス遅らせるとか色々と改善点はありますが。
この日はO.A.に平林純とタカハシマイ、メインアクトは出演順にやもとなおこ、小川恵生、坂本麗衣、ヒグチアイの計6人が登場。うん、自分好みなブッキング!ヒグチアイ以外もかなり楽しみました。
平林純はこの日が初めてだったが、歌力を感じるアコギ弾き語り。最後の曲しか聞けなかったけど、「また彼女を見たい」と思わされた。訴える力の強い、声もきれいな有望株だ。
タカハシマイは、美形で読モもやっている不思議ガール。エレキギターの弾き語りという所から変わっているが(昔、hinacoもそうだったが)、独特の雰囲気をもっている。流れている時間がゆったりしていて、独自の思考回路を持っている典型的な芸術家肌。こういう娘は面白い。
歌唱力もある。1曲目にドリカムの「アイシテル」。自信なければできない選曲。出だしからぐっと惹きつけられる。いくつかオリジナル曲も歌ったが、その世界観のなんともいえぬ倒錯ぶりが妙に心に引っかかる。曲の中で猫が「ミャア」と泣いたり、なぜか高層住宅の55階に住む彼をふって傷ついたり、人間について問いただしたり。彼女の今後は全く予想できないが、この独特の個性はどこかで求められている気がしてならない。
メインアクトの1番手で登場したのが、元気姉ちゃんのやもとなおこ。彼女のブルージーでファンキーでソウルフルなギター弾き語りは一見の価値あり。ちょー格好良いぜ!
1)あなたがいなけりゃ
2)僕らの3万ピース
3)シナリオ
4)新曲(曲名未定)のワンコーラスだけ
5)カオス理論
6)GO!the long way
確かこんな感じ。彼女のしなやかな感受性が好きだなあ。ギターのガットを勢いよく掻き鳴らし、あっという間に、彼女の世界を作り出す。表現手段としとの音の効果をよく分かっているのだと思う。
やもなお音楽団というファン組織?に加盟して、一緒に卵型マラカスを鳴らして彼女の曲を盛り上げよう(笑)
2番手は小川恵生。おしゃれできれいなお姉さん。ピアノを弾き語る姿に色気が漂う。声もきれいで、正統な声楽レッスンを受けてきたバックグラウンドが素直に表れる。しかし、彼女自身による楽曲はR&B調であったり、クラシカルであったり。音楽的素養の広さが感じられる。
1)うそのくちびる
2)君の声に
3)いいよ
4)strong
5)幸せのリスト
なかなかオシャレ。レストランとかで、食事しながらすまして聞ける――そんな空気を持っている。
3番手は坂本麗衣。これまで度々聞いてるのだが、何故か1、2曲だけとかカバーとか。ちゃんと通してライブを聞いたのは初めてかも。そして、これまでちゃんと聞いてこなかった事をつくづく後悔。それは魅力的なステージだった。
1)I'm in blue
2)桜
3)月明かりの部屋で
4)YG1(本来はJ45)
5)空と海のように
人は見た目で判断しちゃいけない。坂本麗衣が美人だから、これまで敬遠していたと思う。きっと、きれいに歌いすぎ面白くないのでは、と先入観を持ってたのだ。
まったく、見事に見当違いだった。それどころかかなりツボ。彼女の作り出すメロディーライン、思いのほか強く表に出すパッション、漂う大人の諦感のような憂い――ヤバい、どれもかなり好み。ということで、にわかに坂本麗衣ファンになってしまった(笑)
まず、最初のI'm in Blueで惚れたな。きれいなピアノ伴奏の時点では、ふんふんと聞いていたが、歌い出すと伊藤サチコのような鼻腔で響かせるクセのある声。おやっ?
そしてサビに至り、切なくオシャレなメロディーと歌詞に、見事にその声がマッチしている。うひょ?
これはもしかしてと思いつつ聞いていたが、J-45(この日はジージのピアノに合わせてYG1と歌詞を変えてうたったが)でガツーンとやられた。アッパーなこの曲が無茶格好良いじゃないか!なんか鈴木雅之あたりが歌ってそうなR&Bなノリで、こんな曲を作って歌ってしまう坂本麗衣というお姉さんが、ぐぐっと魅力的で大きな存在に見えてくる。
そしてラストの「空と海のように」の時空間的な広がりが鮮やか。夜から昼、春から夏、街から海、そして空へ、視点がずっと動いていく狭間に、屹立した女性の揺れる心が描かれていく。その主人公にぐいぐい感情移入してしまう自分を感じる。いい曲だなあ。この曲、また聞きたいなあ。
坂本麗衣に続いてヒグチアイがトリを歌ったが、麗衣さんの後でちょっと心配になったほど。新進のヒグチアイに足りないものを、さすが中堅ミュージシャン、しっかり示してくれたからね。この表現力、歌い手本人が作り出す空気、力むことない安定感がある演奏だからこそのスムーズな感情移入。がんばれヒグチアイ(笑)
にしても坂本麗衣は良かったのでCD2枚を購入、ヘビロテしてるが益々牽かれる。「遠くから」「風の向こうへ」など是非ライブで聞きたい曲も。 彼女のライブの優先順位がガーンと上がった満足な一夜になった。