

ステージの上の彼女の存在感は濃密で、熱い。決して熱唱・絶叫タイプではなく淡々と歌うのだが、体を揺らしながらギターをストロークする彼女が発するオーラや表現の密度が濃く、磁力がすごい。たった40分程度の持ち時間なのに、まるでワンマンを聞いたかのような満腹感を覚えたのは僕だけではないだろう。
笹生実久。この5月に、2年ぶりにライブを再開。第一弾の南青山月見る君に続き、再開2発目となったライブの会場に選んだのは、2年前に最後の会場となった下北沢mona recordsだ。
かつてのホームグラウンドは、2階から3階に移りお座敷ではなくなったけど、彼女の口から「ここに立って、帰ってきたと実感した」という言葉が漏れる。この日を待ちわびていた昔からのファンは「お帰り

彼女を目当てに、この日monaに集まった客はざっと40人くらいか。50~60人入れば一杯の客席は、他の出演者のファンと合わせて満員状態。彼女の演奏が終わると波が退くように、客席がガランとしたから、彼女の次にラストで出演した「つばめカフェ」がやや可哀想。でもつばめカフェは、すごく優しく、たおやかな演奏が素敵なバンド。帰ってしまった実久ファン、勿体なかったよ。
僕は昔からの笹生ファンではないので、かつての彼女とは比べられない。4月に七階で開かれた鉄平ちゃんBirthdayライブに飛び入りで1曲歌うのを偶然見て彼女のことを知り、気になったいた。初田悦子のライブがある新宿SACTのスケジュールを見ていて、偶然彼女が始めた「会員制寄り道Bar330」を知った。たまたまいいタイミングで仕事が終わったのでBAR330を尋ねて、Ust生中継のトーク番組観覧のようで面白かった。
でも、ちゃんとしたライブを見るのはこの日が初めて。虚心坦懐、いや身びいきなしに彼女のライブを見たと思う。その結果、断然ファンになってしまった。すごいポテンシャルのあるカリスマだ。
単に歌唱力だけ比べれば、もっと上のアーティストはいるだろう。だが、あのブルージーながらけだるくなく、張り上げなくてもズーンと心に迫る歌声。単なる美形やセクシーでなくて、もっと深い陰影で目を惹きつけるビジュアル。トークは、ちょっととぼけたところが愛嬌で、真摯さも伝わり癒される。もって生まれたものなのか、自分が同じ女性アーティストとして競う立場なら、きっと嫉妬するな。
特に気に入ったのは、Bar330で歌ったのを聞いて、とても気に入っていた「ハロー」。というかHELLOという感じなんだけど、この日は堀内大輔さんというサポートギタリストがいて、アコギでチュイーンとブルースの音をたっぷり重ねてくれたことで、一層深みとグルーヴがあってお洒落な仕上がり。この曲だけでも十分、人を引きつけられるよなあ。「オープンドア!」より好きだな。
その笹生実久のこの夜のセットリスト
1)ぼくの恋人
2)ハロー
3)君の文字はぐちゃぐちゃだった(朗読あり)
4)Sunday is beautiful sky ~カヨワナイ~
5)おやすみ(そばにいて)
3)の朗読も聴いていると、男心(笑)が揺さぶられる。5)も良かったなあ。ああいうおやすみ言って欲しいものだ。MCが多めだったので、5曲だけ。少し残念。
もっと聞きたくて、彼女のアルバム「チューリップのアップリケ」を購入。早速聞いているとやはり録音が3年前とあって、今より表現の幼さを感じるところもあるのだけど、この時点ですでに彼女ならではの世界観があって、すばらしい。
しかし、収録された全10曲の中で表題曲の異質なこと。この曲は昭和30年代ごろにはよくいただろう貧乏な家族を歌った曲なのだが、彼女が違和感なく歌いこなしている。彼女がそんな家庭環境にいたわけではないのだろうが、一体どんな生い立ちなんだと、真面目に思わされてしまった。あまりにも彼女が曲の世界観を体現しているものだから。
なんだこの曲は、とネットで調べてみると岡林信康の放送禁止歌だったとか。そんな古い歌をもってきたことも驚きだが、彼女の表現力に脱帽。
次のライブは8月9日、南青山の月見る君想フだそうです。その前にBar330もあるかな。都合がつけばチェキですぜ。
★さて、この日は他にも本当に素敵な3組が出演していた。佐藤智子、miyumiyu、つばめカフェだ。
ただ長くなったので、次稿で(つづく)