10/4/13 いいくぼさおり、木下直子、戸城佳南江、杉恵ゆりか@新宿PBP | 音楽偏遊

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最近見たライブや気になるアーティスト、気に入った店や場所など偏った嗜好で紹介してまいります。アーティストさんへの言及などは、あくまで私個人の見解であり、特に中傷や攻撃を意図したものではないこと、ご了解下さい。

ご存知、チョイチャック鉄平ちゃんが新進女性アーティストを毎回4組程度集めて開く、新たなライブ企画をスタートさせた。その名も「歌舞伎町歌姫列伝」。会場はお笑いライブがよく開かる新宿・歌舞伎町のど真ん中、コマ劇場跡目前にある第二東亜会館6階「Pink Big Pig」だ。今後、恒例企画として月2回程度、この箱で開催していくらしい。彼のMCライブ「君が唄う唄」「サニーデイズソングス」@渋谷7thFloorと並ぶ、名物企画になるかもしれないね。

歌舞伎町は、むかーし、むかーし、コマ劇場前の噴水の周辺でよく歌い、飲み、げろを吐き、東亜会館のディスコにもたびたび足を運んだものだった。ちょっと妖しい大人のバーがポツポツあって、デートで映画を見た後に使ったなあ。コマ劇場にスーパー・エクセントリック・シアターの公演も見に行った。この町はとっても、いかがわしくて、怪しい魅力とエネルギーに満ちていた。ほんの20年ぐらい前の話なんだけどね。

ところが、久しぶりに訪れるとつまらない盛り場になってるねえ。六本木みたいに黒人の客引きがぞろぞろいて(もっぱらキャバクラだね)、ピンク系はほとんど無くなり(いいくぼさおりちゃんの言うようにちらほらだ)、どこにでもあるチェーンの飲食店が幅を利かせ、よく飛び込んだ噴水はとうの昔に埋め立てられ、コマ劇場も閉まったままだ。

昔は歌舞伎町という名の生き物みたいな一体感が町の隅々まで染みわたっていたけれど、今はパーツごとにバラバラな感じ。石原都知事の新宿浄化作戦はある意味成功したのだけど、町の魅力をそぎ落としたな。それでも、鉄平ちゃんが注目アーティストを集めてくれるなら、また度々足を向けることになるかもしれない。

さて、その「歌舞伎町歌姫列伝」の栄えある第1回目に登場したのは、杉恵ゆりか、戸城佳南江、木下直子、いいくぼさおりの4人。さすが鉄平ちゃん。鍵盤系でそろえた今回の人選は、実力ある魅力的なパフォーマーぞろい。そういえば、「君が唄う唄」の前のシリーズ第一回目にTinySunが出演したらしいが、よくそこに目をつけたな、と感心する。彼の企画は安心して、新進女性アーティストを見つけにいける。ただ今宵の第一回目は、それなりに実績あるアーティストそろえたけどね。

もっとも、一番手に登場した杉恵ゆりかは、ライブ活動を本格化してまだ1年程度。昨年広島から上京して入学した音大の仲間と作ったバンド「the little Dinasours」で、7階を中心に歌い始めたところ。ところが、知らぬ間にそのバンドは解散し、「POPy」という別名バンドを立ち上げたとMCで明かした。まあ、4月から大学2年生になったばかりで、まさに試行錯誤盛りの年頃。バンドメンバーが固定できないのも致し方ないよね。

そんなこんなで気落ちしたのか、それとも会場の雰囲気に飲まれて緊張したのか、今日はいつもの元気がない。ここPinkBigPigはレストランカフェ。フロアー中央にはビュッフェがあって、1980円で2時間食べ放題(昔のディスコのようだな)。料理が並ぶコーナーの上では巨大なピンクの豚(幅が3~4mありそう)がぐるぐる回っている。ステージ前の客席を除くと、ライブ目的ではない一般客も多く、その客らは賑やかにおしゃべりし、料理を取りに歩き回っていて、会場全体は騒がしい。

ステージ上こそスピーカーからの返しの音があるが、バラードでは会場の音が煩わしい。さすがに、経験が少ない19歳には、少しやりづらかったか。曲も、椎名林檎(といっても「丸の内サディスティック」で「歌舞伎町の女王」ではない)やaikoのカバーを入れるなど、まだ独自の歌世界は確立できていない感じ。でも、なかなか潜在能力は高いと思うよ。声も良いし、歌唱力もあるし。ちっちゃいところもかわいい。廻田彩香が妹分にしていたのも分かる。これからが楽しみだね。


さて2番手に登場したのは、戸城佳南江。
おおっ、箱入り娘のお嬢さん風だった彼女が、色っぽい自立したお姉さん風に変身しているではないか。いいぞー。髪の毛をばっさり切って、ショートボブの内巻き。かなり明るい茶髪。赤い口紅とチークが効果的で、高いヒールが似合う。スリムジーンズの上からザクッと大きなVラインを強調した花柄の膝丈ロングカットソー(というのか?)。立派な大人の女だ。表情も歌舞伎町していて、間近に迫られたらドギマギしそうなフェロモンを発している。いい恋愛していそう。いや、27歳らしい女っぷりです。

すると、楽曲にも艶がぐっと増した。セットリストはこんな感じ。
1)四つ葉のクローバー
2)夏の記憶
3)スピロデザイン
4)桜
5)あいのうた

3月に発売した新アルバム「あいのうた」収録曲中心の構成。しかし、前から出していたシングルの「四つ葉のクローバー」と、今日のライブで歌った「四つ葉のクローバー」は一味違う。前は明るく最近の自分の片想いの思い出を歌っていた感じだったが、今日は少し客観的にそうした若い女性たちの思い出をアップテンポなリズムにのせて再現した感じ。対象を客観視することで、より多くの人の心に響きやすくなるもの。「スピロデザイン」も、前に聞いたときより、さらに洗練された感じ。歌の表現力の幅が広がったのではないか。積極的に良いものを吸収して、成長しているみたい。

不思議なもので、新アルバムのタイトル曲「あいのうた」が逆に一番、若々しく聞こえた。恋愛感情をストレートに歌った曲だが、いまの彼女のリアルな感情に一番近いのかもしれない。前段で言ったことの逆で、客観視するのではなく等身大の女の子らしい表現を意図的に演出したのかな。うーむ、ますます注目度指数が上昇したなあ。


3番手は木下直子姉さん。
ご存知、前出の戸城佳南江との2人ユニット「花粉症姉妹」でも活動しているが、最近は2人でのライブやってないね。花粉症の2人が組んだから花粉症姉妹、って少々安直なネーミングじゃね(笑)直子ちゃんは、この日も鼻づまりなのか、鼻を開くブリーズライトを張って登場。後で聞いたけどブルブル愛ちゃんの真似したらしい。すごく呼吸が楽になって歌いやすい、と鉄平ちゃんの突っ込みに答えていたが、まさにその通り。そのおかげか今日は(いつもだが)、すごく声のボリュームがあって、会場の音を完全に圧していた。

1)ひまわり
2)夢の島
3)赤い靴のワルツ
4)私の母の手
5)うたのことのは
6)生きとし生けるもの

そういえば、花粉症姉妹では姉が木下直子さんだったと思うが、年齢は一緒?うん、貫禄あって良し(笑)でも音楽はとってもストレートなんだよね。そして曲の情景がぱーっと浮かぶのが彼女の魅力。「ひまわり」では高いひまわりの下で泣いている女の子の姿とか、「赤いくつのワルツ」のシンデレラに憧れる女性とか。「わたしの母の手」(曲名少し違うかも)も、子どもの頃、絶対的な信頼をしていた母親の手という表現が分かるなあ。

この「赤いくつのワルツ」はこないだツーマンの対バンだったブルブルの愛ちゃんが曲交換コラボで歌っていて、いい曲やーと感動した1曲。今回はご本人による演奏で、改めて堪能。本日、一番気に入ったかも。木下直子の代表曲ともいえる「うたのことのは」も、いつ聞いても良い。どの曲も高水準で、聞いていると力を与えてくれる。アップテンポで、前向きで、力強くて。さすがだね。


さてトリで、いいくぼさおり。
今日も好調持続。日曜日にも吉祥寺でライブしており、4月に入ってかなりの回数のライブをこなしていて、しかも彼女も花粉症というのに、まったく声帯が痛まず声も嗄れない。今日も、伸びやかーに、透明感あふれる美声で、圧巻のいいくぼワールドを作り上げていた。保Pも「声帯強いんですよ」と嬉しげ。木下直子姐も戸城かなえちゃんもいいアーティストなのだが、いいくぼさおりの旬がこの2人をもかすませた感じ。

1)Love Song(?、だったと思うが違うかも)
2)ベランダでボー
3)桜
4)叫び
5)CHU
6)かすみ草
en.)Chanty

もう、彼女が歌いだしたら会場の雑音はまったく気にならないほど引き込まれてしまう。ファンの数も多かったのかもしれないが、一曲ごとに盛大な拍手。「ベランダでボー」は相変わらず楽しい。今日はまた一段と軽やか。こうした会場にはそうした歌い方が合っている。小さい頃から、色々な舞台に立ってきた経験のおかげか、よく分かってる。「桜」はまだライブで歌うのは2回目ということで、曲の入り方の声の作り方など未完成な感じだが今後よくなりそう。

一番感動したのは「叫び」。何度聞いても切なく泣ける名曲。♪まだまだ少なくとも100回くらいは、悲しみに打ちのめされるかもしれないけど、生きている限り数え切れないほどの、喜びに満ち溢れるはずだから♪というサビの前向きな歌詞が、心に響く。

もちろん、我が「CHU」も良かった。今日は前半を前回のようにためなかったが、間を長めにとると、無音の瞬間に会場の雑音が耳に入ってしまう。アルバム収録に近かい演奏で、最初からテンポにのっていく感じが、この大きな会場に適していたと思う。

「かすみ草」の後には、他の一般客がいようが構わず、大きなアンコールの拍手。再登場して歌った「チャンティー」でも、自然と手拍子が湧き上がり、大いに盛り上がった。さすが。

最後に鉄平ちゃんが「長い付き合いなのに、この子はいまだよく分からない。心開いてくれないかなあ」とコメント。その気持ち、ちょっと分かる。でも、人見知りなところも含めて、いいくぼさおりだから(笑)そのうち自然に変わるかもしれない。別に焦って周囲に合わせる必要はない。それより、他のことにとらわれずに、さらにいい楽曲を作り、パフォーマンスをどんどん高めて、いいくぼワールドを深めて欲しい。もっとずっと、すごい存在になれる潜在力秘めていると僕は信じている。ねっ、保Pさん。