先日、フォークの代表として倉沢桃子を取り上げたので、その対極にいてすごく注目しているアーティストを取り上げたい。単なるエレクトロやボーカロイド(初音ミクとか)どころじゃあないよ(笑)
その名は、スプツニ子(英語名Sputniko!)=本名・尾崎ヒロミのパフォーマンスアートプロジェクトだ。
彼女はイギリス人と日本人のハーフで、イギリス在住(そして長身だが、かわいい)。その活動はサイバースペース中心だが、そこにとどまらない。YouTubeなどで作品を見ることはできるが、作品だけでは伝えきれない、あらゆる才能が爆発している。ぜひ、ググって彼女のインタビューなどを読んでもらいたい。
一言でいえば、現れるべくして現れた、サイバーとアートの融合点にいるサイボーグ・フェミニズムの闘士とでも言おうか。彼女を評して「テクノロジーと女性とポップカルチャーのインターセクション」としたブログもみかけます。その作品は、おどけているのだけれど、どこか冷静でサーカスティック(冷笑的?)本人はそれが、イギリス文化の流れにあると話してますが、それも含めてとてもチャーミングなのです。
ところが、ただのアイドルとはかなーり違う。彼女は数学者の両親のもとに育った、数学専攻の超優秀なプログラマー/エンジニアーでもある。その理系女子度は、そこらの算数好きの次元をはるかに上回る知見と実績もあるのです。その数学者的発想と幅広い人脈から、生理痛や妊娠の苦労から解放されたサイボーグウーマンになりたいという「コドモを作る機械」や、最近のネットメディアを歌い込んだ「スカイプのうた」、はまり過ぎは危ないよという「ミクシのうた」、好きな人の名前をググることしかできない乙女の「グーグルのうた」などを作り、それがとにかく面白いのだ。
しかし、そんな小さい範疇にとどまる女性ではない。数学者として、プログラマーとしての能力を、なぜこんなことに全力投球しているの?と驚かされるのが、彼女自らが考案・開発した楽器や音と空間の双方向ツールの数々と、それを使った楽曲「ワッキーのうた」「Bunny Tree」などがびっくりだ。ワッキーは、Wiiリモコンを使って、わきの開閉角度などを自動演算して音や映像を制御する電子装置。それを、腋毛が恥ずかしい女の子の心情の歌にしてしまう。バニーツリーは、3D空間に音を埋め込んで、その空間内で体を動かすことで音を生成しながら、迷える親ウサギを探し求める体験型音楽創出装置だ。当然、そうしたソフトのプログラムはすべて自分で書いている。カラスの「言葉」(いろいろな鳴き声に、それぞれ意味があることが分かっている)を話せるカラス型ドロイドなんかも作っていた。さらに男性器の形状のメカは、心拍数などを探知して棒が立ったり、力なくたれたりする高機能製品。それを股間に装着してライブしたり(笑)
さらに、さらに、驚くのは、というかこれが彼女の大本、根っこにあるのだと思うが、既成概念への疑問の塊だ。だから、問う。なぜ、女性だけこんなに苦しまなければいけないの、技術の発達は人間の何をどう変えていくの、人類の進化はどうあるべきなの、インターネットは人のつながりに何を与えるの、などなど、とにかくサイバーとアートと進化と人間の接点における疑問をぶつけまくっている。しかも、かなり高次元な議論を、POPに楽しく展開できる、テクノロジーを現代人に効果的に伝えられる翻訳者なのだ。そして、堂々と既成概念に挑む。例えば「チンコのうた」という、彼女自身が「ちんこちんこちんこ」と連呼するこの歌も、普段好きでも「チンコ」と言えない抑圧された女の子の開放運動?なんてなぜだか色々考えさせられてしまう怪作。全身全霊、体も心も使ったパフォーマンスの
まったくもって、侮れない。
そして知性とエンターテイメントの交錯する、超絶な刺激。
未来へ生きていくのなら、絶対チェックすべき存在だね。