※ 『呪術廻戦 ファントムパレード』で現在行われているイベントの内容を含みますので、無理な方は回れ右を!!(今は行われてません 2024,02,28現在)
下水道での鼠呪霊を退治出来たのは良かったが、今現在伊地知は困り果てていた。
仕事先での商店街で行われていたスタンプラリーの台紙を無事に埋めることが出来上機嫌だった五条であったが、スタンプを全部集めて貰える限定スイーツはゲテモノ方面の物でスイーツと呼べる程甘くはない代物であった。それで折角ご機嫌だった五条が不機嫌になり……。
――甘い物食べたい気分だから、帰りに美味しいスイーツの店寄って。
現在夜中……どう探そうと店自体開いている時間帯ではない。そうは言っても「開いてるとこ探してよ」と理不尽極まりないことを言われ……。
(幾らどう何をしようと何処のお店も開いてないのに……!)
どうしよう――そう思いながら車を運転していると、後部座席から着信音が聞こえてきた。
「こんな夜中に誰が――」
着信名を見た五条は固まった。ミラー越しだと五条の心情までは分からないが、意外な人物からの電話なのは間違いない。
「――もしもーし!こんな夜中にどうしたの?普段寝てる時間なのに」
不機嫌さが消えて普段と変わらない口調で電話に出た五条に伊地知は内心目を見張った。不機嫌を一切感じさせない完璧な取り繕い!一体誰が五条さんに電話を……。
最後のスタンプも無事に押せて、限定スイーツもゲット出来て何かと満足して東京へと帰る車内だったのに……。
(あーあ……甘い物食べて口直ししたい。氷華に癒してもらうのは確定だな)
東京に帰っても次の仕事が入ってるから氷華に会えるのはまだ暫く先になるかもしれない。それもそれでイライラが募ってくる。
――♪~
着信音が響く。ただでさえイライラしてるのに誰だよ電話なんて!
「こんな夜中に誰が――」
着信者の名前を見てその先の言葉は引っ込んだ。
「――もしもーし!こんな夜中にどうしたの?普段寝てる時間なのに」
《あ、五条先生。今大丈夫なんですか?》
「今東京に帰ってる車の中だからね。何かあった?」
五条に電話を掛けてきたのは氷華だった。夜中に電話なんて珍しいこともあるものだと思ったが、何かあって掛けてきたのかもしれない。場合によっては自分だけでも先に東京に帰る必要があるかもしれない。
《そんな大したことじゃないんですけど……1週間くらい任務だったから五条先生疲れてると思って“お菓子”作ったんです》
「お菓子?」
《はい。持ち歩けるように焼き菓子数種類と、ロールケーキとシュークリームとみたらし団子……私が食べたいなと思ったものを作ったんです。そろそろ帰ってくる頃かなと思って作っちゃったんですけど……戻ってもまた仕事ですよね?》
「そうだね。でも少しくらい時間は取れるだろうし、寄る程度なら大丈夫だと思うよ」
《もし家に戻って来られる余裕があれば寄ってください。焼き菓子用意して置いてますから。その他はちゃんと保存して置いておくので食べれそうなら食べ――》
「食べるに決まってんじゃん!!」
勢いそのままに返事をすると、電話の向こうで氷華がクスクスと笑う。あー……目の前で笑ってるところ見たい。
《一応五条先生の分と私の分と分けてるから。落ち着いてまたゆっくり話せるの待ってます》
「うん、ありがとう。ちゃんと寝るんだよ?夜更かしはお肌に悪いんだから」
《はい。おやすみなさい。気を付けて帰ってきてください》
「また後でねー」
夜中に電話なんて何かあった訳では無かったのは安心したがこれはこれで嬉しいことだ!しかもお菓子作って待っててくれてるなんて可愛いことするじゃない!
「伊地知ー。スイーツの店はいいから少しでも早く東京帰れるようにして」
「え?あ、はい。分かりました……」
少しでも早目に東京に戻ったらまず家に帰って氷華の寝顔でも拝もう。お菓子も食べて時間の許す限り添い寝したい。
(氷華の手作りかー……絶対美味しいに決まってる!仕事なんて忘れて愛でたい気分!)
先程までのイライラが無くなり早く氷華に会って抱き締めたい――恋人との時間を早く手に入れたい五条であった。
* * * * * *
高専の校舎内を歩いていた氷華は珍しい人物に話し掛けられた。普段話すことも少ないので逆に何かしでかしたかと思ったが……。
「先日はありがとうございました!お陰で気が楽になって暫くは難なく事が運びそうです!」
「えっと……私そんなお礼言われるようなこと」
「五条さんが「不知火さんからお菓子をもらった」と自慢して回ってまして。それで先日夜中に五条さんに電話をしたのは不知火さんだと確信したものですから」
伊地知によれば、氷華が電話を掛けた時五条は不機嫌真っ只中だったらしく、夜中にスイーツの店に寄れと無茶振りをされていて困っていたらしい。
「あの人の無茶振りは今に始まったことではありませんが、貴女の助け舟で助かったのは事実ですから。五条さんに振り回されることもあるとは思いますが、これからも宜しくお願いします!」
深々とお辞儀をして去っていった伊地知の背中を氷華は呆然と見送った。
(苦労してるんだろうな、伊地知さん……。今度お菓子作って渡してあげよう)
自分より付き合いの長い彼が言うのだから、周りは五条に振り回されているのだろう。自分に対してはそこまで無茶振りはしていない……と思う。
振り返ろうとしたら目の前が黒い壁で顔面をぶつけたが痛くなかった。むしろ壁なのに温かくて――。
「ちゃんと前見ないとダメだよ?僕だから良いけど、他の男だったら妬いちゃうなー」
顔を上げると壁だと思った正体は五条だった。するりと両腕が腰に巻き付き抱き締めてくる。
「!?五条先生!ここ学校!」
「大丈夫。誰もいないから。心配なら――」
すると五条は廊下の隅にある窪みに氷華を連れ込んだ。目隠しを下ろし現れた碧眼が氷華を捉える。
「死角に入ればいいだけ」
「はひっ!?」
五条の片手が氷華のお尻を撫で、その仕草に氷華は変な声を出して身動ぎするが、五条の両腕でホールドされていて距離を取れない。
「ちょっ!?」
「至近距離に恋人がいたら触りたくなるでしょ。久しぶりなんだから。もう少し頑張れるように僕に元気ちょーだい!」
顔を近付けてくるが微妙な距離を残して止まる。これは氷華からキスをして欲しいというおねだりで、しないと放してくれないのだ。
氷華は頬を染めながらも上目遣いに五条を見上げるように睨み付けるが、五条はニヤニヤしながら氷華が行動を起こすのを待っている。覚悟を決めて背伸びをして自ら五条にキスをしたが軽いもので終わらせてくれず、五条からも氷華にキスをしてきた。
「――……ごちそうさま」
「…………」
五条の胸板に額を押し当て、氷華は顔を隠す。そして――静かに背中に腕を回す。氷華なりの精一杯の甘えである。
「……早目に帰るからいい子で待ってて」
こくりと頷く仕草だけだが五条はそれだけでも嬉しいのかクスクスと笑いながら抱き締め返してくれた。
……実のところ、こうして五条に抱き締められるのは好きなのだ。五条の匂いに包まれるこの瞬間が氷華にとっては居ても良い場所なのだと言われているようで――落ち着く。
(一時の夢でも、誰かの傍に居られるのは嬉しい――)
優しく頭を撫でてくれる五条の大きな手の動作や伝わる温もりに氷華は目を瞑る。
――密やかに繰り広げられる甘い一時。
余談 終わり