本丸に新しい刀剣が来た。山姥切長義――山姥切国広と同じ“山姥切”の名を持つ刀剣だ。

 

 この本丸初の挑戦となる特命調査“聚楽第”。その調査を終えて藍姫の本丸は“優良”の評価を得て報酬を貰い、その中に長義が居た。

 

 

 

  「…………」

 

 

 

 庭掃除をしている加州清光は回廊で話している主と長義の姿を遠目に見ていた。七日間は近侍で藍姫の傍に居ることが多くなるので仕方がないが、少し妬けてしまう。

 

  (俺も主の本丸来た時はそうだったけど)

 

 刀剣が増えても主は皆と向き合ってちゃんと話をしてくれる。それぞれ抱えているものもあって言い合ったり気まずくなっても、いざとなれば主が来てくれる。常に構いっぱなしじゃないところが俺達刀剣に信頼を寄せてくれている証拠でもある。

 

  (山姥切に強気だし、揉めたりしないといいけど……山姥切なら大丈夫か)

 

 まあ周りの刀剣に飛び火しそうだけど。

 

 

 

  「加州ー!」

 

 

 

 掃き掃除に戻ろうとしたら主に呼ばれ、顔を上げると手を振っている主の姿が目に入る。俺が気付いたと分かると手招きする。

 

 

  「どうしたの主?何かあった?」

  「何かっていうか……」

 

 

 主の左手が俺の頭に置かれ撫でられる。

 

  「横顔が少し寂し気だったから気になって」

 

  「……なんでもないよ。主頑張ってるなーって」

 

 主に愛されてるのは分かってるから安心してるけど、とはいえ時に妬いてしまうのは仕方がない。他の刀剣も俺と同じかどうかは分からないけど、もしかしたら多少は妬いたりしてるのかもしれない。

  「もう少ししたら長義の案内も終わるし、何振りか交えてお茶会しようってなってるから良かったら加州もどう?」

  「お茶会か……歌仙の提案?」

  「そうだよ。たまにはそういうのも良いだろうって提案してくれたの。私の息抜きも兼ねてだって」

 嬉しそうに笑う主につられてつい頬が緩む。

 

 

  「そうね。俺も参加しよっかな」

 

  「歌仙や燭台切が気合い入れて何種類か茶菓子作るって言ってたから。どんな茶菓子が出るのか楽しみだな~♪」

 

 

 長義の元に戻って案内の続きに戻る主の後ろ姿を見つめながら俺も早めに掃き掃除を終わらせることにした。

 

 

 

 掃き掃除をしながら加州は先程のことを思い出していた。

 それなりに距離があった筈なのに俺の様子を気にして声を掛けてくれる主に、やはりよく周りを見ているのだなと改めて知ることになった。職務をしながら刀剣の変化に気付けるならもう少し自分のことも大事にして欲しいところではあるが。

 

  「――まぁ、その辺りは俺達が気にしないとね」

 

 

 

 ――本当、主は手が掛かるんだから。

 

 

 

 呆れているとかではなく、主のことを心配出来るということが嬉しく思う。心配する必要も気に掛ける必要もない審神者であればこんな事も思わなかっただろう。だからこそ、守りたい――。

 

 

 その想いを噛み締めながら加州は掃き掃除をした。

 

 

 

        (八) ショートストーリー 終わり