これは吹雪が柱稽古に参加して直ぐの頃の出来事。宇随の元で基礎体力の稽古を始めたばかりの頃、とある人物もそこに居たのだ。とある人物とは言わずもがな――。
(――ゆ、雪代さん不足で死にそうっ……!!)
柱稽古が始まってから、小平はまだ宇随のところで止まっていた。ここ最近吹雪を見掛けることもなく日々が過ぎ、稽古のキツさよりも吹雪不足でどうにかなりそうで仕方がなかった。
自分と同じタイミングで稽古を始めた隊員達が少しずつ次の柱の元に進む中、小平は置いてけぼりにされ宇随にしごかれていた。疲れ果てて動けず地面と仲良くしていたが、聞き覚えのある声に意識が引き戻され顔を上げた。
(――はっ!!あの後ろ姿は――)
白髪と間違われる程色素の薄い水色髪、周りとは違う一本下駄を履いているのはあの人だけ――。
「――雪代さあぁ~んっ!!」
地面と同化しているくらい仲良くしていたのが嘘のよう。小平は吹雪の背中に飛びつこうとしたが、あっさりと避けられ背中に踵落としを食らい地面にめり込む。宇随や嫁三人、他の隊員達は目を見開いて事の成り行きを見守る。
「あ、愛の鞭……ですか……?」
「…………気持ち悪い」
「久しぶりのその辛辣……!やっぱりいいですね!」
「……こひら隊士、でしたか?世迷言言える元気があるなら稽古に励んだらどうなの?」
「頑張れば何かしてくれますか!?抱擁とか一番は接吻と――」
背中に吹雪の片足が置かれ、小平の言葉はより地面にめり込むと同時に遮られた。
「宇随様。この隊士は元気が余ってる上に言動がおかしいのでより稽古を付けてあげてください。私は稽古の続きをして参りますので」
軽く一礼をして稽古の続きを再開した吹雪を見送り、宇随は地面に埋まる小平を見下ろす。
「おい。生きてんのか?」
「はい!生きてます!雪代さんの手厚い歓迎に身が捩って仕方なくて……!!」
「…………(コイツ、バカなのか……?それにキモい)」
何故か吹雪に心酔しているようで、物理的な攻撃もどうやらこの隊士にとってはご褒美らしく嬉しそうだ。吹雪はえらく毛嫌いしているがそんなこと全く気にしていない様子。
(さっきまで地面と同化してたくせに、吹雪見た途端に元気になりやがった。元気が残ってるなら遠慮なくしごいてやるか)
ニヤリと嫌な笑みを浮かべながら宇随は小平を地面から引っ張り出す。
「そんだけ元気あるなら再開しねぇとな?てめぇだけ一番遅れてんだぞ?――吹雪の言ってた通りみっちりしごいてやる」
その言葉に小平の顔は引き攣った。
――その結果、再び地面と同化する程疲れ果てた小平であった。
※次の柱の元へ行けたのは炭治郎が次の柱の元へ行く許可を貰ったのと同時であった。
「鈴の音が花を氷らせる (十六)」 小話 終わり