任務で怪我をして蝶屋敷を訪れている小平は、治療を終え帰ろうとしていた。しかし、聞き覚えのある声を耳にしその声が聞こえてきた方向に足を動かした。

 とある病室の中を覗き込むと、見覚えのある後ろ姿が目に飛び込んで来て、小平は部屋の中に飛び込んだ。

 

 

  「雪代さぁーん!!」

 

 

 急に部屋に飛び込んできた小平に炭治郎と善逸はぎょっとした。背後から吹雪に抱き付こうとした小平だったが、吹雪は体を左に回してかわし、小平の背中に右肘を落とし肘鉄を食らわせ床に叩き落とす。

  「――ぐほぉあっ!!…………っぁ……ゆ、ゆき……じろ……ざん……!」

  『…………』

 炭治郎と善逸は小平に哀れな視線を落とす。

 

  (えっ?何この人……急に現れてしかも吹雪さんに抱き付こうなんてなんて奴だ……!)

 

  (すごいな雪代さん!華麗にかわした!)

 

 それぞれの内心で思うことは違えど、小平を見つめているのは同じ。吹雪は数歩下がり、小平を見下ろす。

  「……貴方、誰?」

  「酷いっ!!一週間程前の任務で助けてくれたじゃないですかっ!!」

  「…………あの時の気持ち悪い人」

 

 

  (何その認識!?――ていうか、何をしたらそんな認識されるの!?)

 

 

 善逸は吹雪の様子を窺う。小平を見下ろす目は冷ややかで、嫌悪しているようだ。

  (吹雪さん随分とこの人のこと嫌ってるみたいだ。嫌悪の音がすごい……)

 冷ややかな目で見られていても全く気にしていないみたいで、寧ろ喜んでる。

 

 

 

 

  「――あっ!まだ名乗ってませんでしたね!俺小平真一っていいます!どんな風に呼んでもらってもいいですから!改めて宜しくお願いします、雪代さーん!!」

 

 

 

 起き上がって再び吹雪に抱き付こうとする小平に、吹雪は右足を後ろに引きながらかわすと、小平の首根っこと隊服の裾を掴む。すると――炭治郎のベッドの側にある窓が勝手に開いた。

 

  (えぇっ!?窓が開いた!??)

 

 炭治郎は思わず窓を凝視した。すると顔横を小平が通り過ぎ、窓の外に放り出されてしまう。ドスンッという音がし、病室が静まり返る。

 

  「雪代さん、外に放り出したんですか!?」

  「……気持ち悪かったから」

  「いや、でも――」

 

 

 

  「――雪代さ~ん!!照れてるんですか??照れた雪代さんの顔見たかったですぅ~!!」

 

 

 

 窓の外から聞こえてきた小平の元気な声に、吹雪を始め炭治郎や善逸も何とも言えない表情を浮かべる。

  「……吹雪さん。あの人に近付かない方がいいよ。何かやられても喜んでるし、流石にちょっと引くわ……」

  「そ、そうだな。俺もそう思います……」

 

 開いた窓はまた勝手に閉まり、騒がしい病室に平和が訪れた。

 

 

 

 

  (……近くに居たのに何も出来なかったな。――守れる時は俺があの人から雪代さんを守らないと!)

 

 グッと握り拳を作りそう決意した竈門炭治郎であった。

 

 

  ※窓の外に投げ出された小平は、治療が終わったのにまた怪我をして来たのかと、その後神崎アオイに怒られた。

 

 

            ㈡ 小話   終わり