懐かしい夢を見た。
 
 
 公園で近所の子たちと一緒に遊んでて、その光景を羨ましそうに見つめる1人の男の子がいた。声を掛けると返ってきた言葉は日本語じゃなくて、何て言っているのか分からなくて。
 でも一緒に遊びたいって言ってるのは言葉が分からなくても伝わってきた。夕方まで一緒に遊び、みんなが帰っていった後その子と2人で公園にいた。
 
 私も帰ろうとした時、その子は引き止めてきて何かを必死に伝えようとするけれど、異国の言葉で何を言っているのか分からなかった。そして最後、私に黒の小箱を開いて渡してきた。そうこう話していると、男の子を迎えにきた人達に連れていかれ、その子は車に乗せられた。
 車の窓を開けて私に声を張ってまで何か伝えてくるけど、分からない。
 
 ただ、『また会いにくる』と言っていたような気がして、また会えたらいいなと思った自分がいた。
 
 
 
 
 
   ジリリリリリリリリリリ!!
 
 
 目覚まし時計の音にはっとして目を覚まし、慌てて目覚まし時計を止めてむくっと起き上がる。
  「…………あの時の、夢……」
 
 ベッドから抜け出し、机の引き出しを開けて巾着袋を開け、中から黒い小箱を取り出す。開けるとシンプルなデザインの金のリングが収まっていた。小さな宝石が一つ埋め込まれているだけのものだが、オモチャではなく本物の金で出来たものだ。
  「…………」
 このリングを見る度にあの男の子の事を思い出していた。元気でいるだろうか、本当にまた来るのか、小さいながらも今までも複雑な気持ちでいたのは少し前まで……。
 
 
 
 瀬那自身が10年前に私にリングを渡したと告白した。確かに雰囲気は似てるし、髪の色の違いも説明してくれたけど、純朴で純粋で恥ずかしがりやそうな印象は全くなく、女慣れしてそうなあんなたらしと比べたら似つかわしくない!
 
 棚に目覚まし時計を叩きつけるように置き、清々しくない目覚めにイライラが募っていく。
 
  (何で朝からこんなにモヤモヤしないといけないのよ……!しかもあいつの事でぇっ……!)
 
 
 今日の朝の目覚めは、最悪だ。
 
 
        *  *  *  *  *  *
 
 こんなに学校に行きたくないと思ったのは入学入りたて以来だ。あーどうしよう……もうずっと行きたくない。
 とはいえそんなことしたら卒業出来ないし、出来ないが。
 
 
 普通科棟に入った玄関先、女子の人だかりが出来ている先に見たものに「げっ!??」とつい声が出て表情もそれ相応のイヤそうな顔になっていることだろう。女子の人だかりの中心にいる人物が未琴の存在に気付き、周りの女子を無視して一直線にこちらに向かってくる。
 
  「おはよう」
 
  「……お、おはよう……(なんでこっちにいるかな……!)」
 
 
 大抵毎日瀬那は普通科棟にやってくる。今みたいに玄関先だったり時には教室にいる時もある。だが、瀬那と話しているところを女子に見られていることが多くて嫉妬から嫌がらせを受けるのがお決まりだ。そうなるから話し掛けるなとしつこく言っているというのに瀬那は聞き入れないし、こっちの身にもなってみろっての!
 
 未琴は瀬那に顔を向けることなく上履きに履き替え、さっさと教室に向かうが、腕を引かれて何処かに連れて行かれる。
  「ちょっ!?何処に行く気よっ!!?」
  「人気のないところ」
  「はあぁ??ふざけ――」
 いきなり何処かの教室に放り込まれ、ドアがピシャリと閉められたと思ったら『カチャリ』とイヤな音がした。
 
 
  「ちょっ……朝から何考えてんのよ!?何のつもりでこんなこと……」
 
 
 壁に追いやられ、顔横に手が突かれる。突然のことに驚いて目を瞑ってしまい、恐る恐る目を開けると瀬那の顔が目の前まで迫っていた。
  「っ!!?」
  「……何のつもりって訊いたよね。答えは1つしかないよ」
 キスされるのかと思い顔を逸らす。だが瀬那は耳元に顔を寄せて囁いた。
 
  「――まだ……オレだって信じられないの?」
  「そ、それは…………だって!」
  「印象が違うから?それとも純朴・純粋そうなあの子がこんな女慣れしてそうなたらしになってるわけないって思ってる?」
 
 
  (……見透かされてる……)
 
 
 口を結んで黙り込む未琴に瀬那は大きな溜息を付いた。
  「言っておくけど、オレ女遊びなんてしてないから。日本よりフランスでの生活が長かったから、その影響もあるのかもしれないね」
  「フ、フランス……?」
  「生まれたのは日本だけど、すぐに父親の都合でフランスに移住したから向こうでの生活が長いんだよ。キスやハグだって挨拶みたいなものだったし、ある意味本能のままに動いてるような感性だからそう思われても仕方ないかもしれない」
 
 本能のままって……確かに挨拶でするかもしれないけど、本能のままなんてことないでしょう!そんなの動物みたいじゃない!――あ、人間も動物か……。
 
  「だからって、誰振り構わず言い寄るなんて真似しないよ。……好きだから、言い寄りたくなる」
 
 
 声音が低くなったと思ったら、体を引き寄せられ抱き締められる。瀬那の香りか、甘いようなでも爽やかな匂いが鼻を擽る。
  「10年、我慢した。ただただ会いたかったんだ……」
 抱き締める腕に力が入る。一つになれやしないかと言わんばかりに強まる力に痛みが走る。
  「ちょっとっ……い、痛い……!」
  「!?」
 
 未琴の言葉に我に返り、瀬那は未琴を解放する。申し訳なさそうな顔はよく見えないながらも泣きそうに見えた。
  「……ごめん。つい」
 
 
 手が伸びてきて頬を優しく撫でてくる。くすぐったい感触にビクッと肩を窄めて反応してしまい、それを見た瀬那は表情を緩める。
  「すぐに信じろとは言わないけど、オレであることは嘘偽りないから――」
 
 
 
   チュッ……。
 
 
 
 警戒を疎かにしていて何も反応出来なかった。というより、何が起こったのか理解出来るまで時間が掛かり瀬那が何をしたのか、分かったのは頬を突かれてからだった。
  「オレ以外なわけないんだから、そこははき違えないでよね」
 手を引いて空き教室から出ると、瀬那は再び屈み未琴の頬に軽い口付けをしてくる。勢いよく瀬那から離れ、一気に顔が熱をもって赤くなる。
 
  「な、なっ……!」
 
  (クスッ)「これだけでそんな赤くなるなんてさ……可愛い」
 
  「~~ち、違うわよ!されないことされて驚いただけで、べ、別に何かあってのものじゃなくて!」
 
 その場から離れたくて周りも見ずに踵を返して歩いて数歩、壁が飛び出ているでっぱりに思いっ切りぶつかり額を打ち付けてしまう。これじゃまるで動揺しているようなものではないか。
 ジンジンと痛む額を押さえてしゃがみ込む未琴は、微笑ましげに見つめてくる瀬那を涙目ながら睨み付ける。
 
 
  「ふ、不注意よ!不注意!別に動揺したわけじゃないんだから調子に乗らないでよ!」
 
 荷物を手に駆け足で去って行く未琴を、瀬那は見えなくなるまで見送っていた。その表情はとても嬉しそうで、愛でるような瞳だった。
 
 
        *  *  *  *  *  *
 
 自身の教室に駆け込むようにして入ってきた未琴を出迎えたのは、友人の夏美と瑠衣だった。
 
  「おはよう。なに朝から息切らしてるの?」
 
  「おはよ~、未琴。朝から雅くんとラブしちゃいました的ななにか?」
 
 呼吸を落ち着かせてから一つ深呼吸をし、未琴は息を吐く。
  「おはよう。夏美、瑠依。……あのねぇ、前から何度も言ってるけど、雅瀬那とは付き合ってもないし、そんな仲でもないから!何度言わせんのよ……」
 ご機嫌ナナメな未琴は席に座るとドサッとカバンを机の上に置き、教科書やファイルを荒い手付きで取り出してしまっていく。
 
 
 
 瀬那からの告白も付き合ってくれって言われた事もちゃん断った筈なのに、何故か瀬那と付き合っていると学校中に噂されてしまっているのが現状だ。瀬那の彼女であるという立ち位置に僻む彼のファン達は基、好意を寄せている女子に疎まれている。
 
 噂の出どころはもうはっきりしていて、それは雅瀬那だ。
 
 
 「普通科の女子と付き合っている」との噂を聞きつけた女子達が瀬那に訊いたところ、瀬那が「――七瀬未琴、オレの彼女の名前」と言ったらしい。そうして今に至る……ほんっと勝手に人を彼女とか嘘言って、こっちがどれだけ迷惑してるかも知らないでしれっとしちゃってさ。ムカつく!!
 
 
 おかげで絶対毎日1人には「雅くんと別れてよ!」と詰め寄られる今日この頃……。はぁ、あいつが出てきてから毎日こんなんばっかりでもーうんざり。前までの平凡を返しなさいよ!!
 
 
  「大体雅瀬那の何が良くてみんな好きなの?〝冷血男〟とかって言われて、深く知ろうとすると消されるとかおっかない噂もあるみたいじゃん」
 
 
 もう何十人、いや何百人かもしれない。数えきれない程の女子に告白されても返事はNOで即刻切り捨て。キレイな子でも可愛い子だろうと容赦ない毒を吐くらしく、冷徹に酷い断り方をすることから〝冷血男〟と言われるようになった。
 それに彼の事を深く知ろうとすると消されるなんて怖い噂もあり、秀才でありながらそんな一面も持ち合わせているのが特進科の雅瀬那だ。
 
 誰に投げかけたわけでもないが、未琴の質問に答えたのは瑠依だった。
 
  「確かに冷血男とか、実は裏の人間なんじゃないかとかって色々噂はあるけど……――かっこいいじゃん~♪抱いてほしい男子ダントツ一位だし、もう私生活とか謎だらけでそんなミステリアスなところもいいんだよ~!」
 
 キャッキャッと騒ぎ出す瑠依は瀬那のファンで、瀬那を見つめる視線はアイドルを見るようにキラキラとしていて好きだという熱意が伝わってくる程心酔している。というか、告白して酷い断られ方をされてもまだ瀬那の事を好きでいるとは……案外図太いのかもしれない。
 
  「瑠依も懲りないっていうのか……まあ、秀才クンにはっきり言われて逆にスッキリしたっていうのかな」
 
  「へぇ……(まあ、はっきり言われたなら引きずるのもよくないもんね)」
 
 瑠依には悪いけれど、あいつは絶対にやめておいた方が身のためだ。横暴だし、人の話聞かないし、自分勝手だし、何考えてるか分からないし、何処かおかしいしきっと変人だ!
 
  (あいつの本性知ったら絶対瑠依でも諦め付くでしょうよ……!)
 
 学校では冷たい人間を演じてるみたいだけど、素は全く違う。それは置いておいても、普通に考えれば瀬那はカッコイイ。だから女子が周りに居ておかしくないし、彼女がいたっておかしくない。言い方が悪いかもしれないが、選びたい放題で女遊びしていてもおかしくない。
 
 
 ――だけど、瀬那は告白されても全部断っている。どうしてだろうと考えて思い浮かぶのは……。
 
 
 
   『10年、我慢した。ただただ会いたかったんだ……』
 
 
 
 10年間……想ってくれていた、ってことなのだろうか。
 実を言うと、雅瀬那とは10年前に一度だけ会ったことがある。あいつは自分がそうだと言い張るけれど、私にはまだあの時の男の子が雅瀬那だと思う事が出来ない。
 
 
 スカートのポケットに入れている小袋の巾着に触れる。
 この中には、10年前あの男の子が渡してきた金のリングが入っている。どういうつもりでこれを渡してきたのかは分からないけれど、瀬那が本人だというなら確認する必要がある。
 
  (本人になりすましてるってことも考えられるし……)
 
 
 顔を合わすのは嫌だけど、こうなったら仕方がない。
 
 腹を括り未琴は小さく拳を握りしめた。
 
 
        *  *  *  *  *  *
 
 昼休み――。
 
 
 普通科棟と特進科棟を結ぶのは3階の連絡橋と1階の渡り廊下。普通科の生徒が特進科棟に行くことも特進科の生徒が普通科棟に来ることもないため、基本人通りはない。
 だから人が1人でも歩いていたら目立つ。
 
 
  (訊きたいことがあって訊ねに行くんだから問題はないわよ)
 
 
 ズカズカと渡り廊下を歩いていると、特進科棟から見慣れた男子生徒が渡り廊下に現れた。
  「こんにちは、未琴。オレに会いに来てくれたの?」
  「な、なんでこんなところに……」
  「未琴に会いに行こうと思ってね。意志疎通っていうのかな?嬉しい」
 そう言って見せた笑顔は本当に嬉しそうで、不意打ちにドキッと心臓が跳ねる。見ていることができなくて顔を逸らす。
 
  「会いに行くなんてないから!ただ話があっただけで……」
 
  「話があるだけでも、会いに行くと変わりないと思うけど」
 
 ぐっ……ああ言えばこう言うというか……間違いではないかもしれないけど。
 
 未琴が黙っていると、瀬那が手を取って特進科棟の方へと歩き出す。
  「ちょっと!?なんで特進科棟に行くのよっ!?」
  「こっちの方が落ち着いて話せるから。屋上はオレの特等席だから誰も入れないし、入るにはオレの許可がないと無理」
 しゃらんっと鍵を見せてくる。学校の屋上仕切ってるってなんなのこいつ!!?
 
  「いくら人がいなくても嫌よ!はーなーしーてぇ~!」
 瀬那の手を解こうと引っ張ったり瀬那の指を力ずくで放そうとするが、瀬那がいきなり振り返ってきて体が宙に浮く。俵を担ぐみたいに担がれ、連れて行かれる。
  「下ろしなさいよ!人を荷物みたいに担がないでよ!こらぁっ、下ろせー!!」
  「いいから大人しく担がれてなよ。落としたりしないから。それともお姫様抱っこをご希望で?」
  「――絶っ対にイヤよ!!」
  「なら大人しくして」
  「…………」
 
 文句も言えなくなり、黙って担がれているしかなくなった。結局こうやって丸め込まれてこいつのペースになってしまう。
 
 
 
 瀬那が鍵を開け、屋上にへと足を踏み入れる。顔を上げるとそこに人は誰もいなくて、瀬那と自分の2人だけだ。
 地に下ろされ、瀬那はドアに鍵を掛けて歩き出す。
 
 
 屋上は殺風景なところだと思うが、特進科棟の屋上は違った。おそらく瀬那が自分の庭みたいにして模様替えをしているのだろうが……。
 
  (なんで屋上に小屋みたいなものが建ってるの?)
 
 ウッドデッキにテラス席、植物がいくつか……もう雅瀬那の私物化されている。
 
 瀬那に導かれるまま小屋の中に入ると、未琴は唖然とするしかなかった。
  「……ねえ、ここって学校の屋上だよね……?モデルルームとかの展示場じゃないよね……?」
 マンションのワンルームみたいにテレビまであるし立派なソファとテーブル、しかも流し台にエアコンに冷蔵庫まで。
  「夏暑いし冬は寒いし、だったら部屋建てればいいと思って造った。我ながら良い出来だと思ってる」
 水道や電気まで引っ張ってくるのはやりすぎだろう……普通の高校生が改造出来る権力持ってるはずないのにこいつはどうやって……色々と謎が多い。
 
 
 小屋の中に入ってからふと未琴は気付いた。
 
  (――ん?ちょっと待って。今雅瀬那と2人きり、だよ、ね……?)
 
 屋上に来た時点で2人なのは確かだが、部屋の中という空間に2人でいると尚更2人っきりというのを思い知らされる。
 
 
 
  「……未琴」
 
 
 
 瀬那に名前を呼ばれ、ビクッと肩が跳ねると同時にドキッとする。
  「そんなところに突っ立ってないで、おいで」
 隣に座るようにとポンッと叩くが、そんなところに座れるわけもなく。
  「い、いいわよここで!長話する気はないし」
 用件を早く終わらせてここを出よう。長くいると何を仕出かすか分からないし。未琴はスカートのポケットから小袋の巾着を取り出し、瀬那に歩み寄って目の前のテーブルに置いて離れる。
 
  「……これは?」
 
  「あ、あんたが10年前のあの男の子だって言うなら分かるでしょ!……渡された金のリングが入ってる」
 
 瀬那は巾着の口を開けて黒い小箱を掌の上に出す。箱を開け、金のリングを親指と人差し指で摘まみ、目の前に翳す。
  「取りに来たっていうならさっさと出すように言えばいいでしょ。本人になりすましてるとかなら尚更」
  「なりすます?」
  「だから!私はまだあんたがあの時の男の子だって信じてないから、自分がそうだっていうのはなりすましてるからなのかとか思って……」
 
 もう10年も前の事だ。たった一回会っただけで確かめる術は何もない。渡されたのは金のリングだけ――。渡したことすら忘れていても不思議ではない。
 
  「もう記憶だってあやふやなのに、自信満々に言い切られても納得できない。見た目だって身長だって変わって声も変わってる」
 
  「…………」
 
  「それにあんた選び放題でしょ?たった一度会っただけの人間にそこまで入れ込む理由が分からない……周りにキレイな子、たくさんいるでしょ?一般庶民に言い寄るなんてきっとなりすましてる以外ないって!」
 
 捲し立てるようにしゃべりっぱなしの未琴は部屋のドアの取っ手を掴む。するといつの間に背後にいたのか、瀬那の手が未琴の手に重なる。
 
 
  「……確かめる術ならある。リングの裏っかわ見てないの?」
 
 リングを未琴の目の前に翳し、裏側が見えるように位置をずらす。目に飛び込んできたのは〝sena miyabi〟というローマ字だった。
  「それと、10年前のあの時、未琴名乗ってたでしょ?〝ななせ みこと〟って」
  「名前は……言ったかもしれないけど……」
  「あの日別れてから調べてもらったんだ。あの公園付近に住んでる住民の中で、〝ななせ みこと〟って名前の子は未琴だけだって。父親と離婚しても苗字が変わってないのは、母方の名字を使ってたからなんでしょ?」
 
 
 包み込むように腕が背中から肩を包み込む。瀬那の息遣いが左耳のすぐ傍で聞こえてくる。
 
  「――今すぐにとは言わないよ。少しずつでもいいから、信じて。10年前に会ったあの時の男の子はオレだ」
 
  「……ぜ、善処は、す、する……」
 
  「うん……それでいいよ」
 
 ピタッと頬を合わせてきた。部屋が少し涼しいからか、触れた面から伝わる体温が丁度いいくらいだった。どこかくすぐったいような何とも言えない感覚に未琴は少し内心戸惑う。
 
 
  (これぐらいのスキンシップはこいつ平気なんだろうけど……惑わされるな!)
 
 
 心で少しでも気を許す心情に未琴は頭を振る。まだ信用なんてできやしないんだ、言動だって嘘か真か見分けがつかないのだから。
 
 
 
 でも――。
 
 
 
  (……でも、なんでだろう……信用出来そうなんて思ってる自分がいる)
 
 
 
 瀬那のことを全くまだ分かっていない。でも言っていることに偽りはないっぽいし、同情で相手に接しているわけでもないは分かっている。自分自身の感情に素直で、たまに言っていることがおかしい以外は普通の少年で男子高校生だ。
 
 少しずつでも、瀬那の事を知っていけたらいいが……。
 
 
 
 
 瀬那の体温を感じつつ、未琴はそんなことを思った。
 
 
        6章  終わり