メキシコシティ――そこはグランコポーネの誰もが心の支えとしている〝シンドラ修道会〟発祥の地。
 
 
 
 時は2000年前……二つの国が出来るよりも昔、一人の男によって起きた革命がきっかけであった。
 その革命により、一つの街が出来る程の多くの人々が男の元へとやってきた。皆その男を神の様に崇めて後を付いて行った。
 男が亡くなった後、彼の元にやってきた人々が彼を神として一つの会を創り上げた。それがシンドラ修道会である。
 
 
 
 ――2000年の時を経ても衰えることなく、世界の人々の支えとなって今でも多くの人々が信仰している。
 
 
 
 
 
                     三章  ~ 誓い ~ 黒い影が蠢くノ巻
 
 
 
 
 
 今日も清々しい朝を迎える事が出来た。
 朝必ず、メキシコシティの街の外れ――シンドラ修道会敷地内にある教会ではミサが行われる。朝といえど街の皆が集まり、今日も祈りを捧げている。
 
 
  「……皆様、今日もこの一日を迎えられた事そして、今日も幸せな日が送れるという感謝の祈りを捧げてくれる事に感謝致します」
 立派な髭をはやしている牧師が祭壇の前に立ち、教会に集まる人々を前に挨拶をする。
  「今日も、皆様にとって幸ある一日であらんことを――」
 牧師がそう云い手を組む。皆同じ事をし、言葉と祈りを捧げミサは終わる。
 
 
 
 
 ミサが終わった後の教会は、出て行く人が大半。教会に入れなかった人達が入って来て祈りを捧げたりという光景は常だ。
 そんな中二人の少年が長椅子に腰掛けたままで、一人が大欠伸に伸びをする。

 
  「ふああぁ~……ったく毎朝毎朝長いのは肩凝るぜ……」


 額にバンダナを巻く赤毛の少年が肩を回しながら文句を云う。
  「そんな事云ってはダメですよ、ケビン。僕達は聖職者なんですよ?毎朝出ないでどうするんですか」
 赤毛の少年――ケビンの隣に座るブロンド髪の少年はそうダメだしをする。
 ケビンは大きな溜息を付き、ブロンド髪の少年に言葉を返す。
 
  「ライ……お前は真面目すぎだぞ。聖職者だろうが毎回出なくたってバチ何かあたらねぇって。チェックしてる訳じゃあるめーしー」

  「それはそうかもしれないですけど……でも、習慣付けてたら早起き出来ていいじゃないですか」

  「こっちは毎日動いて疲れてんだぞ?最近は変な生き物が出てきて尚忙しいってのに……二年だぞ二年!?いい加減休ましてくれよぉ…………」

 グターっと座るケビンを見てブロンド髪の少年――ライはしょうがないという顔で見つめる。
 
 
  「……まあ、一理あるね」
  「だろ?……ま、仕事だからやらねぇとな。朝飯食ったら街に行こうぜ」
  「はい」

 二人は立ち上がり、教会から出て行く。
 
 
        *  *  *  *  *  *
 
 メキシコシティの中心街、グランス駅近くにある宿屋から紅葉達が出てくる。
 
 
 
  「――さて、こっからどうするかだが……」
  「まずは人気の少ない場所に移動しましょ」
 絹の促しに三人は人通りの少ない路地にへと入る。
 
 
 
  「……ここならいいでしょ。――簡単に決めて、後は探すしかないわね……」

  「だな。ワラサより妙に人がうじゃうじゃ居る。目立つのは避けたいとこだな」

  「此処も一人?探す人」

  「二人よ。中心地から離れた場所に居るみたいだけどね」

 絹は帯紐に指を入れ折り畳まれた紙を取り出す。広げると、それは地図だった。
 


  「おそらく私達は今此処。そして二人が居るのは此処……シンドラ修道会」



 絹の指差す位置を紅葉と佳直は覗き見る。
  「街から大分離れてるところにあるんだ。こんな外れには身を隠す為とか?」
  「だろうな。もしそうなら、行っても会えるかどうか分からねぇな……」
  「シンドラの人達の誰かに遭遇して、その二人の事知ってるなら都合いいんだけど……」
 考え込む絹と佳直。紅葉は地図を絹の手から取って裏返したりする。
 
 
  「……こないな地図何処で見つけたの?持ってなかったよね?」
  「ああ、それは宿屋の人に貰ったのよ。二枚あるから一つあげるって」
  「何時の間にそんな収集を……」

 地図を折り畳む紅葉の顔付きが変わる。そして絹と佳直も顔付きが変わる。
 
 
  「この反応……悪族の下級や!」


 紅葉は絹に地図を押し付け、地を蹴り跳び上がり建物の屋上に降り立つ。その後を二人も追い掛け、跳び移りながら移動していく。
 
 
 
  「下級か……てことは上も居るってことだな」
  「ええ。――紅葉!」
  「分かってる!人巻き込まないように動くよ!!」
 
 
         *  *  *  *  *  *
 
  「きゃーっ!!」

  「うわあぁ!!また出たぞーっ!!」

 街の港で人々が逃げ惑い、悲鳴を上げる。突如人食い植物の集団が地面から湧き上がる様に現れたのだ。
 
 
  「皆さんこちらに逃げて下さい!!後は僕達で何とかしますからっ!!」
  「早くっ!!」
 

 ライとケビンが街の人達を誘導する。何とか怪我人が出る前に避難させる事が出来た――そう思ったが、逃げ遅れている子供が躓きこけて泣き、一匹の人食い植物がその子に目を付けて近付いてくる。
  「危ないっ!!」
 ライが駆けて行き、子供を抱き抱えて逃げ様とするが、蔓が足に絡み付き阻止される。
  「ライっ!!!」
 人食い植物が口を開き、ライと子供を食べ様とする。ライは子供を力強く抱き締め思いっ切り目を瞑る。
 
 
 
   あれ……?
 
 
 
 何も起こらない。
 ゆっくり目を開けると――目の前に見た事もない服装の人が居た。
 両手で人食い植物の大きく開かれた口を掴み止め、押し離すと手刀で体を真っ二つに切り倒す。その人は振り返り声を張り上げる。
  「――早く逃げて!!」
 そう云うと人食い植物に駆けて行く。
 
 
 
 紅葉は手刀で人食い植物をバラバラにしていく。
  「紅葉!!一気に片付けるぞっ!!」
  「おう!!」
 紅葉と佳直は背中合わせにお互い地を蹴り、佳直は港から街に向かおうとする植物達へと駆ける。紅葉は未だに動けずにいる少年と子供を狙う植物達へ。

  『体術――鋭利強化――!!』

 紅葉と佳直が同じ言葉を口にした。すると、手刀や足の蹴りだというのに自身が刃物にでもなったかのように植物達が切りつけられ、切られていく。
 バラバラになった人食い植物達は粒子になって消えていき、ぱらぱらと残っているもの達は、絹の矢に頭を射抜かれ粒子となって消えていく。
 
 
 
 
 
 港が静かになり、騒ぎの元凶は全て消えた。
  「ふぅ……終わった終わった」
 紅葉がパンパンっと手を叩き、腰に手を当てる。戦闘が終わったのを見兼ねて歩緒が紅葉の元へ駆けて来る。そして特等席の頭の上にぺたっとくっつく。

  「怪我人はいないみたいだね」

  「ああ。絹、そっちも片付いたか?」

 絹が空から降って来て、紅葉達の前に降り立つ。
  「ええ。こっちも怪我人は無しよ……早目に気付いたから良かったみたいね」
 
 
 逃げていった街の人達が戻って来て周りが騒がしくなってき始めた。
  「行きましょ。変に目立つと厄介だわ」
 絹の言葉に紅葉と佳直は頷き、建物の屋根にへと跳び上がり、屋根伝いに何処かに向かいその場を離れる。
 
 
 
 
 ライはさっきまでいた不思議な三人の姿が無い事に気付き、周りを見回す。
  「……さっきの人達が居ない……」
  「どっか行ったみたいだぞ。あの三人、二年前に来た二人組と似た様な格好してたよな?あの二人の知り合いか?」
 ケビンがライの元に駆けて来る。
 
  「さあ……。助けてくれたお礼を云いたいから僕探します――」
  「おい、待てよ……!」
 走り出すライをケビンは追い掛ける。
 
 
   (あの人にお礼が云いたい……)


 ライの胸の中にはその事だけしかなかった。
 
 
 紅い瞳に長い黒髪……その特徴が一瞬見ただけで頭に刻み込まれていた。
 
 
 
 
 
 
 ザワザワする港のある路地に、海が居た。不敵な笑みを浮かべて笑っている。
  「……ちょっとした刺客を用意しておいたよ。少しは楽しめるかな」
 そう呟き、煙の様に消えてしまう。
 
 
 
  また何か一騒ぎが起きそうな予感――。
 
 
 
         三章①  終わり