『儚きことは、なんとやら (十四)』ショートストーリー
今日も無事に一日が終わり、就寝前に審神者部屋で万屋で購入した書籍を読んで読書に浸る藍姫の元に山姥切長義が訪ねてきた。 「……読書中にすまない」 「いいよ全然。立ったままじゃなくてどうぞ座って。……どうかした?」 藍姫の向かいの椅子に促され長義が座る。 長義が椅子に座る間に付箋をして書籍をサイドテーブルの上に置いて長義の顔に目を向けると、長義の目線が一瞬壁に掛けられている薙刀に向けられたが、直ぐに藍姫へと向けられる。 「……以前、君の義兄――沖浩宮が来ただろう。『審神者行方不明事件』――俺がこの本丸に来る前の出来事のようだから当時の状況は聞いて知るしかないが、沖浩宮に質問したら当時の映像を今度此処に来る際に持ってきてくれることになっている。 この本丸に居る刀剣男士達は君に対して心配性が過ぎると思っていたが、その出来事も関係しているのではと三日月から聞いている。負傷は腕よりの左肩辺り、かなりの出血と大怪我。だが一番刀剣達に堪えたのは一週間君が眠っていたこと。時の政府から急いで血だらけの君を抱えた偽物くんと部隊の面々が戻って来た時は本丸が大混乱だったと聞いている」 時の政府から怪しい召集が掛かり出向いた藍姫と一部隊。ドタバタと慌てた様子で帰還してきた面々を出迎えたのはこんのすけ、三日月宗近、小狐丸、鶴丸国永、大和守安定、石切丸の五振り。全員目の前に飛び込んできた現実を直ぐには受け入れられなかった。 「ちょっ……何があったの!?なんで主が血塗れ……!?」 「詳しくは後だっ!!――俺は主を寝かせる準備をする!!薬研は必要な物を持って主の部屋に!!」 「分かった!!堀川は山姥切と一緒に行ってくれ!加州は大将の薙刀を手入れした後に部屋に持ってきてくれ!前田と秋田は全員に伝達だっ!!」 『はいっ!!』 大和守の言葉を遮るように山姥切国広が答え、堀川国広を伴って回廊を駆けて行く。前田藤四郎と秋田藤四郎は山姥切達が駆けて行った方向とは別の方向に駆けて行き、薬研藤四郎は部隊の面々に指示を出し自らの行動に移る。 「安定っ!!清潔な布多めに集めて主の部屋に持って行って!!」 「!?う、うん分かった……!」 「三日月達も皆に伝達っ!!時の政府からの召集は主を始末する為の罠だった!!おれ達を守る為に主が怪我をした!!容態はまた追って知らせるからとりあえず普段通りに過ごすよう言ってっ!!」 混乱して固まったままの大和守に加州清光が指示を出し、他の刀剣達にも動くよう言い残して加州も駆け出す。慌ただしく帰還した部隊は散り、三日月達も加州の指示に従い動く。 その日は本丸内が混乱と不安に満たされ、藍姫の身を案じて皆落ち着きがなかった。日を跨いだ夜中に薬研が藍姫の怪我の治療を終え、一先ず落ち着いたと刀剣達に伝えられた。 藍姫の様子を見にまずは時の政府に赴いた部隊の面々、その後に幾つかのグループに分かれて審神者部屋を訪れ無事だというのを知ると刀剣皆は胸を撫で下ろした。 だが藍姫が目を覚ますまでの間、日にちが経つ度に本丸内は空気が重くなり何時もの嬉々とした声も無く静かだった。一週間経った時に沖浩宮が藍姫の本丸を訪ねて来て、時の政府で何があったのか映像を観せ、その後に藍姫が目を覚ましてようやく何時もの活気ある本丸へと戻っていった。 「詳細は知らないが、君に関係ある奴等が企んだことなんだろう?もう既に片付いているとは思うが……これからこの本丸に顕現する刀剣達にも審神者行方不明事件の事は知らせるべきではないかな。その為にも沖浩宮から貰う映像は君が持っている必要があるし、ある程度新参者が集まったら観せるようにすべきだと思うが、君の意見を聞かせてくれるかな?」 この本丸に顕現してから長義なりに色々と調べているようだ。 藍姫とこの本丸が審神者行方不明事件に関わった事実はこの本丸に今後顕現する刀剣男士が知るには聞かされるか偶然知るかしかないだろう。隠すつもりもないし、話す機会をどう作ろうか考えていたところに長義からのこの申し出は良い機会だ。 「審神者行方不明事件に関しては話したいと思っててもどうしたものかと思っていたところで、新刀剣男士が思いの外実装される間隔が短くて内番とか当番や近侍の際の仕事に本丸内の規則諸々教えるので手一杯……長義の提案は良い案だわ」 「隠したい訳ではないんだな。時の政府は審神者達には知らせず、政府内でも最小限しか知られたくない姿勢だと沖浩宮は言っていたが」 「政府はどちらかというと保身に徹するだろうからそう行動すると思うわ。……縁切りしたとはいえ、私の生家がとんでもない事を仕出かしてると思うと他人事ではないんだけど、沖浩宮は「自分に任せていればいいから」としか言わないから私は何も出来ないのよ。確かにあの人達には二度と関わりたくないからそうさせてもらえるのは有難いのだけれど」 「…………(自身の事を余り語らないが言うべきことは言う、か)」 ――あの事件をきっかけにこの本丸の刀剣達の気持ちは一つになったと言って良いだろう。“強くなりたい”――主が身を挺して俺達を守ってくれた様に俺達も主を守りたい、二度とあんな事にならない様に、な。 三日月から審神者行方不明事件の話を聞いた時に最後そう言って彼は長義の前から去っていった。例の事件後から修行が解禁された刀剣は強く志願して藍姫に話を持ち掛けているらしく、条件を満たしていると判断したら藍姫は修行へと向かわせて見送っているという。 以前より修行に行きたいと志願する刀剣が増えていることを不思議には思っているらしいが、刀剣達は何故そうなっているのか藍姫に話すことはしない。刀剣達の内々で藍姫の為、この本丸の為に一丸となろう――そう気持ちを一つにすることを誓った。その分藍姫に対して強い想いを抱く刀剣はより強くなってしまったと三日月は笑っていたが。 「――では、俺も含めてこの本丸に顕現した新参者に審神者行方不明事件当時の映像を観せることに君も賛成ということで良いね?」 「ええ。……とはいえ、どういう反応されるんだろうって不安はあるんだけれど……」 苦笑する藍姫に長義はフッと薄ら笑みを浮かべる。 「そんなもの杞憂になるよ。実際映像を観た刀剣達は何一つ君への接し方は変わっていないのではないかな?」 「それはそうなんだけど」 「なら君は何時も通りに審神者業をしていればいい。夜分に失礼したね」 話が終わって部屋から出て行った長義の背を見送り、襖が閉まってからも藍姫は暫く見つめていた。まさか長義が率先して言いにくるとは予想外だが、気にしていた事なだけに解決の糸口になったのは藍姫としても嬉しい。 「……確かに長義の言うように接し方が変わったとかは無いけど、なんというか何かが違うような気はするんだけれど……結束力??」 それとやる気?とかかな……?? 本丸の主である審神者に何かあったら一番困るのは刀剣達。またそうならない様にしないと――その想いが強くなってのものだと藍姫は思っている。とはいえ刀剣に守られていればいいとも思っていないので、強くなるにしろそれは刀剣達だけではなく自身も同じだ。 「私も腕前を磨いて向上させないと。審神者だからじゃない、大切な家族だからこれからも皆を守る!」 気合を入れ直して藍姫は明日の為に寝ようと灯りを消した。 * * * * * * 自室に戻った長義は床に入って寝転んでいるが、天井をずっと見つめて何やら物思いに耽っていた。 「……彼女は気付いているようで気付いていない。審神者行方不明事件をきっかけにこの本丸の結束力と士気が高まっているのは審神者ではなく“藍姫”という主を守りたいから、ということに。それと特に彼女に対して強い想いを抱く刀剣を筆頭に引っ張られるように「彼女の為に」というのが強くなっていっている……他の本丸とは比べ物にならないくらい鉄壁な守りが出来上がっている」 藍姫は審神者行方不明事件の映像を観た刀剣達から幻滅されるのではと気にしているようだが、誰一振りとしてそんなことはなく、寧ろ株が上がっている。自身のことを進んで話さない彼女のことを知れて嬉しい、その気持ちが殆どを占めている。 「…………」 ――ありがとう、長義!少しでも認めて貰えてすごく嬉しいよ! ――これからも頑張っていくから、良かったら手助けして貰えると嬉しいな! 多少は何かの役に立つかもしれない――そんな思いで手助けをしたら藍姫は跳び上がるように嬉しそうに抱擁をしてきて、俺の両手を優しく包み込みながら微笑み掛けてそう言った。別段嫌という訳ではなかったからされるがままだったが、自分に対してあんな接し方は初めてではないだろうか。 偽物くんに対しては屈託なく笑い掛け、何でも相談し、信頼を寄せている彼女があんな接し方をしてくれたということは、少しは気を許してくれたということなのだろうか。いや、こちらが歩み寄ってくれたと思って他の刀剣達と同様の接し方をしてくれたということだろうか。 …………これではまるで偽物くんに対して妬いているみたいじゃないか。ようやく自分にも同じ様に接してくれたかと安心するとか……! 「…………まあ、彼女の事が嫌いとかではない。なんというか……調子が狂う……」 そしていつの間にか睡魔に負けて眠りへと付いた。意識が途切れる最中、満面の笑みを浮かべる藍姫の顔が浮かんだ気がした。 (十四)ショートストーリー 終わり