「えっこんな厚い本読むの。」
最初図書館で借りた時はそう思ったが。
2日で読めてしまった。
朝井リョウ、初めて読んだけど、「深い・・・。」
SEEDSでしたっけ?
一時期盛り上がった大学生たちの「世界を変えよう!」運動が今、解体されつつあると何かのニュースで先日読んだが。
冒頭、看護師さんが寝たきりの友だちを毎日見舞っている男性のところに不登校の弟を連れて行く話から始まり、「この看護師さんを巡る話かな?」と思っていたが、そうではなくて。
その、見舞っている男性を中心とした物語である。
「何かと戦っていなければ生きがいを見いだせない」彼に、友人は問う。
「生きがいって必要なのか?」
後半、「世界は海族と山族との争い」という説が出てきて、途端に話がわからなくなりかけるが。
中学生の頃、国語教師にその熱心な人生論を認められていた別の男性は、高校に入るともう、「なんかいつも主張ばかりしているキモい奴」としか見られなくなる。
何かを補うように「世界を変える学生活動」にのめり込んでいく彼に、徴兵が決まった韓国人が言う。
「はい、おままごとは終わり。」
「ねえあなた、改めて僕に話聞きたいとかなんかいろいろ言ってましたけど、ほんとは全然、興味ないですよね。」
彼の指摘に声も出ない。
世界を本気で憂いているのではない。
「世界と戦っている自分」が好きなだけなのだ。
ただの自己愛に過ぎない。
彼の愛する女性はホームレス援助に奔走し、最初は喜ばれるが、家族を見つけ出すとか、いらないことまでやり始める。
疲れ果てた彼女は、本当に救いたかったのは自分だと告白する。
「俺は、」彼は返して言う。
「世界を変えたいとかじゃなくて、きみの目の下の、その隈を消してやりたい。」
世界は大義ではなく、小さな愛で成り立っている。
ふざけるな。
お前も、お前にとって不都合なものだらけのこの世界に参加するしか選択肢はないんだよ。
本文中に「死にがい」という言葉は一言も出てこない。
出てくるのは、「生きがい」を求め、自己の存在価値を周囲に認めてもらいたくて苦しむ若者たちの姿である。
どうか、何かと戦おうとはもうしないで。
ただ、誰かを愛していってほしい。
戦いとは、愛する者を守るためにするものである。
あるがままを愛することができたなら、この世はもっと素晴らしいものになる。
お薦めの一作です。