秘密の時間
――ヤギ当番は6年生でしょう?あなたはウサギのはずよ――そうなんだけど、ヤギの具合いが悪いから お手伝い。となりの小屋だし。――そのこ、かわいい?――うん、まあまあ。 母に嘘をつきました。いつもは,ぎっしりお客を積んで、デコボコ道を苦しそうに走る学園前行きのバスですが、40分早い今朝は、たった3人のお客をのせて楽しそうにスキップ気分でスタコラサッサと走って行きました。眩しいほどの光に照らされた、誇らしげな朝でした。バスをとびおりると、塀の後ろのくぼみに腰をおろしましたすぐに反対行きのバスが来て、暖かそうな色のコートを着た女の人がおりました。やった!嬉しくて自然に笑顔になりました。 カッカッとすてきに歩く司書の先生のあとを小走りについていきながら小さな声でいいました。“オハヨウゴザイマス“「あら早いのね、図書館?」「はい」「きのうのつづき?」「はい」 思わず声が大きくなりました。「急ぎましょう。あと30分ぐらいあるわよ。 用務員さんから鍵をうけとったあとは、一心不乱に早歩き。「明日からのことは、おねがいしてありますから」飛びあがりそうになりました。病気のヤギと母の顔が目に浮かびました。 それからは毎朝、用務員さんに鍵をかりに行きました。 部屋をあけると白いカーテンをふくらませてピューッと冬の風がはいってきます。二人でスコップでストーブに石炭をくべて火をつけて、図書室があたたかくなりはじめたころ、校門にみんなの声がしてきます。でも、氷づけになったようなつめたいページを一枚一枚めくって物語の中にはいっていくときのワクワクを何かとひきかえにするなんてできませんでした。