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翻訳学校で嘘をついた罪悪感に苛まれています

(先週の講義のひとコマです)

 

The company constantly creates stimulating environments.

同社は絶えず刺激的な環境を生み出している。

 

こちらはAさんの訳文です。しかし、最近は「頑固ラーメン屋」っていうのをあんまり聞かなくなりましたね。やっぱりあれですかね、SNSの影響でしょうか。あんまり高圧的だとTwitterで文句を書かれて炎上するかもしれませんもんね。

 

20年前はよくありましたけどねえ。僕も頑固大将に怒鳴られたことありますから。よっぽど楽しみだったのか、または腹ぺこだったんでしょうね。ラーメンがテーブルに置かれる0.3秒前に、箸を割ったんですよ。そしたら「がっつくんじゃねえ!!」って。いやもう、びっくりしましたよ。それがトラウマになって、その後は着丼を確認して、深呼吸してから食べるようになりました。(笑)

 

でも怪我の功名というか、この体験が翻訳の仕事に大いに役立ってるんです。わからないものですよね。というのも、「がっつかない」ことは翻訳の基本なんです。

 

たとえば、原文を入手していきなり翻訳を始めるのは、いくらなんでもがっつきすぎですよね。まずは指示を子細に読むべきです。一部でも見落とすと、発注者からの印象は最悪。だって、のちのちの手間を減らしたくて、わざわざ指示を書いたわけですから。それを守ってもらえないと余計な手間が発生することになります。もう二度と仕事は来ないでしょうね。

 

指示を理解したらさっそく翻訳、も、がっつきすぎです。「二度と来んな!」と怒鳴られて塩をまかれます。まずは一通り読むなどして全体像を抑え、なおかつ文章の目的や構成や流れを把握しておかないと、ちゃんとした翻訳はできないでしょうね。

 

その「森を見る」行為の最中も、がっついてはいけません。ついつい、頭の中で翻訳を始めてしまうんですよね。でもそうやって日本語を浮かべながら読んでいると、文章が複雑なら要旨や段落の要点、文の流れを正しく把握できなくなります。著者のイメージの再現を妨げます。がっつかずに読解、内容と展開の把握に集中することが、のちの翻訳作業の助けになります。

 

そして、ミクロの作業に入ってからも、負けないこと、投げ出さないこと、がっつかないことが大事マンブラザーズ。あっ、わかんないですよね。。たとえばAさんの訳文。これ、がっついちゃってます。前から来て「同社は絶えず」と、がっつきたくなる気持ちはわかりますが、心の箸をフライングで割ったということで、頑固おやじのお叱りを受けるでしょうね。

 

わかりやすい文を書くための心得のひとつに「修飾関係を明確にする」というのがあります。そのために一番簡単なのは近接させることです。ですから、がっつかずに待って「絶えず生み出している」とするのが基本ポジション。離れると関係があいまいになり、この訳例だと「絶えず刺激的な」という結合として読まれそうです。

 

基本を踏まえた上で、強調のために前に持ってくることもできますが、読点を打つなど、誤解されないようにする工夫が必要です。ちなみにconstantly stimulatingなら「刺激の絶えない環境」のようにして、「絶えず…生み出している」という読まれ方を避けるべきでしょうね。

 

というわけで、「着丼するまで箸は割らない」というのを今日の教訓にしてください。(笑)

 

問題:上の講義には嘘がひとつ含まれています。さて、どこでしょう?

 

 

答え:ほんとは友人のエピソード。ラーメン屋で怒鳴られたのは僕でなく友人。最近「おもしろ?たとえ話」を講義に入れるように努めているのですが、自分のエピソードが出てきませんでした😂