おばあちゃんはひとり暮らし。
5軒先の古い一軒家に住んでいる。
息子がふたりいるんだって。
でも遠くに住んでて滅多に会えないんだって。
おばあちゃんは80歳。
スゴく小さい。
腰が曲がってて
身長が1メートルくらいしかない。
でも耳が遠いから
声はスゴくデカい

ある日の買い物の帰り道
わたしの数メートル後ろを歩いていた娘が
持っていたティッシュを
後ろ手に道ばたに捨てた。
それを偶然
少し離れて後ろから見ていたおばあちゃん。
コラーーーっ!!
今何をしたーーーーっ
!!
めっちゃ大声で娘を怒鳴った。
おばあちゃんは
娘の捨てたティッシュを拾いあげて
娘の手の中に戻した。
それまで家族以外の人から
叱られた経験がなかった娘。
真っ青になって
そして泣いて謝った。
おばあちゃん。
気づかせてくれてありがとう。
叱ってくれてありがとう。
引っ越して来て間もなかった頃。
これが、おばあちゃんとの出会い。
おばあちゃんは
ひとりでなんでもやってしまう。
体が動くうちは
自分のことは全部 自分でやりたいんだって。
でも背が低いから
高い所の物を取るのが大変なんだって。
そんな時は長ネギ。
長ネギでつついて
高い所の物を落として取る技を身に付けたって

すごいな
おばあちゃん



おばあちゃんはキレイ好きで
玄関先はいつもキレイに掃除されている。
草履もいつも揃えて置いてある。
外に出るときは
たとえ近所の買い物でも
髪をきれいに整え
必ず薄く化粧して出掛けている。
いつどこで倒れて
病院にお世話になるかわからないからね
下着もおしゃれなのをはいてるよ。
小声で見て見て と言って
ズボンのゴムを広げて
ベージュのレースのパンツを
チラッとわたしに見せてくれた

おばあちゃん!さすが!!
おしゃれだねえーーー
!!
!!これならいつ倒れても安心だね!!!
ふたりで大笑いした。
わたしはおばあちゃんの背中を
そっとさすった。
おばあちゃんは料理が上手で
時々お裾分けを持ってきてくれた。
家族がたくさんいた時のくせで
鍋にいっぱい作っちゃった。
ひとりじゃ食べきれないからもらって。
昔の味付けだから
不味いかもしれないよ。
口に合うかわからないけど
よかったら食べてみて。
ありがとう。
めっちゃ美味しそう。
おばあちゃんの作った
うずら豆とちくわぶの煮物。
これはわたしには出せない味だよ。
薄味で、すっごく美味しいよ。
わたしからも何か お返ししたいけど
料理の上手なおばあちゃんに
下手な物あげられないよなー。
悩んで悩んで
前の日に焼いた
デビルスケーキを
一切れだけ、持っていった。
こんなハイカラな食べ物、
食べたことないよ。
ありがとうねえ。
食べてみるねえ。
喜んで受け取ってくれたけど
そういえば
味の感想、聞くの忘れた。
おばあちゃんの口に合ったかなあ。
ある日の夕方
たくさんの食材を買い込んで
荷物を重たそうに引きずるようにして
おばあちゃんが歩いていた。
こんなに買い物してどうしたの?!
荷物を代わりに持ちながら
びっくりして聞くわたしに
おばあちゃんは
嬉しそうに笑ってこう、答えた。
田舎から母が久しぶりに出てくるの。
食事たくさん作って準備しておこうと思って。
おばあちゃんは時々
子どもに戻るようになった。
おばあちゃんの家で
ある時ぼや騒ぎがあった。
おばあちゃんに怪我はなかったけど
台所が少し燃えてしまった。
魚を焼いていたら
突然 炎があがったらしい。
おばあちゃんは
すごく落ち込んだ様子で
もう台所は
使わないようにした方がいいかねえ。
と言って
鼻をすすった。
わたしは
なんて返事したらいいのかわからなくて
ちょっと時間を置いてから
少しだけ台所仕事
お休みしようか。
とだけ言った。
しばらくすると
おばあちゃんの家に
見たことのない男性が出入りするようになった。
挨拶をしてみたけど
返事はなかった。
その一週間後
おばあちゃんの家から
すべての物が運び出されていた。
おばあちゃんの姿も
それ以来見なくなった。
座椅子に座りながら
テレビを観ているどこか寂しそうな横顔が
わたしの見た
おばあちゃんの最後の姿になった。
おばあちゃんの住んでいた家は
しばらく空き家の状態が続いたのち
6年前に取り壊されて
跡地には3階建ての住宅が建てられた。
ちいさな子どものいる
若い夫婦が住んでいて
賑やかな声が絶えず漏れてくる。
もうそこに
おばあちゃんがいた痕跡は無い。
わたしの記憶もこれからだんだん
薄れていくのかな。
なんか
さびしいね。
先日
娘(長女21歳)が
不意におばあちゃんの話を始めた。
そういえばどうしてるかなーー と。
ティッシュを捨てて怒られた時のこと
今でもはっきり覚えてるんだって。
あの時はマジでビビったー。
あれ以来あたし
一度もポイ捨てしてないよ

おばあちゃんがどっかで見てるかも
しれないって思うんだよね

ふたりでおばあちゃんの話で
しばらく盛り上がった。
当時6歳だった娘
はっきり覚えてるなんて。
なんだか可笑しくて
ひとりでクスクスと
笑いが止まらなかった。
おばあちゃん、
あなたはやっぱりすごい人。
おばあちゃんが今どこでどうしているのか
わたしたちは
これから先もわからないままだろうな。
わからないままでいた方が
いい。
このままで、いい。