人形 | iM@Sとかなんとか(仮)

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アイドルマスターSSとか駄文をのっけてます。←とか書いてても、ちっとも更新していないので「サイドストーリー」と言うタイトルはは取り下げました。最近のメイン記事はニコマスの紹介記事が9割を締めています。

※フィクションです

 スポーツジムで働く真野の話。
 5年振りくらいに会った時に「最近なんかない?」と振ったところ、こんな話をしてくれた。

 体操教室に通ってくる女の子が、ある日「せんせいにあげる」と一体の人形を手渡した。作りは、布地に綿を詰めて目鼻や髪の毛などを有りものの釦やフェルト布で誂えた、ごく簡単なものだった。人形にいい想い出のない真野は心中拒みたい気持ちだったが、幼い子供の申し出だけに拒むわけにもいかず、とりあえずその場は「ありがとう」と取り繕うことにして、悪いとは思ったが後々捨てるつもりで受け取った。
 その日はたまたま同僚の送別会があり、酒の入った真野はその人形のことは忘れて、そのまま家に持ち帰った。
 次の日の朝、人形はなぜか真野の枕元に鎮座していた。ゾッとしたが、昨晩は酔って帰ったこともあり、なにかの拍子で置いたのだと自分に言い聞かせた。早々に捨てたかったが、ゴミ出しの日は翌々日。さりとて部屋に置きっぱなしにもしたくなかったので、クローゼットの中に人形を押し込むことにした。

 その日、仕事から帰って自室の電灯を点けた真野は、目の前の光景に短い悲鳴を上げた。人形がベッドの上に置いてあったのである。合い鍵は実家の母が持っているが、来た様子もないし連絡なしに来ることもない。
 これは付かれたな。何処に行っても追いかけてくるに違いない。そう考えた真野は、知己のお坊さんに連絡して供養して貰うことにした。
 そうして携帯電話を取り出した矢先に着信があった。あまりのタイミングの良さに一瞬飛び上がる程びっくりしたが、送信元を確認すると妹からだった。安堵と共に受話器を取ると、
「お姉ちゃん? あたし。お姉ちゃんの部屋に今、人形があるでしょ」
と切り出され、真野は一瞬ことばを失った。
「え」
と言ったっきり何も言えないでいる真野に構わず妹は、
「それ、捨てちゃダメだよ。それはお姉ちゃんを護る為に来たんだから」
「ちょっとあんた、なんでそんなこと」
言い終わらないうちに、
「とにかく、人形は捨てちゃダメ。隠してもダメ。いつも見えるところに置いておいてね」
 それだけ言うと電話は切られた。
 気味の悪さは残ったままではあったが、真に迫った妹の声音に気圧されて、真野は部屋の隅にその人形を置くことにした。

 しかしその晩、真野は、耳元で何ごとか囁く声を聞くことになる。
 不意に寒気を感じた真野は、夜中に目を覚ました。それは微睡みを伴う目覚めではなく、体の芯まで起きたようなハッキリとした覚醒だったという。枕元の時計で時間を確認をしたところ、3時を5分程回った頃だった。寝付けなかったが、起きてすることもないのでそのまま目を瞑ったままで過ごそうかと思った時だった。
パシンッ!
と、まるでガラスに石礫を投げつけたような音が浴室から聞こえた。途端、部屋の中の空気がズシッと重くなるのを感じた。身構える隙もなく、耳元がざわつきはじめた。身を硬くしてそのざわつきに耳を澄ますと、それはなにやら話し声のようだった。しかしその声は、耳元であるにも関わらずまるで遠くで話しているかのようで、なにを話しているかは分からなかった。それは一時間程続いたように感じたが、時計で確認してみたら10分過ぎただけだった。
 朝、浴室を覗いてみてもなんの変化も無かった。ただ、なにか魚の腐ったような臭いは仄かに漂っていた。出勤間際に人形を顧みると、真野が配置したままの状態で、なんの変化もなかった。
「でも今にして思うと、あの人形はその時わたしを見ていたと思う」
 そう言う真野は、その時にはその人形を捨てたくて仕方がなかったという。

 その日から、毎日同じ現象が続いた。
 日に日に真野の体調も変調を来すようになった。頭痛に始まり、絶えず悪寒がするようになった。不意に強烈な耳鳴りに襲われて立っていられなくなることもあったという。それは寝ている間にも訪れ、ついにはほとんど眠ることが出来なくなった。そして十日過ぎた頃には生理が止まり、ついに真野は仕事を休むことになる。
 横になりながら真野は、人形を見遣った。
 やっぱりこれのせいかもしれない。
 妹の言ったことに気懸かりを憶えたが、見て貰うだけなら問題ないだろうとお坊さんのところに電話をかけようとした。
 その瞬間、着信があった。妹からである。
 数瞬電話を眺めてから、意を決して電話に出た。
「あ、お姉ちゃん? あたし。人形、捨てちゃダメだからね」
 真野は黙って耳を澄ました。
「それはお姉ちゃんを護る為に来たんだから。とにかく捨てちゃダメよ」
 スッと深呼吸して真野は、
「これは捨てるわ」
「ダメよそんなことしちゃ! 大変なことになるから!」
「いいえ、これは捨てる。お坊さんのところに行って焚きにくべて貰う」
「ダメだったら!」
「来たところに返すの」
「本当に大変なことになるんだから!」
「ダメよ」
「お願いだから……」
「帰りなさい。あんたもねっ!」
 しばらく無言が続いて、電話は切れた。最後に、
「……チッ」
という舌打ちが聞こえた。それは妹の声ではなかった。

 すぐにお坊さんに電話をした。触るのが嫌だったので自室まで来て貰った。
 真野の部屋に上がるなりお坊さんは、
「あんたまた、えらいもんと関わったなあ」
と声を上げた。
 そうしてその人形を渡してから、真野の体調はこれまでのことがウソのように回復していった。
 一応妹に電話で確認したところ、電話は一切かけていないという。
 それから数日経ったある日、真野のところにお坊さんから電話があった。
「護摩供の前に開けてみたら、中から人間の眼球が出て来た。一応警察に届けたけど、今のところ眼球の欠損遺体や被害届は出ていないらしい」
と言うことであった。

 人形を手渡した女の子に「あの人形は何処で手に入れたの?」と問うてみたところ、その女の子は人形のこと自体を憶えていないらしい。