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「生きる」を考える/「僕たちは世界を変えることができない」

読み終わったときに、何か知識が着いたわけでも、前向きになれたわけでも、頭が空想で満たされたわけでもないのに、どこかすがすがしく1人の人間の生き様が感じられる本に時々出会う。


しかも、今回は有名人の伝記ではない。


一人の、どこにでもいそうな、でもちょっと世界を動かした1人の学生の生きざまが現れた一冊の本だ。



僕たちは世界を変えることができない。
僕たちは世界を変えることができない。


【著者プロフィール】


葉田甲太(はだ・こおた) 1984年兵庫県生まれ。


学生国際協力団体「GRAPHIS」「あおぞらプロジェクト」元代表


。国境なき医師団に憧れ、新潟県中越地震、スマトラ島沖地震のボランティア参加。


渋谷の郵便局で150万円でカンボジアに小学校が建つことを知り、ボランティアを楽しむことをコンセプトとし、東京を中心に23大学54人の大学生メンバーとともに、カンボジアに小学校を建てる。


また、エイズ病棟での出会いをきっかけに、カンボジアのエイズ問題を扱ったドキュメンタリー映画「それでも運命にイエスという。」の監督を務める。


2011年2~3月、全国40か所にて上映会を開催予定。


誰かの一歩を提供する国際協力カフェ「INSTEP LIGHTS」アドバイザー。


現在は不定期に講演会を開催しながらカンボジアに建てた小学校の維持に力を注いでいる。


2011年春、日本医科大学を卒業、都内の病院に医師として勤務予定。






【内容】




葉田さんの飾らない文体が一定のリズムで刻まれている。


まるでブログを読んでいるように、彼から直接話を聞いているように、普通の、飾らない言葉で語られた彼の物語。




何がいいって、彼が本当にありのままなこと。


自分のいろんな感情を余すことなく書き連ねている。




書こうと思えば、いくらでも美化して、もっとカッコいい文章に出来たと思う。


しかし、彼はありのままの自分自身で発信することを選んだようだ。


その人間くささが、いい。




カンボジアのエイズ病棟で葉田さんはロンさんという一人の女性と出会った。


2回目にロンさんの元を訪ねたとき、彼女はもう亡くなっていた。


そんなロンさんに向けての手紙のようなものが文中に書かれているのだが、その中にこう書かれていた。




今回の人生はどうでしたか?


カンボジアはどうでしたか?


僕は今までとっても幸せでした。


大学に入って、コンパに行って、バイトして、歌って、飲んで。


だけど、もっと別の、もっと心が震える「何か」。


ときどき、夜中、意味なく叫びたくなる「何か」。


自分の心の奥からくる「何か」。その「何か」を今回の旅で見つけました。




僕は、この人生を思いっきり生きてやります。


自分が死んだときに「あーいい人生だった」と思えるように、今を、この瞬間を思いっきり生きてやります。






【感想】




この本を読んで私が一番感じたことは、自分の命は有限で、いつ終わりがくるかわからないということ。


そして、この世で私という人間は私以外には居らず、私が自らの人生の主導権を握っていて、私の生き方は私自身が決めずにどうする、ということ。




この2つだった。


いたって当たり前のことだけれど。




「世界には満足に食事もできない子どもたちがいるのだから、ごはんを残してはいけない」


「世界には生きたくても生きられない人がいるのだから、『自殺』なんて口にするのはおかしいし、そんな言葉は愚か者が口にすることだ。」




理屈は、正しいかもしれない。


でも、私の世界は私を中心に回っているのだ。




地球の裏側で、片隅で、今にも息を止めようとしている子がきっといるだろう。


でもきっと私は、それが大変悲しく苦しい状況だとわかっていたとしても、自分の部屋の汚さとか、ちょっとの腹痛とか、明日の小テストのことのほうが気がかりだろう。


それは、もう仕方のないことだと思う。




だから、せめて自分の人生には責任を持ちたいし、精一杯生きなければならないと思う。


自分と一所懸命向き合って、悩んで、迷って、喜びも感じて、いろんな感情を抱きしめて人間らしく生きていかなければならないと思った。


それが、唯一私が今できる世界への貢献なのかもしれない。