本澤二郎の「日本の風景」(5040)

<田中真紀子の正論=官房機密費についての解説動画>

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権勢を誇ったころの田中角栄を思い出した。先輩の早坂茂三のお陰で田中派取材は楽だった。当時の「角さん」は娘の真紀子を「うちのじゃじゃ馬」と呼んで、まんざらではなかった。側近の小長啓一首相秘書官らは「真紀ちゃん」と呼んでかわいがっていた。

一度だけ真紀子にインタビューをした。1974年1月7日からの田中角栄・東南アジア5か国歴訪の途中、彼女に「なぜ夫人を同行させないのか」と素朴な質問をした。「母は耳が遠く、聞き間違えて迷惑をかける心配がある。そのため父が私を同行させたんです」と正直に答えた。嘘が大嫌いな彼女が、最近、記者会見をして自民党の恥部や官房機密費などの闇を明かし、評判になった。

その発言の後、田中邸が炎上!し、びっくりした。幸い真紀子・直紀夫妻は無事だった。「またしても右翼が」と多くの国民は疑っている。昨夜電話してきた元自民党秘書は「ドローンを使った可能性が高い」と断じた。物騒な世の中であるが、住まいである家を焼くという卑怯な手口に人々は怒る!

 

右翼のいやがらせか?田中歴訪中の1月12日に、世田谷区瀬田の大平正芳外相邸が火事で消失するという事態が起きていた。大平の貴重な歴史的資料が消失してしまった。「日中友好はアジアの平和と安定の基礎」という大義の下に、事実上、池田勇人内閣官房長官時代からの大平の対中戦略は有名である。石橋湛山の無念を大平が引き継いだのだが、傷心の湛山を周恩来に引き合わせた人物が、戦闘的リベラリストで平和軍縮派の宇都宮徳馬。彼は日中国交正常化の前にワシントンの議会工作に専念し、米議会を納得させた大功労者となった。田中も大平も「ワシントンのポチ」では全くなかった。

大平邸火災消失事件の直前に外相は北京を訪問して周恩来と毛沢東と会談し、日中貿易協定と日中記者交換覚書に調印していた。

 

いうところの角福戦争は、大国北京との関係正常化か、それとも台北かの選択を強いるもので、岸・佐藤栄作・福田赳夫の戦前派が、現在も台湾独立派にぶら下がる不可解な構図に、ただただ反吐が出る思いである。

 

岸側近の児玉誉士夫や笹川良一は、右翼暴力団のドンとして戦後史に不気味な足跡を残している。笹川ギャンブル財団が森喜朗・小泉純一郎・安倍晋三の強力な支援者であることは誰しもが知っている。

 

侵略戦争を肯定する靖国神社の遊就館の展示物をみた加藤紘一は、国際派の元外交官で大平側近として、靖国参拝に警鐘を鳴らした勇気ある政治家だった。戦前の侵略派を正当化する闇の勢力は、2006年に山形県の加藤邸を焼き討ちするという卑怯な許されざる蛮行を行った。

小泉内閣は、すかさず加藤スキャンダルを追及して、ついに護憲リベラルの宏池会を壊滅させた。同時に清和会政治は、日中友好の流れを押しとどめ、今では正常化前にまで引き戻してしまった。台湾礼賛論が読売や産経新聞、そしてNHKまでが合唱している。

 

<火付け役は森喜朗配下の石川県知事・馳浩の五輪工作発言>

話しを戻すと、真紀子会見の圧巻部分は、清和会内閣の官房機密費についての、既に誰もが知っていることを、記者の素朴な質問に対して、率直に答えている点であろうか。

「馳氏は2023年11月17日の講演で、東京五輪招致活動で国際オリンピック委員会(IOC)委員に官房機密費を使って贈答品を渡したと発言」し、そのことで親分の森から叱られて、 その日のうちに撤回したのだが。

 

五輪開催を東京で実施するにあたって、安倍内閣は血税を使ってIOCに対して莫大な賄賂工作をして勝ち取った。おまけに安倍の嘘発言が輪をかけた。これほど悪辣で大義のない五輪イベントだった。石原慎太郎・安倍晋三・森喜朗らは、主権者を裏切って4兆円の血税の上前を撥ねていたという重大な疑惑から、今後も逃れられない。同じようなことが大阪万博であろう。官邸の犯罪は、民主主義の国では極刑に値する。そのことに蓋をしてきた言論界・野党の罪も重い。

 

<安倍の官房機密費をすべて知っている菅義偉>

清和会政治の腐敗は、官房機密費を明かせば一目瞭然である。すべてを知る菅義偉は、それ故に安倍の後継者になれた。

真っ当な野党が存在すれば、国政調査権を発動する場面である。おこぼれを懐に入れている野党議員もいると見られている。

現状では「野党の一本化」は、100%の確立で絶望的である。政権交代は起きない。それよりも、菅を国会で証人喚問させることが先決であろう。

 

<池田勇人首相秘書官・伊藤昌哉は年間30億円と証言>

 池田首相秘書官に西日本新聞から官邸入りした伊藤昌哉がいた。宏池会では「ぶーちゃん」の愛称で親しまれていた。彼は著書で池田内閣の官房機密費を明かしている。年間30億円。

予算など政府法案が成立しないという場合などに、この機密費が出動する。そのほか与野党議員の外遊にもお小遣いを持たせる。正しくは「日本共産党は除外」として。むろん首相外遊にも。

新聞テレビなどでは、したり顔でコメントする輩にも血税である官房機密費が出ている。

 

<小泉内閣の時代は100億円=ご意見番松野頼三発言>

戦後の吉田茂内閣や岸信介内閣にも詳しい人物に、松野頼三がいた。物凄いタバコ好きの政治家で、彼の事務所(パレロワイヤルM)の部屋でおしゃべりしていると、だんだんと顔が見えなくなる。煙草を吸わない人間も呼吸するたびに吸い込んでしまう。したがってせいぜい1時間程度で部屋を抜け出す。

ただし、松野はタバコで昔の記憶力を脳みその奥から引き出して話してくれる。岸や実弟の佐藤の周辺の目撃場面を、すらすらと話してくれるのである。いま自分がその立場に立って、こうして毎日パソコンを打っている。小泉内閣のころは、ご意見番として自由に忠告めいた話しを官邸に流していた松野。

小泉のご意見番は「今は100億円を超えているだろう」と明かしたものだ。安倍の時は150億円かもっと膨らんでいたかも。財務省のさじ加減でいくらでも膨らむ。

この自由な福田派参謀を、福田赳夫は「はぐれガラス」とこき下ろしていたが、当人は無関心で、福田のライバル・中曽根康弘を「銀座を走る壊れたキャデラック」「遠くで見る富士山も近くだと石がごろごろ」と評した。そういえば野党議員が話題になることはなかった。

 

<目白の田中邸炎上と怨念の角福戦争?>

宇都宮徳馬はよく「政治家は命がけの仕事」と語っていた。確かに角栄の盟友・大平は、政権を担当した後、反中台湾派の岸の直系・福田派と岸の別動隊の森・石原らの青嵐会による激しい抵抗に屈して、解散に踏み切るしかなかった。岸・佐藤・福田の怨念は、いまも安倍・清和会にも反映している。

そこには「アジアの平和と安定の基礎」という大義さえも、清和会政治は否定する。森の「神の国」、小泉の「靖国参拝」、安倍の中国敵視政策と中国包囲網策略。その過程で朝日新聞の神戸支局の襲撃事件に、こともあろうに統一教会の武装勢力が関与していたことが発覚した。検察支配には格別な思いで骨折った福田赳夫にならって、安倍も同じ行動をとったのだが成功しなかった。

角福怨念戦争は、中国・台湾を舞台にして、ワシントンを巻き込んで今も続いている。ロバートケネディjrへの期待が強まる理由でもあろう。

2024年1月10日記(政治評論家・日本記者クラブ会員)